フレーム構成  漢詩詞作品集杖下300律詩 冬の部 中山逍雀漢詩詞創作講座填詞詩余楹聯

杖下三百律詩 冬の部 録40首

01−
      小春散策思大村大兄
     上平十四寒韵仄起

井戸通街秋已闌,豪家霜菊半凋残。
江楓碎絳岸松碧,庭橘結黄垣柿丹。
九夏臨流思磯釣,小春負暖撫魚竿。
曾遊如夢大漁日,想起管傷含笑看。

井戸 セイコ 井戸と住居 即ち集落
通街 ツウガイ 道路
霜菊 ソウギク 霜にあった菊
凋残 チョウザン 萎み損なわれる
九夏 0034 夏の三カ月
小春 0291 ショウシュン 陰暦一〇月の別名
曾遊 ソユウ 以前遊んだ事のある
管傷 0752 小さな心の痛み
0779 コウ 赤 赤色

井戸通街 秋已に闌に、豪家霜菊 半ば凋残す。
江楓は 絳きを碎き 岸松は碧く、庭橘は 黄を結んで 垣柿は丹し。
九夏 流に臨んで 磯釣を思い、小春 暖を負いて 魚竿を撫す。
曾遊 夢の如し 大漁の日、想起す 管傷 笑を含んで看る。

 

 


02−
   霜朝
    上平四支韵平起

傲霜満地冷侵肌,偶過村橋露錦披。
山谷見時林影痩,渚沙望處雁聲悲。
水郷秋去客蹤少,蹊路冬來日照遅。
吟屐逍遙二三里,颯然散髪歩風陂。

傲霜 ゴウソウ 大いなる霜
露錦披 1081 露が錦の様に綺麗に覆うさま
渚沙 0591 両文字と もなぎさ 水辺 の意
客蹤 キャクショウ 人の通った形跡 足跡
蹊路 ケイロ 小径
吟屐 ギンゲキ 詩人の履き物 作者自身を指す
逍遙 ショウヨウ あてどなく歩く
颯然 1100 サツゼン 風のさっと吹くさま
風陂 フウヒ 風当たりの良い土手

傲霜地に満ち 冷 肌を侵し、偶村橋を過ぎれば 露錦披く。
山谷 見る時 林影痩せ、渚沙 望む處 雁聲悲し。
水郷 秋去り 客蹤少に、蹊路 冬來り 日照遅し。
吟屐 逍遙の二三里、颯然 髪を散じ 風陂に歩す。

 

 


03−
    初冬
  下平十三覃韵仄起

百草萬林凝夕嵐,倦遊詩叟自難堪。
山容擾亂三秋老,露氣満盈千樹含。
鳴去寒烏消嶺北,飛來征雁向天南。
此逢冷雨募歸思,詩酒遺愁守古庵。

百草萬林 ヒャクソウバンリン多くの草木が
夕嵐 ユウラン 夕方に吹く突風
倦遊 0082 ケンユウ 日々に疲れる 遊び疲れる
詩叟 シソウ 詩を嗜む自分を指す
擾亂 0429 ジョウラン 両字とも乱れる 意味強調
三秋老 サンシュウ オイ 秋三ヶ月も終わりに近づき
満盈 マンエイ 両文字とも満つる 意味強調
寒烏 カンウ 寒空に飛ぶ鴉
嶺北 リョウホク 山なみの北
征雁 セイガン 居を移し飛び行く雁

百草萬林 夕嵐を凝し、倦遊 詩叟 自ら堪え難し。
山容 擾亂 三秋に老い、露氣 満盈 千樹含む。
寒烏 鳴き去きて 嶺北に消え、征雁 飛來して 天南に向う。
此 冷雨に逢い 歸思を募らせ、詩酒に愁を遺れて 古庵を守る。

 

 


04−
   山居偶得
  上平十四寒韵仄起

隠逸山房未苟安,積憂日日一心酸。
朔風吹雪吟情絶,落葉舞庭茅屋寒。
偶覓米塩尋市井,只迷街路意盤桓。
他郷両歳人如問,莫奈羇孤百事残。

未苟安 イマダコウアン 苟も未だ安定しない
朔風 サクフウ 北風
覓米塩 ベイエン ヲモトメ 生活用品を買い求めに
街路 ガイロ 市街地の道
盤桓 0695 バンカン ぐずぐずして進まない
莫奈 イカントモスルナシ どうする事も出来ない
羇孤 0803 キコ 一人旅 孤立すること
百事残 多くの事が順調には行かない
積憂 セキユウ 積もる愁い

隠逸の山房 未だ苟安ならず、積憂の日日 一心酸す。
朔風 雪を吹き 吟情絶え、落葉 庭に舞い 茅屋寒し。
偶 米塩を覓め 市井を尋ね、只 街路に迷い 意盤桓たり。
他郷の両歳 人 如し問わば、莫奈 羇孤の百事残うを。

 

 


05−
    初冬散策
   上平四支韵平起

履霜散策冷侵肌,残月傾西應暦時。
流水蕭疎溪語細,寒林揺落鳥聲悲。
村田穫了牛耕少,原野蕪然日照遲。
双屐孤杖三四里,遥望起伏雪峰奇。

履霜 リソウ やがて来る寒さの前兆を意味す
應暦時 レキニオウズルトキ 季節の推移に応じて
蕭疎 0866 ショウソ 草木の葉が疎らで寂しい
穫了 カクリョウ 収穫の終了した
牛耕 ギュウコウ 田畑を耕す牛 現在なら耕運機を指して、言い換えた
蕪然 0865 荒れる 繁る 乱れる ☆ 然の文字を添えて、上の文字の表す状態を形容する
双屐孤杖 ソウゲキコジョウ 一足の履き物に一本の竹杖 ☆ 句中対

