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鶏肋漢詩詞聯集

概ね1000首
曄歌・偲歌・瀛歌・漢俳・五言絶句・七言絶句・五言律詩・七言律詩・非定型・楹聯・填詞

 多くの作品集が定型別に編集されているが、此処では内容別に編集されている。それは多くの“読者”は作品の定型では無く、作品の内容に興味があるからである!こんな懐の時はこのように綴るのか!・・・・

応酬

  奉和劉成徳先生中日友好

清新句句憶君情,兩地詩盟弟與兄。

孔孟故郷真道義,栄枯歴歴濟蒼生。

屈陶清韵當神儼,海内綿綿有聖名。

可識交流千里客,壷天友誼本無程。

【日語】清新の句句、君を憶うの情,兩地の詩盟は弟與兄と。

孔孟の故郷は真の道義なり,栄枯歴歴として蒼生を濟す。

屈陶の清韵は當に神儼たり,海内綿綿として聖名有り。

識可し交流千里の客を,壷天の友誼、本より程無なし。

【解説】この作品は下記の河北省劉成徳先生原玉中日友好に対する歩韵(歩伐相随)詩で有る。(日本の漢詩壇では次韵と謂うが、中國の詩人は次韵の語彙は余り使わない)この作品は律詩で有る。頷聯と頽聯は對仗が必須である。多くの作品は頷聯と頽聯の、各各の出句と落句の間で對仗を為すが、この作品は頷聯と頽聯の間で、即ち章と章で對仗を為している。この様な對法を隔句對と謂う。

 

  河北省劉成徳先生原玉 中日友好

源遠流長中日情,一衣帯水好弟兄。

歴來同属亞州籍,代代皆爲蒼海生。

歩履征途雖有異,目光視野會相通。

同心同徳同争取,錦綉前提披彩虹。

 

  歩韵曹勤立先生歓呼北京申奥成功

多年宿志萬人傳,熱血丹心一指弾。

世界虎蛇全打敗,韶華満地百花燃。

 

【日語】多年の宿志は 萬人傳え,熱血の丹心 一指弾。

世界の虎蛇 全て打敗,韶華は地に満ち百花燃ゆ。

 

【解説】北京オリンピックを祝し、世界虎蛇全打敗,韶華満地百花燃。と結んでいる。相手を評価することは、交友の基本である。

 

 

  歩韵浣渓沙陳竹君女士

  一夕交流憶往年,身世風塵雪花顛,不知神韵在誰邉。

  三径未來書巻舊,亦君相會便成縁,舐毫題句百花燃。

 

【日語】歩韵浣渓沙 陳竹君女士玉作

  一夕の交流に往年を憶い,身世の風塵 雪花の顛,神韵はどの邉に在るかを知らず。

  三径は未だ來らずして、書巻は舊く,亦た君と相い會して、便に縁を成さん,毫を舐め句を題すれば、百花燃ゆ。

【解説】この作品は詞である。詞の定型は現在一般に通用している定型だけで概ね100定型はある。詞は現在でも唄うことが多いので、平仄の規約は詩よりも厳格である。嘗て上海詩詞学会の重鎮で有った女士から手紙と作品を頂いたので、その返礼である。

 詞は文と同じを様に、章の書き出しの文字は2字下げて書き出す。(日本語の場合は一字)

 

【注】陳竹君女士は上海詩詞学会理事・同秘書長・泰國星邏日報国風吟苑顧問ほか・・・

 

  歩韵答蔡文強詞長来函

風騒韵事好因縁,拈句論文路八千。

李白鑑真今昔感,雁書蓮社夢魂牽。

思君望西双眼啓,執筆開窗片月懸。

何日相逢茶換酒,神州朋友気衝天。

 

【日語】蔡文強詞長の来函に歩韵して答う

風騒の韵事は好因縁に,句を拈り文を論じて路八千。

李白鑑真は今昔の感,雁書と蓮社は夢魂牽く。

君を思いて西を望めば双眼は啓き,筆を執り窗を開けば片月は懸かる。

何れの日か相い逢うて茶を酒に換え,神州の朋友、気は天を衝かん。

 

【解説】歩韵答と書いているから、先方からの語り掛けに対する答えである。李白鑑真と雁書蓮社とは、出句と落句の間での、對仗には成っていない。此は李白と鑑真で、句中對を為し、雁書と蓮社で句中對を為している。對の對は對である!と言う句法の活用である。頷聯と頽聯の構成は前虚後實である。

 

  歩韵徐國正先生龍年喜上眉稍之詩

黄河創國幾千年,大陸文明萬木先。

歳々興隆桑海感,人民意気若升天。

  以陳国正先生的原玉作品次韵,叙述歴史以黄河文明開始的中華歴史幾千年。今天的発展驚人,有一日三秋的感。

 

  歩韵徐中秋先生玉作老馬之詩

匆忙負貨向千場,腿腰疲労老自傷。

竹馬多年何処是,新陰嫩草與花香。

 

【日語】怱忙と貨を負い千場に向い,腿腰は疲労し、老て自ら傷む。

竹馬多年、何の処か是は?新陰の嫩草と花香と。

 

【解説】除中秋先生から老馬の詩が来た。馬のことを綴っているが、除中秋先生の抒自詩である。それに対して、著者も馬に仮託してお返しした。この様な書き方を「興」と謂う。

【注】除中秋先生は浙江省詩詞学会理事ほか・・・

 

  次韵重陽先生之玉作

音書落落憶君時,携酒舐筆舊雨来。

家燕穿窗蝸試篆,紫陽花萎石榴開。

同門闘句詩言志,白髪情興鴎鷺懐。

傲骨心頭私自愧,枯腸順耳復登臺。

【解説】家燕と同門が對仗で、紫陽と白髪が對仗である。即ち頷聯と頸聯の隔句對である。また頷聯は實句で頸聯は虚句で、この様な句法を前實後虚と謂う。紫陽と白髪は紫と白の對仗である。是を色相對と言う。色と色や數詞と數詞は、対応が厳格である。

 

  重陽先生玉作

春風春雨知春時,萬紫千紅競自来。

不是夏日驕陽烈,何需楊柳蔽蔭開。

羞守痩秋百花后,微露輕香酬君懐。

但待瑞雪祥雲至,笑迎紫気降金臺。

 

【注】重陽先生は黒龍江省牡丹江市詩詞学会会長ほか・・・

 

  次韵楊鳳趾先生玉作農郷春訪 春耕小景

東風萬戸對朝曦,夙昔情根愛道機。

白白紅紅芳草野,馨花絶俗一名區。

 

【日語】東風萬戸朝曦に對し,夙昔の情根は道機を愛す。

白白紅紅たり芳草の野,馨花は俗を絶つ一名區。

 

【解説】楊鳳趾先生は内蒙古の詩家である。内蒙古の農村風景の写真と共に此の詩が贈られてきた。こんな場合は、写真を送ってくれた先方に対して、その写真に心を致して返事を書くのが礼儀である。

 

  楊鳳趾先生之原玉

日露東山坡満曦,小姑播種娉扶機。

阿哥不再忙農隴,開駕東風壮市區。

 

  祝賀赤峰詩詞創立二十周年

祝賀高懐業,赤心上筆端。

峰巓塵外境,詩詞掌中丸。

創意酬新詠,立志遡迅湍。

二天應浩浩,十義正漫漫。

周識吟情健,年紀世界歡。

  恭敬慶祝赤峰詩詞学会許多賢人的奮闘,贈拙詩一首。日本国千葉県 葛飾吟社主宰 中山逍雀

【日語】赤峰詩詞創立二十周年を祝賀す

高懐の業を祝賀し,赤心は筆端に上る。

峰巓は塵外の境にして,詩詞は掌中の丸なり。

創意して新詠に酬い,立志して迅湍を遡る。

二天は應に浩浩として,十義は正に漫漫たり。

周ねく識る吟情の健なるを,年紀は世界の歡たり。

  赤峰詩詞学会許多の賢人の奮闘を恭敬く慶祝し,拙詩一首を贈る。日本国千葉県 葛飾吟社主宰 中山逍雀

 

【解説】律詩と謂えば八句の構成である。然し五字句と七字句では、句の持つ雰囲気が違う。両者を比較すれば、五字句は観念的と謂え、七字句は情緒的と言える。五字句で七律と同じ雰囲気を持たせるには、五字十句が相応しい。

【注】赤峰詩詞学会は中國内蒙古赤峰市 主席顧問 揚鳳址先生・秘書長 李朝良先生

 

  感謝池田薫先生賜“虎屋羊羹”

開封猛虎眠包装,?刃佳羮醒餓腸。

緬想故郷萱慈味,君心浩蕩満清香。

 

【日語】詩友池田薫先生に“虎屋羊羹”を賜り感謝する

封を開けば猛虎は包装に眠り,刃を?れば佳羮は餓腸を醒す。

緬かに故郷、萱慈の味を想い,君が心は浩蕩とし清香を満す。

【解説】 他人様にお土産を頂いたとき、詩人を自称するなら詩歌でお礼を述べる位の心遣いは欲しい。漢詩詞は自分の思いを相手に知って貰うために創るのである。作品を作る上で最も大切な要件なので、茲に掲載した。

 相手に知って貰いたい!と謂う思いは、羊羹屋への作品にも当てはまる。美味しいものを提供してくれて有り難う!詩友の訃報を聞いて、彼の友誼に対して有り難う!

 

  賛羊羹

虎魄鍛熬不厭勞,屋爐火焔細如毛。

羊頭狗肉厳排斥,羹味名聲萬代豪。

【注】虎屋羊羹の喧伝とはお恥ずかしい。でも美味かったから本社宛に葉書を出した。お礼に羊羹の詰め合わせを頂いた。漢詩詞趣味も棄てたものではない!

 

 

  弔聴涛楼主匡一點先生

紅塵緑毯百花時,從遠一封使我悲。

應見眼前春胡蝶,舊函再啓憶雄辞。

  于日本千葉県 中山逍雀 平成十四年五月一日

 

【日語】涛楼主、匡一點先生の弔を聴く

紅塵緑毯、百花の時,遠く從りの一封、我を悲しま使む。

應に眼前に春胡蝶を見て,舊函再び啓きて、雄辞を憶う。

【解説】匡一點先生の訃報を聞き、弔辞に添えた一詩である。

 

  平成十四年十一月十二日與林岫・鄭民欽兩先生一起訪問松尾芭蕉的古跡松島 五言排律 順風体

遠来兩才賢,野趨鉄路連。

読書悩難事,飽客酒誰先。

有友酬新詠,傷心句自憐。

今看紅柿葉,緬想翠花鈿。

鳥飛青空下,舟游緑島邊。

寒風山寺影,白雪一枝娟。

俳聖疎林裏,碧苔幾樹鮮。

蓬莱和禹域,趁約短詩縁。

 

【日語】遠来、兩才の賢,野は趨り鉄路は連なる。

書を読みて難事に悩み,飽客は誰ぞ酒を先んず。

友有りて新詠に酬い,心傷みて句自から憐む。

今看る紅柿の葉,緬に想う翠花の鈿。

鳥は飛ぶ青空の下,舟は游ぶ緑島の邊を。

寒風、山寺の影,白雪、一枝の娟。

俳聖は疎林の裏に,碧苔、幾樹の鮮。

蓬莱和禹域と,約を趁う短詩の縁。

 

【解説】事の成行を、順を追って述べる詩法で順風体と謂う。又詩法に「點・線・面」と謂う三通りの叙事法がある。點は鳥飛青空下、線は野趨鉄路連、面は舟游緑島邊である。景物描写の視点場三要件である。この作品はこの要件を意識して創った。この作品は上野から仙台まで林岫女史と同行し、新幹線乗車中に創った作品である。

 

  歩韵林岫女士玉作日本松島夜題松

鴎游地天海,浪湧緑松寒。

詩客吟情健,高懐擬影看。

 

【注】林岫女士是中國書法家協会副会長。巻頭の写真を参照

 

  林岫女士玉作日本松島夜題松

清陰覆三径,影共月光寒。

直干耻盤屈,加如高士看。

 

  歩韵孫軼青先生玉作慶飛天

革新技術跨蒼穹,何日飛船自在行。

百世宿志追約到,華人首訪萬星宮。

 

【日語】歩韵孫軼青先生の玉作飛天を慶す

革新の技術は蒼穹を跨ぎ,何の日か飛船は自在に行かん。

百世の宿志は約を追うて到り,華人は首ず訪う萬星の宮へ。

【解説】中國の人工衛星「飛天発射」の成功に対して敬意を顕した作品である。

【注】頂いた手紙に対する返礼に添えた歩韵である。孫軼青先生は中華詩詞学会会長である。国家文物局長人民日報総編・巻頭の写真を参照

 

  孫軼青先生玉作慶飛天

飛船似箭入蒼穹,華夏精英天外行。

登月可期非夢幻,嫦娥狂喜廣寒宮。

 

  對尽力短詩研討会招開,感謝中国賢人。

論詩酌酒太天真,徳友風姿動我神。

草木山川千古意,一衣帯水結交親。

 

【日語】短詩研討会招開の尽力に對し,中国賢人に感謝する。

詩を論じ酒を酌み太だ天真,徳友の風姿は我が神を動かす。

草木と山川は千古の意,一衣帯水、交親を結ばん。

【注】短詩詞研究討論会とは、著者が北京で開催した研討会である。巻頭の写真を参照

 

  銘牌煮豆

  由比想起了在故郷的時候慈母的姿容。

豆芽緑緑似嬰児,豆腐柔柔似雪肌。

煮豆甜甜功更倍,豆粥滋養勝良醫。

  亂曰

煮豆郷里味,銘牌有定評。

忽見慈母影,一箸布衣情。

 

【日語】豆芽は緑緑と嬰児に似て,豆腐は柔柔として雪肌に似たる。

煮豆は甜甜として功は更に倍し,豆粥の滋養は良醫に勝る。

  亂曰

煮豆は郷里の味,銘牌は定評有り。

忽ち看る慈母の影を,一箸すれば布衣の情なり。

【解説】題が豆でも詠物題ではない。煮豆を頂いたときの感想を述べている。煮豆は郷里の味で、ラベルも有名で、ついついお袋の面影を思い出してしまった。箸で摘んでみると、素朴な味で世俗の垢を脱ぎ捨てて、素直な自分に成った。

 ただ豆が旨かった。有り難う!有り難う!では、空お世辞に聞こえ、詩家の人格と技倆が問われる。本当に感謝の気持ちがあるのなら、眞の情を述べている。

 亂曰とは、作品の要約と謂う意味で、此処では七言絶句作品の要約と謂う意味で、本題と要約と、二首付けている。

 

  歩韵李仲玉先生之詩

吾愁日日一嚢銭,稗販多年無縁権。

只喜論詩遥寄句,浮世哀楽又過年。

 

【意訳】私は日日の小銭に愁い,小商いを長年していて、権力には縁がありません。只嬉しいのは詩を語り合って、遠方の人に句を寄せ,浮世を哀楽しながら、又年を過ごす事です。

【注】李仲玉先生中華詩詞学会澄霞詩詞社理事長ほか・・・

 

  原玉李仲玉先生時風有憾 

笑看黄塵酷愛銭,鶏毛蒜葉亦争権。

如斯世道何須計,養鳥栽花度晩年。

 

  歩韵劉徳有先生之漢俳

國士孫中山,香爐碧雲素秋天。

詩繋帯水間。

  訪碧雲寺而懐孫中山氏之遺徳

 

【解説】先方は富士山を詠じた作品を寄せています。それに対して一般には萬里長城や崑崙山脈を謂いますが、余りにも一般的で工夫が足りません。人物を以て対応させるには、孫文氏や毛沢東氏やケ小平氏が居りますが、毛沢東とケ小平は歴史が浅く歴史観が定まっていません。依って孫文先生の遺徳を述べることが、先方に対する敬意と成るであろう。儒教の孔子では、余り古すぎる。

 相手が現役外務官僚ですから、孫文先生が妥当である。儒教の孔子では、萬里長城や崑崙山脈と差ほど変わりはない。

 

【注】劉徳有先生は中國外務省文化部部長 巻頭写真を参照

 

  原玉劉徳有先生漢俳富士山

東瀛望雪山,渾凝白扇倒懸天。

瀟洒聳雲間。

 

  歩韵李克英先生之詩

魁春一白繞門飛,痩影横斜春草菲。

移住貧村年五十,鶯聲亦到不思歸。

  門前古梅樹,梅樹従荒村移植門前已経五十年,我従貧村移住也已経五十年

【日語】李克英先生之詩に歩韵する

春に魁け一白は門を繞り飛び,痩影は横斜して春草は菲たり。

貧村から移住して年五十,(此処に移ってきて、50年も過ぎてしまった)鶯聲は亦た到りて歸るを思はず。

  門前の古き梅樹,梅樹は荒村より門前に移植して、已に五十年を経,我も貧村より移住し已に五十年を経る

 

【解説】李克英先生の作品は、梅そのものについて詠っている。そのお返しとして自宅門前の梅樹を詠っても良いのだが、著者は自分を門前の梅樹に擬えて、自己紹介を為した。

 

  原玉李克英先生咏梅

窗前風吹柳絮飛,迎春花朶散芳菲。

不知春訊誰家報,鉄骨英姿帯雪歸。

 

  歩韵李君莉女士之詩

睡醒涼風夜,離開陋屋門。

足食春情盛,吃飽不思恩。

  我家的狗,是懶漢,白天睡着。到了夜晩,変得精神,去外面游玩。

【解説】李君莉女士は20歳代の若い女性である。私の家の狗はとても好い狗だと詠っている。それに対して著者の家の狗は、とても怠け狗である。昼間は寝てばかりいて、夜になると元気が出て夜遊びに出掛ける。

 涼風の夜は目が覚めて、門から出て行ってしまう。栄養たっぷりなので、色気がたっぷりになって、衣食足りて礼節を知る!ではなく、食足りて恩を忘れるのである。

 此は飼い犬を謂っているのではない。現代の大衆を謂っているのである。こんな人は身近に幾らでも見掛ける。

 

  原玉李君莉女士戌狗

戌時方入夜,勇敢守家門。

吠擾深秋静,忠誠報主恩。

 

  歩韵段楽三先生之詩

寒村痩野鎖煙霞,垢臉離郷不返家。

多歳糟糠相擁坐,新亭桂月照窗紗。

 

【日語】段楽三先生之詩に歩韵す

寒村痩野の煙霞は鎖し,垢臉は郷を離れ家に返らず。

多歳の糟糠は相い擁して坐し,新亭の桂月は窗紗を照す。

 

【注】段楽山先生は中國で一番最初に漢俳詩刊を発行した人物である。

 

  原玉段楽三先生陋巷寒舎

街貨店堂掛彩霞,巷寒深處有人家。

無銭流落碼頭上,難捜一根免費紗。

 

  短歌歩韵題出郷之圖

父送碧渓橋qiao2

草木山川正落潮chao2,母有片香焼shao1

世路崢エ塵事多,四十餘歳故郷遙yao2

 

【日語】短歌歩韵出郷之圖に題す

父は碧渓の橋で(私を)送る。草木と山川は正に落潮し,母は片香を焼いている。

世路は崢エとして塵事は多く,四十餘歳にして故郷は遙なり。

 

【解説】中國では最近、俳句に対応した漢詩として、日本の俳句壇に漢俳を提唱した。同様に日本の歌壇に対しても漢歌を提唱した。

 著者が新短詩研討会の席上その事を尋ねたら、既に漢歌と謂う漢詩の定型があるので、漢歌とは呼ばずに、「短歌」と呼称する事にする!と謂った。

 漢詩の短歌は、日本短歌に呼応して、字数は5+7+5+7+7の三十一字である。押韻は橋qiao1・潮chao2・焼shao1・遥yao2 の3カ所 ao の押韻である。王元慶先生の作品は五句三章の作品である。(傍記の数字は聲調)

 

 原玉王元慶先生短歌送別

相送別長橋。

胸涌離情似晩潮,曲水映天焼。

孤帆落照江東去,暮雲飛渡遠空遙。

 

 歩韵代人有寄

悠悠東海一書生,日日思君素髪盈。

点燭西窗凭机案,開封句句識真情。

 

【日語】歩韵 人に代りて寄する有り

悠悠たり東海の一書生,日日君を思いて素髪は盈つ。

燭を西窗に点じて机案に凭れ,封を開き句句は真情を識る。

 

【解説】この作品は押韵を同じにし、更に典故を転用使用した。即ち玉作は「剪燭西窗」(李商隠巴山夜雨)と有るので、お返しは「点燭西窗」としてある。

 

  代人有寄 関一

握筆修書百感生,凝眸不覚泪盈盈。

彎彎眉鎖天邊月,剪燭西窗憶舊情。

 

  龍渓巨変

獅岩石壁截洪流,串串明珠綴晃州。

古渡新姿燈燦燗,上行車両下行舟。

 

【日語】龍渓の巨変

獅岩の石壁は洪流を截し,串串たる明珠は晃州を綴る。

古渡の新姿に燈は燦燗し,上を行く車両と下を行く舟。

 

【解説】野郎とは貴州省の地名である。關一先生から作品と写真が送られ、詩には返稿せず、同封の写真に返稿した。

 龍溪と言うところに真新しい橋が架かり、橋の上は車が走り、橋の下は船が行き来している。その様子を龍溪巨変と題して、先方に謝意を呈した。

 

  看野郎風景綫歩韵關一先生之玉作

妙舞韶音粉黛嬌,豊年祭祀酒紅潮。

奇峰古刹渓聲裡,浮世幸福俗事抛。

應識詩腸念郷里,還覚照片起清飆。

浣沙湖水清風下,子女軽舟幾葉漂。

【解説】此は又別の写真で、地方都市のお祭りの様子が写されていた。湖の近くでのお祭りで、踊りや船遊び・・・・など地方色豊であった。手紙にはお祭りの様子が写されていたので、お祭りを題材にした。

 

 

歩韵關一先生詩斗牛大賽

挈縄撫體意飛揚,訓養三年具萬方。

只偶名聲冠軍誉,傾觴拭汗気如王。

【解説】貴州省野郎の地方祭りのイベント、闘牛の模様を写した作品である。お祭りは何処でも華やかだが、中國地方都市の祭りも賑やかで想像に難くない。

【注】關一先生は湖南省龍溪詩社社長ほか・・・

 

  歩韵董克恭先生之詩

仰望聳天半,伏見去路危。

倦脚懐歳月,拭汗猶詩爲。

【解説】この作品は前對格と謂う句法で、伏仰對と謂う定番の對法である。定番對法は朝夕・遠近・倒装など、枚挙に遑がない。著者は香炉峰に登ったことがないので、他の山で間に合わせた。

 

  原玉董克恭先生登香炉峰

鬼見猶興嘆,吾來陟険危。

少年豪気在,何事不能爲。

 

  歩韵王敬愚先生喜雨

茅屋秋風外,盈盈萬里情。

千篇雲樹念,碧野望年豊。

【日語】王敬愚先生喜雨に歩韵す

茅屋は秋風の外,盈盈たり萬里の情。

千篇たり雲樹の念を,碧野に年の豊かなるを望む。

【解説】原玉は昨夜は大雨が降った・・・豊年の兆で結んでいるが、歩韵では豊年を望むで対応した。

 

  原玉 王敬愚先生喜雨

昨夜滂沱雨,今朝解旱情。

蛙鳴猶鼓瑟,碧野兆年豊。

 

  拝受孫文起先生月刊大衆雑誌《精彩》

千里千古意,謝君助苦吟。

今宵茶換酒,句句滌煩襟。

【解説】孫文起先生は吉林省の《精彩》と謂う大衆誌の編集長である。中國では大衆誌にも詩歌の欄があり、著者は直接その雑誌社に投稿はしていないのだが、何処からか回り回って、著者の作品も時々掲載されている。その時、掲載誌と手紙が届けられる。

 

  寄林林先生

神州詩聖國,帝里想徳星。

深覺千年誼,常思四海寧。

方知凭案几,只管坐閑亭。

寰宇以文會,來參暫不停。

【解説】手紙を頂いたご返事に添えて書いた作品である。先方に対する敬意を述べている。

【注】林林先生は中国政府要人でもあり文化人でもある。著者の良き理解者でもある。著者が中國で知名を得たのは、林林先生のご支持に依ること大である。中國日本友好協会副会長。中華詩詞学会副会長。中國作家協会顧問。中國日本文化研究会名誉顧問など・・

 

  寄李芒先生

神州詩聖國,帝里想賢英。

青史添光彩,丹心任此生。

双眸通世態,四海結騒盟。

處處以文會,方知無限情。

【解説】手紙を頂いたご返事に添えて書いた作品である。先方に対する敬意を述べている。

【注】李芒先生は嘗て中国政府要職にあり文化人でもある。日本の文化人との交流も多く、日本に於いて知る人も多い。手紙を頂いたご返事に添えて書いた作品である。先方に対する敬意を述べている。

 李芒夫人王郁潤女士より訃報を頂いた。(2000年10月31日登仙。)

前中国社会科学院日本文学研究会会長・和歌俳句研究会会長など・・・

 

  寄林岫女士

神州詩聖國,帝里想才媛。

任性酬新詠,通神究本源。

迢迢千古繙,整整一毫奔。

四海以文會,幽庭爲客煩。

【解説】手紙を頂いたご返事に添えて書いた作品である。先方に対する敬意を述べている。

【注】林岫先生は中國書法家協会副会長であり、詩家でもある。現役書家として、日本にも度々来られていて、拙宅にも来られたことがある。日本の文化人との交流も多く、日本で知る人も多く、手紙を頂いたご返事に添えて書いた作品である。先方に対する敬意を述べている。著者に対する良き理解者の一人である。

 

 

  従齋川子遊先生賜柚醤

棘樹小蕾白,庭除日日閑。

新枝須有蔭,細蠖幾時攀。

倦鳥梢梢影,奔蜂蜜蜜間。

経霜如香嚢,摘果似童顔。

郁郁応紅雪,熬熬自黄環。

忽驚慈母味,緬想故郷山。

【解説】五言十二句六章の作品である。新枝須有蔭から熬熬自黄環、迄が對仗で構成される。柚の漬物を頂いたが、美味かった有り難うだけでは、口先の言葉で本当の感謝かどうかは疑問である。詩家を自認するならもう一工夫必要だ!

