フレーム構成  漢詩詞作品集杖下300律詩 雑上巻 中山逍雀漢詩詞創作講座填詞詩余楹聯

杖下三百律詩 雑の部 録112首

01−
          空旅
          上平十一眞韵平起

提嚢趁約客装新,今日開眉機上人。
美也繪秋山疊疊,快哉臨海水鱗鱗。
白雲脚下巻舒緩,碧嶼眼前圖画真。
變幻風光忙應接,空程一路過蒼旻。

堤嚢 :鞄を引っ提げて 趁約 約束に従って
客装新:旅行支度も新しく 山疊疊 山が重なり合って 
水鱗鱗:水が縮緬のように波打つ 巻舒緩 0312 ケンジョ 巻く事と伸ばす事
碧嶼 :0308 ヘキショ 青い島 忙應接 あれこれに忙しい
空程 :飛行機の行程 過蒼旻 青い空を過ぎる

嚢を提え 約を趁い 客装も新に、今日 眉を開く 機上の人。
美しき也 秋を繪いて 山 疊疊と、快なる哉 海に臨めば 水 鱗鱗たり。
白雲 脚下に 巻舒緩く、碧嶼 眼前に 圖画眞なり。
變幻の風光 應接に忙しく、空程 一路 蒼旻を過ぐ。

 


02−
   伊勢半島周遊 
    上平十三元韵仄起

舊侶新僚笑語温,勢州行楽負朝暄。
探秋貪賞松涛路,連袂看過漁戸村。
也到燈臺望瀛際,更凭巖壁見潮痕。
海山秘境多形勝,囘首無邊駭旅魂。

舊侶新僚:古い友に新しい仲間 勢州 Q固有名詞 紀伊半島
負朝暄 :朝日の暖かさを背に受ける 松涛路 0500 ショウトウ 松韻 ; 涛は波の意
連袂  :皆で連れだって 漁戸村 漁師街
瀛際  :0617 エイ 海のはて ; 水が満ちるの意 駭旅魂 0446 旅人の心が驚く

舊侶 新僚 笑語温かに、勢州の行楽 朝暄を負う。
探秋 貪り賞す 松涛の路、連袂 看す過ぐ 漁戸の村。
也た燈臺に到り 瀛際を望み、更に巖壁に凭り 潮痕を見る。
海山の秘境 形勝多く、囘首 無邊 旅魂駭く。

 

 


03−
   伊勢游草
       上平一東韵仄起

  一行十三人在答志嶋望観樓歇一宿,明天分乗五台軽車平安無事地到了家里。

伊勢回遊路不窮,賃舟且訪嶼西東。
碎波呑窟将頽石,長浪揺舟不断風。
答志嶋邊春水碧,望観樓上夕陽紅。
岸頭停佇浦香漾,羣集白鴎翻半空。

賃舟  :遊覧船にでも乗ったのだろう 碎波呑窟 荒海の怒涛逆巻く様子
答志嶋 :固有名詞 望観樓上 展望台の上
浦香漾 :潮の香りが漂う  羣集 群がり集まる ;群の異字体
岸頭停佇:主語+在+岸頭(場所)+停佇(述語) ;自動詞

伊勢 回遊 路 窮不、舟を賃り 且つ訪う 嶼の西東。
碎波 窟を呑んで 将に石を頽さんとし、長浪 舟を揺がし 風不断。
答志嶋邊 春水碧に、望観樓上 夕陽紅なり。
岸頭に停り佇めば 浦香漾い、羣集の白鴎 半空に翻る。

 


04−
   南紀観光
 (後聯古人成句也)    上平一東韵仄起

南紀観光西復東,車如流水自無窮。
濛濛緑樹煙霞外,疊疊青山斜照中。
河畔苔侵皇子塚,巖前雲擁梵王宮。
飽看勝景氛塵絶,且嘯滄溟萬里風。

南紀 :固有名詞 南紀州 和歌山県 車如流水 車が列になって走ることの形容
無窮 :尽きることがない
濛濛 :0616 モウモウ 霧や小雨でけむるような
疊疊 :0677 ジョウジョウ 重なり合う
皇子塚:0690 コウシヅカ 皇太子の塚
巖前 :いわやの前 梵王宮 寺院の異称
氛塵 :0557 フンジン 空中の塵埃 
滄溟 :0605 ソウメイ 青く薄暗い意で海を謂う

南紀の観光 西復東、車 流水の如く 自ら無窮。
濛濛たる緑樹 煙霞の外、疊疊たる青山 斜照の中。
河畔 苔侵す 皇子の塚、巖前 雲擁す 梵王宮。
飽まで看る 勝景 氛塵絶え、且つ嘯く 滄溟 萬里の風に。

 


05−
   京都観光 
        上平六魚韵仄起

  同行大約壹百人分乗三台軽車到然林房然后在院園挙為野宴

行楽新装意豁如,然林房苑雅宴舒。
嬌花爛漫富春節,香酒應酬酣醉初。
四顧一庭飄暖雪,盛妝艶妓舞長裾。
陶陶似夢歓無盡,再度來遊此里閭。

爛漫:0629 ランマン 花が咲き乱れているさま
應酬:さしつさされつ
酣醉:1019 カンスイ ひどく酒に酔う
盛妝:0253 セイショウ 盛んに装う
艶妓:0253 エンキ 艶かしい舞姫
長裾:0898 チョウキョ 長い裾
陶陶:1063 トウトウ 和らぎ楽しむさま
里閭:1053 リリョ 郷

行楽 新装 意 豁く如く、然林房苑に 雅宴舒ぶ。
嬌花爛漫 富春の節、香酒應酬 酣醉の初。
一庭四顧すれば 暖雪飄り、艶妓盛妝して 長裾を舞わす。
陶陶 夢に似て 歓無盡、再度 來遊せん 此の里閭に。