履霜の散策 冷 肌を侵し、残月 西に傾き 暦に應ず時。
流水 蕭疎 溪語細く、寒林 揺落 鳥聲悲し。
村田 穫了し 牛耕少に、原野 蕪然 日照遲し。
双屐 孤杖の 三四里、遥望す 起伏の 雪峰奇なるを。

 

 


06−
   初冬吟行
   上平十二元韵平起

吟行一路仰朝暾,遊屐短杖過古村。
大地小春秋景去,弄晴愛日菊花存。
経霜山郭老松傲,積雪村田凍雀喧。
蓬戸迎冬農事了,簷端干柿見軒軒。

0471 トン 日の出のさま 朝日 暖か
遊屐短杖 句中対 老人の散歩を表現す
凍雀 トウジャク 寒さの中の雀 凍えそうな雀
簷端 0758 エンタン のき端
見軒軒 軒は家を表し、家々に見るの意
蓬戸 蓬草で作った木戸 簡素な住まい 礼記儒行 蓬戸甕牆

吟行一路 朝暾を仰ぎ、遊屐 短杖 古村を過ぎる。
大地 小春 秋景去り、弄晴 愛日 菊花存す。
経霜の山郭 老松傲り、積雪の村田 凍雀喧し。
蓬戸 冬を迎えて 農事了り、簷端の干柿 軒軒に見る。

 

 


07−
   初冬雑詠
  下平七陽韵平起

戸庭愛日已斜陽,叢菊籬邊飄暗香。
霜雪降時楓老盡,燈檠挑盡夜偏長。
一身清痩為詩癖,百事疎慵放酒狂。
這裡千般堪自笑,却求雅興揣枯腸。

戸庭 0393 コテイ 戸口や庭先 又は門の内側
暗香 アンコウ ほのかな香り
燈檠 0621 灯火を掲げる物 ☆電気スタンド
1224 イ 断定 目的 受け身
疎慵 0679 0386 ソヨウ 両文字とも ものうい
這裡 形容詞 近指詞 「那」相反 ここ
0420 スイ 計る 探る 試みる 定める
枯腸 0509 コチヨウ 詩文の才能のないこと

戸庭 愛日 已に斜陽、叢菊 籬邊 暗香を飄す。
霜雪 降る時 楓老い盡き、燈檠 挑げ盡し 夜 偏に長し。
一身 清痩 詩癖を為し、百事 疎慵 酒狂を放つ。
這裡 千般 自から笑うに堪んや、却って 雅興を求めて 枯腸を揣る。

 

 


08−
    看雪
   下平十二侵韵平起

天低地暗峭寒侵,一白空庭蓋地深。
積玉山川非舊態,帯銀松柏見貞心。
逐風凍雀噪叢竹,逢雪昏鴉歸密林。
粉萼霏微猶不止,望迷洞屋獨沈吟。

峭寒 0304 ショウカン 激しい寒さ
貞心 0946 テイシン 正しい心
凍雀 トウジャク 寒さの中の雀 凍えそうな雀
昏鴉 コンア 夕方飛ぶ鴉 塒に帰る鴉
粉萼 0761 0854 フンガク 花びら 花房
霏微 1079 ヒビ 雨や雪の細かに降るさま
洞屋 0581 ドウオク 奥深き住まい
空庭 クウテイ 人気のない庭

天低れ 地暗く 峭寒侵し 一白の空庭 地を蓋って深し。
積玉 山川 舊態に非ず、帯銀 松柏 貞心を見る。
風に逐る凍雀 叢竹に噪ぎ、雪に逢う昏鴉 密林に歸る。
粉萼 霏微 猶お止まず、望み迷う 洞屋に 獨り沈吟。

 

 


09−
    雪後
    下平一〇蒸韵平起

雪餘山屋日初昇,軟暖囘來雲吐潤B
霜草微微生古路,霤簷滴滴釋凝氷。
病知意氣如窮鳥,老悟躯骸似凍蝿。
鶴子梅妻非我事,詩書作伴酒爲朋。

0796 ソウ きぬ
霤簷 1080 リユウエン 軒の雨垂れ
1023 シャク とかす 捨てる
窮鳥 キュウチョウ 元気の無くなった鳥
躯骸 クガイ 身体
凍蝿 0887 ヨウ 冬の元気の無くなった蝿
鶴子梅妻 6-365 梅妻鶴子 バイサイカクシ 風流な生活の形容 宋の林逋 詩話総亀

雪餘の山屋 日 初めて昇り、軟暖 囘來 雲 盾吐く。
霜草 微微 古路に生じ、霤簷 滴滴 凝氷を釋す。
病みて知る 意氣 窮鳥の如きを、老いて悟る 躯骸 凍蝿に似たるを。
鶴子梅妻 我が事に非ず、詩書 伴を作し 酒 朋と爲す。

 

 


10−
    吟行逢雪
   上平四支韵仄起

鴎鷺提携肝胆披,尋山観水共追随。
競吟我怪詩情減,参酌朋疑酒數衰。
巻地朔風吹雪冷,連天碧海滞雲時。
閑居獨楽平常事,今日與誰同宴嬉。

鴎鷺 オウロ 風流の仲間
肝胆披 カンタンヒラキ 心うち解けて
競吟 キョウギン みんなで詩を作り合う
参酌 サンシャク 酒を酌み交わす
朔風 サクフウ 北風 宴嬉 エンキ 宴会の楽しみ

鴎鷺 提携し 肝胆披き、尋山 観水 共に追随す。
競吟 我は怪む 詩情の減じたるを、参酌 朋は疑う 酒數の衰たるを。
地を巻く朔風 雪を吹きて冷かに、天に連なる碧海 雲を滞らすの時。
閑居の 獨楽は 平常の事、今日 誰と與に 宴嬉を同じくせん。

 

 