【解説】齋川游子先生は著者より一回り年上の同人で、論語マニアである。柚ジャムを頂いたお礼である。

 

  賜甜瓜

遠来鮮果玉爲名,豊富甜瓜誉農耕。

却想親朋故郷事,酸甜香味少年情。

【注】此はメロンを貰った礼状に付けた作品である。

 

  歩韻張聯芳九十五翁先生玉稿

一窗燈火酒家銭,彼地傳聞晉七賢。

上海張翁仙寿客,題詩點筆杖郷年。

【注】張聯芳先生は上海の詩友で,数年前御家族から2002年12月2日98歳で登仙為されたとの知らせを頂いた。上海で数次お会いした事があり、矍鑠として居られ、作品の文言に違わぬ人物で有った。上海市文史研究官春潮詩社理事・世界書画家江蘇協会名誉主席ほか・・・・

 

  歩韵致中國友人楽農狂先生

薫風案几白頭痴,萬里音書共此時。

僻巷深居無客訪,思君君在壁間詩。

【日語】薫風の案几に白頭の痴,萬里の音書に此時を共にす。

僻巷の深居に客の訪う無く,君を思えば君は壁間の詩に在り。

 

  歩韵致中國友人楽農狂先生其二

村墟翫句半生痴,與君偸閑此一時。

却好雲迷無客訪,小齋獨坐共題詩。

【日語】村墟に句を翫ぶ半生の痴,君與閑を偸む此の一時を。

却って雲迷い客の訪う無きが好く,小齋に獨り坐し共に詩を題さん。

【注】楽農狂先生は本名廖巨源先生と謂う。紙面から察すると、都会から離れた鎮である。教師で党の地方幹部でもある。多数の寄稿作品から、こよなく郷里を愛し、農業を愛する人物像が窺える。著者は歩韵で、思君君在壁間詩と書いた。

 楽農狂先生は、もし地が縮まったら、詩を肴に一杯遣ろう!と書いている

 

  原玉楽農狂先生玉作

一衣帯水兩狂痴,道義純真韵入時。

若使長房能縮地,相邀暢飲楽敲詩。

 

 敬用韵原玉李學茂先生夢醒随筆

春宵念信亦忘眠,遙想青青萬頃田。

我舊荒村荷鋤老,胸中再找涙痕邊。

【日語】敬して原玉李學茂先生夢醒随筆の韵を用う

春宵信を念い亦た眠を忘れ,遙に青青たる萬頃の田を想う。

我は舊荒村に鋤を荷いて老い,胸中に再び涙痕の邊を找す。

 

【解説】用韵とは原作と同じ韵字を用いることが条件だが、歩韵と異なる点は、韻字は同じだが用いる順序は自由である。更に前作の趣旨を同じにすることが条件となる。此も歩韵と異なる点である。

 李學茂先生の作品は散逸して提示出来なかったが、趣旨は同じである。原作は李學茂先生自身が主題であり、追作は著者を主題とした並列の作品である。

 

  頌張毅志先生:藏頭格

頌美親朋賦一詩,張華並著浩歌姿。

毅然讀到三千巻,志士丹心属大医。

【解説】藏頭格は挨拶代わりに屡々頂く作品である。お返しに此方も藏頭格で返す。全部を載せたら際限がないので、少しを載せた。句の頭に相手の名前を載せる事が条件である。ただ相手様に対する誠意が前提に無ければダメである。

 

  頌李學茂先生:藏頭格

頌聲渡海動梁塵,李蕊粉粉歩錦茵。

學篤詩人誰得似,茂才雅興妙通神。

 

【日語】頌聲は海を渡り梁塵を動かし,李蕊は粉粉として錦茵を歩す。

學篤の詩人、誰ぞ似たるを得ん,茂才の雅興、妙は神に通ず。

 

【解説】叙事内容の如何を問われると返答の致し方がない。敬意を顕すことが意図で他意はない。

 

  頌孔憲科先生:藏頭格

頌禮難忘兩日縁,孔孫雁信識名賢。

憲章不変顕君面,科擧縦横勝事全。

【注】何代目かは忘れたが、自称孔子の末裔だそうだ。詩家でもあり、著名な写真家である。著者は何処かで、孔憲科先生とケ小平氏と同じソフアーに座った写真を見たことがある。

 

 

  讃孫定慧女士:藏頭格

海棠双鶯絵画中,孫卿説道與君同。

定神立志聊違俗,慧眼得写賢人風。

【注】絵葉書を頂いたのでそのお返しに、拙作一首を送った。その絵葉書に海棠双鶯が寫かれていた。

【解説】鶴頭格とも謂う。鶴の頭が目立つからだろう。何れにせよ句の頭に、讃孫定慧の文字を入れなければ成るまい。頂いた葉書はご自分で書いた絵葉書のようだった。其れならその絵葉書も褒めよう!と思い立ち、讃の代わりに絵葉書の画をを入れた。起句で絵葉書の画を海棠双鶯絵画中と述べ、合句で得写賢人風とした。

 

 

  歩韻顧欽雍先生玉作

一几一亭一盞傾,兩心兩人兩書生。

三春三教三寧楽,四友四恩四苦輕。

【解説】原玉は一で纏めてあるので、此方は一二三四で纏めてみた。歩韵とは単に歩韵すれば良いと謂う訳ではない。応酬を娯しむ事が肝要である。先方の趣旨に対応する事は、此方側の勤めでもあり、興趣も湧くのである。同じ一一一一で返しては、技倆が疑われ興趣に欠ける相手と評されるが、趣向を換えれば面白味のある相手と評される。此は返者の勤めでもあり、自己表現でもある。

 

  原玉 江蘇省 顧欽雍先生

一觴一硯一心傾,一字一珠吟一生。

一壑一丘情一縷,一来一往一身軽。

 

  喜君安穏

台風巻地壊茅軒,暴雨洪郷毀畝園。

只愿東都安穏信,今看君稿謝乾坤。

【解説】世界の情報は瞬時に世界を駆け廻り、日本の情報も数日後には、中國の鎮の紙面にも載る。中國の詩友の居所で台風が襲来したニュースを見た。安否を問うたら被害を免れた!との返事を頂いた。安寧の知らせに対す。安堵の返信である。

【注】日本の新聞事情は大手新聞が日本全土を席捲し、地方新聞や専門紙はそれ程大きくない。其れと比べて中國の新聞事情は、大手新聞はそれ程多くなく、地方新聞や専門紙が盛大である。殆どの情報は地方新聞や専門紙が提供している。

 

 

  次韵三羊先生陽臺

苦熱三旬壮意消,奔雷一雨土肥饒。

雖言君家葡萄架,我有妻栽紅紫嬌。

【解説】三羊先生の家には葡萄棚が有ると謂っているので、此方には妻が栽培している紅紫が有ると返事をした。

 

 

  訪友人歩韵陳学梁先生玉作夜訪建陽書林樓

斜陽一路未青葱,柿熟柚豊色更濃。

竹馬夫妻残照下,一瞥霜髪聴秋風。

【解説】「訪友人」までが著者の述べた詩題で有る。「歩韵」とは押韵の方法の規定である。「陳学梁先生玉作夜訪建陽書林樓」が歩韵の対象とする作品である。

「訪友人歩韵陳学梁先生玉作夜訪建陽書林樓」とは、「陳学梁先生の創った玉の様に素晴らしい、夜に建陽書林樓を訪う、と云う題の作品に呼応して、私は歩韵と謂う詩法を用いて、友人を訪う、と云う作品を作る。」と謂う意味である。

【注】陳学梁先生は福建省南平市の共産党幹部である。著者の曄歌を理解してくれる一人であり、梅桜詩刊を独自に出版してくれているお一人でもある。

 

  歩伐相随廖巨源先生玉作“急行軍”頌総理

東奔西走戴星還,慈眼清容向人閑。

文武篤情高萬仭,人民敬道請加餐。

【解説】「総理」とは、中國共産党中央政治局国務院総理(首相)を謂い、茲に書かれている総理は温家宝総理を謂う。なお国務院総理が署名する事により法令はその効力を有する。

 胡錦涛国家主席の国家主席とは、国家元首に相当し、中國共産党最高会議幹部会議長を謂う。

 

  年輕出郷 歩伐相随段楽山先生玉作水郷

貧村田圃點春苗,父母施肥説莫逃。

垢面無聲聴鐵笛,単身十六度溪橋。

【日語】年輕郷を出る 段楽山先生玉作“水郷”に歩伐相随する

貧村の田圃、春苗を點じ,父母は肥を施して逃る莫れと説う。

垢面に聲無く、鐵笛を聴き,単身十六、溪橋を度る。

 

【解説】この作品は段楽山先生の作品に歩韵して、著者が若い頃、働くために郷里を離れた回想でもある。

 稲は挿しても風や水紋で抜けて仕舞うことがあるので、逃れる莫とした。是は郷里を出る少年に対しても掛けてある語彙である。

 汚れた面の16歳が、汽車に乗り溪川の橋を渡っていった。少年が郷里を離れる状景である。

【注】段楽三先生とは、湖南省長沙市と北京で漢俳学会設立紀念式典とで、二度お会いしたことがある。中國で一早く漢俳の普及に努め《漢俳詩刊》を発行した人物である。

 

 

  故郷之秋 歩韵羅玉松先生玉作秋詞

寒村景物擬湖湘,少小誦詩自覚涼。

白髪回顧行餞日,匆忙歳月背風光。

 

【日語】故郷之秋 羅玉松先生玉作“秋詞”に歩伐相随す

寒村の景物を湖湘に擬え,少小に詩を誦し自から涼を覚ゆ。

白髪、回顧す行餞の日を,匆忙たる歳月は風光に背く。

 

【解説】

 匆忙たる歳月は風光に背くとは、慌ただしい歳月には、風光を愛でる余裕がなかった、と謂う意味である。

 

【解説】“湖湘”は洞庭湖と湘水を謂い、原作に「湘」が有れば、日本の田舎と雖も、歩韵ではこの文字を用いなければならない。著者は湘南とは掛け離れた農村出身だから、湘南の文字は使えない。

 然し此を遁れる方法として「擬」を用いたのである。此ならば田舎の少年で有った著者が、身の回りの景物を洞庭湖と湘水に擬えて、愉しんでいた・・・と謂うこととなる。

 

【注】羅玉松先生は全球漢詩総会名誉理事・全球漢詩詩友連盟顧問・湖南省益陽市會龍詩社幅秘書長ほか・・・

 

 

  模賦金銀花,歩韵陸長嘯先生玉作金銀花

古稀自食其力身,陋巷浮世未降神。

銭袋金銀集又散,天資欲望本無垠!

 

【意訳】古稀の私は、まだ食べるために働いています,巷の浮世には、未だ神様が降りてきません。お財布にお金が入っても直ぐに出て行ってしまいます,生まれついての欲望は際限ないですね!

 

 

  歩韵揚石青先生遺稿“上海新村夜色”

投詩拈句遶芳叢,一片春愁百朶紅。

遺稿悲看腸断夕,神州緬想月朦朧。

【日語】揚石青先生遺稿“上海新村夜色”に歩韵す

詩を投じ句を拈り芳叢を遶り,一片の春愁、百朶の紅たり。

遺稿悲み看る腸断の夕,神州、緬に想えば月は朦朧たり。

 

【注】上海の詩友、揚石青先生が登仙され、夫人の揚倩女士が、夫の遺稿を著者に送ってきた。著者は弔辞と香料に添えて、歩伐相随作品を送った。

 

  原玉上海新村夜色上海揚石青先生遺稿妻揚倩代寄

新村麗晨嵌花叢,幃慢軽雲蕩粉紅。

香霧満庭飄夜風,陽台笑語月朦朧。

 

  歩韵彭能盛先生観天柱山瀑布

奇峰積翠老杉間,日照飛泉起虹烟。

長剣割岩聲動壑,喧喧乱沫應長鞭。

晴嵐吹髪涼如洗,謖謖清風似繍簾。

仰見石磴華表赤,五重瓊閣紫雲生。

  在日本和歌山県“那智瀑布”静寂荘厳而是日本人謂“神域”“那智瀑布”華表謂日本的“神社”門

 

【日語】彭能盛先生“天柱山瀑布を観”に歩韻す

奇峰積翠、老杉の間,日は飛泉を照らして虹烟起る。

長剣は岩を割き聲は動壑,喧喧たる乱沫は應に長鞭たり。

晴嵐は髪を吹き涼は洗う如く,謖謖たる清風は繍簾に似たり。

仰ぎ見る石磴に華表は赤く,五重の瓊閣に紫雲は生ず。

 日本和歌山県に“那智瀑布”が在る、静寂荘厳而、

日本人は是を“神域”と謂う。“那智瀑布”の華表は日本の

“神社”の門を謂う

 

  原玉 観天柱山瀑布湖南省岳陽県彭能盛先生

銀河潰口洒凡間,天外飛来白玉烟。

日照珍珠成佛影,雲浮彩練化神鞭。

無風波巻千尋雪,有雨霓開萬丈簾。

耳聴濤鳴疑幻境,心随瀑響写人生。

 

 

  歩韻張濟川先生玉稿

迢迢雁字念何深,萬里思君對遠岑。

順逆浮沈青史裡,水流花落我心箴。

一觴一詠清幽興,案句論文大雅音。

兩地風騒蒼海夢,投詩共語古兼今。

 

【日語】張濟川先生玉稿に歩韻す

迢迢たる雁字、念い何ぞ深き,萬里に君を思いて遠岑に對す。

順逆浮沈は青史の裡,水流れ花落ちるは我が心の箴たり。

一觴一詠、清幽の興,句を案じ文を論ず大雅の音。

兩地の風騒、蒼海の夢,詩を投じ共に語らん古兼今と。

 

  原玉 新加坡張濟川先生贈日本詩人

中日詩情誼已深,文心武道異苔岑。

從知百戦干戈禍,始識千秋葯石箴。

同種同文留史蹟,一心一徳結知音。

鶺鴒原上宜相顧,應有?光輝古今。

 

【注】新加坡の張濟川先生は全球漢詩詞連盟会長である。手紙に添えられた作品に応酬する。

 

  次韻劉工先生七律花甲抒懐

偸閑養拙一壺天,我亦耽吟二十年。

騒客尺書詩會友,賦君奇句叔心泉。

先生血性歓無限,走玉高情卓犖篇。

百事精勤天欲曙,衷心報國映羣賢。

 

【日語】劉工先生七律花甲抒懐に次韻す

閑を偸み拙を養う一壺の天,我亦た耽吟す二十年を。

騒客の尺書、詩は友と会し,君が賦す奇句、叔心の泉たり。

先生の血性は歓限り無く,走玉の高情は卓犖の篇たり。

百事精勤して天は曙を欲し,衷心の報國は羣賢に映ず。

 

【解説】頷聯と頸聯との、章の對である。隔句對とも謂う。

 

 

  歩韵看關一先生之玉作家郷洞坪写真懐我青春歳月

一張照片郊畛邊,緬憶青春歳月遷。

竹馬同門素交厚,林鳩野水故郷妍。

遡歴布衣懐往事,忘吾鬢霜對汚川。

無山無野無人識,長兄摧折已多年。

 

【意訳】關一先生の写真を見て、緬かに私の青春の歳月を懐えば、歳月は遷って来ます。

 幼馴染みの無垢純情な交わりは厚く,其処には林鳩や小川が有って、故郷は美しかったのです。

 私は職を離れて、いまその歳月を遡れば、過ぎし歳月が懐かしいのです,私は吾を忘れて、白髪頭で汚れた川を見ています。

 懐かしい山もなく、懐かしい野もなく、知っている人も居ません,兄貴は既に無くなって何年も経ちます。

 

【解説】關一先生の作品は、故郷が発展して便利になった!と謂っています。著者はその次の段階を謂っているのです。

 日本にも、つい数十年前には中國と同じ様な状況がありました。だが人の利便追求の次に訪れるものは「荒廃」でした。

 

  原玉関一先生家郷洞坪写真

夢魂常系小河邊,故土情深喜変遷。

農貿市場誇錦綉,山郷企業斗驕妍。

學樓鳳凰騰雲浪,禾歩飛龍繞玉川。

不夜洞坪燈似海,家家電話賀豊年。

 

  模賦孔子聖典歩伐随韵朱學純先生玉作緬懐韓信

中華聖典共天傳,遠古先賢第一人。

可識千言深似海,應知萬語暖於春。

排悶養情盈盈健,全球大衆浩浩巡。

日日浮沈誰若問,國家骨肉盡歸仁。

 

【日語】孔子の聖典に模し朱學純先生の玉作韓信を緬に懐うに、歩伐相随して賦す

中華の聖典は共に天に傳う,遠古の先賢の第一人。

識る可し千言は深さ海に似て,應に知る萬語は春より暖きを。

悶を排し情を養い盈盈として健に,全球の大衆は浩浩と巡る。

日日の浮沈を誰か若し問わば,國家の骨肉は盡く仁に歸すと。

 

  歩伐相随金中先生玉稿観梅

枝頭破蕾我心温,養育幼苗共回輪。

可愛送香紅色彩,應知腐幹緑苔痕。

落地任風終萎貌,経年亂髪易断魂。

欲寫胸情騰硯海,百年天賜再逢春!

 

【日語】枝頭は蕾を破り我心は温かに,幼苗を養育して共に回輪す。

愛す可香を送る紅き色彩を,應に知る腐幹にある緑苔の痕を。

地に落ち風に任せ終に萎貌,年を経て髪を亂し魂は断ち易し。

胸情を寫さんと欲せば硯海は騰き,百年の天賜、再び春に逢わん!

【解説】金中先生は日本の大学に留学していた詩歌好きの好青年である。彼の作品は若さに溢れた作品で有る。だが著者には既に若さはない。著者は自己に相応しい内容にした。歩韵は一般に初句と落句だけしか歩韵しないが、この作品は全部の句に歩韵した。

 

  原玉金中先生玉作観梅

健歩梅園感煦温,喜欣天地又回論。

清芳玉蕊輝霞彩,傲骨瓊枝透雪痕。

去歳花非今歳貌,来生我?此生魂。

陽剛意思存心海,世世行途自遍春。

 

 

  時常之花

竹馬學窗,閣園古樹。

柳日日新,櫻年年舞。

麗質芍薬帯,繁栄石榴葩。

闇香月見草,悲恋野菊花。

仙境衝天銀杏黄,階前覆地南天赫。

山盟海誓幾星霜,写句懐時伉儷冊。

  秋山北魚先生伉儷之書冊、非常有意義。

 

 

【日語】時常の花

竹馬の學窗,閣園の古樹。

柳は日日新に,櫻は年年舞う。

麗質に芍薬の帯,繁栄す石榴の葩。

闇香たり月見草,悲恋たり野菊の花。

仙境は天を衝く銀杏の黄,階前は地を覆う南天の赫。

山盟、海誓、幾星霜,句を写し時を懐う伉儷の冊に。

 秋山北魚先生伉儷の書冊、非常に有意義なり。

 

【注】漢詩詞の同人、秋山北魚兄が、「折々の花」という奥さんの遺稿を上梓為されて、著者は頂いた。

 疎開先に古木があったとか、何処ぞの奥さんは芍薬柄の帯を締めていたとか、月見草とか野菊とか、夫妻にとって懐かしいことが、短歌や俳句と共に綴られていた。著者が礼状に添えた一首である。

 

 

  模倣王謂先生農村的黄昏

 

窮野晩秋小径,童伴友對斜陽。

不見歸鴉隠闇墨,不見農夫隠闇装。

寒風晒肌痩田,初月砕露照長堤。

貧村!赤貧!

垢面!匆忙!

草陌頭,

一輪菊花“馬頭観世音”,

残香僅留草叢碑頭綱。

 

【注】馬頭観世音;役牛馬墓地,做看馬頭之形状。

 

【日語】王謂先生農村の黄昏に模して倣う

窮野晩秋の小径,童は友を伴い斜陽に對す。

歸鴉は闇に隠れて墨が見えず,農夫は闇に隠れて装が見えず。

寒風は肌と痩田を晒し,初月は露を砕きて、長堤を照らす。

貧しき村!赤貧(貧乏)!

垢面(汚れた顔)!匆忙(矢鱈に忙しい)!

草陌の頭,(草の生えた道端)

一輪の菊花“馬頭観世音”,

残香は僅かに草叢碑頭の綱に留る。

 

【解説】模倣とは「真似をして同じ様なものを創った」と謂うことで、何故真似をして創るかと謂えば、是も応酬手段の一つである。自由詩体に押韻してもその効果は乏しい。著者に同様の詩体で対応できるか疑問である。それならば却って内容の応酬の方が情の伝達に繋がり創りやすい。

 

【注】著者が少年時の、故郷の有様である。

 

  原玉王謂先生農村的黄昏

暮色溜下山崗,荒山呑没了斜陽。

不見戴月荷鋤人,不見牧夫駆群羊。

干風爬過曠野,掀起驚心的旱荒。

寂寞!沈悶!

苦痛!凄凉!

古塚前,

翁仲對着没頭的石馬,

残霞吻住孤塁的牌坊。

 

 

 

  詩友自某氏承蒙珍品缶頭

 

東都高士縦西游,一罐珍味萬里舟。

謝意欲説心亦遙,進餐難抑興已周。

 

東都の高士は西游を縦に,一罐の珍味は萬里り舟たり。

謝意を説かんと欲すに、心は亦た遙に,進餐を抑え難く興は已に周る。

 

【解説】珍しい缶詰を頂いたので其お礼である。褒めて褒めて、褒めまくった。其れだけで他意はない。

 

 

  歩韵李和鳳先生玉作

 

開封雁字思如淵,句句厳然四海傳。

陋巷澄神應有意,柴窗執筆便成縁。

胸中万感以情會,陋巷半生解纜船。

世路崢エ何事好,詩盟疆界総無邉。

 

【日語】李和鳳先生玉作に歩韵す

封を開けば雁字の思は淵の如く,句句は厳然と四海に傳う。

陋巷の澄神は應に意有り,柴窗の執筆は便に縁を成す。

胸中の万感は情を以って會し,陋巷の半生は纜船を解く。

世路は崢エとして何事か好き,詩盟の疆界は総て無邉たり。

 

【注】解纜;唐詩典故

 

 

  懐我的故郷 歩韵謝祖才先生玉作故里行吟廣徳石門掃描其二

 

鬢霜日日拜恩光,息婦與孫現在郷。

閉眼老家今昔感,壮年厳父笑階廊。

 

【意訳】白髪頭の日日は、皆さんのお世話になっています,息子と嫁と孫は、此処が故郷なのです。

 目を閉じると、昔の自分の故郷がこの場に現れてきます,壮年だった厳しい父親が、廊下で笑っているのです。

 

【解説】故郷について二場面を映し出しました。子や孫に取っては、現在のこの場所が故郷です。著者に取っての故郷は、数十年前、親兄弟と過ごした住まいが、故郷なのです。

 

 

  模賦,歩韵萬裕屏先生玉作三聯五七律世間丑象

 

多年世運遷,財與求威権。

九旬八秩父母悌,無智無恥衆政官。

不知眞幸福,養痾未圖全。

 

【日語】模て萬裕屏先生玉作三聯五七律世間丑象に歩韵して賦す

多年、世運は遷り,財與威権を求む。

九旬八秩、父母悌,無智と無恥、衆と政と官と。

眞の幸福を知らず,痾を養いて未だ全くを圖らず。

 

【解説】三聯五七律という定型は余り見掛けないが、観念的な表現の五言句と、情緒的な表現に馴染む七言句と、快い響の對仗を組み合わせた定型である。

 

 

  望江南・寄小畑旭翠先生春蘭

 

  空山裏,深澗送厳寒。不識何時降俗世,未消芳潔餘嬪歓。応是妻子共看!

  小畑旭翠先生訊與誰一起看?我回答和老婆。

 

 

【日語】望江南・小畑旭翠先生の春蘭に寄す

空山の裏,深澗は厳寒を送り。何の時に俗世に降しかを識らず,未だ消せず芳潔餘嬪の歓を。応に是れ妻子と共に看る!

  小畑旭翠先生は誰と一起に看たの?と訊ねた。我は老婆と一起にと回答した

 

【注】詩友小畑旭水兄に春蘭の鉢植えを頂いた。妻は殊のほか蘭が好きで、大喜びした。お礼に詞を添えて葉書を出した。

 

 

  臨江仙・歩韵湘麟先生詞

 

  我是夢騰郷下叟,垢面華髪童顔。壷中弄詩便成縁。梅花導君陌,開信會羣賢。

  長城富士同惆悵,陰雲慚愧悲烟。昨夜夢里被情牽。枕涙懐往事,亦読弔魂篇。

 

【日語】臨江仙・湘麟先生詞に歩韵す

  我は是れ夢騰郷下の叟にして,垢面華髪の童顔なり。壷中に詩を弄んで、便に縁を成す。梅花は君を陌に導き,信を開けば羣賢に會す。

 

  長城と富士は同じく惆悵たり,陰雲、慚愧、悲烟。昨夜、夢里、情に牽。枕涙し往事を懐しみ,亦た読む弔魂の篇を。

 

  原玉 湖南省唐湘麟先生詞臨江仙

  夢里依稀曽携手,想來華髪童顔。一衣帯水結文縁。櫻花迷紫陌,佳句仰高賢。

  富士長城同掬泪,何堪戦火狼烟。茫茫東海兩情牽。相逢如有日,把酒賦新篇。

 

 

 

  浣溪沙・歩韵賛羅玉松先生中國名勝古跡吟

 

  春夏秋冬覓句酬,山川野谷異郷游。萬餘情熱意優優。

  八百旅途嚢満満。寫花花麗拝祠稠。益陽雕几筆成邱。

  羅玉松先生的中國名勝古跡吟是八百名勝與萬餘厚情収到一巻的偉大著作。

 

 

【日語】浣溪沙・賛羅玉松先生中國名勝古跡吟に歩韵す

  春夏秋冬、句を覓め酬い,山川野谷、異郷の游。萬餘の情熱、意は優優たり。

 

  八百の旅途、嚢は満満。花を寫せば花は麗かに、祠を拝すること稠しく。益陽の雕几、筆は邱を成す。

 

  羅玉松先生の中國名勝古跡吟は、八百名勝と萬餘の厚情を一巻に収めた偉大な著作である。

 

 

  歓迎日中平和友好条約締結三十周年紀念訪日團

 

友好祝杯畫彩宮,丹心國士此歓同。

朝衡李白悠然念,歴歴題詩四海雄。

櫻艶梅紅無数恵,盈盈放馥兩神功。

一衣帯水隣邦契,萬古長青六合通。

 

【日語】友好の祝杯は畫彩の宮に,丹心の國士は此の歓を同じくす。

朝衡李白、悠然たる念い,歴歴、詩を題し四海の雄たり。

櫻艶梅紅、無数の恵み,盈盈、馥を放ち兩神の功たり。

一衣帯水、隣邦の契,萬古長青にして六合に通ず。

 

【注】2008年8月日中平和友好条約締結30周年記念レセプションが開かれ著者も出席した。この作品は墨書して随員に託した。

 

【解説】この作品には色相對と數詞對がる。歴歴と盈盈は連珠又は重字で、連珠對又は重字對とも謂う。

 

 

  慶祝中華人民共和国建国五十周年

 

求詩幾訪老梅村,千仞瓊樓萬頃園。

江漢文明魁歴史,百家方士起公論。

人民國歩冠天下,十億諸氏倍膽魂。

句句思君詩會友,一衣帯水憶鴻恩。

 

【日語】詩を求め幾訪す老梅の村,千仞の瓊樓、萬頃の園。

江漢の文明は歴史の魁,百家の方士は公論を起す。

人民の國歩、天下に冠たり,十億の諸氏、倍す膽魂す。

句句君を思いて詩は友を會し,一衣帯水、鴻恩を憶う。

 

【注】この作品は墨書して、中國政府要人に郵送した。

 この作品の落句句頭には、一・十・百・千の文字が填めた。

 

 

  恭歓迎胡錦涛閣下來日(2008年5月6日)

新陰烟景碧山春,四海弟兄薀籍賓。

湛露薫風共温恵,崑崙富士兩威神。

十億諸氏厚情士,千胆意気俊逸臣。

萬古長青日中誼,一衣帯水冠同倫。

  中華人民共和国国家主席胡錦涛閣下玉几下

  中國国家主席胡錦涛閣下5月6日來日。5月8日、在東京赤坂王子賓館新樓,挙行歓迎儀式。我作爲歓迎団体的一員,出席歓迎式,寫了歓迎的詩。面交胡錦涛閣下随員。

 

 

【日語】新陰の烟景、碧山の春,四海の弟兄、薀籍の賓。

湛露薫風、共に温恵,崑崙富士、兩ながら威神。

十億の諸氏、厚情の士,千胆の意気、俊逸の臣。

萬古長青、日中の誼,一衣帯水、同倫の冠たり。

  中華人民共和国国家主席胡錦涛閣下玉几下

  中國国家主席胡錦涛閣下は5月6日來日した。5月8日、在東京赤坂のプリンスホテル新館で,歓迎儀式が挙行された。我は歓迎団体的一員となり,歓迎式に出席し,歓迎的詩を創った。胡錦涛閣下随員に手渡した。

 

 

  歩韵張病知先生祝賀澳門回歸

 

澳門今古固君彊,宝地回歸我喜強。

熱血丹心成宿志,神州萬里悉騰揚。

人民事業憂家國,往事千肝豈能忘。

讀史思舊餘涕涙,一衣帯水祝辞長。

 

【日語】澳門は今も古も固より君が彊なり,

宝地の回歸に、我が喜びは強し。

熱血の丹心は宿志を成し,神州萬里、悉騰揚す。

人民の事業は家國を憂い,往事千肝、豈能忘んや。

史を讀み舊を思えば、涕涙を餘し,一衣帯水、祝辞は長し。

 

【注】美國紐約四海詩社社長、張病知先生から寄せられた手紙に添えてあった、澳門回帰の作品に歩韵した。

 

 

  祝賀戴振國陳暁瓊伉儷書法展

 

聲華渡海到吾郷,句句思君仰彼蒼。

揮筆筆端跳猛虎,對牋牋上發靈光。

應看百福家門盛,尚有千秋恵愛長。

玉硯澄神磨古墨,前途浩瀚兩鴛鴦。

 

【日語】聲華は海を渡り吾が郷に到り,句句君を思いて彼蒼を仰ぐ。

筆を揮えば筆端に猛虎跳り,牋に對すれば牋上に靈光を發す。

應に看る百福、家門の盛んなるに,尚有り千秋、恵愛の長きを。

玉硯、神澄まして古墨を磨せば,前途浩瀚たり兩鴛鴦。

 

【注】上海の戴振國先生と陳暁瓊女士のご夫妻が、伉儷書法展を開催するとの事で、祝賀詩を請われた。

 

 

  歩韵遼寧省葫蘆島畢彩雲先生玉作

 

東風一路共朋遊,鳥語間關花未稠。

攤舗四三無客問,墜紛一二使人愁。

過年追憶酬新詠,知己相逢登小丘。

泛泛江水如世変。杖頭携酒爲君留。

 

【日語】東風一路、朋と共に遊び,鳥語は間關として花未だ稠わす。

攤舗四三、客の問う無く,墜紛一二、人を使て愁しむ。

過年の追憶、新詠に酬い,知己相い逢うて小丘に登る。

泛泛たる江水は世の変る如く。杖頭に酒を携え君が爲に留まらん。

 

 

  用韵西安市白祖鄭先生玉稿

 

花陰半酔偸閑客,家族知音各有随。

壺地拈詩能養老,杖頭有酒亦移時。

縦横電燭春靄裏,上下楼船風景奇。

身世浮沈還不久,春雷一雨?何之?