 


06−
   赤穂聽浪閣一泊閑遊
      下平十一尤韵仄起
   随行藍師他三人

趁約連裾海甸樓,先開旅窓望汀洲。
残陽没處見征帆,遠浦無邉多舞鴎。
春夜堂中花月宴,香燈殿上竹枝謳。
老師伴友弄詩筆,艷飾校書催唱酬。

連裾 :レンキョ 袖を連ねて
海甸樓:0143 0577 カイデン 海に沿った地方 
旅窓 :旅館の窗、旅先の窗
汀洲 :テイシュウ なぎさ
香燈 :華やかな宴を演出する燈火
殿上 :宴会場を指すであろう
竹枝謳:チクシノウタ 流行歌
艷飾 :エンショク 艶やかに飾る
校書 :0510 コウショ 異同や正誤を比べる
唱酬 :唱はとなえ酬はそれに返す

趁約 連裾 海甸の樓、先づ旅窓を開き 汀洲を望む。
残陽 没す處 征帆を見、遠浦 無邉 舞鴎多し。
春夜 堂中 花月の宴、香燈 殿上 竹枝の謳。
老師 伴友 詩筆を弄び、艷飾 校書 唱酬を催す。

 


07−
   足摺岬観光
      上平十三元平起

椿花開落岬頭園,巖石嶄然高塔存。
野寺堂前環甃砌,里廛窓下仄籬藩。
一條古路涛聲韻,萬樹深林晴晝昏。
臨海停床波浪猛,青螺幾個見潮痕。

岬頭: 0303 コウトウ 岬の頭
甃砌: 0668 シュウセツ 煉瓦や瓦を敷き詰めた石畳 
里廛: 0330 リテン いなか店
籬藩: 0870 リハン 籬も藩も垣根の意
條 : 数詞 青螺 1083 セイラ 青い色のにし貝 青い山の形容
嶄然: 0307 サンゼン 山が高く聳える 多くの山の中で一際目立って優れる

椿花 開落す 岬頭の園、巖石 嶄然 高塔存す。
野寺 堂前 甃砌を環らし、里廛 窓下 籬藩仄つ。
一條の古路 涛聲韻き、萬樹の深林 晴晝昏し。
臨海 停床 波浪猛り、青螺 幾個 潮痕を見る。

 

 


08−
   百間谷游草
       上平十二文韵仄起
  我跟藍老師一起走百間谷 老師健歩可是我脚酸腿

夏木陰森明暗分,苔香樹氣罩氤氛。
清溪落瀑潺湲水,奇嶽懸崖來往雲。
林下露降祗似雨,山中晝晦宛如紜。
茅廛小憩乞茶菓,恰恰啼鴬空谷聞。

罩 : 0801 トウ 竹で編んだ篭 こめる
氤氛: 0558 インウン 天地の気の盛んなさま
祗 : 0719 シ 慎む ただ まさに
晦 : 0463 カイ 晦日 月のでない闇 暗い
茅廛: ボウテン 粗末な店
恰恰: 0378 コウコウ 恰も 丁度
潺湲: 0612 センカン 浅い水の流れる音 亦その形容 雨の降る音

夏木 陰森 明暗分ち、苔香 樹氣 罩て氤氛たり。
清溪の落瀑 潺湲の水、奇嶽の懸崖 來往の雲。
林下 露降 祗に雨に似、山中 晝晦 宛ら紜の如し。
茅廛の小憩 茶菓を乞えば、恰恰たる 啼鴬 空谷より聞く。

 


09−
   笠置山游草
     下平十蒸韵平起

携杖客路緑崚嶺,笠置山頭問廢興。
老樹擁祠春寂寂,残碑没字草蒸蒸。
飢鴉啄砌忠臣砦,狡兎遊階皇帝陵。
囘顧茫茫交戦跡,黄昏紫靄碧林凝。

笠置山頭: 固有名詞 笠置山 奈良県
崚嶺  : 4-304 リョウ ショウ 両文字とも高く険しい山
擁祠  : 祠を取り囲んで
廢興  : 廢びる事や興ること 物事の歴史的推移
残碑  : 古び多少壊れた石碑
没字  : 文字が埋もれた
飢鴉  : 飢えた烏
茫茫  : 0846 ボウボウ 広々としたさま
狡兎  : 0648 コウト 狡兎死良狗亨 役に立つ時は追い使われるが、用が無くなると捨てられる 史記

杖を携え 客路 崚嶺は緑に、笠置山頭に廢興を問う。
老樹 祠を擁し 春は 寂寂、残碑 字を没し 草 蒸蒸たり。
飢鴉 砌に啄む 忠臣の砦、狡兎 階に遊ぶ 皇帝の陵。
囘顧茫茫 交戦の跡、黄昏の紫靄 碧林に凝る。

 


10−
   琵琶湖游草
      上平十五刪韵平起

提嚢拉友両三班,訪繞琵琶澄碧灣。
春草洽沾朝露緑,渚花已散夜風斑。
囘望湖面似明鏡,秀立峰容如翠鬟。
展歩岸南猶水北,尋将勝景忘歸還。

提嚢 : テイノウ 嚢を提げた
拉友 : ラユウ 友を拉れた
澄碧灣: 琵琶湖の澄んだ碧の湾
明鏡 : かがみ 月の異名
秀立 : そそり立った
峰容 : 峰の姿形
展歩 : 歩いてみる
忘歸還: 帰ることを忘れる
翠鬟 : 1129 スイカン 緑の山の様子 ;鬟は髪を束ねて輪にした物 召使いの女