11−
    山居逢雪

   被寄姚瑛兄晩観小孤山詩次韻以答
             上平十三元韵平起

濕雲低地暗柴門,滕六滔天意氣尊。
遮眼四山無寸碧,囘頭一野有新痕。
皚皚屋外銀花展,片片簷頭玉屑翻。
無事閑翁擁鑪坐,竹叢寒雀訴飢暄。

柴門 シモン 柴で作った門 粗末な住まい
滕六 7-187 トウロク 雪神の名 幽怪録
滔天 0606 トウテン 天にはびこる
皚皚 0691 ガイガイ 雪や霜の白いさま
銀花 ギンカ 雪を銀の花と表現した
1044 ロ 炉 囲炉裏
玉屑 0656 ギョクセツ 玉の粉末 言葉や詩文の優れた語句を言う

濕雲 地に低れ 柴門暗く、滕六 天に滔り 意氣尊し。
遮眼の四山 寸碧無く、囘頭の一野 新痕有り。
皚皚たる屋外 銀花展べ、片片たる簷頭 玉屑翻える。
事無き 閑翁 鑪を擁えて坐せば、竹叢の 寒雀 飢を訴えて暄し。

 

 


12−
   隆冬山舎歸途
  上平五微韵平起

村頭古驛帯残暉,獵獵寒風舞布衣。
偶歩竹陰群雀噪,行望天角暮鴉歸。
詩客當今艱疾病,家山何處尚依稀。
芳名記史英雄事,野老三冬百計非。

隆冬 1064 リュウトウ 厳寒 真冬
村頭 0496 ソントウ 村の入り口
獵獵 0651 リョウリョウ 風の鳴る音の形容
暮鴉歸 塒に返る烏
家山 カザン 故郷
依稀 0072 シキ 良く似ている ぼんやりと
記史 歴史に記される
野老 1025 ヤロウ 田舎おやじ 老人の謙称
三冬 冬の三ヶ月 百計非 多くの計り事が成り立たない

村頭の古驛 残暉を帯び、獵獵たる 寒風 布衣を舞わす。
偶 竹陰に歩せば 群雀噪ぎ、行 天角を望めば 暮鴉歸る。
詩客 當今 疾病に艱み、家山 何處 尚 依稀たり。
芳名 史に記すは 英雄の事、野老 三冬 百計非なり。

 

 


13−
   雪中偶感
    下平一先韵仄起

遲日凍雲昏暮天,忽看霏雪砌階前。
筆牀冷冷四愁満,月課煩煩百慮煎。
漫叟點朱損麗句,高人投簡駭奇篇。
任他濁酒灑胸臆,侭醉醺醺暫懶眠。

霏雪 1079 ヒセツ 激しく降る雪
月課 ゲツカ 月の課題
煩煩 ハンハン とても煩わしい
百慮煎 あれや此やと思いをめぐらす
漫叟 0610 マンソウ 気侭に過ごす老人
點朱 テンシュ 添削の筆を入れる
0391 ソン 損なう 殺す
0619 サイ 濯ぐ 洗う 浸す
醺醺 1022 クンクン 酒に酔いニコニコしている
懶眠 0388 ランミン ものうく眠る

遲日 凍雲 昏暮の天、忽ち霏雪を看る 砌階の前。
筆牀 冷冷 四愁満ち、月課 煩煩 百慮煎る。
漫叟の點朱 麗句を損ない、高人の投簡 奇篇に駭く。
任他 濁酒 胸臆に灑ぎ、侭 醺醺に醉い 暫く懶眠。

 

 


14−
   雪中閑居
  下平十三覃韵平起

天篭雲氣暗茅庵,滕六飛花北又南。
粉竹蒙銀障井戸,瓊林鏤玉散煙嵐。
門無訪客燈空耿,床有瓶梅香僅含。
詩筆抛擲懶百事,満胸愁意向誰談。

茅庵 ボウアン 茅葺きの庵 庵の謙称
滕六 7-187 トウロク 雪神の名 幽怪録
0860 モウ こうむる 覆う
井戸 0046 セイコ 市中の家
鏤 ちりばめる
瓶梅 ヘイバイ 花瓶にいけられた梅
抛擲 0409 ホウテキ なげやりにする
懶百事 何事もおっくうになる
瓊林 0666 ケイリン 玉のように美しい林 雪が纏わり付いて一面白くなった林

天は雲氣を篭め 茅庵暗く、滕六 花を飛ばす 北又南。
粉竹 銀を蒙むり 井戸を障ぎ、瓊林 玉を鏤め 煙嵐を散ず。
門に訪客無く 燈 空しく耿き、床に瓶梅有って 香 僅に含む。
詩筆 抛擲 百事に懶く、満胸の愁意 誰に向って談ぜん。

 

 


15−
   臘月
     下平十二侵韵平起

朔風残夜峭寒侵,聴以更鐘感慨深。
積雪山頭懸片月,凝霜林上唳孤禽。
客愁都自個中到,詞賦須于機外尋。
無奈篇篇猶説苦,索居臘月故園心。

峭寒 ショウカン 厳しい寒さ
更鐘 刻を告げる鐘
0190 レイ 鳴く
孤禽 コキン 一羽の鳥
1230 すべからく、、すべし 再読文字
臘月 0489 ロウゲツ 陰暦一二月
自 ☆ 自東京到京都 東京から京都に至る
索居 0769 サクキョ 交際を絶ち一人で暮らす
1225 ウ 訓読では読まず、上下の語句の関係を示し、送り仮名に依ってその意味を表す

朔風 残夜 峭寒侵し、更鐘を聴き以って 感慨深し。
積雪山頭 片月懸け、凝霜林上 孤禽唳く。
客愁 都て 個中自り到り、詞賦 須く 機外に于て尋ぬべし。
奈無 篇篇 猶 苦を説いて、索居 臘月 故園の心。

 

 