【注】壺地;壺中天地

 

【日語】花陰半酔、閑を偸む客,家族知音、各随う有り。

壺地に詩を拈り能老を養い,杖頭に酒有りて亦時を移す。

縦横の電燭は春靄の裏に,上下の楼船は風景の奇。

身世浮沈は還不久や,春雷の一雨に?何之?

 

【解説】この作品の本旨は合聯、身世浮沈還不久,春雷一雨?何之?に、夫れを手繰り寄せると糸口がある。

 

 

  和韵夾西省熊朝元先生玉稿

 

一陣空動簾,雷聲震枕邊。

窗前駆驟雨,樹底騒残蝉。

 

【日語】一陣は空しく簾は動き,雷聲は枕邊に震う。

窗前の驟雨は駆け,樹底に残蝉は騒ぐ。

 

【解説】この作品は後對格である。

 窗前駆驟雨, 出句

 樹底騒残蝉。 落句

 

 

  次韵遼寧省李怡風先生玉稿

 

花落随風散,麦秋擁刺眠。

禿頭羞素志,敲句堕無邉。

  把収穫麦的時期称爲所謂麦秋,因爲日本初夏収穫麦、把初夏也称爲麦秋。

 

【注】麦秋;日本での麦作は、前年の秋に蒔いて、初夏に刈り取る。即ち麦の収穫時期は、麦に取っての秋である。因って日本では初夏を「麦秋」と謂うが、この言葉は、日本では通じるが、中国大陸では通じないようである。

 

 

  次韵青島市王永義先生玉稿

 

白雨天如洗,遙雷駆半空。

彷徨貧活恨,老痩草亭風。

 

【日語】白雨は天を洗うが如く,遙雷は半空を駆ける。

彷徨して貧活を恨み,老痩は草亭の風に。

 

【意訳】夕立は天を洗うように、遥か遠くの空を駆けている。安定しない生活の貧しさを恨み、ボロ屋に棲む私・・・。

 

 

  和韵安徽省除効敏先生玉稿

 

矮屋南柯夢,微聴檐馬鳴。

兩耳蝉咽騒,一縷蚊香軽。

守拙相思友,投詩豈欲名。

來孫眠正醒,拭汗笑斯生。

 

【日語】矮屋南柯の夢,微に檐馬の鳴を聴く。

兩耳は蝉咽騒しく,一縷は蚊香軽し。

拙を守る相い思うの友,詩を投じ豈に名を欲せんや。

孫來りて眠は正に醒め,汗を拭いて斯の生を笑う。

 

【解説】夏の暑い日、詩人が自己陶酔に耽っていると、孫が来て、現実の世界に引き戻されてしまう。この作品の要は、來孫眠正醒,拭汗笑斯生。に有る。此の聯がなかったら、訴えることのない平凡な白日夢の作品になってしまうのである。

 

 

  點景石上之春花歩伐相随フランス薜理茂先生玉稿

 

寒風二月一村春,地無廣狭自有因。

僅少窪坑狼藉土,嫩芽緑緑著渾身。

許多柔葉蕭疎雨,耀日紅紅経幾旬。

當暖暖如慈愛褥,階前點景勝肥茵。

  被太陽温暖的點景石,到夜晩也暖,如父母的恩愛。

 

 

【日語】寒風二月一村の春,地に廣狭は無く自から因る有り。

僅少な窪坑、狼藉の土,嫩芽は緑緑として渾身を著ける。

許多の柔葉、蕭疎の雨,耀日は紅紅として幾旬かを経る。

當に暖暖は慈愛の褥の如く,階前の點景は肥茵に勝る。

 

【意訳】太陽に温暖被點景石は,夜晩に到りてもまだ暖かい,父與母的恩愛と同様だ。

 

【解説】生活環境と人の生き様を謂っている。此を自分の生き様に重ねてみる。

 

 

  穀雨経旬歩伐相随張英傑先生玉稿(マレーシア)

兩三小蕾避寒霞,穀雨経旬未足誇。

燕子歸來春已去,舞風落地亦残花。

 

【日語】兩三の小蕾は寒霞を避け,穀雨経旬未だ誇に足ず。

燕子は歸り來り春は已に去り,風は舞い地に落ちて亦た花を残。

 

 

  老人歩伐相随方永施先生玉稿(アメリカ)

寒香一白不忘期,馥郁魁春巧吐奇。

離俗養身無來友,舊知黄鳥到梅枝。

 

【日語】寒香一白期を忘れず,馥郁と春に魁け巧に奇を吐く。

俗を離れ身を養い友の來る無く,舊知の黄鳥が梅枝に到る。

 

 

  一鉤凉月歩伐相随李東山先生玉稿(シンガポール)

蟲聲満地日西傾,雨洗残炎凉意盈。

何恨空閨擦枕泪,一鉤凉月透林明。

 

【日語】蟲聲は地に満て日は西に傾き,雨は残炎を洗いて凉意盈つ。

何んぞ恨まん空閨に枕泪を擦すを,一鉤の凉月は林を透して明なり。

 

 

  陋巷雑詠歩伐相随廖蘊山先生玉稿(オーストラリア)

寒輕菊老雪晴初,訪客不知満架書。

破壁没憂茶換酒,一枝一葉一心虚。

 

【日語】寒は輕く菊は老い雪晴の初め,訪客は知らず満架の書を。

破壁に没憂茶を酒に換え,一枝一葉一心虚。

 

 

  枝頭残雪歩伐相随廖國先生玉稿(スエーデン)

枝頭残雪竹籬邊,凍指摘芽候気先。

欲給春香晩餐菜,寸心況復罩厨烟。

 

【日語】枝頭の残雪竹籬の邊,凍指で芽を摘み気候に先んず。

春香を給せんとす晩餐の菜に,寸心況んや復た厨烟罩むと。

 

 

  竹馬登仙歩伐相随葉星球先生玉稿(フランス)

寒窗破壁夜方深,竹馬登仙冷透襟。

読罷信書燈欲凍,紛紛暁雪白塵侵。

 

【日語】寒窗破壁夜は方に深く,竹馬登仙して冷は襟を透す。

信書を読み罷め燈凍えんと欲,紛紛たる暁雪は白塵侵す。

 

 

  濃春遠景歩伐相随黄育順先生玉稿(フランス)

濃春遠景緑陰繁,山麓農家聊避喧。

却覚浮世多薄命,落紅任地自無言。

 

【日語】濃春の遠景緑陰繁く,山麓の農家は聊か喧を避ける。

却て覚ゆ浮世に薄命多きと,紅は落ち地に任せ自から言無し。

 

紀念

 

    祝松戸市民新聞(蔵頭格)

   松緑竹剛梅幽香,

   戸戸呈祥趁初陽。

   市政六十風物改,

民聲勃勃窈窕章。

新年玉案清筆硯,

聞望萬里集君堂。

 

【注】著者は松戸のタウン紙「松戸市民新聞」に漢詩詞関連の記事を載せて貰っていた。お正月号に慶祝記事とこの作品を載せた。

 

 

  偲歌 新年口號

 

新春椒酒,老妻淡香。四十餘歳,共有霜。

 

【日語】新春の椒酒,老妻の淡香。四十餘歳,共に霜有り。

 

【解説】偲歌は男女の情を叙す事が定型としての規定で、日本の都々逸に対応し、文字の綴りは4+4+4+3字で構成される。

 老妻淡香。四十餘歳,とは、四十年余りの夫婦でも、女性の色香は有ると謂っている。

 

 

  望海潮・慶祝堂兄弟古稀

 

  霏霏氷雪,層層楓壑,何忘竹馬連牀。繊月破窓,残燈禿筆,傅聞少小離郷。千里棄垂楊。有愛妻慈友,題句飛觴。鴛鴦錬勉,赤心多歳伏龍翔。

  憂看道滅躓狂。愾官民腐敗,世路豺狼。先哲四書,今人萬言,一講忽滌塵腸。眷属集君堂。娯霜刀妙舞,幽韻琳琅。緬懐青春半生,祥慶託詞章。

 

【日語】霏霏たる氷雪,層層たる楓壑,何ぞ忘れん竹馬連牀せしを。繊月の破窓,残燈の禿筆,傅え聞く少小の離郷を。千里、垂楊を棄てたり。愛妻と慈友有りて,句を題し飛觴す。鴛鴦は錬勉し,赤心にして多歳、伏龍は翔く。

 

  憂いて、道が滅し躓狂うを看る。官民の腐敗に愾り,世路は豺狼す。先哲の四書,今人の萬言,一講すれば忽ち塵腸を滌う。眷属は君が堂に集り。霜刀の妙舞を娯しみ,幽韻琳琅たり。緬に青春の半生を懐い,祥慶詞章に託さん。

 

 

  新歳試筆

 

荊妻屠蘇酒,門前梅一枝。

千編詩就未?破帽閃暁曦。

 

【日語】荊妻、屠蘇の酒,門前、梅一枝。

千編の詩未だ就ず?破帽に暁曦閃く。

 

 

  新歳偶感

 

陋巷無人到,先慶双寿觴。

魁春黄鳥囀,痩朶雪梅香。

有酔青蛾笑,細腰銀絲光。

浮生追往事,胸裏慰風霜。

白首無冠楽,依依互相望。

 

【日語】新歳偶たま感ず

陋巷に人の到る無く,先ず慶す双寿の觴を。

春に魁け、黄鳥は囀り,痩朶の雪梅は香る。

酔有青蛾は笑い,細腰の銀絲は光る。

浮生は往事を追い,胸裏に風霜を慰む。

白首は無冠を楽み,依依として互に相い望む。

 

 

  新緑試筆 五言絶句 順讀

 

躬老春園寂,幽窗與舊居。

風塵抛筆硯,宿志題未詩。

 

【日語】躬は老いて春園は寂しく,幽窗與舊居と。

風塵は筆硯を抛ち,宿志は未だ詩を題せず。

 

  新緑試筆      倒讀

 

詩未題志宿,硯筆抛塵風。

居舊與窗幽,寂園春老躬。

 

詩は未だ志宿を題せずして,硯筆を塵風に抛たん。

居は舊くして窗の幽けさ與と,寂しき園に春老いるの躬なり。

 

【解説】回文詩と謂って、作品のどちらから読んでも読める作品である。新年の遊戯に創ってみるのも楽しい。詩家の技倆が試される場面でもある。

 

 

  新歳口號四首

 

蓬蓬瑞気曙光紅,萬里鴻書字字雄。

電視難抛報興廃,屠蘇双酌亦思融。

 

【解説】新年に誰でも創る作品で、意図も漠然である。文字面通りで他意はなく、程程もあれば程遠い作品もある。

 

【解説】日本の詩家には、日本の景物を中國の景物に置き換えたり、文物を置き換えたりする人が居るが、詩詞は文字遊びでは無い。中國になくて日本にしかないものは、“○○○”と書いて、注;を書けば良いのである。テレビなら、電視と書けばよい。携帯電話なら、手機と書けばよい。

 詩詞を書くのに、状況は今も昔も殆ど変わっていないのである。山川や風月や、人の喜怒哀楽などの感情も、今でも昔でも同じである。

 変わったのは建造物や道具や社会構成だけで、詩詞の本質的なところは何も変わっていないのである。詩詞を綴るのに詩語で書かなければ成らないという規定は何処にもない。口語は不可、文章語、書面語で書く!と謂われている。

 

慶晨錦字到家時,賀詞呈祥道踏之。

新句舊章詩會友,春陽双樹自生枝。

 

【日語】慶晨の錦字が我が家に到る時,祝の言葉は祥を呈し道を踏み之。

新句舊章は詩に因りて友と會し,春陽の双樹は自ら枝を生ず。

 

【解説】作品を読み解く糸口は、春陽双樹自生枝にある

 

千門賀信拝年初,萬戸農民踏雪鋤。

夙昔偏思千古意,閑窗再壘百家書。

 

【日語】千門の賀信は拝年の初,萬戸の農民は雪を踏み鋤く。

夙昔偏に思う千古の意,窗を閑じ再び壘なる百家の書。

 

【解説】新年に誰でも創る作品で、意図も漠然である。文字面通りで他意はなく、程程もあれば程遠い作品もある。

 

應愚失覇俗塵侵,歴史歪曲未有尋。

成守財奴消歳月,暖衣飽食売郷心。

 

【日語】應に覇を失し俗塵に侵る愚,歴史は歪曲して、未だ有尋なし。

守財奴と成り歳月を消し,暖衣飽食して郷心を売る。

 

【解説】意図を解く糸口は、合句の暖衣飽食売郷心にある。

 

【意訳】自国の国家意識にも欠け、つまらぬ物事に明け暮れ、歴史を歪曲して朦朧とした状況にあっても、本当の意味での歴史を尋ねようともしない。自分で使えない金庫番に成り下がって、お金儲けにばかり歳月を使い、餌を貰って満足し、人としての真心までも売ってしまっている。

 

 

  新歳栽幼柚

 

阿蒙白首去塵縁,改暦平成十五年。

芳信模糊春尚浅,疎疎幼柚種庭前。

人生有限彼如道,寂寂尋思委自然。

任性栽花何事好?寸心聊與杖頭銭!

 

【日語】阿蒙の白首は塵縁を去り,改暦平成十五年。

芳信は模糊と春は尚浅く,疎疎とした幼なき柚は庭前に種る。

人生は有限に彼の道の如く,寂寂と尋ね思いて自然に委す。

性に任せ花を栽し何事か好き?寸心聊か與杖頭の銭に!

 

【解説】任性栽花何事好?寸心聊與杖頭銭。とは、心の赴くままに、花を栽培しているが、何処が好いのだ?と尋ねると、ちょっとした憂さ晴らしには成るんだよ!

 

【解説】老人が樹木の苗木を植える心境を叙した。柚は九年でも実らぬと謂うが、幼木が生長するまで自分が健康で居られるだろうか?余命との葛藤でもある。

 

 

  祭詩

 

祭詩聊欲餞流年,庸劣自慙鶏肋篇。

日々匆忙違宿志,哀歓交錯一燈前。

 

【日語】祭詩

詩を祭り聊か流年に餞せんと欲す,庸劣自から慙ず鶏肋の篇。

日々怱忙として宿志に違い,哀歓交錯す一燈の前に。

 

【注】鶏肋篇;何の役にも立たないが、棄てるには惜しい作品集を謂う。年末になると詩家は一年の締めくくりとして此の詩を作る。唐の賈島字浪仙が、年末に詩を祭ったと言う故事に倣って行われる詩家の行事で有る。

 

郊行感遇

 

 坤歌三首

 

【解説】坤歌とは日本の川柳に呼応する漢詩の定型である。依ってその題材も、川柳に近くなければならない。物事には目に映る事象と、心に映る事象がある。川柳は眼に映る事象に主眼を置く。

 

除草忙。梅雨老妻,夜厭長。

 

【日語】草萌えて。梅雨時の妻,早く起き。

 

梅雨期。湿気晒衣,万国旗。

 

【意訳】梅雨時。湿気が多いので洗濯物が乾きません,洗濯物が溜まって、まるで万国旗のよう。

 

花萼展。校門細雨,彩童傘!

 

【日語】梅雨の花、校門の雨、傘の彩!

 

【意訳】花が開いた。梅雨の校門の辺り,子供達の傘が色とりどりで、花が咲いたようだ!

 

 

  瀛歌五首

 

【解説】瀛歌とは日本の短歌に呼応する漢詩の定型である。依ってその題材も、短歌に近くなければならない。

 

銘刻心。憶君私慕,不可尋。

孀婦紅濃,鏡裏白深。

 

【日語】銘は心に刻み。君を憶うて私かに慕うも,尋ぬ不可。

孀婦の紅は濃く,鏡裏の白は深し。

 

 

微香黛。閉上眼睛,試君愛。

晩春細雨,攤床蔬菜。

 

【日語】微かな香黛。眼睛を閉し,君の愛を試む。

晩春の細雨,攤床の蔬菜。

 

【解説】微香黛。閉上眼睛,試君愛。目を閉じて貴方の愛を試みる・・とは随分と色っぽく意味深な場面である。

晩春細雨,攤床蔬菜。晩春の小雨,販臺の蔬菜とは、随分所帯じみている・・・。これら二つを合わせて、何を言おうとしているのか?読者の思考の見せ所である。

 

 

大地船。太古陽光,幾光年。

彼吾草木,昼夜風烟。

 

【日語】大地の船。太古の陽光,幾光年。

彼と吾は草と木なり,昼夜の風は烟る。

 

【解説】趣旨を掴みにくい作品である。是も読める人には、ちゃんと解る。だから中華詩詞壇詩誌に転載されたのである。

 

 

久未還。偶然招呼,回頭看。

路上電車,夕陽雲端。

 

【日語】久しく未だ還らず。偶然の招呼,頭を回して看る。

路上の電車,夕陽の雲端。

 

【意訳】郷里を出てから何年経っただろうか、偶然に誰かに声を掛けられて、振り返った。日暮れ時の路面電車が有るだけだ。

 心の隅に郷愁を抱い居ているからこそ、ちょっとしたかけ声に、ふっと心が動かされ、望郷の念を更に強くしたのである。だが目に映ったものは、自分の現実だけだ。

 

 

辛夷白。春意融融,睡野仏。

農夫匆匆,游客酌酒。

 

【注】野仏是立在野地里的仏像

 

【日語】辛夷は白く。春意は融融として,野仏は睡る。

農夫は匆匆として,游客は酒を酌む。

 

【意訳】辛夷の花か咲く春模様で、野仏も眠っているようだ。だが此処で現実社会の二面が提示される。早春だからこそ、猶更忙しい農夫と、早春だからこそ心休める游客と!

 

 

  句法五体

 

【解説】漢詩詞の句法は膨大だが、五言句を使って、見た目で直ぐに分かる句法を提示した。

 落句が対句の作品と、落句が対句でない作品がある。落句が対句でない形態を散体と謂う。

 全部の落句が対句で有る形態を全對格と謂う。

 起承の落句が対句である形態を前對格と謂う。

 轉合の落句が対句である形態を後對格と謂う。

 

【解説】日本の漢詩人は、仄字(3.4聲)押韵は絶句にも律詩にも無いと謂うが、中華詩詞壇では仄韵絶句の平仄定型譜も有るし、作品も見掛ける。然し律詩の仄韵定型譜は見たことはないが、作品は稀にある。日本では仄韵絶句を古詩の範疇としている。

 

  緑陰池塘 散體

 

緑暗苔痕湿,池頭燕子飛。

単身千里別,閉戸染吟衣。

 

【日語】緑は暗く苔痕は湿り,池頭には燕子飛ぶ。

単身千里の別に,戸を閉めて吟衣を染める。

 

  客里観梅 全對

 

客裏幾欹耳,閑階獨煮茶。(落句の對)

託詩懐往事,執筆惜残花。(落句の對)

 

【日語】客裏に幾たびか耳を欹て,閑階に獨り茶を煮る。

詩に託して往事を懐しみ,筆を執りて残花を惜む。

 

  客里観梅 全對

 

野店春猶浅,探梅酔暫留。

學窗詩亦拙,破蕾竝相扶。(章の對)

 

【日語】野店の春は猶浅く,梅を探り酔うて暫し留む。

學窗の詩は亦拙に,蕾を破りて竝び相い扶く。

 

  秋日郊行 前對

 

柿熟秋郊路,朋思菊花香。(落句の對)

何堪家信絶,誰謂是吾郷。

 

【日語】柿は熟す秋郊の路に,朋は思う菊花の香を。

何んぞ家信の絶えるに堪えんや,誰か謂う是れ吾が郷なりと。

 

【解説】起承は互文で有る。友人と二人して秋の郊外を散策する情景である。私は、この頃、家からの手紙が来なくなって・・・、と

 誰か謂った!君が今居る、此処が故郷じゃあないのかね!

 

  初秋一雨 後對

 

一夜梧桐雨,耽詩笑我愚。

残陽知節序,終日問蓬壷。(落句の對)

 

【日語】一夜梧桐の雨に,詩に耽り我が愚を笑う。

残陽は節序を知り,終日蓬壷を問う。

 

  野店酔筆 五絶側体仄起式(仄韻押韻)

炬燭照花枝,酔人村店裏。(仄韵)(上聲紙韵)

思?萬里情,執筆詩酒恥。(仄韵)

 

【日語】燭炬きて花枝を照し,酔人は村店の裏に。

?を思う萬里の情,筆を執る詩酒の恥。

 

 

  “北海道紋別”十二首組詩

  我去北海道紋別郡、訪問了舊友。他経営酪畜牧業,與妻子和祖父母生活着。他們家人,都有少年様的純真心,不知道世俗的汚穢。

 

 

【日語】私は北海道紋別郡に去き、舊友を訪問了。他は酪畜牧業を経営し,妻子和祖父母與生活着。他們家人,都な少年の様的純真な心を有いて,世俗的汚穢を不知道。

 

  其一 曄歌

 

酪香寰。菊老成堆,落葉斑。

 

【日語】酪香の寰。菊は老いて堆を成し,落葉は斑たり。

 

【意訳】乳の香りの村。菊の花は冬枯れし重なって,落葉はポチポチと散らばって居る。

 

  其二 五絶

 

雪急栖烏散,階前並菊盆。

勿謂塵事少,誰老坐南軒?

 

【日語】雪は急にして栖烏は散り,階前に菊盆は並ぶ。

謂う勿れ塵事の少きと,誰ぞ老いて南軒に坐すか?

 

  其三 偲歌

 

酪農姑娘,乳酸妙香。持快鎌刀,淡淡妝。

 

【日語】酪農家の娘さん,おっぱいの香りが馨しい。

切れる鎌を持っていて,さっぱりとした妝い。

 

  其四 七絶

 

初冬厦屋炊烟上,晩宴酒肴黍稷芳。

莫恨農村人跡少,才媛楚楚淡紅粧。

 

【日語】初冬の厦屋に炊烟は上り,晩宴の酒肴は黍稷が芳。

恨む莫れ、農村に人跡少しと,才媛は楚楚として淡紅の粧なり。

 

  其五 瀛歌

 

陋巷塵。半世親朋,六十春。

我生計拙,君是天真!

 

【意訳】巷の塵の様に、生き様の定まらない私。半世紀にもなる親しい友人は,60歳の青春。

 私は未だ生活に奔走している身の上なのに、君は確信に満ちた生き方をしているね!

 

  其六 五律

  蝦夷之友

 

野曠“蝦夷”地,蓬頭苦悶躯。

山川看不盡,草木有誰扶?

我惑無人解,君言足自娯。

酪香郷里趣,白雪灑平蕪。

 

【意訳】広々とした北海道,ボサボサ頭の苦労の多い躬。

山川は見ても尽きないが、草木は誰が面倒を見て居るのか?

私が惑っても誰も知っては呉れないし,君は自分自身の生き方が愉しいという。

此処には、乳の香りのする郷里の趣があり,何れ降る雪は、それら(起聯頷聯頸聯の6句の抒事)を洗い流してくれる。

 

  其七 對聯

 

北地齎天恵;君情慰我心。

 

【日語】北地は天恵を齎らし;君が情は我が心を慰む。

 

【解説】漢詩詞と並んで對聯も、中國漢詩詞壇との、国際交流の範疇に入る。對聯の作り方は、それ程難しくはない。詩詞の對仗とほぼ同じで、對句末字は必ず平韵字とする事が決まりである。

 

  其八 三聯五七律 游蝦夷

 

  葉落青山痩,空林動客愁。

古驛無人連錆鐵,荒籬繞舎記舊游。

  枝頭斜陽影,霜溶足下流。

 

【日語】葉は落ちて青山は痩せ,空林は客愁を動かす。

古驛に人無く錆鐵は連なり,荒籬は舎を繞り舊游を記す。

  枝頭には斜陽の影,霜は溶けて足下に流る。

 

【意訳】千葉県の初秋に、北海道紋別郡の友人を訪ねたが、其処は既に初冬であった。JRの人気のない驛は、辺りから枯葉が吹き寄せられ、青い針葉樹の山も、痩せて見える。驛周辺の林には人影が無く、何となく寂しさを覚える。

 駅舎は古くはないが、人気がないと何となく古く感じる。列車の通過も多くないのだろう。線路が薄く錆びていて、目の届く限り連なっている。

 驛を繞る板張りの垣根には、観光客が各各訪れた事を書き記している。日が西に傾く頃に成って、漸く霜柱が解け、足下を流れる。

 

  其九 憶秦娥

 

  山川麗。衝天青壁,夕陽里,夕陽邑。石蹊窄道,大空群翊。

  鵬程千里獨尋覓。農家散在,沃原廣,寒流碧。純情朋友,同族比翼。

 

【日語】山川は麗かに。青壁は天を衝く,夕陽の里,夕陽の邑。石蹊は道を窄ち,大空は群翊す。

 

  鵬程千里、獨り覓め尋ねれば。農家は散在し,沃原は廣く,寒流は碧たり。純情なる朋友と,同族は比翼たり。

 

  其十 散体詩 姑娘和青年

 

擠乳姑娘,割草青年。

小汽車紅,手繊細厭寒。

大農具紅,耕田晒黒顔。

 

姑娘向往都市,獨離郷寰。

半壁寒燈立志,結成良縁。

共辛勤買石築屋,暫成歓。

 

青年愛江山。

住舊堂屋,誓墓前。

郷人和山河爲友,愛郷土耕田。

 

年年歳歳人來走,重離別到老年。

有衝天大厦和房屋,無緑香江山。

老農夫和孫子和狗,囲晩飯炊烟。

紅汽車已没有,紅農具生錆朽眠。

 

【日語】擠乳の姑娘,割草の青年。

小汽車は紅,繊細手は寒を厭う。

大農具は紅く,田を耕す晒黒顔。

 

姑娘は都市に向いて往き,獨り郷寰を離れる。

半壁の寒燈に志を立て,良縁を結成。

共に辛勤して石築の屋を買い,暫く歓を成す。

 

青年は江山を愛し。

舊き堂屋に住み,墓前に誓う。

郷人和山河を友と爲し,郷土を愛し田を耕と。

 

年年歳歳、人は來りて走り,離別は重りて老年に到る。

天を衝く大厦和房屋有るも,緑に香る江山は無し。

老農夫和孫子和狗は,晩飯の炊烟を囲む。

紅い汽車は已に没有,紅い農具は錆を生じ朽ちて眠る。

 

  其十一 三聯五七律 游蝦夷

 

葉盡疎林外,成堆乳酸香。

銀草凍霜何処逝?紅実照雪爲誰芳?