提嚢 拉友の 両三班、訪い繞る 琵琶 澄碧の灣。
春草 洽く朝露に沾いて緑、渚花 已に夜風に散じて斑たり。
囘望 湖面 明鏡に似て、秀立 峰容 翠鬟の如し。
展歩 岸南 猶お水北、勝景を尋ね将って 歸還を忘る。

 

 


11−
   鞍馬游草
      上平十灰韵平起

山烟野靄罩樓臺,問到古都鞍馬隈。
庭苑氤氤花氣亂,澗渓濺濺水聲囘。
繽紛暖雪微風舞,澹蕩良宵朧月來。
遥夜綺窓春宴盛,觴籌交錯酔瓊杯。

氤氤: 0557 インイン 気の盛んなさま
澗渓: 0611 カンケイ 谷川 渓流
濺濺: 0616 センセン 水の早く流れるさま
繽紛: 0797 ヒンフン もつれ乱れるさま
澹蕩: 0615 タントウ ゆったりとして長閑
朧月: ロウゲツ おぼろ月 春の月
綺窓: キソウ 綺麗な窓
瓊杯: 0666 ケイハイ 玉のように美しい杯
觴籌: 0911 コウチュウ 觴は杯 籌は数取りで、勝負を争う杯の数取り

山烟 野靄 樓臺を罩め、問い到る 古都 鞍馬の隈。
庭苑 氤氤と 花氣亂れ、澗渓 濺濺と 水聲囘る。
繽紛たる暖雪 微風舞い、澹蕩たる良宵 朧月來る。
遥夜の綺窓 春宴盛んに、觴籌 交錯して 瓊杯に酔う。

 

 


12−
   榊原温泉游草
    下平七陽韵平起

友朋聯袂問泉郷,樓靠青山臨壑場。
人事抛來襟自豁,世塵隔去興方長。
欣然憑檻望清景,楽只傾樽列繍牀。
木客風情如此少,巖槽沐浴滌枯腸。

人事抛來:人間関係とは縁を切って 世塵隔去 世の煩わしさから離れて
楽只  : 0521 ラクシ 楽しむ 只は助字 傾樽
繍牀  : 0797 シュウショウ D ホテルのソフアー
木客  : 0490 樵 山の精 山の獣 ; 木訥な客の意
如此少 :国語辞典; 指上文提到的某種状況 P421
巖槽  : 岩風呂
沐浴  : 0570 モクヨク 髪を洗い身体を洗うこと
滌枯腸 : ひからびた身体を洗う ; 謙称

友朋 聯袂 泉郷を問い、樓は青山に靠る 臨壑場。
人事 抛來 襟 自から豁く、世塵 隔去 興 方に長し。
欣然 檻に憑り 清景を望み、楽只 樽を傾け 繍牀に列なる。
木客 風情 此の如き少に、巖槽の沐浴 枯腸を滌う。

 


13−
   吉野釣游
      下平一先韵平起

驅車山路傍清川,徹夜到晨芳野天。
壑帯浮烟石鶏唳,峯流薄霧月蟾旋。
明朝喜霽渓中釣,卓午求陰樹下眠。
得意村翁仍懇切,香魚特性説嫣然。

浮烟: もやが立ちこめる状況
石鶏: 0709 渓流に住む蛙で河鹿蛙唳 鳴く  
月蟾: 月の異名 ;月には蟾蜍が住むという
香魚: コウカギョ 鮎
嫣然: 0262 エンゼン にこやかに笑うさま
卓午: 0152 タクゴ 卓は日が最も高いところ有る意で正午を言う

車を驅せ 山路 清川に傍い、夜を徹し 晨に到る 芳野の天。
壑 浮烟を帯び 石鶏唳き、峯 薄霧に流れて 月蟾旋る。
明朝 霽を喜んで 渓中に釣り、卓午 陰を求めて 樹下に眠る。
得意の村翁 仍お懇切に、香魚の特性 嫣然と説く。

 


14−
   大山游草
      下平十一尤韵平起

夏初企得大山遊,結隊相扶鷺與鴎。
苦雨朝晴猶帯潤,残鴬聲老似含愁。
松風爽颯林蹊快,渓語潺湲流水遒。
暮問皆生涌泉里,酒濃湯滑耐遺優。

大山 : 固有名詞 鳥取県にある 
鷺與鴎: 風流の仲間を指す
苦雨 : 降って欲しくない雨模様
残鴬 : 鴬の時を過ぎた頃の鴬
林蹊 : 0968 リンケイ 林の中の小径
渓語 : 谷川のせせらぎの音
遒  : 1000 シュウ 迫る
堅固 : 力強い 集まる
潺湲 : 0612 センカン 浅い水の流れる音 亦その形容 雨の降る音
皆生涌泉里: 皆生温泉郷

夏初 企て得たり 大山の遊、結隊 相い扶く 鷺與鴎と。
苦雨 朝に晴れ 猶お潤を帯び、残鴬 聲は老い 愁を含に似たり。
松風 爽颯 林蹊快く、渓語 潺湲 流水遒し。
暮に皆生涌泉の里を問えば、酒濃に 湯滑に 優を遺に耐う。

 

 


15−
   登山
        下平侵韵仄起

仄路被扶吟杖尋,清風収汗快登臨。
一行伴侶倶乗興,十里溪蹊不厭深。
啼鳥喧喧皆自得,落花簇簇共無心。
茂林謝豹聲三四,勧説還歸夕日沈。

仄  : 0158 ソク 傾く 狭い
溪蹊 : ケイケイ 谷川に沿った小径
喧喧 : 0190 ケンケン やかましい
皆自得: 皆が自分から納得する 
簇簇 : 0756 ソウソウ 群がり集まる
共無心: 共に私心をなくす
謝豹 : 0935 シャヒョウ 時鳥の異称
勧説 : 勧めて言う
還歸 : 両文字ともかえると言う意味