16−
    臘月閑吟
     上平五微韵平起

人生如意就來稀,減却酒勲詩興微。
偶向幽窓銜盞坐,甚驚密雪舞風飛。
倦遊細計不常在,ト楽幾般翻易違。
自笑三冬蟲似蟄,草堂盡日掩門扉。

如意 思い通りに
就來稀 事が運ぶ事は希である
酒勲 1018 酒の力
密雪 ミツウン 降り重なった雪
倦遊 0082 何となく日を過ごす
細計 0774 小さな企て
ト楽 0384 カイラク 楽しむ
幾般 イクハン 幾つもの事柄
三冬蟲 0016 サントウチュウ 冬三ヶ月の虫の姿
0885 チツ 虫類が土中に隠れる 冬篭もり

人生 意の如く 就り來る稀に、酒勲を減却すれば 詩興微なり。
偶 幽窓に向い 盞を銜んで坐せば、甚だ驚く 密雪 風に舞い飛ぶを。
倦遊 細計 常不在り、ト楽 幾く般 翻って違い易し。
自ら笑う 三冬蟲の蟄するに似て、草堂 盡日 門扉を掩う。

 

 


17−
   朧月閑吟
   下平八庚韵仄起

臘月索居哀感生,獨凭胡榻酒頻傾。
誰憐落魄冶郎事,仍得狂狷迂叟名。
郊野凍雲凝雨氣,瓊林吹籟送寒聲。
醉餘偶上村丘望,不見家山雪嶽横。

索居 サクキョ 交際を絶ち一人で暮らす
胡榻 0477 0423 コトウ ☆ソフアー
落魄 ニクハク 落ちぶれること
冶郎事 0116 ヤロウ 浮気男 遊びに耽る男
狂狷 0646 キョウケン 理想に走り実行が伴わない
迂叟 0986 ウソウ 世事に疎い老人
吹籟 0178 0759 スイライ 笛を吹く 風鳴り
醉餘 スイヨ 酔心地の中に
家山 0278 カザン 故郷の山 故郷 家郷

臘月 索居 哀感生じ、獨り胡榻に凭り 酒 頻に傾く。
誰か憐まん 落魄 冶郎の事を、仍お得たり 狂狷 迂叟の名を。
郊野の凍雲 雨氣をらし、瓊林の吹籟 寒聲を送る。
醉餘 偶 村丘に上り望めば、家山見不 雪嶽横たわる。

 

 


18−
   朧月閑話
    下平六麻韵仄起

僚友團欒野叟家,圍爐對坐試芳茶。
今宵偶話君勿笑,故歳細談儂有嗟。
輙就奇功千慮後,翻知大業一毫差。
卿求富貴榮譽道,將易人生得鬢華。

僚友 0093 リョアユウ 同役の仲間 同僚
野叟 ヤソウ 田舎おやじ
勿笑 1234 ブツ なかれ 禁止 否定
0193 サ 嘆く ああと嘆く声
1233 チョウ 輒 すなわち
一毫差 イチゴウノサ 毛一本の差
0157 ケイ きみ 第二人称
鬢華 ビンカ 鬢が白くなる
偶話 0086 グウワ たまたまの話 二人向かい合って語り合う

僚友 團欒 野叟の家、圍爐 對坐 芳茶を試む。
今宵の偶話 君 笑う勿れ、故歳の細談 儂 嗟く有り。
輙ち就らん 奇功 千慮の後に、翻りて知んぬ 大業 一毫に差わん。
卿は求めよ 富貴 榮譽の道を、將に易かるべし 人生 鬢華を得るに。

 

 


19−
   朧月偶感
  上平十一眞韵平起

窮愁臘尾耐寒身,安臥枯腸値負薪。
已被頭顱侵白髪,奈令昔夢顧青春。
摧頽浩蕩猶疎懶,牢落哀残又素貧。
歌哭人生都謦語,只將詩酒謝風塵。

臘尾 ロウビ 年末
安臥 アンガ 安らかに臥す
枯腸 コチョウ 空きっ腹 詩文の才能のない
頭顱 1096 トウロ あたま 髑髏 頭廬
摧頽 0424 1095 サイタイ 砕ける 崩れる
浩蕩 0582 コウトウ 水の広々とした 広大な
牢落 0642 ロウラク 広々と 寂しい 疎ら
10-579 囁く 人の語を拾う 喋る
負薪 0946 老齢で薪が背負えなく成るのでは 負薪之憂 自分の病気を謙遜して言う 礼記

窮愁 臘尾 耐寒の身、枯腸を安臥すれど 負薪に値う。
已に 頭顱をして 白髪に侵被、奈ぞ 昔夢をして 青春を顧み令む。
摧頽 浩蕩 猶 疎懶、牢落 哀残 又 素貧。
歌哭 人生 都謦語、只 詩酒を將って 風塵を謝せん。

 

 


20−
   朧月偶感
  上平十一眞韵仄起

窮臘寒宵獨待春,囘懷一歳苦吟身。
愁時拈筆詩無力,傷裡傾杯酒有眞。
貧鬼難除兼老病,旅魂毎慣説悲辛。
當低人生夢中夢,何日使吾爲窖塵。

窮臘 キュウロウ 押し迫った年の暮れ
囘懷 過去の事を思い返す
拈筆 0407 テンヒツ 筆を捻る 詩句を工夫する
傷裡 心悼むここで
貧鬼 ヒンキ 貧乏神
兼老病 老いと病と
旅魂 旅の裡の心持ち
當低 トウテイ とどのつまり 結局
夢中夢 夢の又夢
窖塵 0739 コクジン あなぐらの塵

窮臘の寒宵 獨り春を待ち、一歳を囘懷す 苦吟の身。
愁時の拈筆 詩 力無く、傷裡の傾杯 酒 眞有り。
貧鬼 除き難し 老病兼と、旅魂 毎に 悲辛を説くに慣たり。
當低 人生 夢中の夢、何れの日か 吾を使 窖塵爲しめん。

 

 