掲燭君與酔,勿嫌亦化郷。

 

【日語】葉は盡きる疎林の外に,堆を成す乳酸の香り。

銀草は霜に凍り何処に逝く?紅実は雪に照り誰ぞ芳を爲さん?

燭を掲げて君與酔わん,嫌う勿れ亦た郷と化すを。

 

  其十二 後庭歌 賛“蝦夷”荒開

 

  薫風廣野香塵里。割霜花麗。五穀豊穣牛魚米。緑雲青峰。

  百年歳月荒開紀。士魂英気。破窗当護堅固意。“蝦夷”征衣。

 

【日語】薫風の廣野、香塵の里。霜を割り花は麗なり。五穀豊穣、牛魚米。緑雲と青峰と。

 

  百年の歳月、荒開を紀せば、士魂の英気たり。破窗は当に堅固なる意を護り、“蝦夷”の征衣なり。

 

 

  松戸四季八景詩

   松戸讃歌

 

西望富嶽冠鮮白,北仰筑波適奔蒼。

百世先賢興技學,一江交業育工商。

応看郊外愉花屋,須識駅頭誇廈堂。

水隔東都絶喧噪,皆言千歳産文郷。

 

【日語】西に富嶽、鮮白を冠を望み,北に筑波、奔蒼に適うを仰ぐ。

百世の先賢は技學を興し,一江の交業は工商を育す。

応に郊外に花屋を愉むを看,須く駅頭に廈堂を誇るを識る。

水は東都を隔てて喧噪絶く,皆な千歳、産文の郷と言う。

 

  春 高塚梨雪 松戸市高塚新田

 

一眸白白似桃源,農家無人半閉門。

沃野天晴農事遽,郊畦雨潤草叢繁。

梨花花艶香侵邑,蜂翅翅嫖慌繞園。

慈育萬株三月後,盈盈熟果溢階軒。

 

【日語】一眸白白として桃源に似て,農家に人無く半ば門を閉す。

沃野の天は晴れ農事は遽く,郊畦は雨潤いて草は叢繁たり。

梨花、花は艶かに香は邑を侵し,蜂翅、翅は嫖に園を繞りて慌し。

萬株を慈育す三月の後,盈盈たる熟果は階軒に溢れる。

 

  春 常盤平夜桜 松戸市常盤平

 

邑閭暮景風猶冷,茂樹枝頭花已闌。

秀萼千紅繆醉脚,香塵一白落晶盤。

愛櫻歩燭江湖愉,扶老拏兒菽水歓。

素月半輪春靄裏,誰歌數曲玉華壇。

 

【日語】邑閭の暮景、風猶を冷かに,茂樹の枝頭、花は已に闌なり。

秀萼千紅、醉脚に繆り,香塵一白、晶盤に落つ。

櫻を愛で燭に歩す江湖の愉,老を扶け兒を拏く菽水の歓。

素月半輪、春靄の裏,誰ぞ歌わん數曲、玉華の壇に。

 

  夏 千駄堀緑波 松戸市千駄堀

 

杏花結実燕歸來,竹樹穿墻葉更堆。

穏沼集泉應欲溢,垂髫戯水不思回。

君知納寶百倉閣,我識調材萬席臺。

文化中心能報世,遊人頃刻隔囂埃。

 

【日語】杏花は実を結び燕は歸り來り,竹樹は墻を穿ち葉は更に堆る。

穏沼は泉を集め應に溢れんと欲,垂髫は水に戯れ回るを思ず。

君は知る寶を納む百倉の閣を,我は識る材を調う萬席の臺を。

文化中心は能く世に報い,遊人は頃刻囂埃を隔つ。

 

  夏 江戸川花火 松戸市松戸江戸川堤

 

傲陽浴後暮江前,拭汗輕衫共竝肩。

臥聴聯堤烟薬爆,千人歌妓似彈絃。

仰望廣漢炎精散,萬片花唇如鏤天。

弔水難魂神事夕,紫煙靉靆順流邊。

 

【日語】傲陽浴後、暮江の前,汗を拭い輕衫、共に肩を竝ぶ。

臥て聯堤の烟薬の爆を聴きけば,千人の歌妓、絃を彈ずに似たり。

仰ぎて廣漢に炎精の散るを望めば,萬片の花唇、天に鏤めるが如し。

水難の魂を弔う神事の夕べ,紫煙靉靆す順流の邊に。

 

  秋 戸定館秋月 松戸市松戸

 

厦屋人無住,多年爲客供。

空庭惟有月,皎皎照喬松。

偉業亦如夢,時時憶舊蹤。

青襟應俊逸,白髪自従容。

架上堆黄巻,梁間寫碧峯。

方知流水急,玉砌任苔封。

 

【日語】厦屋に人の住する無く,多年客の爲に供す。

空庭に惟だ月有りて,皎皎と喬松を照す。

偉業は亦た夢の如く,時時舊蹤を憶う。

青襟は應に俊逸に,白髪は自ら従容たり。

架上に黄巻を堆し,梁間に碧峯を寫す。

方に知る流水の急なるを,玉砌は苔の封ずるに任す。

 

  秋 本土寺晩鐘 松戸市殿平賀

 

梅霖時候紫陽豊,今訪伽藍秋色中。

試覘路傍纔白菊,應看樹杪盡丹楓。

晩鐘隠隠響閭巷,斜日皚皚照梵宮。

節節争妍叢林景,美哉四顧是天工。

 

【日語】梅霖の時候、紫陽豊に,今伽藍を訪えば秋色の中。

試に路傍を覘えば纔かな白菊,應に樹杪を看れば盡く丹楓。

晩鐘は隠隠と閭巷に響き,斜日は皚皚として梵宮を照らす。

節節妍を争う叢林の景,美き哉、四顧は是れ天工なり。

 

  冬 風早神社寒霜 松戸市上本郷

 

一路青松下,繁枝佚市塵。

社壇三里客,福禄及斎民。

獅舞萬秋秘,宮商慰鬼神。

穿林苔砌長,重棟廟祠均。

映日梢如錦,凝霜瓦似銀。

應看千古意,浄境足安身。

 

【日語】一路青松の下,繁枝は市塵を佚る。

社壇三里の客,福禄は斎しく民に及ぶ。

獅舞は萬秋の秘にして,宮商は鬼神を慰む。

林を穿ちて苔砌は長く,棟を重ねて廟祠は均う。

日に映る梢は錦の如く,霜に凝りし瓦は銀に似たり。

應に千古の意を看れば,浄境は身を安んずるに足る。

 

  冬 矢切暮雪 松戸市下矢切江戸川堤

 

下坡田疇濶,不聞轢轆音。

遙看山寺阜,茂樹巻風吟。

近覘水揚岸,枯蘆蓋地深。

橋邊人跡絶,寂寂睡寒禽。

江畔天花亂,凄凄棹凍潯。

野廛茶可煮,無客獨空斟。

 

【日語】坡を下れば田疇は濶く,轢轆の音を聞不。

遙に山寺の阜を看れば,茂樹は風を巻きて吟ず。

近くに水揚の岸を覘れば,枯蘆は地を蓋いて深し。

橋邊に人跡は絶え,寂寂として寒禽は睡る。

江畔に天花亂れ,凄凄として凍潯に棹さす。

野廛、茶を煮る可く,客無くして獨り空しく斟む。

 

【解説】○○八景は彼方此方にある。この松戸八景は他人様に頼まれて、対象地、叙事内容、定型など、事前に指定され、夫れに依って創った作品である。著者の目から見て是が「詩」と言えるのか?観光案内ではないのか?甚だ疑問が残る。内容には差ほどの意図もなく、ただ決まり切った事を述べているに過ぎない。

 

 

  鎌倉観光

 

伽藍高聳画圖中,潔浄石階樹樹風。

鬱鬱日日一事無,門神睥睨啓吾蒙。

 

【日語】伽藍は高く聳え画圖の中,潔浄なる石階、樹樹の風。

鬱鬱たる日日、一事なく,門神睥睨して吾が蒙を啓く。

 

 

  払暁訪“河津櫻”

 

黎明一路訪芳塵,倒酒偸閑事皆眞。

此刻公園能養老,将来我圃再怡醇。

植苗灌水青年意,割草施肥白髪身。

百歳邯鄲只一夢,紅雲香雪為誰春?

 

【解説】植苗灌水青年意,割草施肥白髪身。老人にとっては、心は青年であるが体は老年という現実がある。この現実をこの二句によって顕した。

 頸聯は互文である。

 

【注】早朝の電車で三浦半島の河津桜を見に行った。実は著者も里山に数年前河津から桜の苗木を30本ほど買って、植えたのである。草を刈り虫を捕り面倒を見ているのだが、いったい何時になったら花見が出来るのか?待ちきれなくて河津まで電車で見に行った。著者にとっては余命との葛藤である。

 

【日語】黎明一路芳塵を訪い,酒を倒し閑を偸み事は皆な眞なり。

此刻公園に能く老を養い,将来我が圃で再び醇を怡しまん。

苗を植え水を灌り青年の意,草を割り肥を施し白髪の身。

百歳の邯鄲は只一夢にして,紅雲香雪は誰が為の春か?

 

 

  五月的“吉高之大櫻”

 

疇邊坐鎮復芳辰,四月櫻雲人更人。

游客歓芳誰惜別,農夫割草自成隣。

黙聴樹下青青聲,仰見枝頭蒼蒼旻。

累代慈心三百歳,開花落葉任天眞。

 

【日語】疇邊に鎮坐し復た芳辰たり,四月の櫻雲、人更に人。

游客は歓芳し、誰ぞ別を惜み,農夫は草を割り自ら隣を成す。

黙して聴く樹下、青青の聲を,仰ぎて見る枝頭、蒼蒼の旻を。

累代の慈心、三百歳,花は開き葉は落ち天眞に任す。

 

【注】著者の住まい近くに、福島三春の桜にも勝る、山桜の古木がある。個人の方の畑に生えていて、もう300年も累代で守っていると聞く。この世の中、自分欲で溢れているのに、頭が下がります。累代慈心三百歳,開花落葉任天眞。

 

 

  五言排律 遊高千穂峡

  六句

 

一水残炎退,白雲指顧中。

遊人迷狭径,巖壁聳虚空。

滾滾渓谷韵,低頭拝古宮。

 

【日語】一水、残炎は退き,白雲は指顧の中に。

遊人は狭径に迷い,巖壁は虚空に聳える。

滾滾たる渓谷の韵,頭を低れて古宮を拝す。

 

  十句

 

一水残炎退,白雲指顧中。

遊人迷狭径,巖壁聳虚空。

滾滾渓谷韵,悠悠歳月工。

澄心思萬世,閉目會千雄。

浄境神仙宅,綺勝筆硯功。

 

【日語】一水、残炎は退き,白雲は指顧の中に。

遊人は狭径に迷い,巖壁は虚空に聳える。

滾滾たる渓谷の韵,悠悠たる歳月の工。

心を澄せ萬世を思い,目を閉じて千雄に會す。

浄境は神仙の宅にして,綺勝は筆硯の功なり。

 

  十二句

 

一水残炎退,白雲指顧中。

遊人迷狭径,巖壁聳虚空。

滾滾渓谷韵,悠悠歳月工。

澄心思萬世,閉目會千雄。

浄境神仙宅,綺勝筆硯功。

書窗凭机案,陋巷已秋風。

 

【日語】一水、残炎は退き,白雲は指顧の中に。

遊人は狭径に迷い,巖壁は虚空に聳える。

滾滾たる渓谷の韵,悠悠たる歳月の工。

心を澄せて萬世を思い,目を閉じて千雄に會す。

浄境は神仙の宅にして,綺勝は筆硯の功なり。

書窗で机案に凭れ,陋巷は已に秋風なり。

 

  十四句

 

一水残炎退,白雲指顧中。

遊人迷狭径,巖壁聳虚空。

滾滾渓谷韵,悠悠歳月工。

澄心思萬世,有夢會千雄。

浄境神仙宅,綺勝筆硯功。

遣懐談古意,閉眼問鴻濛。

陋巷詩成癖,書窗興未終。

 

【日語】一水残炎は退き,白雲は指顧の中に。

遊人は狭径に迷い,巖壁は虚空に聳える。

滾滾たる渓谷の韵,悠悠たる歳月の工。

心を澄して萬世を思い,夢有りて千雄に會す。

浄境は神仙の宅にして,綺勝は筆硯の功なり。

懐を遣して古意を談じ,眼を閉じて鴻濛を問う。

陋巷詩成の癖,書窗の興は未だ終らず。

 

【解説】遊高千穂峡と謂う題で、景物描写と心情描写を適宜組み合わせ、次々と内容を継ぎ足してゆく詩法である。この作品は十四句で締め括ったが、韵字と重義の限度はあるが、続けるつもりなら、まだまだ続く詩法である。継ぎ足しにはルールが有るので、作品から読み取っていただきたい。

 

 

  “奥久慈”遊草十二首

  其一 “法鷲院”只從其一到其六順風体

衡門開放徑幽通,磧磴僅留石匠工。

窺望香界人不見,只看砌畔紫薇紅。

 

【日語】衡門は開放たれ徑は幽に通じ,磧磴は僅に石匠の工を留む。

香界を窺い望めば人は見えず,只だ砌畔の紫薇の紅を看る。

 

  其二 “釈迦堂”

 

壁頽階壊恣風塵,葉葉低簷鳥下頻。

砌畔纔留弔煙跡,梁間應見彩巾新。

 

【意訳】壁は頽れ階段は壊れ風塵の恣いままになり,木の枝葉は軒に垂れて鳥が飛び回っている。

 石畳には少しばかり、仏事を催した烟の跡が残り、梁の間には新しい彩りの垂れ幕が見える。

 

  其三 本堂

 

百尺雄簷古法堂,龕燈弔祖架回廊。

牽牛花發偏添色,妙法異香到渡墻。

 

【意訳】間口の広い本堂,回り廊下には先祖供養の釣灯籠が懸かっている。堂宇には朝顔が咲き誇り、とても綺麗で,寺の有り難い佛香となり、著者の居る垣根の外まで香ってくる。

 

  其四 五重塔

 

偶訪招提境,老杉鳥聲柔。

忘歸閑半日,奪目五重樓。

 

【日語】偶たま招提の境を訪えば,老杉に鳥聲は柔なり。

歸を忘る閑かな半日,目を奪う五重の樓。

 

  其五 和歌

 

 青々と澄みたる空に聳え立つ五重の朱樓此の過疎にあり

 

  其六 詣“法鷲院”有感

 

両層香閣淨人心,五重朱樓映緑森。

貧者一燈修戒定,信従千載守祇林。

 

【日語】両層の香閣は人心を淨め,五重の朱樓は緑森に映る。

貧者の一燈、戒定を修め,信従千載、祇林を守る。

 

【解説】この様に法鷲院の門から入って、境内を繞り、其六で漸く、貧者一燈修戒定,信従千載守祇林。と、全体を締め括っている。

 一首で謂う順風体もあるが、この様な構成でも順風体という。因に其七から其十二までは、各各個別であって、順風体の構成ではない。

 

  其七 山寺

 

停車偶訪古寺樓,磴道無塵萬緑稠。

籬畔亂萩残暑退,相輪衝天快晴秋。

 

【日語】車を停めて偶たま訪う古寺の樓,磴道に塵無く萬緑は稠し。

籬畔の萩は亂れて残暑は退き,相輪は天を衝く快晴の秋。

 

  其八 山路

 

右看沃野稲黄黄,左望瓊林樹樹蒼。

薄翅蜻蛉低在水,萩花遮逕散清香。

 

【日語】右に沃野、稲の黄黄たるを看,左に瓊林、樹樹の蒼を望む。

薄翅の蜻蛉は低れて水に在り,萩花は逕を遮り清香を散ず。

 

  其九 和歌

 

 若き日の夢実らずも生きしかた省みて酌む秋の夜の酒

 

  其十 “游袋田温泉郷”

 

雲峯落漠入双眸,楓樹芒茅渾報秋。

“蕎麦香魚”田舎酒,一觴一詠更何尤。

 

【日語】雲峯は落漠として双眸に入り,楓樹、芒茅、渾て秋を報ず。

“蕎麦と香魚”田舎の酒,一觴一詠して更に何をか尤めん。

 

  其十一 老人

 

紅顔歳々賭甘酸,白髪時々懐舊歓。

汁菜瓢衣何欲處,幽庭歩歩惜花残。

 

【日語】紅顔歳々、甘酸を賭し,白髪時々、舊歓を懐しむ。

汁菜瓢衣、何んの欲する處ぞ,幽庭を歩歩して花の残を惜む。

 

【解説】紅顔歳々と白髪時々は字義平仄共に對仗を為しているが、賭甘酸,と懐舊歓。は、字義は對仗を為しているが、平仄では對仗を為していない。だが此処で平仄まで改めて、完全な對仗にする必要があるのか?

 

  其十二 瀑布

 

山腰行踏野花香,険徑携杖渡石梁。

水落深渓飛峭壁,風吹亂沫湿軽装。

危巌老樹千年月,繊朶残蝉旬日陽。

幽壑森然塵不到,暑威俗事暫相忘。

 

【日語】山腰を行き踏み野の花は香り,険徑に杖を携て石梁を渡る。

水は深渓に落ちて峭壁に飛び,風は亂沫を吹き軽装を湿らす。

危巌の老樹、千年の月,繊朶の残蝉、旬日の陽。

幽壑は森然として塵は不到,暑威、俗事、暫し相い忘る。

 

 

  南紀游草“熊野三山”十首

  其一

 

村園収稲近重陽,野草萋萋未印霜。

応識初秋田舎趣,駅頭漾來木犀香。

 

【日語】村園の稲は収りて重陽は近く,野草は萋萋として未だ霜を印さず。

応に識る初秋、田舎の趣を,駅頭に漾い來る木犀の香。

 

【解説】南紀遊草の入り口である。因って此処では景物だけを述べている。どんな場所?いつ頃か?を述べて、作者の心情は、敢えて述べない。是によって内容は次の場面に通じる。

 もし此処で、心情を述べたならば、作品は是で完結して、次へは続かない。例え周遊しても個別の作品となる。

 

  其二

 

峰巓深壑緑陰鮮,亦聞泉聲薮下穿。

欝欝林間苔蘚滑,傾崖痩樹帯風烟。

 

【日語】峰巓と深壑と緑陰は鮮に,亦た泉の聲が薮下を穿つを聞く。

欝欝たる林間の苔蘚は滑かに,傾崖の痩樹は風烟を帯ぶ。

 

【解説】此処では途次の様子を述べている。作者の感想を述べないことが肝要である。

 

  其三

 

頽岸伏看逆浪轟,嵜嶇青壁穿雲横。

深壑高峰沮鐵路,車窓千里傍山行。

 

【日語】伏て頽岸を看れば逆浪轟き,嵜嶇と青壁と雲を穿て横たわる。

深壑と高峰は鐵路を沮み,車窓千里、山に傍いて行く。

 

  其四

 

遊人浴後酒相斟,遣興宜耽數曲弾。

無事欲眠呼茖碗,一場酔醒發長吟。

 

【解説】温泉に入って酒を飲んだ!と謂っているが、情は述べていない。

 

  其五

 

羊腸山路渡渓橋,雨後奔流激石跳。

碧岫懸崖雲四合,前峰後嶺倩誰描。

 

【日語】羊腸の山路、渓橋を渡り,雨後の奔流は石を激して跳る。

碧岫の懸崖、雲四合,前峰後嶺、誰を倩うて描かん。

 

【解説】此処で漸く、景を述べて倩誰描と、書いているが、是は作者の感想ではない。倩誰描とは、その景観の素晴らしさを表現する慣用句である。

 

  其六

 

曲岸岩床冷,爽風渡浅湾。

涛聲無限海,突石數房山。

画出三景勝,随波項刻間。

奇峰高萬仭,青壁夕陽閑。

 

【日語】曲岸の岩床は冷かに,爽風は浅湾を渡る。

涛聲は限り無きの海に,突石す數房の山。

画き出す三景の勝,波に随う項刻の間。

奇峰は高さ萬仭,青壁の夕陽は閑なり。

 

  其七

 

一条瀑沫半空懸,日照飛泉帯紫煙。

長剣割岩聲動壑,遊人只訝飲龍川。

 

【日語】一条の瀑沫は半空に懸り,日は飛泉を照して紫煙を帯ぶ。

長剣は岩を割き聲は動壑し,遊人は只だ訝かる飲龍の川かと。

 

  其八

 

神宮石磴碧苔深,脚下渓頭流水音。

斜照如然衣欲染,遊人小憩僅閑吟。

 

【日語】神宮の石磴は碧苔深く,脚下の渓頭に流水の音。

斜照は然るが如く衣を染めんと欲,遊人小憩、僅かに閑吟。

 

【解説】周囲の景観と游人の様子を客観的に述べているだけで、作者の情は述べて居ない。

 

  其九

 

數条炎液帯烟稠,蒙昧江頭夕陽浮。

浴後徘徊人影少,暮霞罩得四邊幽。

 

【日語】數条の炎液は烟を帯びて稠く,蒙昧なる江頭に夕陽は浮ぶ。

浴後徘徊し人影は少く,暮霞は罩め得て四邊幽かなり。

 

  其十

 

清風臨水坐,奇勝洗塵縁。

磨出千年跡,石蹊浸碧漣。

 

【解説】この作品10首の殆どは景観の描写である。各各の景観に対する作者のコメントは書かれていない。一首毎に完成させてしまうと、各句の連携が阻害され易いので、一首毎に完結させないことが、組詩を作るときの方途である。

 茲に登場する景観と游人の有様を客観描写する事によって、読者に情感を誘発させることが出来る。

 

 

  “山形”遊草10首3? 順風体

其一 曄歌 吟客遊草

 

農民游。同業面面,異時憂。

 

【日語】農民の游。同業の面面,異時の憂。

 

【意訳】農家の友人の方々の旅游である。

 同業の各々には,それぞれの憂いがある。

 

其二 坤歌 吟詠

 

三尺鋤。二揮一砕,勝萬肥。

 

【日語】三尺の鋤。二揮り一砕,萬肥に勝る。

 

【意訳】三尺の鋤で二振りし、土を砕けば、あらゆる肥料に勝る。

 

【注】一二三の数値を読み込んである。

 

其三 偲歌 吟友相酌酒

 

一笑一盃,君我誰知?應翔千里,此一時。

 

【日語】一笑一盃,君と我と・・・誰れぞ知らん?應に千里を翔ける,此の一時を。

 

【意訳】微笑みと酒と、君と私のこの僅かな、應に千里に翔が如き、此の一時の情を誰が知っているでしょうか・・・・?

 

【解説】偲歌とは男女の情愛を詠う定型である。依って茲に登場する我と君は、男と女で有ることが、前提となる。

 詩歌の構成で、日本詩歌ではこの様なバラバラな趣旨配置は特異ではないが、漢詩詞では一般的ではない。

 漢詩詞は句と句が幾許かの繋がりが有るのが普通である。然しこの作品は、句と句が離れすぎているので、中国の方には解りにくい。

 

其四 瀛歌 于“南陽市夕鶴之里”

 

喜三餘。知己相逢,九月初。

同業酌酒,驟雨霑裾。

 

【日語】三餘の喜び。知己、相い逢う,九月初め。

同窗は酒を酌み,驟雨は裾を霑す。

 

【意訳】学問を好む喜び。古き友が相い逢う,九月の初め。

 同業は酒を酌み,驟雨は裾を霑らす。

 

其五 漢俳 于“南陽市夕鶴之里”

 

村夫性保純。

方知歎痾何事好,旅人涙痕新。

 

【日語】村夫の性は純を保つ。

方に痾を歎くは、何事か好きかを知る,

旅人は涙痕新なり。

 

【意訳】村の青年の性格は純真である。

 其処で・・私共が体の調子の善し悪しを歎いている事が、果たして生き様として好いのだろうか?と謂うことを知った。

 通りがかりの私達は、恩愛と自責とで、つい涙が落ちて仕舞った。

 

其六 五絶 于上山温泉古窯旅館

 

遁欲人間熱,都思素秋厨。

農民風月興,歌酒舞歌娯。

 

【日語】人間の熱を遁れんと欲し,都思う素秋の厨を。

農民は風月の興なり,歌酒は舞歌の娯なり。

 

【意訳】暑い夏、俗世から遁れたい一心で、みんなで秋の美味いものを食べたいと思った。

 農民は風月の興を為し、歌と酒は歌舞の娯しみと成った。

 

其七 七絶 題出外做活

 

  “直江兼続”之遺作詩中,有起承句散逸的二句。轉合兩句是“春雁似吾吾似雁,洛陽城裡背花歸”。我試填補起承兩句。題出外做活。雪郷農夫冬天到城市里去做活。

東風融雪草應肥,少婦怡然繕舊衣。

春雁似吾吾似雁,洛陽城裡背花歸。

 

【日語】“直江兼続”の遺作詩中に,起承句が散逸した二句が有り。轉合兩句は“春雁は吾に似て吾は雁に似たり,洛陽城裡、花に背きて歸る”。我は起承の兩句に填補を試みた。出外做活に題す。雪郷の農夫は冬に城市里へ做活に去く。

 

東風は雪を融し草は應に肥え,少婦は怡然と舊衣を繕う。

春雁は吾に似て吾は雁に似たり,洛陽城裡、花に背きて歸る。

 

【意訳】“直江兼続”の遺作詩中に,起承句が散逸した二句が有る。轉合兩句は“春雁は吾に似て吾は雁に似たり,洛陽城裡、花に背きて歸る”。我は起承の兩句に填補を試みた。出外做活に題す。雪郷の農夫は冬天に城市里へ做活に去く。

 

 妻の待つ故郷を詠う;雪国では東風が吹いて雪を融し、田畑の草は應に萌え,家を守る若妻は夫を信じて、ゆったりとした気持ちで、訪れる春に備え、其の準備をしている。

 出稼ぎ先の夫を詠う;春に成れば雁は故郷に帰る。私も雁のように一時の生活のために故郷を離れている身で、私の生き様は雁に似て、出先をを離れることに何の躊躇もない,その時期が来れば、越冬を終えた雁のように、躊躇することなく、都会の女性の情に背いて、妻の待つ故郷に帰る。

 

 農閑期の出稼ぎは、茨城県の人は通勤なので家を空けることはないが、様子は知っている。

 

其八 三聯五七律 蒟蒻昼餐

 

旅途市亭旗,老痩枉捜奇。

有名蒟蒻無滋養,美味繊維属大医。

應飢不擇食,宥痾献酒卮。

 

【注】“繊維”謂食品繊維質

 

【日語】旅途市亭の旗,老痩は枉て奇を捜す。

有名な蒟蒻に滋養無く,美味の繊維は大医に属す。

應に飢不擇食,痾を宥めて酒卮を献ぜん。

 

【意訳】旅の途中の食堂の蒟蒻料理の旗,老痩は普段と違うものを捜す。

 有名な蒟蒻料理には栄養が無いが,美味しい繊維質の蒟蒻料理は、立派なお医者さんと肩を並べる程の効果が有る。

 應に空きっ腹に不味いもの無しで、沢山食べた,蒟蒻ばかりでは面白くないので、痾を宥めて酒盃をあげよう。

 

【注】農家の人は著者を含めて農産物に対する講釈は多い。

 

其九 五律 登山蔵王

 

避暑車窓景,周遭天地間。

寒風吹鬢髪,層雲隔塵寰。

閉眼思君面,臨峯念故山。

勿嘲詩客意,一榻各童顔。

 

【日語】暑を避る窓の景,周遭す、天地の間を。

寒風は鬢髪を吹き,層雲は塵寰を隔つ。

眼を閉じれば君が面を思い,峯を臨めば故山を念う。

嘲る勿れ詩客の意を,一榻、各童顔たり。

 

【意訳】

 暑を避けて見る車窓の景色,繞り繞る天と地の間。

 寒き風は鬢髪を吹き,重なる雲は我々を俗世間から隔てくれる。

 眼を閉れば、若かりし頃の、あの子の顔が思い出され,峯を臨めば故郷の山河を思い出す。

 笑はないでね!詩客の心の中を,長いすに座った顔は、皆さん童顔です。

 

其十 七律 夫婦創作蒟蒻餐

 

蔵王山麓百果郷,雪融早春蝶戀香。

弟妹夫妻寛似海,朝朝暮暮爲誰芳?