仄路 吟杖に扶に被て尋ね、清風 汗を収めて 快く登臨す。
一行の伴侶 倶に興に乗じ、十里の溪蹊 深きを厭はす゛。
啼鳥 喧喧 皆 自得、落花 簇簇 共に 無心。
茂林の謝豹 聲 三四、還歸を勧説し 夕日沈む。

 


16−
   朝來賽神
      上平五微韵仄起

策杖古蹊風力微,小春邀旭過郊畿。
村店狎犬成群戯,宮院啄鳩驚客飛。
庭上露凝枯草臥,祠頭鐸黙賽人稀。
遊観半日拾詩好,三四里程猶忘歸。

古蹊: コケイ 古き小径
策杖: 8-784 サクジヨウ 杖をつく ;曹植苦思行
小春: 0291 ショウシュン 陰暦十月の異称
郊畿: コウキ むらざと
狎犬: 0647 コウケン 人慣れした犬
啄鳩: 0189 タクキュウ ついばむ鳩
鐸 : 1011 タク 大きな音を出す鈴 吊り鐘
賽人: サイジン 参拝の人

策杖 古蹊 風力微に、小春 旭を邀え 郊畿を過ぐ。
村店の狎犬 群を成して戯れ、宮院の啄鳩 客に驚きて飛ぶ。
庭上 露凝り 枯草臥し、祠頭 鐸黙し 賽人稀なり。
遊観の半日 拾詩に好く、三四 里程 猶お歸を忘る。

 


17−
   賽湊川神社
      上平一東韵仄起

拜賽偏欣絶代功,星移日転総成空。
幽禽有意啼新樹,古廟無人剩故宮。
一夢興亡兵亂跡,千年歳月水流中。
赫然楠氏七生誓,父子挺身能奉公。

絶代功: 時代が移っても変わらぬ功績
星移 : 年月が経過して
総成空: 総てが無くなってしまう
剩  : 過剰 余剰 あまつさえ
興亡 : 興ることと亡びること
兵亂跡: 戦場の跡
赫然 : 0959 カクゼン 顕か 盛ん 怒る
七生誓: 願七生人間以殺國賊 日本外史
水流 : 水の流れと歳月の経過はよく対比される ; 論語 子在川上曰 逝者如斯夫 不舎昼夜

拜賽 偏えに欣ぶ 絶代の功を、星移り 日転じ 総て空と成る。
幽禽 意 有りか 新樹に啼き、古廟 人 無して 故宮を剩す。
一夢の興亡 兵亂の跡、千年の歳月 水流の中。
赫然 楠氏 七生の誓、父子 挺身 能く公に奉ず。

 

 


18−
       賽枚岡神社
              上平四支韵平起

生駒山麓賽神祠,殿宇清閑石磴危。
杉籟松風和寂歴,瀑音溪語共追随。
御宮庭樹擁流水,南苑梅花満遶籬。
画筆可無風景勝,吟行覓句不知疲。

石磴 : セキトウ 石段
寂歴 : セキレキ 寂寞 ひっそりとしてもの寂しい
杉籟 : サンライ 杉の風鳴り
溪語 : ケイゴ 谷川のせせらぎの音
満遶籬: 1008 ジョウリ 垣根を巡る
無  : 無条件 可以修飾動詞
和  : 介詞 表示共同 協同
跟  : 表示動作的対象 引進用来比較的対象 表示平等的聯合関係
可  : 表示許可或可能、同 可以。用于書面、口語中只用于正反対挙。

生駒山麓 神祠に賽すれば、殿宇 清閑にして 石磴危し。
杉籟 松風 和して寂歴、瀑音 溪語 共に追随。
御宮の庭樹 流水を擁し、南苑の梅花 遶籬に満つ。
画筆 無可 風景の勝るに、吟行 句を覓め 疲を不知。

 

 


19−
   参賀黒潮吟社
三十五周年記念大会  下平七陽韵平起
   昭和四九年十月十日在白浜牟樓邊館呈示藍川老師

紀南臨海涌泉郷,三五周年記念場。
参賀雅宴胸臆豁,歓談綺席醉歌長。
詩人墨客相連座,貴老才媛又満堂。
偏喜藍師天壽在,黒潮吟社厭彼蒼。

紀南: 南紀か紀州の南
涌泉郷 : 温泉郷 
記念場 : 記念式典
胸臆豁 : 胸の思いを開く 
詩人墨客: 詩家や書家
相連座 : みんなで並んで座り 
黒潮吟社: 高橋藍川老師(僧侶)が主宰の吟社 和歌山県にあり 蒼浪吟社の前身

紀南 海に臨む 涌泉の郷、三五周年 記念の場。
雅宴に参賀して 胸臆豁き、綺席に歓談せば 醉歌長し。
詩人 墨客 相い座を連ね、貴老 才媛 又堂に満つ。
偏に喜ぶ 藍師 天壽在るを、黒潮 吟社 彼蒼を厭す。

 


20−
   黒潮吟社
創立四十周年記念大会開催   下平十蒸韵仄起

  藍師其喜賦詩以示我們会員以次韻答

椽筆情文見絶能,黒潮吟社老師僧。
曾同遊躅節難忘,此侍佳筵喜不勝。
肴酒相宜山海閣,詩禅共照梵門燈。
多年業跡今宵譽,南紀皇州奎運興。

椽筆  : 0523 テンヒツ たるきの様に大きな筆
情文  : 0381 ジョウブン 愛情のこもった文
絶能  : 0780 ゼツノウ かけ離れた能力 
遊躅  : 0971 ユウチョク 遊び廻る
詩禅  : シゼン 詩と禅と ; 詩禅一味
梵門  : 0515 ボンモン 仏門
南紀皇州: 0690 南紀の美しいところ
奎運  : 0248 ケイウン 二八宿 文章を司るという