21−
         初冬山行
         下平一先韵仄起

山蹊行趁入冬天,錦秋爛斑吟仗前。
過客楓林衣似染,経霜渓澗葉如然。
茅屋心閑誰知我,空庭菊老少休肩。
双鴉数柿無到人,短日茶煙不記年。

山蹊 サンケイ山路
錦秋爛斑 キンシュウランパン紅葉の色がとりどりに
過客 カキャク通りすがりの人
楓林 フウリン紅葉の林
衣似染 コロモソマルニニテ紅葉の美しさに衣も染まるようだ
渓澗 ケイカン谷間
葉如然 ハモユルガゴトシ葉が燃えるように色づいている
茅屋 チオク茅葺きの家 粗末な家の表現
少休肩 シバシカタヲヤスメン一寸肩の荷を降ろそう。気を楽にしよう
双鴉数柿 ソウアスウシ二羽の鴉に数個の柿の実

山蹊行趁い冬天に入り,錦秋爛斑たり吟仗の前。
過客 楓林 衣染まるに似て,経霜の渓澗 葉然ゆるが如し。
茅屋 心閑かにして誰れ我を知らん,空庭の菊は老い少し肩を休めん。
双鴉 数柿 人の到る無く,短日の茶煙 年を記さず。

 

 


22−
   初冬晨景
      下平十四塩韵平起

今朝處處暁霜添,山色水光吟客占。
窗下拈筆詩又就,砌邉露落緑衣沾。
小身五尺君休笑,茅屋三径雀入檐。
養拙恣情闕句,松装半夜水晶塩。

砌邉 セイヘン石畳の辺り
五尺 ゴシャク1b50a 小柄な事の形容
茅屋 チオク粗末な家 謙遜
三径 サンケイ隠者の過ごす方途
恣情 ジョウヲホシイママニ心の赴くままに
松装 マツハヨソオウ松の木は装った
半夜 ハンヤ夜中
水晶塩 スイショウノシオ水晶のようにキラキラとした雪の見立て

今朝 處處 暁霜を添え,山色 水光 吟客占む。
窗下に筆を拈り詩又就き,砌邉に露落ちて緑は衣を沾らす。
小身五尺 君笑う休めよ,茅屋三径 雀は檐に入る。
拙を養い情を恣いままに閧ノ句を作れば,松は半夜に装う水晶の塩を。



23−
   朧月偶感
   上平十一眞韵平起

多年歳月任風塵,坐恨無功鬢髪新。
題句歓娯人解否,祭詩胡坐未憂貧。
窮愁況復四方志 俗事何求二毛春。
禿筆文章追往事,書窗屈指數通津。

多年 タネン何年も
任風塵 フウジンニマカセ世の成り行きに任せ
坐恨 ソゾロニウラム何とはなしに恨めしい
鬢髪新 ビンハツアラタ鬢の白髪が増えた
歓娯 カンゴ楽しみ
人解否  ヒトカイスルヤイナヤ分かって貰えるだろうか
胡坐 コザあぐらをかく
未憂貧 イマダヒンヲウレエズ未だ貧乏を苦にしない
窮愁 キュウシュウ何ともやり切れぬ気持ち
四方志 シホウニココロザスあれやこれやと思いを馳せる
俗事 ゾクジ世間一般の事
二毛春 ニモウノハル一寸白髪が出掛かった年齢の色々な想い
禿筆 トクヒツ禿びた筆
數通津 ツウシンヲカゾウ自分の進むべき路を数える

多年の歳月 風塵に任せ,坐に恨む功無く鬢髪の新なるを。
句を題する歓娯を人解するや否や,詩を祭り胡坐して未だ貧を憂へず。
窮愁 況んや復た四方に志し 俗事 何を求めん二毛の春。
禿筆の文章は往事を追い,書窗に指を屈り通津を數う。

 

 


24−
   朧月夜夢
   上平四支韵仄起

天命聴天何得知、苦中有楽楽牽悲。
老餘願輙兒孫福、閑暇行惟詩酒嬉。
夜雨小庭風獵獵、索居孤枕睡遲遲。
曾遊入夢夢堪趁、舊友相扶新友随。

0820 チョウ きく ゆるす おさめる さぐる
獵獵 0651 リョウリョウ 風の渡る形容 猟は動く意
索居 友を隔てての独り住まい
孤枕 コチン 独り寝の枕
遲遲 チチ 遅い 二文字重ねて強調する
曾遊 ソユウ 以前の交遊

天命は天に聴せ 何ごとぞ 知り得ん、苦中に楽有り 楽 悲を牽く。
老餘の願は輙ち 兒孫の福、閑暇の行は惟れ 詩酒の嬉み。
夜雨 小庭 風 獵獵、索居 孤枕 睡 遲遲。
曾遊 夢に入り 夢 趁うに堪え、舊友 相い扶け 新友随う。

 

 


25−
   朧月散策
  上平一東韵平起拗体

焦勞古叟計將窮,遲滞山居歳欲終。
破臘今朝携痩杖,繁霜愛日伴隣翁。
凛冽疎林松子落,逶廻曲岸柳條空。
老無脚力寒侵骨,強笑乞憐躊躇躬。

焦勞 0632 0137 ショウロウ とても疲れた
破臘 0771 ハロウ 年の瀬 大晦日
隣翁 近所の老人
凛冽 0117 リンレツ 寒さや威光の厳しいさま
疎林 疎らな林
松子落 松の実が落ちる 松かさが落ちる
逶廻 0988 イ 斜めにくねくねと連なり続く 
寒侵骨 寒さが身にしみる
強笑 作り笑顔
躊躇 0971 チュウチョ ためらう ぐずぐずする

焦勞の古叟 計 將に窮り、山居に遲滞して 歳 終らんと欲す。
破臘の今朝 痩杖を携え、繁霜の愛日 隣翁を伴う。
凛冽たる疎林 松子落ち、逶廻 曲岸 柳條空し。
老いて脚力無く 寒 骨を侵し、強いて笑い 憐を乞う 躊躇の躬。

 

 