揉?砕晒聊違俗,歳歳年年謝客忙。

旅途后飯奇蒟蒻,餐餐美味冠星霜。

 

【日語】蔵王の山麓は百果の郷で,雪融けの早春に、蝶は香に戀す。

弟妹夫妻の心は、寛きこと海に似て,朝朝暮暮、誰が爲に芳たり?

揉?砕晒、聊か俗と違い,歳歳年年、客に感謝して忙し。

旅途の后飯は蒟蒻の奇,餐餐は美味にして星霜に冠たり。

 

【意訳】蔵王の山麓は百果の郷で,雪融けの早春に、蝶は花の香りに誘われる。

 弟も妹も夫も妻も、お互い仲が良く、その情は寛きこと海に似て,朝から暮まで、誰の爲に芳しいのでしょうか?

 揉ったり?いたり砕いたり晒たりして、聊か世間並の方法と違います,毎歳毎年、客に感謝して忙しいのです。

 旅の途中の昼飯は珍しい蒟蒻のご馳走である,沢山の美味しいご馳走は、幾歳月も冠たるものである。

 

【注】農家は自営業なので、自営業者の心情は良く分かる。

 

其十一 十六字令 鎌

 

      鎌。

只任前臂強弱腱。

    農民秘,

  割草萬世基。

 

【日語】       鎌。

只だ前臂の強弱は腱に任す。

      農民の秘にして,

   割草は萬世の基なり。

 

【意訳】鎌!

只だ腕と腱の強弱に任せているだけだ!

然しそれは農民の秘技でもあり,

草を刈ると謂うことは、萬世に通じる物事の基本でもある。

 草を刈ると謂うことは、田畑の草刈りを謂うのではない。社会に於いて雑草に擬えられる事象は枚挙に遑がない。それらを排除することこそが、社会の発展と安定に繋がる。

 

其十二 望海潮 題“橋果樹園”

 

  “山形”景勝,“上山”村里,温泉和果樹郷。深厚人情,新鮮果物,出街気爽清涼。開墾幾星霜。懐籬落紅柿,瀟洒廟堂。一雨新涼,門前秀萼競芬芳。

  家長留客龍翔。唱舟歌浪浪,意気洋洋。紅熟果実,繁枝老樹,重畳恩光。旅客回家説妻,家運久能長!

 

【日語】“山形”の景勝,“上山”の村里,温泉和果樹の郷。

深厚なる人情,新鮮な果物,街を出れば気は爽かに清涼なり。

開墾す幾星霜を。

籬落の紅柿,瀟洒な廟堂は懐し。(宅内稲荷神社)

一雨は涼を新たにし,門前の秀萼は芬芳を競う。

 

  家長は客を留めて龍翔し。

舟歌は浪浪と,意気洋洋と唱う。

果実は紅熟し,老樹は繁枝たり,兒孫は勤勉にして揚揚たり。

情熱は八方を動かし。

世間の模範であり、誠実な親族に,重畳なる恩光がある。

旅客は家に回りて妻に説う,家運は久しく能く長しと!

 

【意訳】“山形”を景勝し,“上山”の村里は,温泉と果樹の郷である。

 人情は深く厚く,新鮮な果物,街を出れば気は爽で清涼である。

 豊穣な農地は、土地を拓いて沢山の歳月が過ぎた。

 垣根の縁にある熟した、紅い柿の実,家の脇に祀られた小さな社が、懐かしく郷愁を誘う。

 初秋は一雨ごとに新涼をもたらし,門前に植えられた綺麗な花は、その美しさを競っている。

 

 家長は客を留めて、龍が翔が如く日本一の喉を披露してくれた。

 舟歌は浪浪として,意気洋洋と唱った。

 紅く熟した果実,枝の繁った老樹,兒や孫は勤勉で生き生きとしている。

 この家の情熱は周囲に影響を及ぼす。

 誠実な親族と,重なり畳なる恩光は、周囲の模範である。

 私達は家に回って妻に説た,“橋果樹園”の家運は能く長く続くであろう!

 

【注】著者達にしてみれば模範でもあり反省でもある。

 

其十三 鶯啼序 題“上杉城史”

 

  初秋正欺冷気,異常天無雨。農民友、避暑“山形”,計劃詩同業游。同業宴、温泉旅館,春情艶艶流行曲。看四方、知己相逢,託酒互諭。

  太古繁栄,朝廷幕府,?萬代世運。花開落、外地興隆,野花香帝王哂。古英雄、雄図武人,餘荒塁、不知民悶。慕古賢,不疑巧語,不知虎駿。

  襲来蒙古,祈祷神仏,不悟己虚幻。争戦績、隠戦術拙,星移人代,幾百多年,世情千変。身分制度,温床権益,我也官君也官,読當時、内部離叛。官人俸禄,威脅大衆生活,漸做興業殖産。

  四民平等,俯瞰塵街,翫掌中科技。到今有権益横行,如蜉蝣命,蓄個人財,貪万民利。山間清風,峯上明月,取之無禁存不久,是誰功,収我無限璧。亦逢隔年旅游,農民諸君,可尊友誼。

 

【日語】鶯啼の序 “上杉城史”に題す

  初秋は正に冷気を欺き,異常の天は雨無し。

農民の友、“山形”に避暑に,同業旅游を計劃す。

同業の宴と温泉旅館,春情は艶艶たり流行の曲。

四方に、知己、相逢うて,酒に託して互に諭すを看る。

 

  太古の繁栄,朝廷と幕府,萬代の世運を?う。

花は開き落ち、外地は興隆し,野の花は香り帝王は哂。

古き英雄、雄図の武人は,荒塁を餘し、民悶を不知。

古賢を慕い,巧語を不疑,虎の駿を不知。

 

  蒙古襲来し,神仏に祈祷し,己の虚幻を不悟。

戦績を争い、戦術の拙きを隠し,星は移り人は代り,幾百たる多年,世情は千変す。

身分制度は,権益の温床たり,我也官、君也官,當時の、内部の離叛を読む。

官人の俸禄は,大衆生活の威脅なり,漸にして興業殖産を做す。

 

  四民平等の現代,塵街を俯瞰すれば,掌中の携帯機器を翫ばん。

今に到るも権益の横行有り,蜉蝣の如き命なるも,個人の財を蓄え,万民の利を貪る。

山間の清風,峯上の明月,之を取るに禁ずる無く、不久に存す,是れ誰の功ぞ,我は無限の璧を収む。

亦た逢わん隔年の旅游に,農民諸君,友誼を尊ぶ可。

 

【意訳】鶯啼序 “上杉城史”に題す

  初秋なのに涼しく成らず,今年の天候は異常で雨が降らない。農家の友だちが、避暑で“山形”にゆく,農家旅游の計劃をした。

 みんなで宴会を開き、温泉旅館で,艶めかしい歌謡曲を歌った。四方を見回すと、友達は相逢って,酒の力を借りお互いに諭した。

 

  太古の繁栄から,朝廷と幕府,萬代の世運を逐ってみよう。花は開けば落ちる、都から離れた地方が興隆すると,野の花は香り、それをみて帝王は苦笑いした。

 古の英雄や、雄しき図ごとを為した武人たちは,荒れた遺構をのこして、彼等は民間人の苦悩を知らない。彼等は古い物事に私淑して,巧語に疑いもなく,虎の駿きを不知、現実から離れていた。

 

  蒙古が襲来したときなど,神仏に祈祷したりして,戦術の拙さなど、対外戦の知識に乏しく、己の現実を知らないことなどを、悟ろうともしない。

 それなのに戦績を争い戦功を要求し、戦術の拙なさを隠したりもした,歳月が過ぎ、人も代わり,何年も何年も経過して,世の中も大分変わった。

 士農工商の身分制度は,権益の温床であった,官吏を減らそうにも、自分も官吏で相手も官吏で,当時の事を読むと、内部離叛も沢山あったそうである。官吏の人件費は,大衆の生活の脅威で,漸くどうやらこうやら、殖産興業を実施した。

 

  現代は四民平等である,街の様子を見ると,携帯機器を翫んでいる。だけど今になつても既存権益の横行は有るし,どうせ人の命など、蜉蝣の如く儚いものなのに、個人の財産を蓄積したり,公金を貪る者が居る。

 ちょと視点を変えてご覧なさい、山間の清風や,峯の上の明月など、こんなにも素晴らしいものが,取っても叱られることもなく、永久に取り続けられる,是は誰の功績でしょうか,私達はこの無限にある璧を手中に収めよう。亦た隔年の旅游で逢おう,農民諸君,友人の誼を尊びましょう。

 

春季

 

  曄歌十六首

 

【解説】曄歌は三字+四字+三字の合計十字の三句で構成される漢詩である。押韵は為しても為さなくとも差し支えはないが、為した方が猶更に良いと云われている。

 曄歌は簡単だから容易に読める。作品の意図は読者の判断に任せる。作者は読者が如何様に理解してくれるかが勝負所である。作者の意図通りに理解してくれれば良いのだが、意図通りに理解して貰えない場合は、作者の技倆不足である。

 

春去處。峰巓霧散,村下霧。

 

【日語】春去る處。峰巓の霧は散じ,村下には霧。

 

梅花淡。緑紅果実,櫻花艶。

 

【日語】梅花は淡く。果実は緑紅にして,櫻花は艶かなり。

 

野人家。思君酌酒,發梅花。

 

【解説】君と私の関わりに、梅花は何事かの縁がある。因って君を思って酒を酌めば、君が応えてくれる!と読み替える。

 

観桜遊。年年歳歳,去不留。

 

【日語】観桜の遊。年年歳歳,去って留らず。

 

【解説】毎年花見をしていても、生命有るものは全て、歳月の理から逃れる事は出来ない。

 

艶陽春。一隔黄塵,跡已陳。

 

【日語】艶陽の春。一隔の黄塵,跡は已に陳し。

 

春方寸。探香芳菲,對花問。

 

【日語】春は方寸なり。探香芳菲,花に對して問う。

 

数点春。橋頭踏影,淡粧人。

 

【日語】数点の春。橋頭に影を踏む,淡粧の人。

 

水仙香。一半菜園,是故郷。

 

【日語】水仙の香り。一半の菜園,是れ故郷なり。

 

麦嫩芽。半夜星星,夜寒加。

 

【日語】麦嫩芽。半夜の星星,夜に寒加わる。

 

初雪庭。籬下黒黒,嫩芽青。

 

【日語】初雪の庭。籬下は黒黒として,嫩芽は青し。

 

一村春。一天浮動,一枝新。

 

【日語】一村の春。一天浮動して,一枝新なり。

 

花盆梅。寸地寸水,爲君開。

 

【日語】花盆の梅。寸地寸水,君が爲に開かん。

 

【解説】厳しい状況でも、貴方のために精一杯尽くす。

 

花満堤。亂點酒飯,烏影迷。

 

【日語】花は堤に満ち。亂點酒飯に,烏影も迷う。

 

雨餘天。百花飛盡,僅成篇。

 

【日語】雨餘の天。百花は飛び盡くし,僅かに篇を成す。

 

紅梅花。二十歳月,客中過。

 

【日語】紅梅花。二十の歳月,客中に過ぐ。

 

坐黄昏。残花任地,風有痕。

 

【日語】黄昏に坐せば。残花は地に任せ,風に痕有り。

 

 

  瀛歌 三十五年前啓蟄早晨仙化慈母三首

 

 

【解説】瀛歌3字+4字+3字+4字+4字の漢字十八字の定型である。平仄は他の定型詩に倣い、押韵は句の配置によって為せばよい。この作品は、登仙当日、十三回忌、そして創作当日と、 三十五年を三期に分け、心情の変化を述べることに主眼を措いている。

 

早梅花。慈母登仙,想啓蟄。

亦愕鬢髪,強欲狂歌。

 

【日語】早き梅の花。慈母は登仙し,啓蟄を想う。

亦た鬢髪に愕き,強いて狂歌を欲す。

 

啓蟄日。魂魄黎明,僧侶筆。

歓太平身,尋故郷地。

 

【日語】啓蟄の日。魂魄は黎明に,僧侶の筆。

太平の身を歓び,故郷の地を尋ぬ。

 

窗前梅,二月寒香,鶯作賓。

共成知友,詩寫情眞。

 

【日語】窗前の梅,二月の寒香,鶯は賓を作す。

共に知友を成し,詩に情の眞を寫さん。

 

 

  老躯春情二首

 

淋鈴潤物入簾帷,無信無書半掩扉。

恋恋傷心今欲醒,時時情熱昔多違。

開窗淡淡朝香散,閉眼紛紛夜思違。

雲散雨霽孤館暮,枝頭楚雀爲誰飛。

 

【日語】淋鈴物を潤し簾帷に入り,信無く書無く半扉を掩う。

恋恋たる傷心は今醒めんと欲,時時たる情熱は昔と違うこと多し。

窗を開ければ淡淡と朝香は散じ,眼を閉じれば紛紛と夜の思と違う。

雲は散じ雨は霽れる孤館の暮,枝頭の楚雀は誰が爲にか飛ぶ。

 

【解説】老人と雖も枯れ果てるものではない!と謂って見たいものである。

 

 

  春聯

 

【解説】聯と横批は一体を為す文化の形式で、聯とは建造物の入り口の両側の柱に書かれている、對仗の文言である。市街地ではキャッチフレーズとして書かれた商業看板も頻繁に目にする。

 聯も中華詩詞壇同人誌では、漢詩詞と同じ範疇に入れているので、作品は常日頃目にする。

 器用な人なら著者の作品を見て創作法を会得できるので、創作法は別の機会に譲る。平仄は詩に順じ、柱に書いた場合は左側の柱、横書きなら下側の句を必ず第一声調(陰平)と第二聲調(陽平)にする事が決められている。

 

【解説】春聯とは、春に関わり有る聯を謂う。文言は易しいので、日本語読みは付けない。

 

春風舒柳眼;時雨潤花心。

 

大地春光好;農村気象新。

 

開門大吉人財旺;接福長春国運昌。

 

門對青山林献寶;戸臨緑水浪淘金。

 

 

  横批

 

【解説】横批とは、楹聯と一体を成すもので、建物の入り口の兩柱に聯がある場合、その柱と柱の間に渡された梁に掛けてある大きな額に書かれている文言である。

なお横批は楹聯趣旨を要約、或いは顕出するもので、聯が柱に書かれている場合は、先ず右側の柱を読み、次に横批を読み、次に左側の柱を読むのである。なお聯の有る場所が楹(柱)でない場合は、横批が省略される事もある。

 

四化新春

 

風調雨順

 

國泰民安

 

 

  曄歌八首

 

少女心。早春路標,逐風吟。

 

【日語】少女の心。早春の路標,風を逐いて吟ず。

 

花筏子,秩序依然,小河石。

 

【日語】花筏子,秩序依然たり,小河の石。

 

蘿蔔花。圍繞墓地,夕日斜。

 

【日語】蘿蔔花。墓地を圍繞し,夕日は斜なり。

 

勿忘草。青春日日,花堤道。

 

【日語】勿忘草。青春の日日,花堤の道。

 

春泥濘,大衆酒館,屋漏星。

 

【日語】春の泥濘,大衆酒館の,屋漏星。

 

結縷花。秩父小山,往上爬。

 

結縷花。秩父の小山,爬い往上。

 

蒲公英。空房庭里,獨縦横。

 

蒲公英は。人無き庭を,獨り占め。

 

蒲公英。瀝青裂縫,聴雨聲。

 

蒲公英は。瀝青繕い,雨脚を聴く。

 

 

  晩春閑窗

 

  窓前有小公園,父親的休假日,没有孩子的身姿。孩子們,與父親度過充実的一日。

経雨花飛盡,渉枝鳥語繁。

窗前無孺子,宅里浴親恩。

 

【日語】窓前に小さな公園が有り,父親が休假の日は,孩子の姿はない。孩子們は,父親與充実の日を度過のである。

 

雨を経て花は飛び盡し,枝を渉る鳥語は繁し。

窗前に孺子無く,宅里にて親恩に浴す。

 

【解説】詩には公園のことは書かれていないが、序文には公園のことや父親のことが書かれている。詩は限られた文字の中で全部を述べなければならない訳ではない。序文を設けて、状況設定をする事が出来る。作品は序文と詩とが一体で、一つの作品である。陶淵明の作で序文に桃花源記と詩に桃花源詩と云う作品がある。

 

 

  梅二首 仄韵

 

【解説】日本では絶句は全て平韵の押韵と謂われているが、中華詩詞壇では、絶句には平韵の絶句と仄韵の絶句がある。なお平韵の絶句を律絶と謂い、仄韵の絶句を古絶と謂う。因に日本では古絶とは謂わずに、古詩の範疇とする。なお律詩には仄韵の定型はない。

 

  其一

 

枝頭数点春,二月南窗下。

更在好風姿,綿蛮墻角鳥。

 

【日語】枝頭数点の春,二月、南窗の下。

更に好き風姿在り,綿蛮たり墻角の鳥。

 

  其二

 

閑人観梅遊,一路春猶浅。

屈指何須數,随風客忽満。

 

【解説】この梅観はちょっと様子が違う。屈指何須數,随風客忽満。

とある。何故に客の数を数えるのか?風向きに因って、客が増えてきた!と有る。この辺りに意図を解く糸口がある。

 

 

  曄歌九首

 

【解説】曄歌とは日本の俳句に呼応する漢詩の定型である。依ってその題材も俳句に近くなければならない。物事には目に映る物事と、心に映る物事がある。曄歌は心に映る物事に主眼を置く。

 

落花寒。鶯語留春,追舊歓。

 

【日語】落花は寒く。鶯語は春を留め,舊歓を追う。

 

枯女蘿。舊縁鶯未?紅梅花。

 

【日語】枯女蘿。舊縁の鶯は未だ?紅梅の花。

 

春薔薇。幽庭微香,深夜帷。

 

【日語】春の薔薇。幽庭の微香,深夜の帷。

 

早春情。日中友誼,梅與櫻。

 

【日語】早春の情。日中の友誼,梅與櫻。

 

桜爛漫。離合集散,無線電。

 

【日語】桜爛漫。離合集散,無線電。

 

情悠悠。一衣帯水,観梅游。

 

【日語】情は悠悠。一衣帯水,観梅の游。

 

野人門。白紫花開,十歩園。

 

【日語】野人の門。白紫花は開く,十歩の園に。

 

【注】十歩とは歩幅の十歩で僅かな長さを謂う場合と、面積の単位としての歩が有る。日本には農地の面積単位として、歩と謂う単位があり、一歩は宅地の一坪に相当する。因って非農地なら十坪に相当する。

 

落花軽。蝶怨鶯愁,悪酒横。

 

【日語】落花は軽く。蝶は怨み鶯は愁い,悪酒は横たわる。

 

發花遅。啓蟄覚醒,不背期。

 

【日語】花の發く遅く。啓蟄の覚醒,期に背かず。

 

 

  晩春畝園

 

執筆薫風裏,青苔對日暉。

軽寒清似水,嫋嫋冷侵衣。

老懶聊託詞,栖栖昼掩扉。

妻栽花満架,我未両心違。

 

【日語】筆を薫風の裏に執り,青苔は日の暉きに對す。

軽寒は清きこと水に似て,嫋嫋と冷たく衣を侵す。

老懶は聊か詞に託し,栖栖と昼に扉を掩う。

妻か栽し花は架に満ち,我は未だ両心違ず。

 

 

  芳草雨

 

萬紫無人掃,誰知隔歳華?

新園芳草雨,舊邸侍臣家。

 

【日語】萬紫人の掃う無く,誰ぞ歳華を隔つを知らん?

新園、芳草の雨,舊邸、臣を侍つの家。

 

【解説】この作品は一句毎に、意を凝らして書かれている。一句毎に真意を探り、舊邸侍臣家で作品の意図掴もう。

 

【解説】日本では起承轉結と謂うが、中華詩詞壇では起承轉合と謂う。日本では最後の句を結句と謂って、結論を言う、締め括る句と謂われているが、中華詩詞壇では、結論を言ってはダメ、締め括ってはダメと謂う。合句は結論を導き出す糸口を与える句である。

 

 

  春雨四首

 

【解説】この作品は切実な意図もなく、春雨について、見方を換え、述べ方を変えて、數合わせをしたと云うほどの作品である。凡作駄作の類である。載せることを躊躇したが、駄作の見本も載せる意義があるとの判断で載せた。

 

半夜絲絲雨,養花草又肥。

紅椿落窗下,白露照簾帷。

 

【日語】半夜絲絲の雨,花を養い草又肥ゆ。

紅椿は窗下に落ち,白露は簾帷を照す。

 

雨細花含涙,随風送暗馨。

厭寒門巷寂,童聲凝心聴。

 

【日語】雨は細かに花は涙を含み,風に随って暗馨を送る。

寒を厭いて門巷は寂に,童の聲は心を凝して聴く。

 

昨夜終宵雨,潤花草欲萌。

重衣寒漸減,數幣氣難平。

筆寫三年思,心盈兩地情。

小齊書帙湿,無客聴檐聲。

 

【日語】昨夜終宵の雨,花を潤し草は萌えんと欲。

衣を重ね寒は漸く減じ,幣を數え氣は平らかなり難し。

筆は寫す三年の思を,心は盈つ兩地の情に。

小齊の書帙は湿り,客無くして檐聲を聴く。

 

啜茶聞檐溜,窗前雨似絲。

籬邊梅子未?庭際牡丹遅。

筆寫拙功業,孫癒痛我思。

待晴村巷静,柵上鳥相窺。

 

【日語】茶を啜り檐溜を聞き,窗前の雨は絲に似たり。

籬邊の梅子は未しか?庭際の牡丹は遅し。

筆は拙功の業を寫し,孫は我が思いの痛みを癒す。

晴を待ち村巷は静かに,柵上の鳥は相い窺う。

 

 

  春日郊行郊七抒

 

【解説】七抒とは七つの述べ方を謂う。一つの物事でも、視点の置き方によって千差万別の見方が出来る。自分一人で作品を作って喜んでいるのなら、思うが儘に創って、一つの見方で事足りるかも知れぬが、漢詩詞を指導する立場に成れば、一通りの見方だけでは能力不足である。

 ただし提示作品のレベルは、駄作凡作の類である。然し視点が各各異なる様に創って有るので、この点に留意して、趣旨を読み分ける教材として利用して頂きたい。

 

東郊風暖柳成糸,少婦会友野水涯。

歩歩相説行楽事,花堤無客日西移。

 

【日語】東郊の風は暖かに柳は糸を成し,少婦は友と会う野水の涯。

歩歩相い説う行楽の事,花堤は客無くして日は西に移る。

 

春郊十里草萋萋,紫紫紅紅歸路迷。

與我戯玩追野蝶,平蕪飛翔蹈香泥。

 

【日語】春郊十里草は萋萋として,紫紫紅紅歸路に迷う。

我與戯玩野蝶を追えば,平蕪に飛翔して香泥を蹈む。

 

相逢歳月是何因?執筆思君點紅唇。

菫菜書簽開又閉,花顔恋恋怨青春。

 

【日語】相逢う歳月は是れ何に因る?筆を執り君を思い紅唇を點ず。

菫菜書簽、開きて又閉じ,花顔恋恋として青春を怨む。

 

三三五五到君家,籬落樹陰一朶花。

経雨離枝春又暮,明眸紅頬思無邪。

 

【日語】三三五五君が家に到り,籬落の樹陰に一朶の花。

雨を経て枝を離れ春又暮れ,明眸紅頬、思い邪無。

 

春畦信歩晩風柔,落白成塵去不留。

難消憂愁聊託酒,柳邊橋下水悠悠。

 

【日語】春畦歩に信せ晩風は柔に,白は落ち塵と成り去りて留らず。

憂愁を消し難く聊か酒に託し,柳邊橋下の水は悠悠たり。

 

紅紫花綻似繁星,艶麗鳥聲隔路聴。

嬌喉輕羅是原夢,老梅白白使吾醒。

 

【日語】紅紫花は綻びて繁星に似,艶麗な鳥聲は路を隔てて聴く。

嬌喉輕羅是原夢に,老梅は白白として吾を醒せ使む。

 

三春一路柳枝梳,歩趁桃李花落初。

拾翠翠薫多野興,行迷迷意到君居。

 

【日語】三春の一路、柳枝は梳に,歩は桃李を趁い花は落ち初め。

拾翠の翠薫は野興多く,行き迷い迷う意は、君が居に到る。

 

 

  清明二題

 

【解説】この作品は二首で一つの事柄を述べている。即ち一葉三葩から始まって、春序鋭気破麗嚢。となり、嬌姿短命淡無香。で一意を為し、兩霜偕老から始まって、清明窗下,となり、短命淡無香。で、花の短命に仮借して、人の命の儚さを述べている。

 

  其一

 

窗前四寸紫柔花,一葉三葩聴婦誇。

朝晩啜茶何事好?兩霜偕老即吾家。

 

【日語】窗前四寸紫柔の花,一葉三葩婦の誇るを聴く。

朝晩茶を啜り何事か好き?兩霜の偕老は即ち吾家なり。

 

  其二

 

清明窗下蕾黄黄,春序鋭気破麗嚢。

唯怨天神齎恵雨,嬌姿短命淡無香。

 

【日語】清明の窗下蕾は黄黄と,春序の鋭気は麗嚢を破る。

唯だ怨む天神、恵雨を齎を,嬌姿は短命にして淡く香は無し。

 

 

  春日書窓

 

階前景物坐來移,紫散紅飛豈誤期。

老樹還留花數朶,緑風一陣竟難支。

 

【意訳】縁先の景物も徐々に移ってゆき、咲き誇っていた花も、その時が来れば落ちてしまう。古い枝には未だ少しの花が残っているが、初夏の風が吹けば、枝先に付いていることは到底出来難い。

 即ち、人を取り巻く環境は、歳月と共に移ってゆき、活躍していても、その時が来れば去らざるを得ない。だが偶には頑張って其処に留まって居る者もいるが、次世代の趨勢には抗しきれない。

 

【解説】文字面は季節の移ろいを叙しているが、意図は人間一生の趨勢を述べることにある。読者諸賢は、作品の意図を読み取らなければ、読んだことには成らない。

 前項で著者が自作の作品なのに、拙作駄作である!と謂っているのは、作品の意図が稀薄な作品に対して謂ったのである。言葉は流暢だが作品の意図が見いだせず、何も訴えていない作品がある。是は拙作駄作である。

 提示の作品は、意図が容易に読み取れる作品なので、是に安心して、読み取る努力を怠らないで欲しい。この作品は、模範作品として詩詞壇誌紙に掲載されたことがある。

 

 

  春雨二首

  其一

 

一簾微雨冷春衣,園畝待晴草又肥。

小院青青書院寂,繁忙日日鎖蓬扉。

 

【日語】一簾の微雨は春衣を冷し,園畝は晴を待ち草又肥ゆ。

小院は青青として書院は寂かに,繁忙の日日に蓬扉を鎖す。

 

  其二

 

紅雲香雪萬櫻花,俯瞰塵街径路斜。

可恨陣風催雨急,夫妻老若亂如麻。

 

【日語】紅雲香雪萬櫻の花,塵街を俯瞰すれば径路は斜なり。

恨可陣風は雨を催すこと急に,夫妻と老若は亂れて麻の如し。

 

【意訳】花見客が急の雨で吃驚仰天の様子である。

 

 

  濃春遠景

 

濃春遠景緑陰繁,山麓農家聊避喧。

却覚浮世多薄命,落紅任地自無言。

 

【解説】この作品の本義を引き出す糸口は、落紅任地自無言の句にある。

 

 

 賞櫻二題

  其一

 

山腰四月鳥聲新,枯木一枝動我心。

拈句周遭林下路,偸閑行楽客中春。

江湖歳月從疎懶,陋巷光陰多苦辛。

白白紅紅随所好,欲成四海獨醒人。

 

【日語】山腰四月鳥聲新たに,枯木の一枝は我が心を動かす。

句を拈り周遭す林下の路を,閑を偸み行楽す客中の春を。

江湖の歳月は疎懶に從り,陋巷の光陰は苦辛多し。

白白紅紅随所に好く,成らんと欲す四海獨醒の人に。

 

【解説】この作品の本義を解く糸口は、起聯落句、枯木一枝動我心にあり、他の句は夫れの説明である。

 

  其二

 

柴門騒客白頭新,誰道腐儒市井塵?