椽筆 情文 絶能を見、黒潮吟社の老師僧。
曾て遊躅を同じうせし節 忘れ難く、此に 佳筵に侍り 喜に不勝。
肴酒 相い宜し 山海の閣、詩禅 共に照す 梵門の燈。
多年 業跡 今宵の譽なり、南紀の皇州 奎運 興る。

 


21−
  賀黒潮吟社四十周年記念大会
  下平10蒸韵仄起

  次藍師書懐詩之韻奉呈
今日名聲拠絶能,黒潮吟社老詩僧。
心情澹白他無類,椽筆非凡誰有勝。
句格不惑傳蓋世,禅餘一穂挑檠燈。
早知門弟擁高士,克守古風奎運興。

絶能:ずば抜けて高い能力
不惑:四十歳
禅餘:僧侶の仕事の合間に
早知:0452 ツトニシル 早くから知れている
蓋世:0857 ガイセイ 気勢が優れて天下を一呑みにするような勢い
誰有勝:誰が勝ると言うのか、勝る者は居まい;疑問と反語に使われる

今日の名聲 絶能に拠り、黒潮吟社の老詩僧。
心情は澹白 他に無類く、椽筆は非凡 誰有勝ん。
句格不惑 蓋世に傳え、禅餘 一穂 檠燈を挑ぐ。
早に知んぬ 門弟 高士を擁し、克つ 古風を守って 奎運を興すを

 

 


22−
  頼山陽先生百五十年祭
   上平聲1東韵平起
  山陽吟社呂山師長募集応募一首賦呈

夙繙墳典博明通,儒學名門吐彩虹。
欲以文章扶社稷,豈将憎愛蔑英雄。
南朝北統劇談裡,斥覇尊皇隠約中。
猶嗣家嚴慷慨氣,脱藩幽閉克成功。

夙繙:ツトニヒモトク 
墳典:
博明通:
儒學:
名門:
吐彩虹:
欲以:
文章:
扶社稷:
豈将:
憎愛:
蔑英雄:
南朝:
北統:
劇談裡:
斥覇:0442 セキハ 武力による統治を排斥する
尊皇:
隠約中:
猶嗣:
家嚴:
慷慨氣:
脱藩:
幽閉:
克成功:

夙に墳典を繙き 博く明通、儒學の名門 彩虹を吐く。
文章を以って 社稷を扶けんと欲し、豈 憎愛を将つて 英雄を蔑ぜんや。
南朝 北統 劇談の裡、斥覇 尊皇 隠約の中。
猶お 家嚴 慷慨の氣を嗣ぎ、脱藩 幽閉 克く功を成す。

 

 


23−
  被祭忌澤庵和尚
在祥雲寺拝賽席上呈藍老師 上平聲1東韵仄起

来賽祥雲精舎中,澤庵和尚釋門功。
信徒參会奠煙紫,老衲稱経奉燭紅。
堂裏随縁塵念去,佛前聴法道心雄。
最欣此日逢師友,般若湯斟酣醉同。

澤庵和尚:臨済宗の僧 名は宗彭 字は沢庵
釋門:シャクモン 釈迦の門弟
奠煙: 線香の煙
老衲:0896 ロウノウ 衲は僧衣 老僧の意
奉燭: 祭壇のローソク
般若湯:ハンニャトウ 仏家で言う酒の別称
祥雲精舎: 祥雲寺は大阪堺市に有り;住職は藍老師の弟弟子 事有る毎に来席された由
道心:1002 ドウシン 物事の是非を判断して正義に付く心 道徳心

来賽す 祥雲精舎の中に、澤庵和尚 釋門の功。
信徒 參会して 奠煙 紫に、老衲 稱経して 奉燭 紅し。
堂裏 縁に随えば 塵念去り、佛前 法を聴けば 道心雄なり。
最も欣ぶ 此の日 師友に逢しを、般若湯斟んで 酣醉同うす。

 

 


24−
  尋山中老師奉呈
    下平聲12侵韵平起

攀登嶮路隠棲尋,午下山齋堪解襟。
百事未成齢已長,一年半過夏将深。
草留捲蝶猶餘緑,林帯残蝉自作陰。
恐被老師嫌礙滞,再來何日更傷心。

嶮路を攀じ登り隠棲の尋、午後の山齋、襟を解くに堪え。
百事未だ成らずして齢は已に長く、一年半過、夏は将に深し。
草は捲蝶を留め猶を緑を餘し、林帯の残蝉は自から陰を作す。
老師は恐れ被れて嫌礙滞り、再び來るは何の日か更に心を傷む。

 

 


25−
  恭賀藍川詞長
被受文化賞次韻 下平聲7陽韵平起

經営蓮社役吟腸,誰免星星両鬢霜。
戈比聯城和氏壁,句盈吐腑李君嚢。
提携鴎鷺古風鼓,参透詩禅俗慮忘。
今日褒稱仍晩在,慶雲簇簇木州陽。

蓮社を經営して吟腸を役し、誰ぞ免ぜん星星、両鬢の霜を。
戈比聯城、和氏の壁、句盈吐腑、李君嚢。
鴎鷺に提携す古風の鼓、詩禅に参透して俗慮の忘。
今日の褒稱、仍を晩きに在りて 慶雲、簇簇たり木州陽。

 

 