26−
    朧月山居
   下平七陽韵仄起

還到寓居庭砌荒,他郷寒景似家郷。
凍雲漠漠紙窓暗,暮雨蕭蕭遊趣傷。
猿嘯枯林霜氣満,鳥聲幽壑水煙揚。
無言客叟三冬事,煮雪爐頭翰墨場。

寓居 0283 グウキョ 仮住まい 自分の家の謙称
凍雲 凍り付くような寒々とした雲
漠漠 0606 バクバク 一面に続いているさま
紙窓 ☆障子
蕭蕭 ショウショウ 静まりかえった様子
猿嘯 0652 エンショウ 猿が鳴く又はその声
枯林 コリン 葉のすっかり落ちた林
幽壑 ユウガク 人気のない谷間
三冬 0016 サントウ 冬の三ヶ月 三度冬を越す
翰墨 0810 カンボク 筆と墨又は書かれた物

還た寓居に到れば 庭砌荒れ、他郷の寒景 家郷に似たり。
凍雲 漠漠 紙窓暗く、暮雨 蕭蕭 遊趣傷う。
猿嘯 枯林 霜氣満ち、鳥聲 幽壑 水煙揚る。
言う無れ 客叟 三冬の事を、雪を煮る 爐頭 翰墨場と。

 

 


27−
   朧月山居
  上平十一眞韵仄起

臘月山居舞雪頻,天昏地冷夜連晨。
詩魔久住促華髪,酒鬼夙縁齎赤貧。
醉夢朦朧忘素心,懶眠輾轉妄傷神。
暁鐘聴盡仍慵起,六十餘齢客寓人。

詩魔 シマ 詩を好きな気持ち
華髪 頭髪が白く成る
酒鬼 1018 シュキ 酒飲が好きな気持ち
夙縁 0119 シュクエン 早くからの縁
1167 セイ もたらす 与える
赤貧 ひどく貧しい
朦朧 モウロウ ぼんやりとする
輾轉 テンテン 寝返りをすること
客寓 0276 キャクグウ 寓は仮住まい 彼の地の仮住まい

臘月 山居 舞雪頻に、天昏く 地冷に 夜 晨に連る。
詩魔 久住し 華髪を促し、酒鬼 夙縁 赤貧を齎す。
醉夢 朦朧 素心を忘れ、懶眠 輾轉 妄に傷神。
暁鐘 聴き盡し 仍お起るに慵く、六十 餘齢 客寓の人。

 

 


28−
    歳晩書懐
   上平一東韵平起

挂冠十載絶無功,世味辛酸似轉蓬。
報刻更鐘穿破壁,催春夜柝度寒穹。
終宵拂鬼愁方散,早暁把杯樽不空。
逝水東流聊忘老,心労志業問窮通。

十載 ジュウサイ 十年
轉蓬 0976 テンホウ 風に吹かれて転がり行く蓬
更鐘 コウショウ 時を告げる鐘
寒穹 0736 カンキュウ 寒い大空
終宵 シュウショウ 夜通し
志業 シギョウ 志の事柄
窮通 0740 キュウツウ 貧困と立身出世
夜柝 0231 ヤタク 夜回りの打つ拍子木の音
挂冠 0410 ケイカン 官を辞し職を去ること ☆ 御漢書 逢萌傳

挂冠 十載 絶えて功無く、世味 辛酸 轉蓬に似たり。
報刻 更鐘 破壁を穿ち、催春 夜柝 寒穹を度る。
終宵 鬼を拂えば 愁 方に散じ、早暁 杯を把れば 樽 空しから不。
逝水 東流 聊か老を忘れ、心労 志業の窮通を問う。

 

 


29−
   歳晩書懐
   上平一東韵平起

也逢終夕問窮通,短計長貧白屋中。
反復悲歓孤夢絶,乗除得失衆縁空。
今宵浪酌遣愁酒,去歳自憐甘苦躬。
畢竟吾生似精衛,孜孜填海総無功。

窮通 0740 キュウツウ 貧乏と立身出世 
短計 拙い世渡り
長貧 長い間の貧しさ
白屋 ハクオク 貧しい家 家の謙称
悲歓 ヒカン 悲しみと歓び
衆縁 0889 シュウエン 多くの縁
畢竟 0677 ヒッキョウ つまり ようするに
孜孜 0432 シシ 熱心に務め励むさま
精衛填海 8-907 精衛と言う鳥が石を運んで海を埋めようとした 無謀な企てで徒労に帰す例え

也た 終夕に逢て 窮通を問い、短計 長貧 白屋の中。
悲歓反復して 孤夢絶え、得失を乗除せば 衆縁空し。
今宵 浪に酌む 遣愁の酒、去歳 自から憐む 甘苦の躬。
畢竟 吾が生 精衛に似て、孜孜 海を填め 総て功無し。

 

 


30−
   歳晩書懐
   上平十一眞韵仄起

痩骨居然土木身,既侵白髪與紅塵。
郭田二頃空歸夢,詩國一魔常作鄰。
暮樹巣鳩仍笑拙,寒厨碩鼠却嫌貧。
吟腸枯渇垂垂老,自古多愁識字人。

土木身 身の回りの飾らぬ事
白髪與紅塵 年齢の経過と世俗の垢
巣鳩 1142 ソウキュウ ☆ 鳩は巣作りが下手という
碩鼠 セ0713 セキソ 大きな鼠 ☆ 詩経碩鼠 ☆税務署
吟腸 ギンチョウ 詩を作る身体 精神
垂垂老 0211 スイスイ だんだんと
寒厨碩鼠却嫌貧 懐具合が良くないので税務署も却って寄りつかぬ
郭田二頃 二頃の畑が有れば幸福な一生を送れるという ☆ 合従連衡 此処では逆用

痩骨 居然 土木の身、既に白髪與紅塵に侵る。
郭田 二頃 空しく夢に歸し、詩國 一魔 常に鄰を作す。
暮樹 巣鳩 仍お 拙を笑い、寒厨 碩鼠 却って 貧を嫌う。
吟腸 枯渇し 垂垂老い、古自 愁い多きは 識字の人。

