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 偲歌

こぼれ松葉を 見やしゃんせ 枯れて落ちても 二人連れ
落地松針 命絶情摯 双々兩々 連理枝

真面目亭主に ちと飽きたけど だけどこちらも かなり年
刻板夫君 徒然乏味 奈何霜鬢 斂芳心

色が黒くて 惚れ手が無けりゃ 山の鴉は 後家ばかり
哀我顔黒 不入夫君 南山老 多孤身

 ホの二 技巧

 日本の定型詩歌の句に於いては、一句だけで完結した意思表示が出来るのはごく希で、俳句の五七五の三句全体でも、僅かに二つの事柄を述べることが出来るに過ぎない。
 日本詩歌は表音文字を基調とし、それ故に叙事の少なさは免れられないが、却って其れが欠点ではなく、日本詩歌の特徴と成っている。
 日本詩歌の文字が足りないが故の曖昧な表現は、却って読者の心を喚起させ、殊に俳句は季語と相乗して漢字に引けを取らぬ表現力を発揮する。
 俳句は連歌の発句部分が独立した詩形で一七文字、収納できる事柄が二つがせいぜいとは、作者の思いを表現するにはかなり厳しい条件で、其処で考え出されたのが季語の活用で有る。
 季語とは季節毎に割り振られた事柄を表す言葉で、季節は其れだけで春なら感傷青春などの事柄を内包し、夏なら苦熱苦暑、秋なら悲秋感秋、冬なら極寒寒苦などの事柄を既に内包して、更に様々な事柄がそれぞれの季節の上に乗せられて、多層構造を為し、それらの相乗効果に依って心の深層に働きかけ、文字数の域を遥かに越えた表現効果を持つ。
 これは、中国詩の故事典古などとは多少趣を異にするが、文字数以上の表現効果のあることは同様である。
 日本は四季ががはっきりして、人々の生活も四季を基調として生活しているので、四季の観念は心の深層にまで及んでいて、四季のはっきりしない四季に無頓着な人々には、季語の本当の意味を理解させることは困難である。
 俳句と同じ文字数で川柳が有るが、この場合は季語を条件とはしないが、現実社会を取り込む事によって、耳目と相まって読者の内面に働きかけ、句意を拡大させて、中国の竹枝柳枝詩にほぼ同じで有る。
 日本の詩歌で句中に決められた文字を織り込む「織り込み」の技法があるが、中國の詩歌にも織り込みの技法はあり、句の頭字に織り込む、或いは末字に織り込む、或いは隠して織り込む等、作詩者の思いによって様々である。
 依って本論の漢字圏通用詩歌に於いても日本で考えられる種種の技巧は、殆ど用いることが出来、織り込み坤歌や織り込み偲歌など興味有る作品が期待できる。

三 作例

 其一 曄歌

花散って   又しずかなり   園城寺        鬼貫
春花残 門前冷落 園城寺     (改寫)

空蝉や    ひるがえる葉に  とりついて      素十
蝉脱殻 傍依枯葉 風巻落     (改寫)

和唱友 其息不還 悲乎寒     今田述

新婚女 小顎沈埋 秋薔薇     今田述

 其二 坤歌

ホステスの  視線やさしく   飲み過ぎる      戸部好郎
酒呶女 嬌情難却 酔如泥     (改寫)

金銀銅 薬検對策 奥運会     徐一平

滾怖雷 夜闌人静 鐵騎威     徐一平

成人歓 衣裳華麗 就業難     今田述

 其三 瀛歌

幾山河 越えさり行かば 寂しさの 終てなむ國ぞ 今日も旅行く(改寫)
幾多難 咬緊牙関 怎奈何 苦海無邊 再鼓風帆  

繋軽船 涼気侵肌 人盡散 十三夜月 遥挂松枝

熊野路 有瀑有山 神佛郷 隠々鐘声 瀟々秋雨
註 熊野路位于和歌山県中部、是日本著名歴史文化地区、自古以来就有゛熊野古道゛之称。

酒一巵 酔菊花陰 邯鄲夢 五柳先生 慌張閉門     三首 中山榮造

 其四 偲歌

玉股酥胸 且為我枕 撫絃弄指 樂銷魂

欲飲無酒 酒家路遥 路遥有脚 苦無銀    中山榮造

糟糠嬌嗔 若返青春 老夫老妻 旅行去

東瀛扶巵 南國淘金 青梅竹馬 淡如雲     徐 一 平

四 結論

一 言葉は中国文語体

二 詩の名称は「曄歌」「坤歌」「瀛歌」「偲歌」とする。

三 新詩体の文字数は

   曄歌 形式 漢字 三文字+四文字+三文字  
      内容 季語必要 自然万物 天地自然 人生幽邃 (与俳句相同)

   坤歌 形式 漢字 三文字+四文字+三文字
      内容 世間諸事社会趣聞            (与川柳相同)

   瀛歌 形式 漢字 三文字+四文字+三文字+四文字+四文字
      内容 天地自然人生社会世間趣事        (与短歌相同)

   偲歌 形式 漢字 四文字+四文字+四文字+三文字
      内容 男女情愛人生趣事            (与都々逸相同)
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