26−
  想藍師之病臥
     上平11眞韵仄起

遥懐師父獨傷神,此隔山川未問宸。
病臥憐聴因激務,酒杯故願不耽親。
關心鴻業焉無亜,提耳群曹洵有人。
満腹風騒須自惜,何妨遊跡著明春。

遥に師父の獨り傷神なるを懐い、此に山川を隔て未だ宸を問はず。
病臥、憐み聴く、激務に因るを、酒杯、故に願う親に耽らずを。
關心の鴻業、焉んぞ無亜なるを、提耳の群曹、洵に人有るを。
満腹の風騒、須く自から惜み、何んぞ妨けん、遊跡、明春を著すを。

 

 


27−
  傷霊鳳師病臥
     上平1東韵平起

詩壇命脈盛衰中,去歳幾囘西席空。
嘯月詠花吟取巧,画圖彫刻技巧通。
堪憐師父鰥兼老,那奪才能病尚窮。
其彼天公何所得,擁爐寒夜慮霊翁。

詩壇の命脈、盛衰中、去歳、幾囘か西席を空す。
嘯月、詠花、吟取巧に、画圖、彫刻、技巧に通ず。
堪だ憐む、師父、鰥と老と、那んぞ奪はん、才能、病は尚を窮れり。
其彼の天公、何んぞ所得、擁爐の寒夜、霊翁を慮す。

 

 


28−
  同窓會
        下平1先韵仄起

趁約尋盟問里廛,相逢舊友話纏綿。
石池水満蘋花白,庭砌苔生柳絮鮮。
向晩擁師羞玉爵,挑燈借筆潤華箋。
陶然逸興猶酣醉,皆此同期同輩筵。

約を趁い盟を尋ね里廛を問い、相逢う舊友、話は纏綿たり。
石池に水は満ち、蘋花は白く、庭砌の苔は生え、柳絮は鮮かなり。
晩に向い師を擁して玉爵を羞じ、燈を挑げ筆を借り華箋を潤す。
陶然たる逸興、猶お酣醉、皆な此れ同期、同輩の筵。

 



29−
  同窗會
        上聲11眞韵仄起
  開催於生駒山麓三鶴山荘、被出席関本、森内両先生三首録一首

三鶴山荘首夏辰,清宵宴会及明晨。
笑談舊友青年意,欣喜恩師白髪人。
回顧他時如遠夢,再遊此日約來春。
依依逢着又離別,皆此同胞同學倫。

三鶴山荘、首夏の辰、清宵の宴会、明晨に及ぶ。
舊友と笑談す、青年の意、恩師と欣喜す白髪の人。
他時を回顧すれば、遠夢の如く、此日に再遊すれば、春の來たるを約す。
依依として逢着し又、離別、皆な此れ同胞、同學の倫。

 

 

 


30−
  再度於三鶴山荘
同窓會開催 下平9青韵仄起
  出席欠席者數名又登仙者數名也

一路山中樹氣馨,新秋再訪酒舗亭。
相逢同輩憐疎鬢,好對先生愧轉萍。
其奈親朋如落葉,且知舊友似晨星。
人間幾許別離恨,不那今宵分醉醒。

一路、山中、樹氣馨り、新秋に再び訪う酒舗の亭。
同輩と相逢うて、疎鬢を憐み、先生と好對して、轉萍を愧む。
其奈、親朋、落葉の如く、且知、舊友、晨星に似たるを。
人間、幾許、別離の恨,不那ぞ今宵、醉醒を分つ。

 

 


31−
  海村観戦釣魚
大会     上平12文韵平起

輕衫短屐自欣欣,欸乃歌聲遠近聞。
昨夜鳴雷齎沛雨,今朝朗旭送炎氛。
羨他釣客避風岸,愛見浴童初夏濆。
相喚互評争大小,銀鱗溌剌更能紋。

輕衫、短屐、自から欣欣、欸乃の歌聲、遠近に聞ゆ。
昨夜の鳴雷、沛雨齎れ、今朝の朗旭、炎氛を送る。
他羨の釣客、避風の岸、愛見の浴童、初夏の濆。
相い喚び互に評し大小を争い、銀鱗は溌剌として、更に紋を能す。

 

 


32−
  市長戦候補
被囑應援受招聘因茲呈一詩乞深謝 下平6麻韵仄起

選挙戦酣遊説譁,龍争虎闘競己誇。
君才宜逐中原鹿,吾性只甘深井蛙。
徒有詩文藏古巻,絶無見識補微瑕。
莫忘負荷市民願,治道都縁矯正邪。

選挙戦は酣にして遊説は譁く、龍争虎闘、己から誇りて競う。
君才、宜く逐う中原の鹿、吾性、只だ甘ず深井の蛙。
徒に詩文有りて、古巻を藏し、絶へて無し、見識、微瑕を補うを。
忘るる莫れ市民の願を負荷を、治道は都縁、正邪を矯せん。

 

 


33−
  山居偶成
       下平7陽韵仄起

活計疎慵興趣長,老來竟日坐書堂。
風吹庭樹影揺曵,雨潤山林色碧蒼。
名利希從詩酒淡,賎貧苦與欲望忘。
黒甜夢醒還思飲,一片愁魔付擧觴。

活計は疎慵にして興趣は長く、老來の竟日、書堂に坐す。
風は庭樹に吹きて影は揺曵、雨は山林を潤して色は碧蒼。
名利、希從、詩酒淡く、賎貧、苦與、欲望忘る。
黒甜、夢醒めて還た思いて飲み、一片の愁魔、擧觴に付く。

 

 

 