執筆品詩覚世変,惜花濺涙貴天眞。

朝欣一望櫻花影,夕學萬巻撃壌民。

我説閑窗尊古道,晴耕雨読?耕人。

【注】撃壌;鼓腹撃壌

 

【日語】柴門の騒客は白頭新たに,騒客に対し誰ぞ腐儒、市井の塵と道?

筆を執り詩を品し世変を覚え,花を惜しみ涙を濺ぎ天眞を貴ぶ。

朝に一望を欣ぶ、櫻花の影,夕に萬巻を學ぶ、撃壌の民。

我は閑窗に古道を尊ぶび,晴耕雨読、?耕の人と説う。

 

【解説】合聯出句の「説」は合聯落句の末字「人」までに関わる。是を管到と謂う。我 説 閑窗尊古道,晴耕雨読?耕人。

執筆品詩覚世変,惜花濺涙貴天眞。の二句は互文としても読める。

 

 

  早春

 

薄寒霜未晴。

“馬鈴薯芽”春信早,遅遅促藕耕。

 

【意訳】未だ薄ら寒く霜も未だ消えない。馬鈴薯の芽は、元気が良く、早く植えろ!と催促する。

 

 

  微雨書窗二首

 

早春茅屋一杯茶,小鳥会朋窗外嘩。

我問昨今精彩在,妻答朝晩薄寒加。

門前白萼應猶硬,籬下紅梅已自誇。

老樹青苗庭上亂,倚欄相昶野人家。

 

【日語】早春の茅屋にて一杯の茶,小鳥は朋と会し窗外に嘩し。

我は問う昨今、精彩在りや?妻は答う朝晩、薄寒加わると!

門前の白萼は應に猶お硬く,籬下の紅梅は已に自ら誇る。

老樹と青苗、庭上に亂れ,欄に倚り相昶なり野人の家。

 

窗前微雨湿梅枝,檐下蜘蛛隠痩姿。

餓鳥找食労戯啅,肥猫取暖鬼神欺。

世俗辛苦非無涙,都邑雄圖莫用私。

素蕚狼藉香脈脈,落地随風何処之。

 

【日語】窗前の微雨は梅の枝を湿らせ,檐下の蜘蛛は痩せた姿を隠す。

餓えた鳥は食を找して労戯啅く,肥えた猫は暖を取りて鬼神欺く。

世俗の辛苦は涙無きに非ず,都邑の雄圖は私に用うる莫。

素蕚の狼藉は脈脈と香り,地に落ち風に随って何処か之ん。

 

【解説】この作品は社会諷刺である。

 

 

 雨中餞春

一簾微雨撲窗声,寂寞山園野趣盈。

色褪香消芳事歇,紅希紫散緑陰成。

吟詩酌酒憐春色,敲句論文慰此情。

坐恨韶光留不得,軽雲已去夕陽晴。

 

【日語】一簾の微雨、窗を撲つ声,寂寞たる山園に野趣盈。

色褪せ香消え芳事歇き,紅希れに紫散じ緑陰を成す。

詩を吟じ酒を酌み春色を憐み,句を敲き文を論じ此情を慰む。

坐に恨韶光、留り不得,軽雲は已に去りて夕陽は晴。

 

【注】この作品は著者が黒潮吟社に入門し、漢詩創作を学んで四年目頃に創った作品である。因って稚拙さが見て取れる。

 

 

  十六字令

 

櫻。野寺前庭訪舊盟。遇君處,樹下共杯傾。

 

【日語】櫻。野寺の前庭に舊盟を訪う。

君に遇う處,樹下で共に杯は傾く。

 

【解説】「十六字令」は、「竹枝」の次に文字数の少ない宋詞の定型である。詞には詩よりも厳しい定型があり、定型名称を「押韵律軆譜號」と謂い、俗称では「詩譜」「填詞譜圖」などと謂われる。

 十六字令の定型は、平起七言絶句の定型から、文字を抜き取ったと考えれば容易に理解でき、別称“偸聲”とも謂われる。

平平 仄仄 仄平平

仄仄 平平 仄仄平

仄仄 平平 平仄仄

平平 仄仄 仄平平

 七言絶句の中抜きにした文字を有効にして作れば良いのである。ただ起句の一字は、作品の趣旨を代表する文字にすることが肝要である。

 

 

  庭梅

 

前峰雪粧晨,老樹枝頭春尚浅。破蕾白於銀。

 

【意訳】漢俳である。前峰は雪粧の晨,老樹の枝頭は春尚浅し。蕾を破り銀於も白し。

 

 

  沁園春・春雨

 

  託酒養懐,凭几聴滴,爲嗤我癡。憂朝街繚乱,昼花白白;暮鐘蕭寂,夜雨絲絲。天壌無窮,人生有限,知轗軻世路更危。多情思,夢中堪一哭,恥我無知。

  凡夫行路何之,知踏上峰巓更峰高。有浮世親友,胸中熱血;有月圓缺,巧拙多岐。歳歳花同,年年人老,小院東風総不欺。籬落下,醒水仙菫菜,鶯到高枝。

 

【日語】酒に託して懐を養い,几に凭りて滴を聴き,我が癡を嗤うを爲す。朝街の繚乱を憂い,昼花は白白たり;暮鐘は蕭寂として,夜雨は絲絲たり。天壌無窮,人生に限有り,轗軻世路の更に危を知る。情思は多く,夢中に堪だ一哭し,我が無知を恥ず。

 

  凡夫の行路何之,峰巓を踏み上れば、更に峰の高きを知る。浮世の親友,胸中に熱血有り;月の圓缺,巧拙多岐有り。歳歳花は同じく,年年人は老い,小院の東風は総て不欺。籬落の下,水仙と菫菜は醒め,鶯は高枝に到る。

 

【解説】この作品は二段構成である。詞は詩と違って、文と同じ様な綴りで書き、一段一章の構成である。因って二段の作品は二章の作品と言える。漢語を綴る場合、章の始まりは文字を二字下げる。

 

【解説】作品中に中抜きの文字が二カ所有り、是を領字と謂う。領字を用いることを領字格と謂い、定型により詳細な決まりがり、領字は「動詞」で章の末字まで働きが及ぶ。

 本冊では逐一示すことはしないが、領字格を知らぬと、創る場合は勿論のこと、古典観賞の場合でも、思わぬ間違いを犯すので注意を要す。

 一段の途中と二段の途中に「;」標があるところがある。ここは;を挟んで両側で對仗を為している部分である。

 

 

  曄歌七首

 

【解説】曄歌は俳句に似た漢詩の定型である。俳句に似て述べることも少ない。想像を巡らして意図を探ることを望む。

 

“七日粥”潮風食案,海村宿。

 

【日語】“七日粥”潮風の食卓,海村宿。

 

【注】七日粥是用早春的七種蔬菜做的粥、新年7日吃,以祈願家人的健康。

 

“奥飛騨”。野猪啼聲,緑雲寒。

 

【日語】“奥飛騨”。猪の啼聲,緑雲は寒し。

 

【注】奥飛騨在岐阜県吉城郡宝村村。

 

無人掃,阿弥陀堂。残紅郷。

 

【日語】掃く人は無き,阿弥陀堂。残紅の郷。

 

【注】阿弥陀堂是供奉阿弥陀仏的堂屋

 

力不支。二路塵泥,落花時。

 

【日語】力支え不。二路の塵泥,花の落る時。

 

不知餓。小人閑居,昼掩扉。

 

【日語】餓知ず。小人閑居して,昼扉を掩う。

 

花落期。古書堆裏,背時宜。

 

【日語】花落ちる期。古書の堆裏して,時宜に背く。

 

客中春。久慕何時,伴佳人!

 

【日語】客中の春。久しく慕う、何れの時にか,佳人を伴なわん!

 

【意訳】仕事で故郷を離れているのか?何れにせよ故郷を離れて迎える春模様。

 何時かは実現したいと思っていた,所帯持ちなら妻と、独身なら心許す人と、この春模様を一緒に過ごしたいものだ!

 

 

  山妻之嘆

萬紫千紅老,擔頭燕子鳴。

幽斎眠不得,芳塵画難成。

託酒閑敲句,耽吟豈欲名。

山妻心執主,白屋暮煙横。

 

【日語】萬紫千紅老いて,擔頭に燕子鳴く。

幽斎に眠を得不して,芳塵の画は成り難し。

酒に託して閑に句を敲き,吟に耽りて豈に名を欲や。

山妻の心は執か主なる,白屋に暮煙横たわる。

 

【解説】夫は詩など創って、呑気にしているが、三度の飯は食うのでしょう!合句に現実が飛び出した。この句が無かったら、ただの文字遊びか?

 

 

  無惑祈神

新春士女朋相期,美麗衣服同一姿。

無惑祈神成何事,悲歓順逆老自知。

 

【日語】新春の士女は朋と相い期し,美麗な衣服を着て皆さん同一の姿です。

祈神に惑無何事か成さん?悲歓順逆は、老いて自から知る。

 

夏季

 

  曄歌・陋巷夏季三首

 

石榴紅。點滴如琴、細雨中。

 

【日語】石榴は紅に。點滴は琴の如く、細雨の中に。

 

石榴紅。学童停課,人影空。

 

【日語】石榴は紅に。学校は休み,人影は空し。

 

石榴紅。路上傘陰,有学童。

 

【日語】石榴は紅に。路上の傘陰に,学童有り。

 

【解説】作例のように第一句を同じにして、幾題も連作することが屡々行われる。曄歌は使いようによっては便利な定型で、連作にして律詩と同じ趣旨を述べることが出来る。律詩を作るには難しいし、かといって古詩も難しい。夫れなら余り規約に厳しくない曄歌の連作が好都合である。

 

 

  曄歌・題酷暑三首組詩

 

炎熱中。老叟門前,百日紅。

 

【日語】炎熱の中。老叟の門前に,百日紅。

 

百日紅。軒下吹頬,一陣風。

 

【日語】百日紅。軒下で頬を吹く,一陣の風。

 

一陣風。嫩紅散地,炎熱中。

 

【日語】一陣の風。嫩紅は地に散る,炎熱の中。

 

【解説】組詩とは幾首かを組み合わせて、一つの趣旨を述べる詩法である。詩法の規約はないが、この作品は一工夫をしている。即ち、初首の末句が次詩の初句に成っているのである

 即ち炎熱中。百日紅。百日紅。一陣風。一陣風。炎熱中。となり、七句24字の作品となる。

 

 

  曄歌十七首

 

草木欣。奔雷洗暑,農夫勤。

 

【日語】草木は欣び。奔雷は暑を洗い,農夫は勤む。

 

燕飛低。夾竹桃花,委黄泥。

 

【日語】燕は低く飛び。夾竹桃の花は,黄泥に委す。

 

燕來歸。巷居閉戸,緑四囲。

 

【日語】燕は歸り來り。巷居は戸を閉し,緑は四囲す。

 

火雲張。妻去隣家,我傾觴。

 

【日語】火雲は張り。妻は隣家に去き,我は觴を傾ける。

 

野人居。白雨傾盆,読詩書。

 

【日語】野人の居。白雨は盆を傾け,詩書を読む。

 

百日紅。解衣拭汗,仰蒼穹。

 

【日語】百日紅。衣を解き汗を拭き,蒼穹を仰ぐ。

 

海辺楼。二八柔肌,尚百憂。

 

【日語】海辺の楼。二八柔肌,尚お百憂す。

 

紫陽紅。宿雨生苔、人影空。

 

【日語】紫陽の紅。宿雨は苔を生し、人影は空し。

 

一簾風。枕上懐人、信書中。

 

【日語】簾越しの風。枕して人を懐う、手紙の中に。

 

【意訳】簾越しの風が入ってくる夏の昼寝時であろうか、手紙の封を開けば、あの人のことが懐い出される

 

亂蛙喧。窗前水田,水半渾。

 

【日語】亂蛙は喧がし。窗前の水田は,水半ば渾。

 

蝉脱殻。緊緊抓住,僧侶宅。

 

【日語】蝉は殻を脱し。緊緊抓住,僧侶の宅に。

 

【解説】僧侶宅に意図を解く糸口がある。

 

夏草高。獨断紅塵,防空壕。

 

【日語】夏草は高く。獨り紅塵を断つ,防空壕。

 

【解説】現代の日本では、老人にしか解らぬ表現だと思ったが、中國では理解されたようだ。

 

色香焙。宇治茶館,打砕氷。

 

【日語】香焙の色。宇治の茶館,氷を打砕。

 

立橋頭。屋形游船,伴白鴎。

 

【日語】橋頭に立てば。屋形の游船に,白鴎は伴う。

 

一聲雷。草木蘇生,房欲頽。

 

【意訳】雷の音。驟雨で草木は甦るけど、部屋は壊れそう。

 

細雨途。是否睡覚,老蝸牛。

 

【日語】細雨の途。眠れるかい?カタツムリ。

 

嗅潮香。海邊漁家,夜長長。

 

【日語】潮香を嗅ぎ。海邊の漁家,夜は長い長い。

 

 

  偲歌・題梅雨二首

 

【解説】偲歌とは男女の艶情を前提にした定型である。因って文字數を合わせさえすれば、何を書くのも可能と謂う訳ではない。又読む方でも、何が書いてあっても、男女の艶情を前提にして読まなければ成らないのである。

 

繊指捲簾,二八明眸。獨凭書窗、爲花憂。

 

【日語】繊指は簾を捲き,二八の明眸。

獨り書窗に凭り、花の爲に憂う。

 

池頭細雨,花半開時。深窗二八、未知悲。

 

【日語】池頭の細雨,花半ば開く時。

深窗の二八、未だ悲しみを知らず。

 

【注】二八とは十六歳を謂い、この場合は十六歳の娘さんである。干涸らびた爺が下手な意訳を付けるには及ばない。

 

 

  瀛歌・題梅雨三首

 

【解説】瀛歌は何を叙しても構わないが、堅苦しいのは絶句や律詩に任せて、純真な恋歌を叙するには好都合な定型である。

 

昼關門。一句懐君、坐小軒。

燕子銜泥,残花傷魂。

 

【日語】昼に門を關じ。一句君を懐いて、小軒に坐す。

燕子は泥を銜み,残花は魂を傷む。

 

【意訳】昼なのに門は閉ざして、貴方のことを思って、小部屋で一句を作っています。

 燕は時期が来れば、期に違わずに、この家に帰ってきて、二羽で巣作りに励んでいます,花はもう凋れようというのに、(貴方が来ないので)私の心は傷みます。

 

白雲迷。小雨菜園、半尺泥。

眼前蝸牛,軒下錆犂。

 

【日語】白雲は迷い。小雨の菜園、半尺の泥。

眼前の蝸牛,軒下の錆びた犂。

 

細雨期。莫道執筆、知音稀。

一句蕉葉,旬日狂痴。

 

【日語】細雨の期。道う莫れ筆を執り、知音は稀なりと。

一句の蕉葉,旬日の狂痴。

 

【意訳】梅雨時の頃。友人と逢うのも稀だから、筆を執って書こうなどとは言うまい。

 便りを芭蕉に書いて、破けて仕舞った・・・と言う話もあるから、十日ほどの長雨で、気も滅入ってしまう。

 

 

 梅霖閑居二首

 

梅熟風鈴黙,雲迷緑掩軒。

窗前紅一朶,歳月個中存。

 

【日語】梅は熟し風鈴は黙し,雲は迷いて緑は軒を掩う。

窗前の紅一朶,歳月は個中に存す。

 

残花任地雨凄凄,暁聞烏鴉何処啼。

六十餘年誰知我,仰天懐友白雲迷。

 

【日語】残花は地に任せ雨は凄凄と,暁に何処かで啼く烏鴉を聞く。

六十餘年、誰ぞ我を知らんや?,天を仰ぎて友を懐えば白雲は迷う。

 

 

  題梅雨三首

 

茶店無人訪,難抛梅一枝。

我約三四輩,買酔得新詩。

 

【日語】茶店に人の訪う無く,抛ち難し梅の一枝を。

我は約す三四輩と,酔を買をて新詩を得んと。

 

門巷無人訪,雲奔水洗園。

窗前何所見?蕊湿樹無言!

 

【日語】門巷に人の訪う無く,雲は奔り水は園を洗う。

窗前に何が見えるのか?蕊は湿りて樹は言無し!

 

寺庭石床冷,解衣凉自催。

難忘清浄地,折扇爲君開。

 

【日語】寺庭の石床は冷かに,衣を解けば凉は自から催す。

忘れ難し清浄の地を,折扇は君が爲に開かん。

 

 

  題梅雨三首

 

我坐書窗下,懐人又自斟。

含羞心悶悶,倒盞湿衣襟。

 

【日語】我は書窗の下に坐し,人を懐いて又自から斟む。

羞を含みて心は悶悶とし,盞を倒し衣襟を湿らす。

 

【意訳】恥ずかしながら、思い人に心は悶悶として、独酌を重ね、酔いが回って、盞をひっくり返して仕舞いました。

 

細雨和檐滴,浮世託禿毫。

到期開蕾急,湿落夾竹桃。

 

【日語】細雨和檐滴と,浮世は禿毫に託す。

時期が到り蕾は急に開き,湿りて落ちる夾竹桃。

 

【解説】意図を探る糸口は、到期開蕾急,湿落夾竹桃。にある。

 

 

  酷暑

 

風起雷聲動,跳珠送雨來。

幽人覚懶脳,閃閃片雲開。

 

【日語】風は起り雷聲は動き,珠を跳ねて雨を送り來る。

幽人の懶脳を覚し,閃閃として片雲は開く。

 

 

  荒庭碧樹

 

痩骨功名念,雄図夜二更。

多年成底事,頃刻任人評。

陋巷紅花落,荒庭碧樹横。

双酌今夕酒,恵畝待晴耕。

 

【日語】痩骨功名の念,雄図する夜二更。

多年、底事か成さんとし,頃刻、人の評するに任す。

陋巷に紅き花は落ち,荒庭に碧き樹は横う。

双酌す今夕の酒,恵畝に晴耕を待つ。

 

【解説】この作品は、起聯と頷聯の前半と、頸聯合聯の後半の、實實虚虚の構成で、意図の糸口は起聯の出句と合聯の落句に有る。

 

 

  題梅雨三首

 

我坐書窗下,一天雲脚低。

紛紛花凋落,聒聒鳥亂啼。

篆字興何盡,蝸牛好共題。

求詩貧士楽,案句壮心迷。

筆硯功名外,塵縁委老妻。

 

【日語】私が書窗の下に坐すと,天の雲脚は低れてくる。

紛紛と花は凋落し,聒聒と鳥は亂啼す。

篆字、興何んぞ盡きん,蝸牛、好く共に題せん。

詩を求め貧士は楽しみ,句を案んじ壮心は迷う。

筆硯は功名の外,塵縁は老妻に委せん。

 

【解説】起聯は自己の所在と窗前の景を写す。

頷聯は庭前の目に見える事と、耳に聞こえる事を述べ實句である。

頷聯は蝸牛の居る事を述べ、梅雨時である事を述べ、實句である。

頸聯は作者の心情を述べ、虚句である。

合聯は現実とは反対のことを述べ、現実を顕在化させる。即ち現実には職務の功名を願い、生活のための諸般は、自分で背負っていると謂い、虚句である。生活のことは全て女房任せなどとは、強がりであろう。

 

梅熟風鈴黙,破窗昼尚昏。

泥深門巷寂,傲世向誰言?

雨細詩書湿,揮毫未敢論。

安拙貧活計,題句別乾坤。

午夢聞檐滴,茅齋聊避喧。

 

【日語】梅は熟し風鈴は黙し,破窗の昼は尚昏し。

泥深くして門巷は寂に,世に傲りて誰に向って言わん?

雨は細に詩書は湿り,揮毫して未だ敢えて論ぜず。

拙を安んず貧活の計,句を題す別乾坤。

午夢、檐滴を聞き,茅齋は聊か喧を避る。

 

我坐梅霖晩,君吟動我神。

相逢心宛轉,麗質養憔身。

共聴句重畳,高情断俗塵。

紅顔詩客痼,白髪腐儒貧。

箇裏春恨在,双棲撃壤民。

 

【日語】我は坐す梅霖の晩,君は吟じ我が神を動かす。

相い逢うて心は宛轉し,麗質は憔身を養う。

共に句を重畳して聴き,高情は俗塵を断つ。

紅顔は詩客の痼なり,白髪は腐儒の貧たり。

箇裏に春の恨は在り,双棲す撃壤の民。

 

【解説】梅雨の雨で何も出来ないから、せめて虚構世界に遊ぼう!と言う、何とも憐れな・・・

 

 

  残暑苦熱三首

 

階前蟋蟀淙淙響,舎角風鈴黙黙懸。

午熱無風眠不就,今宵鎮暑杖頭銭。

 

【意訳】階前の蟋蟀は淙淙と響き,舎角の風鈴は黙黙と懸る。

午熱は風無く眠に就ず,今宵暑を鎮める杖頭銭。

 

驕陽昼永送炎熱,蟋蟀聲枯恨夏天。

午熱無風眠不就,今宵鎮暑杖頭銭。

 

【解説】階前・・・と驕陽・・・の二句は何れも前對格である。更に両作品共に、転句と合句は同じである。此は承知でこの様に作ったのである。其の意図解明は読者に任せる。なお杖頭銭とは、故事晋書阮修傳を参照の事。

 

驕陽矮屋枕書眠,驟雨跳珠覚浅眠。

夢境同僚詩会友,推敲草草不成篇。

 

【日語】驕陽の矮屋に書を枕にして眠り,驟雨は珠を跳し浅眠を覚す。

夢境の同僚は詩会の友,推敲草草にして篇不成。

 

【解説】この三首は夢の中のことでした!と結んでいる。

 

 

  題梅雨六首

 

寒霖破屋詩会友,鬢白懐君筆有縁。

此日相逢書巻外,石榴花湿落暉前。

 

【日語】寒霖の破屋、詩もて友と会し,鬢白君を懐いて筆に縁有り。

此日相逢う書巻外に,石榴の花は落暉の前に湿る。

 

【解説】梅雨六首は偶々目に映ったことと、ちょっとその場の気持ちを書き写したに過ぎない。特筆すべき意図のない作品で、この作品を評価するような間違いを犯さぬ爲の、駄作凡作の見本である。巧言令色少に欺されないように!

 

天昏地湿此心空,几上詩書尺寸功。

垢面妖痾君勿笑,閑窗一句繞芳叢。

 

【日語】天昏く地湿り此の心は空しく,几上の詩書は尺寸の功なり。

垢面の妖痾を君笑う勿れ,閑窗の一句は芳叢を繞れり。

 

模糊細雨是天工,地湿泥深草木叢。

詞客凡情人若問,窗前換景石榴紅。

 

【日語】模糊たる細雨は是れ天工にして,地は湿り泥は深く草木は叢たり。

詞客の凡情を人若し問わば,窗前の景を換える石榴の紅なり。

 

【解説】作品を解く糸口は合句にある。

 

雲迷白髪寸心紆,日日農工似隙駒。

燕子銜泥添客恨,梧桐掩屋競前駆。

疎簾揺動清幽趣,新樹成陰老幹枯。

一片愁心存古道,窗前檐滴老成儒。

 

【日語】雲は迷て白髪寸心を紆ば,日日の農工は隙駒に似たると。

燕子は泥を銜みて客恨に添え,梧桐は屋を掩いて前駆を競う。

疎簾は揺れ動き清幽の趣,新樹は陰を成す老幹の枯。

一片の愁心に古道存し,窗前の檐滴は老成の儒たり。

 

破窗模糊弄雲姿,盡日求詩定未遅。

茅屋蕭然人易感,梅霖狼藉日移西。

相約密会無?到,揮毫芭蕉訴我思。

書湿雨溜文成墨,秋風一陣字如絲。

 

【日語】破窗は模糊として雲姿は弄,盡日詩を求めるも定めて未だ遅からず。

茅屋は蕭然として人は感じ易く,梅霖は狼藉して日は西に移る。

密会を相約するも?到る無く,芭蕉に揮毫し我が思を訴えん。

書は湿り雨は溜り文は墨と成り,秋風一陣して字は絲の如し。

 

【解説】揮毫芭蕉訴我思;典故

 

柴門梅雨隔窗微,茅屋檐頭乳燕飛。

陋巷求雄人亦去,空庭下雨草新肥。

寒厨含笑歓菽水,繊指爲誰縫雨衣。

日午茅齋共煎茗,親朋四五已忘帰。

 

【日語】柴門の梅雨は窗を隔てて微かに,茅屋の檐頭に乳燕は飛ぶ。

陋巷に雄を求めるも人亦去り,空庭に下雨て草は新に肥ゆ。

寒厨に笑を含め菽水を歓び,繊指は誰が爲に雨衣を縫わん。

日午の茅齋に共に茗を煎て,親朋四五已に帰るを忘る。

 

 

  題酷暑

 

雲奔風起片雲開,溌墨吹凉湿砌苔。

忽忽滂滂千尋雨,轟轟閃閃百聲雷。

農夫微笑檐溜下,旅客嘆息市里隅。

可識浮世幾多理,應知溽暑萬餘財。

 

【解説】農夫微笑檐溜下,旅客嘆息市里隅。がこの作品の要旨である。

 

 

  三聯五七律・題酷暑

 

山高草緑火雲張,檐低人疲睡意生。

落空風月興,繁茂豆花棚。

門無車馬樽有酒,雨洗残炎檐馬鳴。

 

【日語】山高く草緑に火雲張り,檐低く人疲れ睡意生ず。

落空は風月の興にして,繁茂は豆花の棚なり。

門に車馬無く樽に酒有り,雨は残炎を洗って檐馬は鳴る。

 

【解説】三聯五七律は三聯(三章)六句から成り立ち、三四句が對仗で一二五六句は散句である。これは絶句の特徴と律詩の特徴を併せ持つ定型である。句の大きさは五言か七言であれば、どんな組み合わせをしても可である。

 門無車馬樽有酒とは、仕事はないが自由はあると謂う意味であるが、是は現代社会でのことである。人により場合により、忘れられる事が目的と言う場合もある。

 

 

  窗前緑風

 

窗前緑緑映蒼穹,白白黄黄昨夜風。

坐想郷閭農事急,方知客裏此歓同。

鶯聲漫漫榴花下,蝶翅匆匆草露中。

卓子茶湯香満椀,茫然注視路邉桐。

 

【解説】

窗前緑緑映蒼穹,實句 白白黄黄昨夜風。實句

坐想郷閭農事急,虚句 方知客裏此歓同。虚句

鶯聲漫漫榴花下,實句 蝶翅匆匆草露中。實句

卓子茶湯香満椀,實句 茫然注視路邉桐。實句

 句の實虚を見ると、出句と落句の實虚は同じである。作品の硬軟は實虚の数と配置とに、関係がある。諸般の判断は読者に任せる。

 

 

 初夏有作

 

南郊一路麦秋天,農戸籬辺榴花燃。

閣閣蛙声緑池裏,喃喃燕語碧窓前。

時能避俗拈吟筆,只管追懐上彩牋。

山館開窓人静坐,薫風漾緑起新蝉。

 

【解説】此処までの数首、各各に際だった意図はない。ただ数首を連続して読むと、其処に一つの意図が浮かび上がるはずである。

 

【解説】閣閣蛙声,喃喃燕語。擬音語は重なると、より強調される。形容詞は重なると強調される。動詞は重なると軽くなる。

 

 

   三聯五七律・題梅雨三首

 

繞屋濛濛雨,路上亂似麻。

豈恥詩拙吟友集,誰知客少涙痕加?