 

 


31−
   歳晩書懐
   上平十四寒韵平起

光陰猝猝歳云殫,回顧一年行路難。
老境有誰憐落托,窮途無可説平安。
毎堅地歩知謀拙,欲降天魔策略寒。
莫道人生多苦節,昴揚志氣舐辛酸。

猝猝 ソツソツ 早く過ぎる
落托 ラクタク 落ちぶれ寂しい
窮途 キュウト はかばかしくない成りゆき
無可 1226 可能の打ち消し
平安 0321 ヘイアン 何事もなく穏やかなこと
地歩 0209 チホ 自分の居る位置
知謀 0707 チボウ 知恵のある計りごと 
天魔 仏教用語 人を邪悪に誘う悪魔
策略寒 計画がうまく運ばない
昴揚 0454 コウヨウ 高く揚がる 盛んになる

光陰 猝猝 歳 云に殫き、一年を回顧すれば 行路難し。
老境 誰か落托を憐む有らん、窮途 平安を説く可き無し。
毎に 地歩を堅くすれど 知謀拙に、天魔を降さんと欲すれど 策略寒し。
莫道 人生 苦節多しと、志氣を昴揚して 辛酸を舐ん。

 

 


32−
  歳晩書懐
   下平十一尤韵平起

獨留山屋省愆尤,渉世難揣冷暖稠。
回顧多年嘗苦汁,老残孤叟莫嘉謀。
燈前懐逐山徒衆,枕上夢迷吟社儔。
貧鬼宿來過客絶,嚴冬毎愛酒消愁。

愆尤 0369 ケンユウ あやまち
0420 スイ 計る 定める
0732 チュウ 多い 混み合っている
嘉謀 0194 カボウ 良い知恵 優れた知恵
懐逐 オモイハオウ 回想は次々と
山徒衆 山登り仲間
吟社儔 漢詩の仲間
貧鬼 ヒンキ 貧乏神
過客絶 尋ねる人も絶え
酒消愁 酒が愁いを消してくれる

獨留の山屋に 愆尤を省み、渉世 揣り難し 冷暖の稠を。
回顧 多年 苦汁を嘗め、老残 孤叟 嘉謀莫し。
燈前 懐は逐う 山徒の衆に、枕上 夢は迷う 吟社の儔に。
貧鬼 宿來 過客絶え、嚴冬 毎に愛す 酒 愁を消すを。

 

 


33−
   歳晩書懐
    上平四支韵平起

江湖桂玉足歎咨,詞客清貧其奈爲。
上歳屈身今夜慟,中原逐鹿昔年思。
酒樽傾盡自忘老,形影醉來何耐悲。
個裡心情柔且弱,問天窮達去來時。

江湖之樂 0563 自然を友として遊ぶ人
桂玉 0510 月の異名
歎咨 0184 タンシ 嘆く
清貧 セイヒン 真面目で貧乏
奈爲 どうしたことだ
上歳 0017 今年
中原逐鹿 0028 天下を争う ☆唐魏徴 述懐詩
形影 0342 物の形とその影 ☆常に離れぬ物の例
何耐悲 どうして悲しみに耐えられようか
窮達 0740 キュウタツ ひどく困る

江湖 桂玉 歎咨に足り、詞客 清貧 其れ奈爲せん。
上歳 身を屈めて 今夜慟き、中原 鹿を逐いしは 昔年の思い。
酒樽 傾け盡し 自ら老を忘れ、形影 醉來 何ぞ悲に耐えん。
個裡 心情 柔且つ弱、天に問はん 窮達 去來の時を。

 

 


34−
   懐古歳暮
   上平十三元韵平起

厳冬正欲使銷魂,寒気凛然山下村。
既月黄花誇盛色,今朝白雪著新痕。
夢囘秋興賞楓里,思遙春遊戰酒園。
休問荒唐残老意,混淆哀楽總難論。

使 1229 シム 使役させる 仮定だとしたら
銷魂 1035 ショウコン 途切れんばかりの驚き
凛然 0117 リンゼン 凛凛 寒さの厳しいさま
既月 0448 キゲツ 一六夜
黄花 菊の花
荒唐 0844 コウトウ 話に取り留めのないこと
残老 0547 ザンロウ おいぼれ
混淆 0590 コンコウ 入り混じり区別が付かない
哀楽 アイラク 哀しみと楽しみ
總難論 全ては語り尽くせない

厳冬 正に 銷魂使んと欲し、寒気 凛然たり 山下の村。
既月 黄花 盛色を誇り、今朝 白雪 新痕を著く。
夢囘る 秋興 楓を賞せし里、思遙なり 春遊 酒を戰せし園。
問うを休めよ 荒唐 残老の意、哀楽 混淆し 總て論じ難し。

 

 


35−
   歳晩懐古
   上平十三元韵仄起

夜雪繽紛寒不眠,負爐對燭意凄然。
鐘聲百八是除夕,歴尾三更輙客年。
曾訪山川多納句,囘遊日月別開天。
三冬野叟高翔少,祭一年詩謝萬縁。

繽紛 0797 ヒンプン もつれ乱れるさま
凄然 0117 セイゼン 冷え冷えとしたさま
百八 百八の煩悩が有ると言う謂れによる
歴尾 レキビ 暦の最後 大晦日
客年 カクネン 去年 客歳
多納句 多くの事柄を詩の題材に納めた
翔 羽を動かさずに飛ぶ
祭一年詩 唐の賈島が大晦日の晩に一年間の自作の詩を祭り、自分の苦心を慰めたという故事

夜雪 繽紛 寒く眠れ不、負爐 對燭 意 凄然たり。
鐘聲 百八 是れ除夕、歴尾 三更 輙ち客年。
曾訪の山川 多く句に納め、囘遊の日月 別に天を開く。
三冬の野叟 高翔少に、一年の詩を祭り 萬縁を謝す。

 

