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走馬對.流水對
 走馬對・流水對とは対句が、前句を受け、継続して趣意を述べる。此れが他の対句形式と大いに異なる特徴である。
 殆どの対句は並列関係にあるが、此の形式は従属関係にある。
 簡便な作り方
  一つの主題を継続させて二つ述べると走馬對が出来る。
 七言の場合を例に取れば、最初の四文字には
@ 主語を述べない
  西風切切人亦老    主語を述べるとお互いに別々の事柄になってしまう  
  野渡凄凄雲未開

  開窓見月懐君事   主語は別にあるから、二つ述べても主題は一つのこと   
  買酔投詩追旧歓   

A 場所を述べない
  南軒留客催小宴   場所を述べるとお互いが別々の事柄になってしまう
  陋巷語君惜寸陰

    留客催小宴          試みに前句の主語の部分を省いて見ると
    語君惜寸陰  

B 時候を述べない
  清和換景宜行楽  時候を述べるとお互いが別々の事柄になってしまう
  首夏移?聴新蝉

    換景宜行楽        試みに前句の主語の部分を省いて見ると
    移?聴新蝉  

作り方の要点
@ 平仄と韵は対句格律に依るが、起句と承句を綴る要領ですればよい。
A 句は前後の関係をはっきりさせた方が、より流水対の特徴が出る。
B 前後を入れ替えると意味を為さなく成る度合いが大きいほど、前後の関係がはっき りしていると言える。
C 主語が同じ場合は主語を書かない。
D 出句が主語と成って落句が述語と客語と成る場合
E 一般に対句の構成は、平仄配列は並列関係で、意味の上でも並列関係であるが、流 水対は、平仄配列は並列関係であるが、意味の上では前后の関係である。

●● ○○●,○○ ●●◎。
欲訪 君居地 還乗 公汽車

眷愛 故郷地 還開 旧雁書 眷愛:懐かしむ

○○ ○●●,●● ●○◎。
尋芳 如幻夢 莫忘 守清貧

●● ○○ ●○●,○○ ●● ●○◎。
白首 伴朋 訪学校,紅花 満院 弄春香。

 先ず「出句」の出だしを「述語+目的語」とし、それから句を続ける。落句は対句にするのだから、出句の文法構成に順へば良い。これで走馬對が出来る。
 此は簡便な作句法であるから、敢えて3つの条件を提案したが、勿論主語・場所・時候を述べても、其れが主語に成らなければ走馬對は出来る。
 主語を述べないと言うことは、出句落句共に主語が同一とも言える。出句から落句へと、繋がるように詞を選べば、簡便に走馬對を作ることが出来る。


俯仰對
 この叙事法は、高いものと低いものを並立提示して、新たな境地を導き出す手法である。山の麓で、山の頂の残雪を仰ぎ見て、次に足下の草木を描く。
 人工的なものとの対比なら、飛行機を提示して、足下の蟻を描く。三次元世界の対比とでも言えようか。
 廬山途上之作 
危岩奇石歩纔通,十里羊腸綺夢中。仰見峻峰雲靉靆,臥看深渓霧冥濛。
近覘樹蔭花應白,遠望山腰葉已紅。馥郁香煙包萎脚,廟前一息對秋風。

仰看天際飛機影
俯看隴畝野蟻屯
 畑で耕しながら上空の飛行機を見上げ、足下の蟻の群を見る。そこからは宇宙観が導き出される。

仰看保母慈祥臉 (思いやりのある顔)
臥見身邊好玩鞋 (愛らしい靴)
 わたしは年少の幼稚園生。未だ入園したばかりなの!優しい保母さんの顔と、わたしの大好きな靴。        作句法

 


隔句對
 隔句対とは、Bは@の対句、CはAの対句と成っている構成の対句を言う。即ち句を隔てて飛び飛びに成っているから隔句對と言う。

  @□□□□□□□,
  A□□□□□□□。
  B□□□□□□□,
  C□□□□□□□。

 然し、これは一句毎にバラバラにした時の見方で、@A句を出句として、BC句を落句とすれば句を隔てては居ない。(十文字若しくは十四文字の句と見なす)