閃閃檐滴急,泥深処処蛙。

 

【日語】屋を繞る濛濛の雨,路上は亂れて麻に似たり。

豈恥んや詩は拙なるも友の集るを,誰ぞ知らん客少くも涙痕の加るを?

閃閃と檐滴は急に,泥は深くして処処に蛙。

 

如霧池邊雨,吟衣小院中。

門巷泥深人亦懶,幽居韵清調相同。

閣閣蛙啼噪,吟聲醒眠功。

 

【日語】霧の如き池邊の雨,吟衣は小院の中に。

門巷は泥深く人亦た懶に,幽居の韵は清くして調相い同じ。

閣閣と蛙啼き噪ぎ,吟聲は眠を醒すの功なり。

 

夜半凉如水,雲迷夏未深。

梅熟苔生宿雨霽,心閑拙養客思侵。

執筆人有涙,半簾乃共斟。

 

【日語】夜半の凉は水の如く,雲は迷い夏は未だ深からず。

梅は熟し苔は生え宿雨は霽れ,心は閑に拙を養い客思は侵す。

筆を執れば人に涙有り,半簾乃共に斟む。

 

 

  書窗看石榴花

 

窗前樹色新,隠葉數枝紅。

桜花任地銘三変,杜鵑共風遊半空。

石榴堪炎熱,種子百千叢。

 

【日語】窗前の樹色は新に,葉に隠されし數枝の紅。

桜花は地に任せ三変を銘じ,杜鵑は風と共に半空に遊ばん。

石榴は炎熱に堪え,種子百千の叢たり。

 

 

  梅雨公園

 

公園緑樹深,雨止露沾襟。

孺子拿球來,老人領狗尋。

院落房屋共狭小,郷間長大勝千金。

 

【日語】公園の緑樹は深く,雨止みて露は襟を沾す。

孺子は球を拿ち來り,老人は狗を領て尋ぬ。

院落の房屋は共に狭小にして,郷間の長大は千金に勝る。

 

 

  三聯五七律・緑風擬農事

 

薫風緑満軒,鶏犬守家門。

臨水心気爽,移歩農事繁。

陋巷愛花塵事少,鬢霜欲擬数畝園。

 

【日語】薫風に緑は軒に満ち,鶏犬は家門を守る。

水に臨みて心気は爽かに,歩を移し農事は繁たり。

陋巷に花を愛し塵事は少く,鬢霜は擬えんと欲す数畝の園で。

 

【解説】一坪菜園を愉しむ様子を、農事を擬えるとしている。

 三聯五七律の五首は特筆すべき意図は述べられていない。単に情景と寸意を弄んだ作品と言える。

 

秋期

 

  曄歌十首

 

【解説】 目に映った景観と、其処から得られる些細な情感を摘みだした作品である。

 

月一鉤。六尺湘簾,漫牽愁。

 

【日語】月一鉤。六尺の湘簾,漫に愁を牽く。

 

草虫鳴。冷気侵肌,懐舊情。

 

【日語】草虫は鳴き。冷気は肌を侵し,舊情を懐しむ。

 

読書秋。一病逢秋,門巷秋。

 

【日語】読書の秋。一病は秋に逢う,門巷の秋。

 

【注】酷暑を過ぎ秋になると、葬儀屋は大忙しである。

 

勝花時。露滴梧桐,日影移。

 

【日語】花に勝るの時。露は梧桐に滴り,日影は移る。

 

【解説】梧桐と日影移に作品の意図がある。

 

訪村荘。雨洗残炎,籬菊黄。

 

【日語】村荘を訪えば。雨は残炎を洗いて,籬菊は黄なり。

 

桂香幽。丹柿紅楓,萬戸秋。

 

【日語】桂香は幽かに。丹柿と紅楓と,萬戸の秋。

 

月侵欄。陋巷塵縁,袖手観。

 

【日語】月は欄を侵し。陋巷の塵縁,手に袖して観る。

 

【解説】袖手観;観ているだけで、人の爲には動かない人。

 

古人書。半夜半燈,髪懶梳。

 

【日語】古人の書。半夜半燈,髪は懶梳。

 

草蟲鳴。一枕西風,已秋聲。

 

【日語】草蟲は鳴き。一枕の西風,已に秋聲なり。

 

赤蜻蛉。小小呼吸,嬰児聲。

 

【意訳】赤とんぼ。小さな呼吸、赤ちゃんの声

 

 

  曄歌晩秋二首組詩

 

【解説】曄歌は小さな詩境しか写せないが、数首を束ねて写せば、大きな詩境にも対応できる。

 漢詩の観賞は好きで、自作をしてみたいと思う人は多い。然し短詩の七言絶句でも、学習しないと創るのは難しい。

 然し曄歌なら、難しい規約はないし、三文字、四文字が綴れさえすれば、国際通用する作品が創れる。夫れを何首も組み合わせれば、詩境も大きくできる。何と都合の良い定型漢詩ではないか!

 

晨霜寒。門巷学生,笑聲温。

 

【日語】晨霜は寒く。門巷の学生,笑聲は温かなり。

 

昴星団。一紙千里,客衣寒。

 

【日語】昴星団。一紙千里,客衣は寒し。

 

 

  曄歌二首組詩初秋

 

一蟲鳴。微月階前,相懐生。

 

【日語】一蟲鳴き。微月の階前,相い生を懐う。

 

二枯枝。一陣冷風,節序移。

 

【日語】二本の枯枝。一陣の冷風に,節序は移る。

 

 

  曄歌二首組詩寒夜微雪

 

幾万斤。朦朧円月,白銀塵。

 

【日語】幾万斤。朦朧たる円き月,白銀の塵。

 

手指丹。弥勒菩薩,花期寒。

 

【日語】手指は丹く。弥勒菩薩,花期寒し。

 

 

  瀛歌

 

天漢流。十年落魄,竹間樓。

無南柯夢,有少年遊。

 

【日語】天漢流れ。十年の落魄,竹間の樓。

南柯の夢は無くも,少年の遊は有り。

 

 

  漢俳 枯芒

 

籬邊菊放芬,枯干芒草人亦老。日日市塵紛。

 

【日語】籬邊の菊は芬を放ち,

芒草は干枯び人は亦た老い、日日の市塵は紛たり。

 

 

  夜坐聞蛩

 

空庭暑退夕陽沈,那処蟲聲覚有心。

昨夜已聞叢底韵,今宵応作壁間吟。

啾々喞々牽愁近,禹々涼々結恨深。

坐惜荒園秋易砕,騒人傾耳契幽襟。

 

【日語】空庭の暑は退き夕陽は沈み,那処か蟲聲に心有るを覚ゆ。

昨夜已に聞く叢底の韵,今宵応に作す壁間の吟。

啾々喞々と愁を牽くこと近く,禹々涼々と恨を結ぶこと深し。

坐に惜む荒園秋の砕け易しを,騒人は耳を傾けて幽襟を契る。

 

【解説】秋を詠った作品六首である。穏やかな秋の様子を詠っていて、訴意は激しくないが、この穏やかな描写が、心の平穏を詠うことに繋がりる。

 

 

  晩涼散策

 

蝉声如雨白雲帰,六尺湘簾照落暉。

盡日幽窓消永昼,終宵胡搨避炎威。

山腰月出窺書案,樹底風來払葛衣。

浴後逍遥江上路,晩涼散策恍忘帰。

 

【日語】蝉声は雨の如く白雲は帰り,六尺の湘簾に落暉は照る。

盡日の幽窓は永昼を消し,終宵の胡搨は炎威を避ける。

山腰に月は出で書案を窺い,樹底に風は來りて葛衣を払う。

浴後逍遥す江上の路を,晩涼散策し恍して帰を忘れる。

 

 

  秋日散歩

 

蜻?斜陽色,何傷節序移。

閑人登石磴,錦繍勝花期。

 

【日語】蜻?は斜陽の色,何んぞ傷まん節序の移るを。

閑人が石磴に登れば,錦繍は花期に勝る。

 

 

  題空房図画

 

柿熟斜陽色,香吹陋巷秋。

空房懸画面,路断繋耕牛。

 

【日語】柿は熟す斜陽の色,香は吹く陋巷の秋。

空房に画面が懸り,路は断えて耕牛を繋ぐ。

 

【解説】秋を詠う対象は、自然の景色だけではない。此は部屋に飾られた絵に描かれた秋景色である。路断繋耕牛が作品の要旨で、此は何を訴えているのか?読者の所見に任せる。

 目に見えたもの、耳で聞いたこと、此を叙すなら誰でも出来る。目に見えたもの、耳で聞いたこと、此を読み取るなら誰でも出来る。

 

 

  勝花時

 

柿熟芭蕉裂,雲流節序移。

應看残照外,一路勝花時。

 

【日語】柿は熟し芭蕉は裂け,雲は流れ節序は移る。

應に残照の外を看れば,一路花に勝る時。

 

 

  行人逢秋

 

星漢輝如昼,行人別故郷。

還思君健否,山駅入秋香。

 

【日語】星漢は昼の如く輝き,行人は故郷に別れる。

還た君の健なるや否やを思い,山駅は秋香に入る。

 

 

  秋日逢朋

 

一路秋光静,残蝉又更攀。

行人分手去,伴侶看花還。

 

【日語】一路秋光静かに,残蝉は又更に攀ず。

行人は手を分ちて去り,伴侶は花を看て還る。

 

【解説】承句の残蝉又更攀に意図の糸口有り。

 

 

  晩秋十三首

 

【解説】曄歌・五絶・七絶・五律・五排律・七律の六定型を使って、晩秋の風情を描写した。単に定型を代えた風情描写ではなく、晩秋でも視点によってその趣は変わる。その視点による趣の違いを、それぞれに相応しい定型に割り振って描写したのである。

  其一

 

落葉飜。草屋十年,菊倚垣。

 

【日語】落葉は飜り。草屋十年,菊は垣に倚る。

 

  其二

 

新酒青山痩,秋老昼掩門。

開窗残柿在,回首旧題存。

 

【日語】酒は新たに青山は痩せ,秋は老い昼は門を掩う。

窗を開けば残柿在り,首を回せば旧題は存す。

 

  其三

 

秋深門巷早寒生,茅屋荒籬葉葉声。

有酒無詩残菊在,多年百事是虚名。

 

【日語】秋深く門巷は早くも寒を生じ,茅屋の籬は荒れて葉葉の声あり。

酒は有りて詩は無く残菊は在り,多年の百事は是れ虚名なり。

 

  其四

 

窗前渋柿悉生香,粗暴烏鴉繞樹翔。

甘熟豊盈枝頭果,家人無摘更貽芳。

輕寒僅迫秋残雨,野鳥集來自有嘗。

半畝軒庭霜信早,寒風落葉見飃揚。

 

【日語】窗前の渋柿は悉く香を生じ,粗暴なる烏鴉は樹を繞りて翔く。

甘熟し豊に盈る枝頭の果,家人は摘む無く更に貽芳す。

輕寒僅に迫る秋残の雨,野鳥集り來りて自ら嘗める。

半畝の軒庭に霜信は早く,寒風は葉を落して飃揚を見る。

 

  其五

 

村園野菊草繁中,礫土無肥葉向東。

微雨僅陽蓄恩澤,吹香競美弄飛蟲。

縱教凍水成枯葉,却自遮風做暖宮。

臥地耐寒蓄活力,新芽穏穏待春風。

 

【日語】村園の野菊は草繁の中に,礫土は無肥にして葉は東に向う。

微雨と僅陽は恩澤を蓄え,香を吹き美を競って飛蟲を弄す。

教縱水を凍らせ枯葉と成るも,却って自から風を遮して暖宮を做す。

地に臥し寒に耐え活力を蓄え,新芽は穏穏と春風を待つ。

 

  其六

 

西郊小径雨初収,柿熟吹香事事幽。

残葉一枝風一陣,閑職兩歳人兩愁。

勤労蟻子相援宿,逸楽螽斯獨自囚。

樹上烏捜枯草里,秋深水冷白雲流。

 

【日語】西郊の小径、雨初めて収り,柿は熟し香を吹き事事幽なり。

残葉一枝、風一陣,閑職兩歳、人兩愁。

勤労の蟻子は相い宿を援け,逸楽の螽斯は獨り自から囚われる。

樹上の烏は捜す枯草の里に,秋は深く水は冷く白雲は流れる。

 

  其七

 

柴扉茅屋共相親,蛬老霜驕落葉頻。

半畝荒園輝白露,一樽濁酒隔紅塵。

栽花案句君休笑,皓歯明眸我躍身。

莫謂老躯艶情萎,籬邊枯草蔵花~。

 

【日語】柴扉の茅屋共に相い親み,蛬は老い霜は驕り、落葉は頻なり。

半畝の荒園に白露は輝き,一樽の濁酒は紅塵を隔つ。

花を栽え句を案んじ君笑を休めよ,皓歯明眸に我が身は躍る。

謂う莫れ老躯の艶情は萎えると,籬邊の枯草も花~を蔵す。

 

  其八

 

籬邊玉露亂蛩音,一穂青燈一字難。

懐友寄詩孤俯仰,農村陋巷共甘酸。

浮名傲世輕衫破,天漢如瓊旅雁寒。

梧葉驚秋人亦老,半彎皓月挂林端。

 

【日語】籬邊の玉露、亂蛩の音,一穂の青燈、一字の難。

友を懐い詩を寄せ孤り俯仰し,農村と陋巷は共に甘酸たり。

浮名は世を傲り輕衫は破れ,天漢は瓊の如く旅雁は寒し。

梧葉は秋に驚きて人は亦老い,半彎の皓月は林端に挂る。

 

【解説】懐友寄詩孤俯仰,農村陋巷共甘酸。この對法は句中對の活用である。懐友と寄詩は句中對で、農村と陋巷も句中對で有る。孤俯仰と共甘酸は出句と落句の對である。

 

  其十一

 

老蛬孤燈下,農功食猶寒。

幽香花一朶,微志思千端。

歳月人若問,風塵我亦安。

霜繁秋麗老,執筆旧題存。

 

【日語】老蛬は孤燈の下に,農功は食猶を寒し。

幽香たる花は一朶,微志たる思いは千端。

歳月を人若し問わば,風塵に我亦安と。

霜繁に秋麗は老い,筆を執れば旧題は存す。

 

  其十二

 

出驛頻握手,相会此日同。

寥寥紅葉盡,爽爽白雲通。

影冷枝頭鳥,心傷足下蟲。

題詩追約会,遣興養情功。

草屋茶聲沸,白頭五尺童。

 

【日語】驛を出て頻に手を握り,相い会し此日を同じうす。

寥寥として紅葉は盡き,爽爽と白雲は通ず。

影は冷かなる枝頭の鳥に,心は傷む足下の蟲に。

詩を題し約を追うて会い,興を遣り情を養うの功。

草屋に茶の聲は沸き,白頭五尺の童たり。

 

【注】白頭五尺童とは、同窓会を想起すれば、同様の情景に接す。

 

  其十三

 

閑庭葉葉帯霜痕,陋巷家家繞篳門。

茅屋偏宜残照色,荒籬趁約菊花繁。

黄黄白白騒人興,勧酒拈詩世俗論。

勿謂楓残吾亦老,吟衫執筆坐南軒。

 

【日語】閑庭の葉葉は霜痕を帯び,陋巷の家家は篳門を繞らす。

茅屋は偏に宜し残照の色に,荒籬は約を趁う菊花の繁に。

黄黄白白は騒人の興に,酒を勧め詩を拈るは世俗の論なり。

謂う勿れ楓は残いて吾も亦老いると,吟衫筆を執りて南軒に坐す。

 

【解説】十三首を通読すると、単に事象と感懐を述べて居る丈の様にみえるが、実は中心となる一本の支えがあって、丁度朝顔が巻き付いているような状態にしてある。

 

 

  巫山一段雲・秋日郊行

 

  一葉紅和緑,無人農事忙。白雲生恰似吾郷。往事思何長。

  二八千金笑,含情淡淡妝。残蝶何処草枯霜。移歩半青黄。

 

【日語】一葉は紅和緑と,人は無く農事は忙し。白雲生じて恰吾郷に似たり。往事を思えば何んと長きか。

 

  二八、千金の笑,情を含みて淡淡の妝い。残蝶は何の処か草は霜に枯れ。歩を移せば半は青黄たり。

 

【解説】作品初句の一葉紅和緑と末句の移歩半青黄とは、連携している。

 

 

  梧桐樹下

 

梧桐樹下九秋初,隔地相思待雁書。

句句思?獨伏枕,一輪皓月照草廬。

 

【日語】梧桐の樹下九秋の初,地を隔て相い思い雁書を待つ。

句句?を思いて獨り枕に伏せば,一輪の皓月は草廬を照す。

 

 

  南窗下

 

牽牛花萎草虫鳴,竹影當窗燈火明。

分手三年音信断,詩箋句句憶君情。

 

【日語】牽牛花は萎み、草虫は鳴き,竹影は窗に當り、燈火は明るし。

手を分ちて三年経ちて、音信は断え,詩箋の句句は君を憶うの情なり。

 

【意訳】秋は物思いの季節でもある。朝顔は凋れ草蟲は鳴く、とは、誰でも郷愁の念に胸傷まされる。別れてから三年経つのに音信がない!とは誰を謂うのであろうか?詩箋句句憶君情の詩箋を読み替えれば、情は一層の現実となる。

 

【注】前掲の梧桐樹下も同様の趣旨である。

 

 

  秋日游麓

 

半香枯草四山秋,一樹斜陽半日游。

多年案句句亦拙,誇耀紅黄似我愁。

 

【意訳】枯れ草が半ば香る、辺りが一面の秋の日,西日が樹に照し掛かる夕刻までの半日ほどの勝游。

多年句をあれこれしていたが、句は何時もと同じで亦拙い,周囲の山々の紅黄は耀き誇って居るが、其れは私の最後の足掻きに似て居るようだ。

 

【解説】誇耀紅黄似我愁とは、著者最後の足掻きに似て、老人の焦りであろう。

 

 

 壬戌七月既望題赤壁遊図

 

月白風清万象幽,泛舟吹笛酒相酬。

覇図如夢人安在,緬想文豪曠代遊。

 

【日語】月白く風清く万象幽かに,舟を泛べ笛を吹き酒相い酬ゆ。

覇図は夢の如の人安くに在や?緬に文豪曠代の遊を想う。

 

【解説】この作品は課題に沿って作られ、構成も文言も述べ方も定型通りである。意図を転句に配しているが、この構成は余りにも一般的で、作者の思慮が見られないので、巧い作品とは謂えない。黒潮吟社に入門して4年目頃の作品である。

 

 

  訪竹馬友

 

浅澗痩魚影,迎冬橋上霜。

雄姿如往事,熱血護故郷。

廣野牛羊背,短籬菊柿香。

爲君茶換酒,留客夜何長!

 

【日語】浅澗に痩魚の影,冬を迎える橋上の霜。

雄姿は往事の如く,熱血は故郷を護る。

廣野、牛羊の背,短籬、菊と柿の香。

君が爲に茶を酒に換え,客を留めて夜の何んと長きか!

 

 

  晩秋對月二首

 

空庭落葉葉堆門,諍友傷吾吾靠轅。

愛慕尋思思我否,憶君對月月臨軒。

 

【日語】空庭に葉は落ち葉は門に堆なり,諍友は吾を傷むに吾は轅に靠。

慕い愛して思いを尋ねるに思は我を否み,君を憶いて月に對すれば月は軒に臨む。

 

【解説】この作品は全對格で有る。更に連綿對でもある。

作品の意図は文字の外にある。諍友傷吾吾靠轅が糸口となる。

 

添炉袖手破綿衣,菊老霜傲蟲聲微。

竹馬兄弟生計拙,晩秋今日雁行稀。

 

【日語】炉に袖手を添て綿衣を破り,菊は老い霜は傲りて蟲の聲は微なり。

竹馬の兄弟は生計拙く,晩秋の今日、雁行は稀なり。

 

 

  訪客換酒

 

寒輕菊老雪晴初,訪客不知満架書。

破壁貧厨茶換酒,一詩一句一心虚。

 

【日語】寒は輕く菊は老い雪は晴れ初め,訪客は知らず満架の書を。

破壁と貧厨なのに茶を酒に換え,一詩一句一心虚し。

 

冬季

 

  寒窗凍雪五首

 

【解説】七言律詩五首には顕在はさせていないが、一つの意図が述べられている。著者の生き様でもあり、憤懣でもある。希望でもあり目途でもある。数首が一組になっている場合は、ここの趣旨と合わせて、全体の趣旨や意図を読み取る事が重要である。

 

寒窗破壁獨読書,尚友潜心與世疎。

閉戸挑燈頻撫手,霜迎檐下逼還舒。

思君託酒吾憐我,意亂胸中盈復虚。

想舊添炉眠不就,粉粉飛雪五更初。

 

【日語】寒窗破壁獨り書を読み,尚友に潜心すれば世と疎し。

戸を閉め燈を挑げ頻りに手を撫ぜ,霜は檐下に迎え還た舒に逼る。

君を思い酒に託し吾は我を憐み,意は胸中に亂れ盈ち復虚し。

舊を想い炉を添え眠に就かず,粉粉たる飛雪は五更の初めに。

 

寒空四面雪舗銀,五尺街灯篩玉塵。

風吼枝頭燈欲凍,躯凍房里意難申。

青年熱血憂家國,白髪健康役此身。

却恨耽奢都市衆,多言袖手慢比隣。

 

【日語】寒空四面雪は銀を舗し,五尺の街灯は玉塵を篩る。

風は枝頭に吼えて燈は凍え,躯は房里に凍え意は申し難し。

青年の熱血は家國を憂い,白髪の健康は此身に役す。

却って恨む奢に耽る都市の衆を,多言袖手して比隣を慢。

 

寒空玉戯白于銀,却賞天花鼓腹民。

潜雪盗賊狡猾鼠,浴陽大衆善心人。

應惆欲火亂平穏,最愛憐憫作竝隣。

陋屋寒厨歓幸福,莫教金屋臭銭塵。

 

【日語】寒空の玉戯は白と銀と,却って天花を賞す鼓腹の民。

雪に潜む盗賊は狡猾なる鼠にして,陽に浴す大衆は善心の人なり。

應に欲火を惆平穏を亂し,最も憐憫を愛して竝隣を作す。

陋屋の寒厨は幸福を歓び,金屋臭銭の塵と教莫。

 

紛紛玉屑正霏霏,埋屋推窗掠地飛。

雪下竜孫能養體,重重落葉斥寒威。

村郷垂髫将如獣,磴磴危峯似彩衣。

菽水之歓誰賞詠,春風解凍雨開幃。

 

【日語】紛紛たる玉屑は正に霏霏として,屋を埋め窗を推し地を掠て飛ぶ。

雪下の竜孫は能く體を養い,重重たる落葉は寒威を斥く。

村郷の垂髫は将に獣の如く,磴磴たる危峯は彩衣に似たり。

菽水之歓誰ぞ賞詠せん?,春風は凍を解き雨は幃を開く。

 

窗前梅樹捩縦横,老骨繙書慰此情。

灼灼枝頭着玉筍,盈盈蕾内育花精。

勿説日日光陰慢,可喜時時韵事成。

何處魁春聲緩渡,風痕無影欲逃名。

 

【日語】窗前の梅樹は縦横に捩れ,老骨は書を繙きて此の情を慰む。

灼灼たる枝頭は玉筍を着け,盈盈たる蕾内は花精を育す。

説勿れ日日、光陰の慢と,喜ぶ可時時、韵事成ると。

何の處か春に魁け聲は緩く渡り,風痕は影無して名を逃れんと欲。

 

 

  寒窗白雪

 

寒窗破壁夜方深,竹馬登仙冷透襟。

読罷信書燈欲凍,紛紛暁雪白塵侵。

 

【日語】寒窗破壁の夜は方に深く,竹馬登仙して冷透襟。

信書を読み罷め、燈は凍らんと欲し,紛紛たる暁雪、白塵は侵す。

 

【意訳】著者の歳になると欠礼の葉書が多い。それも竹馬となると襟元の寒さを感じる。年末などは猶更に寒くなる。

 

 

  寒中散歩欅馬道

 

散歩杖。落葉大欅,碧天網。

 

【意訳】寒中欅並木を散歩する。冬になると欅の葉は墜ち尽くし、細い枝だけが残って、天を仰ぐと網をかぶせたように見える。

 

 

  曄歌 初冬二首

 

暁霜寒。門巷学生,笑聲温。

 

【日語】暁霜は寒く。門巷の学生,笑聲は温かなり。

 

焼落葉。直上昇烟,冬胡蝶。

 

【日語】落ち葉焚き。昇る烟に,冬胡蝶。

 

 

  對聯

 

百草田園趣;三冬日暮時。

 

【注】この對聯は都会人には解るまい。著者の生まれは農家なので、この情は如実である。

 

 

  五言絶句

 

菊萎疎籬外,霜侵落葉時。

開炉傷老骨,養拙恋田園。

 

【日語】菊は萎る疎籬の外,霜は侵す落葉の時。

炉を開きて老骨を傷み,拙を養いて田園を恋す。

 

【解説】開炉傷老骨,養拙恋田園。の句は著者は40代頃は農業をしていたので如実である。他の職業の人でも老人なら、“開炉”と“恋田園”入れ替えれば、即座に通用し、程程の作品となる。

 

 

  飄花江上

 

尺雪闢V地,飄花江上風。

囲炉村路絶,袖手一釣翁。

 

【日語】尺雪の閧ゥな天地,花は飄う江上の風。

炉を囲みて村路は絶え,手を袖する一釣翁。

 

【解説】字面通りに、袖手一釣翁を読めば、寒いので手をふところに入れて、釣をしている人、と読み取れる。

 袖手一釣翁だけを取り出して、別の視点から読むと、どんな爺か?自分のことだけに専念して、他人の事はお構いなしで、何の役にも立たぬ爺である。この頃こういう爺が多い。此を糸口にして作品を読み解けば、作品の意図が解けるかもしれぬ。

 

 

  凍天梅花

 

一白花耶雪,老梅未促春。

鶯聲聲気慢,天凍雨如塵。

陋巷巷情旺,心傷友輔貧。

墻角黄鳥囀,我是太平民。

 

【日語】一白花耶雪か,老梅未だ春を促さず。

鶯聲、聲気は慢たり,天凍りて雨は塵の如し。

陋巷、巷情は旺に,心傷みて友は貧を輔く。

墻角の黄鳥は囀り,我は是れ太平の民なり。

 

【解説】頷聯と頸聯は、各各出句と落句の間で對仗を為していない。

鶯聲聲気慢,天凍雨如塵。

陋巷巷情旺,心傷友輔貧。頷聯と頸聯の間で對仗を為していて、頸聯は頷聯の対章である。

 

【解説】鶯聲聲気慢,と陋巷巷情旺,は、鶯聲+聲気慢,と陋巷+巷情旺,で構成され聲聲と巷巷は文字は連続するが、同一の構成要素ではない。此の書き方を「連綿」と謂う。此を對の要素として用いれば「連綿對」と謂う。

 此に似ている句法で、世事茫茫難自斜,春愁黯黯獨成眠。(韋應物)が有る。此は連珠對或いは畳字對と謂う句法である。

 

 

  五言排律

 

開封南窗下,新霜帯雪横。

憶君詞有涙,揮涙我咽聲。

雁字相思友,林亭獨逸名。

冬來茅屋裏,夢寫錦衣榮。

壁破風漏戸,深更寒意生。

 

