詩吟とは
日比谷公会堂
詩吟は、日本の伝統芸能の一つ。漢詩や和歌などを独特の節回しで吟ずる(歌う)。吟詠、吟道とも言われている。
いわゆる歌のように、詩文をリズム、メロディに乗せて歌うのではなく、詩文の素読(朗読)を基本とし、素読の後に特有のメロディ(節調という)を加えることで、より効果的に詩情を表現する。
具体的には、「はーるーこーおーじょーおーのー、はーなーのーえーんー」と歌うのではなく、「はるゥーー(節調)こーじょーのォーー(節調)、はなのォーー(節調)えんンーー(節調)」というように、語尾の母音を長く引き、そこで節調を行うことになる。
詩吟が、その吟詠(吟ずること)の対象とするのは、その歴史的経緯(下記参照)から主として漢詩であるが、和歌や俳句、新体詩を吟ずることも少なくない。ただし、あまり長いものは好まれず、漢詩の吟詠であっても七言絶句が一般的である。
江戸時代後期、一部の私塾や藩校において漢詩を素読する際に独特の節を付すことが行われたのが、今日の詩吟の直接のルーツである。特に、日田の咸宜園や江戸の昌平黌において行われていた節調が、多数の門人によって全国に広められた。
幕末の志士も、その悲憤慷慨を表現するために好んで詩を吟じたという。
大正から昭和初期にかけては、木村岳風、山田積善といった吟詠家が活躍し、現在の諸流派の祖となった。
戦争中は、詩吟は国威高揚に資するものとして奨励されていたが、戦後は、古今の名詩を味わい、美しい日本語をもって表現するという芸術的な側面が前面に出されるようになった。
このため、素読から始まった詩吟も、精神面に加え、今日ではアクセントや音楽性が重視されるようになっている。
また、健康志向から、腹式呼吸による発声という側面が取り上げられることもある。
独吟といい、一人で吟ずるのが本来の姿であるが、複数人で順に吟ずる連吟や、合唱のように声を合わせる合吟といったかたちでの吟詠もよく行われている。
吟詠に剣舞、あるいは詩舞を伴うこともある。
また、無伴奏が基本であるが、琴や尺八による伴奏を付けることもあり、21世紀初頭には、あらかじめ録音されたCDによる伴奏も普及した。
ある程度の規模の公演においては、企画構成吟(単に、構成吟とも)が行われることがある。これは、特定の主題のもとに複数の吟目が組み合わされ、ナレーションやBGM、舞台照明といった演出にも工夫が凝らされる総合的な舞台芸術である。
詩吟の流派は、数十とも数百とも言われるほど数多くある。高弟が独立して新たに宗家を名乗り、一流を立てることが多く行われたためであり、全国的な組織を有する流派もある一方で、きわめて小規模の流派も少なくない。
なお、詩吟の振興に関する全国的な組織としては財団法人日本吟剣詩舞振興会があり、その傘下に、各都道府県の吟剣詩舞道総連盟がある。