34−
  山居偶成
  其一   下平8庚韵平起

窗映青嶂暗雲横,暮鳥啼休聴點聲。
時雨沛然濡瓦屋,晩風颯爾揺軒楹。
裁詩忘得功名念,有信欣瞻兄弟情。
清夜天晴銀月上,初更對坐到三更。

窗に映る青嶂、暗雲横はり、暮鳥は啼き休、點聲を聴く。
時雨は沛然として瓦屋を濡らし、晩風は颯爾として、軒楹を揺らす。
詩を裁し忘れ得たり功名の念を,信有りて欣瞻す兄弟の情を。
清夜、天は晴れて銀月上り、初更に對坐し三更に到る。

 

 

 

 


35−
  山居偶成
  其二  下平12侵韵平起

老餘豪氣絶,觸物太傷心。
樹功情已遠,落魄恨彌深。
進退何乖意,憂愁却不任。
雨風山下屋,遣悶枉孤斟。

老餘、豪氣は絶へ、物に觸れて心は太いに傷つく。
功を樹てて情は已に遠く、落魄して恨は彌に深し。
進退、何んぞ意に乖き、憂愁、却って任ぜず。
雨風、山下の屋、遣悶して孤斟に枉る。

 

 

 


36−
  山居偶得 其一
    上平6魚韵平起

翠松山下愛幽居,暮鴉啼休暑氣虚。
粉壁蕭寥蟲語夕,青天皎潔月昇初。
風懷到底阿誰解,詩癖不知何處舒。
垂老苦吟常獺祭,埋頭書册我忘吾。

翠松山下、幽居を愛し、暮鴉啼き休みて暑氣、虚し。
粉壁、蕭寥、蟲語の夕べ、青天、皎潔、月昇の初め。
風懷、到底、阿、誰ぞ解し、詩癖、不知、何んぞ舒る處。
垂老の苦吟、常に獺祭、埋頭の書册、我は吾を忘る。

 

 

 

 


37−
  山房偶得  其二
   上平6魚韵平起

蓬頭加白髪絲疎,僑寓湖郷腹笥虚。
被送錦文多刻苦,未教迂叟得安舒。
山斎匝日吟魂餒,雪夜孤牀悲夢餘。
誰識朝昏鎖門戸,枉將詩酒我欺予。

蓬頭、白を加え髪絲は疎に、僑寓の湖郷、腹笥は虚し。
錦文を送られて刻苦は多く、未だ迂叟、教ず、安舒を得たり。
山斎の匝日、吟魂餒に、雪夜の孤牀、夢餘悲し。
誰ぞ朝昏、門戸を鎖し、枉げて將に詩酒、我を欺くを識らんや。

 

 

 


38−
  山居偶得
       下平1先韵平起

山居吟叟尚甎全,詩筆拈來別興牽。
溪水潺湲聞屋後,午雲靉靆過峰巓。
世塵消殺境清絶,名利忘焉身豁然。
隔澗青松添黛色,素蟾淡上雨餘天。

山居の吟叟、尚お甎全、詩筆、拈來、別に興を牽く。
溪水は潺湲として屋後に聞き、午雲は靉靆として峰巓を過ぎる。
世塵消殺して、境は清絶、名利、焉を忘れて身は豁然たり。
隔澗の青松は黛色を添え、素蟾、淡上す雨餘の天。

 

 

 

 


39−
  山居偶得
  其一   下平1先韵平起

林間白屋尚依然,碌碌半生唯自憐。
酒國玉杯常有意,轅門髦士絶無縁。
夜敲詩句對吟燭,朝挈藜杖歩霽天。
笑殺客中徒欲老,是如残月没山巓。

林間の白屋、尚依然として、碌碌たる半生、唯だ自から憐む。
酒國の玉杯、常に意有り、轅門の髦士、絶えて縁無し。
夜詩句を敲きて吟燭に對し、朝藜杖を挈えて霽天を歩す。
客中徒に老いんと欲し、是れ残月が山巓に没するが如しを笑う。

 

 

 

 


40−
  山居偶得  其二
    下平聲7陽韵仄起

獨楽詩天弄翰場,拈髭按句靠吟牀。
雨沾翠竹秋逾邃,風揺疎簾夜正涼。
松嶺雲流山月吐,井梧落葉桂花香。
九霄轉眼星河外,恰印征鴻字一行。

獨り詩天を楽しみ、翰場を弄び、髭を拈り句を按じ、吟牀に靠る。
雨は翠竹を沾し、秋逾よ邃り、風は疎簾を揺らし夜正に涼し。
松嶺に雲は流れて、山月吐き、井梧は葉を落して桂花香る。
九霄、眼を轉ず星河の外、恰も征鴻、字一行を印す。

 

 

 

 


41−
  山居偶得
        下平8庚韵仄起

寓宿山居百感生,四隣列屋寂無聲。
半痕月落西村去,千樹林連北嶽横。
征雁未傳遊子意,啼鵑褊促故園情。
孤牀敲枕不能寐,也點檠燈及五更。

寓宿の山居、百感生じ、四隣の列屋、寂として聲無し。
半痕の月は落ち西村に去り、千樹の林連は北嶽に横はる。
征雁は未だ傳えず、遊子の意を、啼鵑の褊は促す故園の情を。
孤牀、枕を敲きて寐る能ず、也檠燈を點じ五更に及ぶ。

 

 

 

 


42−
  山居偶得 其二
    下平11尤韵仄起

蓬髮顱頭値勁秋,依然加白老山樓。
遠望田野紫煙漾,囘看松林青霞流。
初夜挑燈鈔抱感,三更酌酒滌窮愁。
辛酸世味守貧避,最好風人物外遊。

蓬髮、顱頭、勁秋に値い、依然として白を加へ山樓に老ゆ。
田野を遠望すれば紫煙漾い、松林を囘看すれば青霞流る。
初夜、燈を挑げて抱感を鈔し、三更、酒を酌みて窮愁を滌ぐ。
辛酸の世味、貧避を守り、最も好し風人、物外の遊。