  @□□□□□□□,A□□□□□□□。 A
  B□□□□□□□,C□□□□□□□。 B

 @A句の構成に少しばかりの制約がある。@A句に各々主語があると、@A句が一つの句とは成らず二つの句となって仕舞うので、@A句で主語を一つにするか或いは両句とも主語を省く。
 A句を出句とし、B句を落句とし、この場合はB句をA句の対句とする。
  空庭惟有月,皎皎照喬松。
  偉業真如夢,時時憶旧蹤。  主語は空庭と偉業

  臥聴聯堤烟薬爆,千人歌妓似弾絃。
  仰望廣漢炎精散,萬片花唇如鏤天。  主語が省かれている

作品の考察
 他人の作った作品にあれこれと批評を加えるのは、性格に合わぬのだが、学習の為なのでご勘弁願いたい。尚作品は某詩吟結社のテキストに書かれた通りに丸写しとした。
題太田道灌借蓑図
@孤鞍衝雨叩茅茨。A少女為遣花一枝。B少女不言花不言。C英雄心緒乱如糸。
A       ,       。       ,      。
 此の詩歌の形態は、題画、詠物の類と言える。太田道灌が狩りに出かけて、急な雨に遭い仕方なく偶々近くのあばら屋を尋ね、蓑を貸してくれるように所望した。
 その屋の娘は何も言わずに一枝の山吹を差し出した。道灌は呆気に取られる同時に、自分の教養の希薄さに気づいたと言う逸話。
 山吹は花が咲いても実が付かない!実がないのと蓑がないとを掛け合わせた、歌道に曚いを間違えて、門が暗いから提灯を貸してくれ!の類で、極めて日本的な発想による題材である。
 余談はさておき、外側から順次内面に渉って考察を加えてみよう。
A 詩歌に限らず文学作品に於いて「,?。!」は重要な要素で、句が此処で終わりか?未だ続くの かを示す重要な印である。
  多分校正係りと印刷屋が二人して間違えたのだろうが、提示の作品は四句とも「。」で締め括ら れているので、七言四句の詩歌作品の形態から逸脱している。これは重大な誤りで、傍記の如くし なければならない。,?。を付けなければ忘れた!で言い訳も立つが、間違った印を付けては言い 訳が出来ない。
  詩の作品なら「,?。」を間違えても意味は通じるが、もし「詞」の場合にこの様な基本的な間 違いを犯したら、作品そのものが成り立たなくなってしまう場合があり、軽視できない要件である。
B 句意の配置から考察すると@A句はまだしも、B句は宜しくない。起承転結の句意配置原則から、 B句はA句の続きであっては成らない。@AB句と句意を継続させると、発展性に欠け、小学生の 絵日記の様になってしまう。画題と言っても詩歌であって、画の説明書きで有っては成らない。
  A句は「。」で完結しているので、B句にその続きを述べることは不適切でもある。更に提示の 作品ではA句とB句は一部に於いて句意が重複しているので、A句が有ればB句を必要としない。
C C句は太田道灌の心の内を的確に言い切っている。結句の要旨は余白にあるので、この句には余 白が無く、全体を「おむすび」の様に包み込んで、類推の余地を阻んでいる。
  B句は「,」で終わっているので、C句はB句の延長上に無ければならないが、B句とC句は句 意が離れすぎている。
D さて@句に戻ると、太田道灌は偶々雨に遭ったので、雨具を借りに立ち寄っただけの事だから、 「衝」の文字には再考を要す。
E A句とB句は重複している部分があるので、AB句を纏めて「少女不言花一枝」としても意味は 通じる。
F A句の延長上にないB句を設定し、B句の延長上で、然も余白を持ったC句をを設定する。

 

 

 


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