 


36−
   歳晩回顧
   下平七陽韵平起

忽逢歳晩揣枯腸,六十余齡夢一場。
百事未成空送日,兩年遭難不還郷。
歸心欝結三更雪,他國漂流双鬢霜。
半夜失眠身骨冷,憂愁欲歸引杯長。

枯腸 コチョウ 老人の心の裡
夢一場 夢の一場面に過ぎない
百事 多くの事柄
空送日 無為に日を過ごす
歸心 キシン 郷心 故郷に帰りたい気持ち
欝結 1129 ウッケツ 気が鬱いでむしゃくしゃする
漂流 流れ流れて
双鬢霜 両方の鬢の毛が白くなった
憂愁 0372 ユウシュウ 愁いに沈む
引杯長 0336 杯を引き留める ☆ 席を立てない

忽ち歳晩に逢い 枯腸を揣り、六十 余齡 夢の一場。
百事 未だ成らず 空しく日を送り、兩年 難に遭い 郷に不還。
歸心 欝結 三更の雪、他國 漂流 双鬢の霜。
半夜 眠を失い 身骨冷かに、憂愁 歸らんと欲し 引杯長し。

 

 


37−
   歳晩書懐
   下平十一尤韵平起

窮陰半夜使人愁,可惜居諸如水流。
宿志於今猶不就,吟情及老已難留。
燈前思騁征鴻跡,枕上夢翔双鷺洲。
胸次顛冥何怨恨,客中歳晩未歸休。

窮陰 陰氣の押し迫った 冬の末
居諸 キョショ 月日
宿志 シュクシ 以前から持っている志
1117 テイ まっしぐらに走る
枕上 チンジョウ 枕元 寝ている裡に
胸次 キョウジ 胸の内
顛冥 1099 テンメイ 迷いに迷う
何怨恨 0361 何の怨みがあるというのだ
未歸休 未だ故郷に帰らないで居る

窮陰 半夜 人をして愁使、惜む可し 居諸 水流の如きを。
宿志 今に於て 猶お不就、吟情 老に及び 已に留め難し。
燈前 思は騁す 征鴻の跡、枕上 夢は翔ける 双鷺の洲。
胸次 顛冥するは 何の怨恨ぞ、客中の歳晩 未だ歸休せざればなり。

 

 


38−
   除夜偶感
   上平四支韵平起拗体

行年六十一身知,黙坐囘懐盛壮時。
故家餞歳酒肴剰,除夜驅儺妻子随。
雪屋至今何寂莫,霜頭慕古自傷悲。
老餘孤獨最難耐,疾病猶無薬與醫。

行年 0345 コウネン 経過した年数
一身知 この身体が知っている
盛壮 セイソウ 若くて壮んな
故家 もとの家
餞歳 センサイ 1108 年の去るのを送る
酒肴剰 酒の肴も十分に
驅儺 1114 クダ 年末や節分に鬼を払う儀式
至今 0825 シコン 今は
慕古 0371 ボコ 昔を懐かしく想う
最難耐 最も耐えられない

行年 六十 一身知んぬ、黙坐 囘懐す 盛壮の時を。
故家の餞歳 酒肴剰し、除夜の驅儺 妻子随う。
雪屋 至今 何んぞ寂莫、霜頭 慕古 自ら傷悲す。
老餘の孤獨 最も耐え難く、疾病 猶お 薬與醫の無きに。

 

 


39−
   祭詩
   上平四支韵仄起

碌碌人生何所爲,也逢暦尾使吾悲。
更鐘入屋穿荒壁,片月覘窓畫素帷。
曾伴鷺鴎耽嘯傲,此開嚢袋憶當時。
瓦鶏百首共親祭,一歳沈吟擬古詩。

碌碌 0713 ロクロク 平凡で役に立たぬさま
覘 窺う そっとみる
畫 カク 区画する 分ける
素帷 0770 ソチョウ 粗末な帳
鷺鴎 風流仲間の異称
嘯傲 0198 ショウゴウ 大いに詠う
嚢袋 0199 ノウタイ ふくろ
瓦鶏 0667 瓦で作った鶏 余り価値のない例え
擬古詩 古風になぞらう詩

碌碌 人生 何んの所爲ぞ、也 暦尾にい逢い 吾をして悲使。
更鐘 屋に入り 荒壁を穿ち、片月 窓を覘い 素帷を畫る。
曾つて鷺鴎を伴い 嘯傲を耽み、此に嚢袋を開いて 當時を憶う。
瓦鶏 百首 共に親祭、一歳 沈吟 擬古の詩を。

 

 


40−
   祭詩
   下平一先韵仄起

一歳苦吟詩百篇,獨供酒脯憶機縁。
惜将鶏肋枉多事,購得羊頭恐有愆。
千古文章私自重,短才詩格竟誰憐。
風流未棄煙霞志,猶對寒燈想浪仙。

酒脯 0483 シュフ 酒と乾し肉
機縁 0530 キエン きっかけ
0369 ムン 過つ 過失
短才 0708 タンサイ 才能が思わしくない
詩格 0920 シカク 詩の法則 詩の風格
煙霞志 0624 山水を友とする志
浪仙 ロウセン 唐賈島謂字浪仙
鶏肋 食えないがが味だけはある
羊頭 0803 羊頭狗肉 羊の頭を看板にして実は犬の肉を賣る ☆ 見せかけと実際が一致しない

一歳 苦吟の 詩 百篇、獨り酒脯を供え 機縁を憶う。
鶏肋を惜み将って 枉げて多事に、羊頭を購い得て 恐らく愆り有らん。
千古 文章 私かに自ら重んじ、短才 詩格 竟に誰か憐まん。
風流 未だ棄ず 煙霞の志、猶 寒燈に對し 浪仙を想う。

 

 


曄歌坤歌偲歌瀛歌三連五七律自由詩笠翁対韻羊角対漢歌漢俳填詞詩余元曲散曲楹聯