 

 

 

 


43−
  山居偶得
       上平8齋韵仄起

山野烟深望欲迷,杜鵑花上杜鵑啼。
壑収夜雨溪聲切,林滞暁霞雲氣低。
未覺春情追舊跡,難痊詩病入新題。
午後風爽愛吟榻,按句拈毫日昃西。

山野、烟は深く望みは迷い、杜鵑の花上に杜鵑啼く。
壑は夜雨を収め、溪聲切に、林は暁霞を滞せ雲氣低る。
未だ春情、舊跡を追うを覺えず、詩病痊し難く、新題に入る。
午後の風は爽にして吟榻を愛し、句を按じ毫を拈り日は西に昃く。

 

 

 

 


44−
  山居偶得
       下平聲11尤韵平起

三年寄寓讀書樓,詩酒相耽時釣遊。
古几塵牀多醉夢,悲風苦雨結憂愁。
偶尋蠏舎無漁具,空望漁磯有客舟。
朱筆代耕忙過在,吟朋既去未歸休。

三年寄寓す讀書の樓、詩酒、相い耽り、時に釣遊す。
古几、塵牀、醉夢多く、悲風、苦雨、憂愁を結ぶ。
偶たま蠏舎を尋ねれば、漁具無く、空く漁磯を望めば客舟有り。
朱筆、代耕、忙しく過す在りて、吟朋は既に去りて、未だ歸り休まず。

 

 

 

 


45−
  山居偶占
       上平6魚韵平起

悠然栖老小茅屋,朝曵吟杖夜読書。
奔月盈虧清且麗,流雲來去巻仍舒。
風懷付句詩初就,吟苦關心興不餘。
畢竟人生如過客,只随天命守貧居。

悠然、栖老、小茅屋、朝に吟杖を曵きて夜、書を読む。
奔月、盈虧、清且つ麗、流雲、來去、巻仍お舒。
風懷を句に付して、詩初めて就き、吟苦を心に關して興、餘さず。
畢竟の人生、過客の如く、只だ天命に随つて貧居を守る。

 

 

 

 


46−
     山居偶占
         上平11眞韵仄起

永夜几前明燭親,狂吟説夢豈癡人。
徒求風韻構思拙,却使無才索句貧。
老去傷心忘得失,閑來弄筆未精神。
枕流嗽石倩誰訂,獨楽山居又値春。

永夜の几前、明燭に親しみ、狂吟、説夢、豈に人に癡せんか。
徒に風韻を求めて構思は拙に、却つて無才に使して索句は貧なり。
老去の傷心、得失を忘れ,閑來の弄筆、未だ精神ならず。
枕流嗽石、誰を倩うて訂せん、獨楽山居、又た春に値う。

 

 

 

 


47−
  閑居偶吟
       上平6魚韵仄起

覊寓三年腹笥虚,蓬頭加白鬢絲疎。
老知浮世蔑迂叟,棲悟異郷非燕居。
素志未成身已朽,青春有悔夢仍餘。
任地終日閉門戸,嘯月吟花愛草廬。

覊寓三年、腹笥、虚く、蓬頭、白を加へ鬢絲は疎なり。
老いて浮世を知り迂叟を蔑し、悟は異郷に棲みて燕居に非ず。
素志、未だ成らずして身は已に朽ち、青春に悔有りて夢仍お餘す。
任地、終日、門戸を閉し、月に嘯き花に吟じ草廬を愛す。

 

 

 

 


48−
  山居偶吟
       上平11眞韵仄起

甲夜繙書引睡頻,吟毫説夢豈癡人。
毎求佳韻構成拙,却使菲才裁決貧。
老去心身無気力,揮來詩筆失精神。
枕流漱石阿誰惜,獨楽山居又値春。

甲夜に書を繙けば睡を引くこと頻に、吟毫、夢を説きて豈に人癡せんや。
毎に佳韻を求むも構成は拙く、却って菲才を使て決貧を裁す。
老去の心身、気力無く、揮來の詩筆、精神を失う。
枕流漱石、阿ね誰ぞ惜まん、獨り山居を楽しみて、又春に値う。

 

 

 

 


49−
  山居偶吟
 其一     下平8庚韵仄起

偶宿山居算去程,家郷遥遠旅魂驚。
清宵断酒飜思味,深夜裁書太促情。
竹樹臨窓風颯颯,松林映水月晶晶。
買愁一片三秋半,暗曉昏鴉繞屋鳴。

偶たま山居に宿し去程を算し、家郷、遥かに遠く旅魂、驚く。
清宵に酒を断ち思味飜し、深夜に書を裁して、太だ促情。
竹樹は窓に臨みて風は颯颯、松林は水に映りて月は晶晶。
愁を一片三秋の半に買い、暗曉昏鴉、屋を繞りて鳴く。

 

 

 

 


50−
  山居偶吟
  其一    下平8庚韵平起

當窗峯嶽暗雲横,暮鳥旋歸聽雨聲。
弄瓦沛然濡草屋,尖風颯爾揺軒楹。
耽詩弭忘功名念,得簡懽欣兄弟情。
向夜天晴邀皎月,初更相對及三更。

當に窗には峯嶽暗雲横わり、暮鳥は旋歸して雨聲を聽く。
弄瓦沛然として草屋を濡し、尖風颯爾として軒楹を揺す。
詩に耽り弭忘す功名の念、簡を得て懽欣す兄弟の情。
向夜、天晴れ皎月を邀へ、初更、相い對して、三更に及ぶ。

 

 

 

曄歌坤歌偲歌瀛歌三連五七律自由詩笠翁対韻羊角対漢歌漢俳填詞詩余元曲散曲楹聯