【解説】律詩には五言律詩と七言律詩がある。五絶は観念的な雰囲気があり、此を八句にしても矢張り五絶の雰囲気は残っている。

 七言絶句には情緒的な雰囲気があり、八句の律詩でも、その雰囲気は残っている。五言句で七言律詩に似た雰囲気を出すためには、五言十句或いは十二句が相応しい。

 

【解説】日本の漢詩壇では、七言排律は無いと謂われているが、中華詩詞壇では、七言排律の作品も稀には見られ、絶対に無いと云うものではない。なお平仄配置の定型は、起聯と合聯に夾まれる對仗部分が増えると謂われている。

 

 

  七言絶句

 

空庭落葉葉堆池,百草帯霜霜壓籬。

夢迷寒風懐薄命,時如走馬寂羅帷。

 

【日語】空庭の落葉、葉は池に堆し,百草は霜を帯び霜は籬を壓す。

夢は寒風に迷い薄命を懐い,時は走馬の如くに羅帷は寂たり。

 

【解説】落葉葉堆池,帯霜霜壓籬。の、葉と霜が重なる句法を「連綿對」と謂う。

 

 

  七言律詩五首

初冬

  其一

 

楓溪幾曲老苔侵,何処香臺鐘磬音。

一日閑遊纏樹錦,千庭石径満地金。

却嫌養拙無余事,只管求詩慰此心。

古塔穿雲禅境寂,初冬景物濯塵襟。

 

【日語】楓溪幾曲し老苔は侵し,何れの処か香臺鐘磬の音は。

一日の閑遊 樹を纏うの錦,千庭の石径 地に満つるの金。

却って拙を養いて余事の無きを嫌い,只管詩を求めて此心を慰む。

古塔は雲を穿ちて禅境は寂かに,初冬の景物は塵襟を濯う。

 

  其二

 

冬晴十里眼前新,赤卒兩三亦可親。

遥見農家在残柿,應思懇切是天眞。

枝頭幾果養飢鳥,圃角一株慰行人。

可識村郷存古道,尋詩信歩比斯身。

 

【日語】冬晴の十里は眼前新に,赤卒兩三、亦可親。

遥に農家に残柿の在るを見,應に懇切は是れ天眞なるを思う。

枝頭の幾果は飢鳥を養い,圃角の一株は行人を慰む。

可識村郷には古道存し,詩を尋ね歩に信せ斯身に比ぶ。

 

【解説】この作品の意図は可識村郷存古道,にある。この古道に付いては前六句に述べられている。即ち道徳としての「道」を謂う。

 

  其三

 

斜陽小径初冬天,一水溪流泛金氈。

緑葉迎霜堪季変,應懐首夏嫩芽鮮。

紅楓競麗濡冷露,不識明春數蕾妍。

志尚光陰黄梁夢,臨風拭汗少休肩。

 

【日語】斜陽の小径は初冬の天に,一水の溪流は金氈を泛ぶ。

緑葉は霜を迎えて季の変ずるに堪え,應に首夏嫩芽の鮮を懐しむ。

紅楓は麗を競いて冷露に濡れて,識らず明春に數蕾の妍なるを。

志尚は光陰黄梁の夢,風に臨み汗を拭いて少し肩を休めん。

 

  其四

 

松林古木奪天工,冬老何來細細風。

兩樹如梯痩瘤接,一川似画故里同。

遅遅歳月沙盛上,楚楚蓬莱指顧中。

臥見全山霜信早,泥潭盆景道不通。

 

【日語】松林の古木は天工を奪い,冬は老いて何んぞ來らん細細の風。

兩樹は梯の如く痩瘤は接し,一川は画に似て故里に同じ。

遅遅たる歳月は沙盛の上に,楚楚たる蓬莱は指顧の中に。

臥して全山霜信の早きを見,泥潭の盆景は道通ぜず。

 

【解説】初冬の景を、視点を換えて描き出した作品である。ただ此れには、敢えて訴えるべき事は書かれていない。絵葉書に少し情が入った程度である。盆景を叙した作品である。

 

 

 

録當代吟壇名家名作選

  中山逍雀 1939年生于日本國千葉県市川市的一個農民家庭。18歳高中卒業後赴東京進廠做工,有意識地不断変換工作,廣泛接触社会,交際各階層各類人士。之后開始個体経営,従事過商業、電気業、不動産業和畜牧業等。1992年,将?雑的事業範囲収縮,只留下電気安装業。并受日本國厚生大臣委託,開始従事義務性社会福祉活動。1987年創?“漢詩詞同好会葛飾吟社”併任主宰,開展以漢詩詞爲橋梁與中國的文化交流活動。曾數次随団訪問。創造了一種中日詩人都能創作的新短詩,關于詩歌方面的著作頗多。

【注】嘗て当代吟詩人作品選と謂う選集が発行された。著者はこの選集上梓について全く知らなかった。天馬図書有限公司新華書店徐洪發先生の手によるものであった。小生の名がその一隅を占め、日本の詩家として紹介されていたので、著者の自己紹介用として使わせて貰うこととした。掲載作品は−−◇−−標が有る迄である。

  梅雨書窗

一簾微雨一簾風,句句思君矮屋中。

曾訪貴邦情似海,今看雁信意如虹。

 

【日語】一簾の微雨、一簾の風,句句、君を思う矮屋の中。

曾て貴邦を訪ねれば情は海に似て,今雁信を看れば意は虹の如し。

 

【注】情似海とは、情は海の如く寛く深いと謂う意味である。

 

 

  緑陰試筆

 

午枕薫風里,飄紅半是塵。

紫門客無訪,何處鳥聲頻。

活計安吾分,時能詩友親。

吟詩猶懶出,筆執徂春餞。

日日黄黍夢,窗前緑已新。

 

【日語】午枕薫風の里,飄紅は半ば是れ塵。

紫門に客の訪う無く,何の處か鳥聲頻りなり。

活計、吾が分に安んじ,時に能く詩友親しむ。

詩を吟んじ猶出ずるに懶く,筆を執り徂く春に餞す。

日日、黄黍の夢,窗前の緑は已に新なり。

 

【注】この作品は、嘗て佳作選に作品評付きで載せられた事がある。

 

 

  探梅詩

 

溪梅一樹竹成鄰,郁郁飃香獨占春。

氷雪融時蘇痩骨,暖暄彌日啓紅唇。

此臨碧水清標格,也對黄鶯好主賓。

已在香君?催促,素装依約見精神。

  此詩頷聯:“氷雪融時蘇痩骨,暖暄彌日啓紅唇”,已由書法家寫好挂于漁村花園。

 

 

【日語】溪梅一樹と竹は鄰を成し,郁郁たる飃香は獨り春を占む。

氷雪融ける時に痩骨は蘇り,暖暄彌日に紅唇を啓く。

此に碧水に臨み標格は清く,也た黄鶯に對し主賓好し。

已に香君の?なる催促ありて,素装依約して精神を見る。

 

【注】此詩頷聯:の“氷雪融時蘇痩骨,暖暄彌日啓紅唇”,は已に書法家に由って漁村の花園に寫好挂于。

 

 

  望海潮・冬日閑居

 

  踏青兒女,看花酔客,丹情総是童心。街巷賈商,寒厨活計,浮生半是塵心。離別亦傷心。慮母父遺訓,親友遺吟。逸楽悲嗟,少年人事再難尋。

  頽頭不挿凰簪。有未衰血性,應低千金。辞職學文,偸閑案句,明窓豈有煩襟。寄翰結交深。

憶友君執筆,喜夢知音。忽得垂髫胸臆,懐繞去来今。

 

【日語】踏青の兒女,看花の酔客,丹情は総て是れ童心。街巷の賈商,寒厨の活計,浮生は半ば是れ塵心。離別は亦た傷心。母父の遺訓,親友の遺吟を慮る。逸楽悲嗟,少年の人事は再び尋ね難し。

 

  頽頭は凰簪を不挿。未だ血性の衰えざるに,應に千金に低る有り。職を辞し文を學び,閑を偸み句を案ず,明窓豈煩襟有らんや。翰を寄せ交を結ぶこと深く。友を憶い君は筆を執り,喜夢知音。忽ち得たり垂髫の胸臆,懐は繞る去来今。

 

 

  占春芳・梧葉落

 

  芭蕉裂,一雨入新秋。熟珍果西郊景,我還想少年儔。歳月去難留。

  委人評,誰背時流?開封憶君以文會,独恣閑遊。

 

【日語】芭蕉は裂け,一雨新秋に入る。珍果は熟す西郊の景,我は還た少年の儔を想う。歳月は去って留まり難し。

 

  人の評するに委せ,誰ぞ時流に背かんや?封を開き君を憶い文を以って會す,独り閑遊を恣す。

 

 

  長相思・数畝田

 

  一葉船,随分求詩別有天。風騒翰墨縁。

  少休肩,少逃銭。酌酒思君名月前,開信吾未眠。

 

【日語】一葉の船,分に随って詩を求め別に天有り。風騒翰墨の縁なり。

  少し肩を休め,少し銭を逃る。酒を酌み君を思う名月の前,信を開き吾れ未だ眠らず。

 

−−◇−−

無季

 

  桂殿秋・千里客

 

  多年情,開封挙燭到三更。鴻書興何盡?遥憶詩星,不問離程。

 

【日語】多年の情,封を開き燭を挙げて三更に到る。鴻書、興何んぞ盡きん?遥に詩星を憶い,離程を不問。

 

 

  憶秦娥・追憶

 

  吾思切,不知君意。相逢別,相逢別。嬌羞抉胸,将若年魂絶。

  紛紜追憶枯楊畔。懐君執筆,我亦算,我亦算。已知路遠,賦詞散憂。

 

【日語】吾が思いは切に,不知君が意を。相い逢うて別れ,相い逢うて別れ。嬌羞は胸を抉り,将に若年の魂は絶んとす。

 

紛紜たる追憶、枯楊の畔。君を懐いて筆を執り,我亦た算え,我亦た算え。已に路の遠きを知り,詞を賦して憂を散らさん。

 

 

  秋夜月・年軽的相思

 

  託双魚寸心知,互相思。筆有霊章言志,共奚疑。

  才學半,疎情乱,朋愛萎。年少夢淡如水,似花離。

 

【日語】双魚に託す寸心の知,互に相い思い。筆には霊有りて章は志を言う,共に奚疑わん。

 

  才學は半にして,疎情は乱れ,朋愛は萎む。年少の夢は淡きこと水の如く,花の離れるに似たり。

 

 

  清平楽・悲哀的回憶

 

  籬邊窺君,君亦應才智。青雲意,素情無類,恋恋三年思。已過幾歳,胸中私懐亂愁眉。喟然嘆涙,何處黄泉地!

 

【日語】籬邊に君を窺い,君亦應に才智なり。青雲の意,素情無類,恋恋三年の思。已に幾歳か過ぎ,胸中私に懐えば愁眉を亂す。喟然として嘆涙す,何の處か黄泉の地は!

 

 

  曄歌 陋巷雑詠九首

 

【解説】曄歌は日本俳句に準ずると述べたが、無季の作品も多い。夫れは絶句や律詩に季節に拘った作品は差ほど多くはない事から解るように、漢民族は作詩する上で、差ほど季節には拘らないのである。因って此方から応酬する作品も季節に拘らなくなる。

 

仏画幅。昔日面容,遍路宿。

 

【日語】仏画幅。昔日の面容,遍路宿。

 

電鈴止。曲阜一語,誘千里。

 

【日語】ベルは止み、曲阜の一語は、千里への誘い。

 

読書軒。詩債成山,席未温。

 

【日語】読書の軒。詩債は山を成し,席未だ温まらず。

 

下槲實、“熊野神社”出征碑。

 

【日語】槲實の下、“熊野神社”出征の碑。

 

註:槲實是「樫の実」

 

魚鱗雲、世界和平、路程遠。

 

【日語】うろこ雲、世界の平和、路程は遠し。

 

老幹晶。離郷多歳,句未成。

 

【日語】老幹は晶かに。離郷多歳にして,句は未だ成らず。

 

一灯紅。有酒無銭,竹馬童。

 

【日語】一灯紅く。酒は有るのに銭は無し,竹馬の童。

 

読書人。白髪他郷,陋巷貧。

 

【日語】読書の人。他郷の白髪,陋巷の貧。

 

暁鴉聲。只有虚窗,詩未成。

 

【日語】暁の鴉の聲。只だ虚窗有りて,詩は未だ成らず。

 

 

  坤歌二首

 

【参考までに】中國詩詞は概ね無季が多いので、曄歌の無季と坤歌とは、文字面だけでは判別しにくい。然し中国の詩人達は是を判別しているのである。

 漢民族の文化は歴史抜きには語れない。詩歌はその最たるもので、現代でもその状況は変わっていない。彼等は安易に文字を使うことはしない。彼等の文字遣いは慎重な配慮に基づいていて、この事は中國詩家の誰にでも、どの様な作品にも言える事である。

 この事は投稿する側にも、その配慮が必要である。著者は思い付くままに儘に創って、漠然と投稿しているわけではない。先方の意にそぐわないものは投稿していない。この事は国際交流する上での、最低限のルールである。

 

共通詩。日中友誼,曄歌帙。

 

【日語】共通の詩。日中の友誼,曄歌の帙。

 

青青柳。共通詩歌,亜州友。

 

【日語】青青たる柳。共通の詩歌,亜州の友。

 

 

  瀛歌

 

妙句馳。一衣帯水,共通詩。

幾首投稿,萬歳築基。

 

【日語】妙句は馳せ。一衣帯水,共通の詩。

幾首かの投稿は,萬歳の基を築く。

 

 

  漢俳 退休

 

工齢三十年。世界寛廣近隣窄,獨擬耕桑田。

 

【意訳】三十年勤めて定年退職。仕事で世界を相手にしていたのに、近隣を疎かにしていたので、近隣は狭い、一人黙黙と家庭菜園。

 従順に従属する狗や猫を飼うことも多い。

 

 

  對聯十九副

 

【解説】此処に載せた作品は小さな作品だが、現実には数百字に成るものや、回文に成るものや、見た目に興趣有るものや、数えればきりがない。

 對聯はただ読めば良いというものではない。その含蓄は極めて深く、読む度に心に入り込むものである。ただその理解は、ご本人による。

 

寒江雪月三冬白;草屋南天百点紅。

 

兩手皺紋生計拙;一畦晩稲故郷情。

 

秋雨詩門秘;春香野郎餐。

 

百草田園趣;三冬日暮時。

 

満院苔銭生計拙;空階霖雨客心封。

 

細雨穿窗惨野服;残花任地泣騒人。

 

奔雷解渇抛団扇;凉影満身惰性生。

 

百瀑自空垂,洗ュ迎賓;千峰経地染,彩虹湧霧。                       (屋久島)

【解説】此処に掲載した對聯は文字数の少ないものばかりだが、実社会では柱の上から下まで、或いは二行に亘る作品まであり、更にはページに収まらない作品まである。亦更には回文まである。

 是は前聯二句、後聯二句の作品で、前聯「垂」平字で「賓」が仄字で、後聯「染」が仄字で「霧」が平字である。

百瀑自空垂,洗ュ迎賓;

千峰経地染,彩虹湧霧。

 

萬巻詩門秘;千秋筆硯師。

 

一病安心處;千金落魄身。

 

歳歳花開落;年年人死生。

 

子女夫妻福;鶴髪偕老縁。

 

我想青山幾層楼;君看白梅数枝紅。

 

幾度春風人結髪;多年交友月有情。

 

峯嶽雷轟輸急雨;林蹊客惑結深憂。

 

臨風喞喞自終夕;邀月啾啾度永宵。

 

立志諮功出郷里;耽詩溺酒散私財。

 

架上奇書似玉;杖頭宝物難抛。

 

僅歳功名託酒;多年畏友因眞。

 

 

  門巷禍福

 

門巷人語絶,窗前玉樹生。

多愁羞素志,禍福是虚聲。

 

【日語】門巷に人語絶え,窗前に玉樹生れる。

多く素志を羞じるを愁い,禍福は是れ虚聲なり。

 

 

  春夏秋冬

 

韶光十里足驩虞,春夏秋冬奈老躯。

一徑香雲人易酔,離枝漾漾恣歓娯。

十年落魄?憐我,趁約時時叱腐儒。

應擲山館貧士楽,凡夫不厭踏塵衢。

 

【日語】韶光十里驩虞足り,春夏秋冬奈んぞ老躯か?。

一徑の香雲に人は酔い易く,枝を離れ漾漾と歓娯を恣にす。

十年の落魄、?は我を憐み,約を趁うて時時腐儒を叱る。

應に山館に貧士の楽を擲て,凡夫は厭わずに塵衢を踏む。

 

 

  未到愚公歳

案句耽吟共討論,何嫌寒窗究誌魂?

霜頭未到愚公歳,只畏懐痾已九泉。

 

【注】愚公移山;到九十歳的愚公老人計劃転移山的事,終于完成了。

 

【解説】愚公移山と謂う寓話がある。何事も信念を持って継続すれば、必ずや達成されると!

 只畏懐痾已九泉;只だ畏ろしいのは、病気のことを思うと、愚公の歳には、私は已に死んでいるのではと!

 

【日語】句を案じ吟に耽りて、共に討論し,何んぞ寒窗に、誌魂を究めるを嫌うか?

霜頭は未だ愚公の歳に到らず,只だ畏るは、痾を懐いて已に九泉となるを。

 

 

  風月何齎

多年案句乏時才,風月何齎紅葉媒?

雨寫芭蕉揮醉筆,秋収水果無楓臺。

 

【解説】紅葉媒;典故  :雨寫芭蕉;典故

紅葉の媒には紅葉狩りではなくて、その時は果物の収穫していて、雨に芭蕉に寫して居たのでは、直ぐに消えてしまい、夫れ夫れに適った方法をしていない。

 

【日語】多年句を案じ時才を乏べ,風月何んぞ齎さん紅葉の媒を?

雨に芭蕉に寫して醉筆を揮い,秋に水果を収めて楓臺無し。

 

 

  困惑貪得無厭三首

 

銭擲神啓祠,重道更無心。

祈告三千業,困惑贈與誰。

 

【日語】銭を神啓の祠に擲げて,重ねて道う更に無心なりと。

祈りて告げる三千の業を,困惑す誰與贈かと。

 

 

  檐下朱

 

閉戸炉頭坐,襟寒一事無。

栄枯何宿命,苦楽似過駒。

乞食還分手,惜時獨出衢。

雅情迷白雪,俗興對金壺。

守拙南天果,紅紅檐下朱。

 

【日語】戸を閉め炉頭に坐し,襟寒く一事無し。

栄枯は何んぞ宿命,苦楽は過駒に似たり。

食を乞うて還た手を分ち,時を惜みて獨り衢を出ず。

雅情、白雪に迷い,俗興、金壺に對す。

拙を守る南天果,紅紅と檐下に朱なり。

 

【解説】この作品は十句で構成される。簡単に言えば、目に見える物事を書いてある句を實句と云い、目に見えない物事を書いて有る句を虚句と言う。創作者は心の赴くままに句を書いている訳ではない。創作に当たっての第一段階として、實句と虚句の配置を按排しているのである。此が決まってから書き始めるのである。

 

 

  南窗下

華髪屠蘇酒,春回小草堂。

家庭身尚健,老幹一枝香。

 

【日語】華髪屠蘇の酒,春は回る小草堂に。

家庭の身は尚を健に,老幹の一枝は香る。

 

 

  三聯五七律・屋頂上之烏

落后吾房白鉄皮,遮陽避雨護柔肌。

燦燦窗前照,哇哇頭上啼。

告晩報晨新樹影,守拙識道伯鸞妻!

 

【意訳】私の家はトタン屋根,雨露日差しとこの肌守る。

キラキラと窓の前は照り,カアカアと頭上で鴉は鳴く。

朝晩木陰で刻を教えてくれ,家の女房そっくりだ!

 

 

  村郊閑居 全対格(双声仄對)

田畝兩蓮蘇病骨,書斎画虎掃妖氛。

推敲舐筆丹心句,歳月無由白雲村。

 

【解説】先ず双聲仄對の定義をしておこう。語彙の上では對仗を為さないが、双方とも双聲と謂う理由で成り立つ句法である。仄とは偏ると謂う意味で、此処では文字の面では對の要件を備えないが、子音上では双聲の関係がある。

 兩蓮と画虎は語彙の上では對の要件に適っていないが、下記では

兩ling3蓮lin2,

画hua4 虎hu3。   となり、声の上から對である。

推敲舐筆と歳月無由とは、交差した虚実對である。

 

 

  題待郎之圖 全対格(双声仄對)

池畔緑蘆堪驟雨,樓臺艶眼待空房。

思?恋恋一杯酒,隔我凄凄半月窗

 

【注】前掲作品と同様である。

池畔緑lu4蘆lu2堪驟雨,樓臺艶yan4眼yan3待空房。

 

【日語】池畔の緑蘆は驟雨に堪え,樓臺の艶眼は空房に待す。

?を思い恋恋と一杯の酒,我を隔て凄凄たり半月の窗に

 

 

  痩骨貪睡

 

門前草木已春風,痩骨貪睡初旭紅。

怠惰去年生計拙,繕衣有酒酒思融。

滄桑今歳将来患,修學読書書智雄。

可喜家族皆健康,賀正白髪對晴空。

 

【解説】連綿對である。  隔句對である。

 

【日語】門前の草木は已に春風,痩骨は睡を貪り初旭は紅。

怠惰の去年は生計拙く,衣を繕い酒有りて酒は思を融す。

滄桑の今歳は将来患い,學を修め書を読み書は智を雄す。

喜ぶ可し家族は皆な健康で,賀正の白髪は晴空に對す。

 

【解説】文字が重なっている箇所がある。この重なり方には重字と連綿の二通り有る。

 

 

  十六字令五闕

 

櫻。野寺前庭訪舊盟。遇?處,樹下共杯傾。

 

【日語】櫻。野寺の前庭に舊盟を訪う。

?に遇う處,樹下で共に杯を傾けん。

 

塵。担腹詩痴両地春。深似海,投句餞徂春。

 

【日語】塵。担腹の詩痴、両地の春。

深きこと海に似て,句を投じ徂く春に餞す。

 

潯。細雨池亭野水侵。雲散盡,高樹繞枝禽。

 

【日語】潯。細雨の池亭に野水は侵し。

雲は散り盡し,高樹に枝禽は繞る。

 

憂。一葉庭梧先入秋。音信絶,破壁汗珠流。

 

【日語】憂。一葉の庭梧は先ず秋に入り。

音信絶え,破壁に汗珠流る。

 

時。陋巷屋擔野雀子。痩枝下,孔子爲吾師。

 

【日語】時。陋巷の屋擔の野雀子。

痩枝の下,孔子は吾が師と爲す。

 

 

  一絡索 野亭三兩

 

  玉米穂肥畦曠,野亭三兩。縦横公路漲繁華,應有嚇,今方訪。

 

【日語】玉米穂肥に畦曠く,野亭の三兩。縦横の公路、繁華は漲り,應に嚇有りて,今方訪う。

 

【注】先方から戴いた写真に合わせて、返答した作品である。

 

 

  凭欄人 孔廟

 

  千里無疲双鞋軽,店舗攤床今古情。敬仰千載名,孔廟枯易榮。

 

【日語】千里のみちも疲れ無く、双鞋は軽し,店舗と攤床は今古の情。敬仰す千載の名を,孔廟にも栄枯盛衰あり。

 

 

  桂殿秋 蓬頭離俗

 

  耽痼癖,任疎頑。高額字迹皺紋顔,蓬頭暫離俗。在身塵間,在心雲寰。

 

【日語】痼癖に耽り,疎頑に任す。高額の字と皺紋の顔,蓬頭は暫く俗を離る。身は塵間に在りて,心は雲寰に在り。

 

 

  長相思・孤燈獨斟

 

  月影沈,詩興深。舐筆挑燈酒獨斟。思君一片心。

  惜光陰,憶知音。守拙耽詩曾不簪。想君同此心。

 

【日語】月影は沈み,詩興は深し。筆を舐め燈を挑げて酒を獨り斟む。君を思う一片の心。

 

  光陰を惜み,知音を憶う。拙を守り詩に耽り曾つて簪せず。君を想う此の心は同じ。

 

 

  望海潮・芳信那邊

 

  枝頭花發,梅溪郭繞,寒香馥郁含烟。芳信那邊,随風潤物,執筆山寺堂前。磨墨写華箋。聴黄鳥嬌嘯,聚雀繁弦。路傍竹林,*1投石欹耳擬先賢。

  重游山寺堂前。有繁枝蕚麗,衆鳥聲妍。人老花同,栄枯順逆,年年歳歳廻旋。賞梅自當筵。楽酌酒愛花,満座纏錦。陋巷清貧雅興,養拙賦新篇。

*1;正法眼蔵随聞記;香厳撃竹

 

【日語】枝頭に花は發き,梅溪の郭は繞り,寒香馥郁として烟を含む。芳信は那邊に,風に随いて物は潤い,筆を山寺の堂前に執る。墨を磨し華箋を写す。黄鳥の嬌嘯,聚雀の繁弦たるを聴く。路傍の竹林,石を投げ耳を欹て先賢に擬う。

 

  重ねて山寺の堂前に游ぶ。繁枝蕚麗,衆鳥の聲の妍有り。人は老い花も同じ,栄枯順逆,年年歳歳廻旋す。梅を賞し自ら筵に當る。酒を酌み花を愛し,満座纏錦たるを楽しむ。陋巷清貧の雅興,拙を養い新篇を賦さん。

 

社会

 

  坤歌九首

 

【解説】坤歌は曄歌と定型は同じだが名称が異なる。夫れは叙事内容が異なるからである。曄歌は日本俳句に準じているが、坤歌は日本の川柳に準じているのである。

 何故に定型に依って叙事内容を限定するか?と謂えば、坤歌や曄歌は使用する文字数が極端に少ないのである。此は創りやすい反面、叙事内容が少なくなる欠点が有る。此を回避する手段として、定型によって叙事内容を限定するのである。

 因って予め叙事内容が限定されているので、その分として、文字を省くことが出来るのである。

 

【解説】坤歌は時事諧謔を前提に書き、読めばよいのである。

 

太匆匆。魂魄互別,嚢既空。

 

【日語】はなはだ匆匆。心は互に別で,財布は既に空っぽ。

 

政治家。無智無恥,弄雲霞。

 

【日語】政治家は。無智無恥,雲霞を弄ぶ。

 

批評家。無智無為,弄雲霞。

 

【日語】批評家。無智無為,雲霞を弄ぶ。

 

最悪劣。生物兵器,是人血。

 

【日語】最も劣悪。生物兵器は,是れ人血なり。

 

墨子嘆。国会議員,任酸寒。

 

【日語】墨子嘆。国会議員,酸寒に任す。

 

涸轍鮒。老若不知,家経痼。

 

【日語】涸轍の鮒。老若不知,家経の痼を。

 

黒心郎。仮公済私,類佯狂。

 

黒心郎。仮公私済,佯狂に類す。

 

机上謀。空理空論,衆棄途。

 

【日語】机上に謀り事。空理空論,衆は途を棄てる。

 

【解説】時事諧謔を前提にすれば、読んで字の如しである。

 

 

  路傍之大樹

 

路傍有大樹,不知夏幾回。

昔日憩童子,今日篭塵埃。

 

【日語】路傍に大樹有り,不知夏幾回かを?

昔日、童子が憩い,今日塵埃を篭むる。

 

【意訳】道端に大きな木があって、昔は子供が憩の場所にしていたのに、今までは埃をヒッカケられて・・・

 

【解説】此は道端の大樹云々の話ではない。時代の変遷を謂っているのである。昔は人々から慕われて、人のために尽くしても、時勢が変われば、邪慳にされ粗末に扱われる!此が現実の社会と言うものである。

 

 

  少年兵

 

二八憂家國,丹心解柳枝。

親朋蕭酌酒,送餞怨争危。

弟妹堅拉袖,啼哭問歸期。

伏屍童臉士,胸口妙年姫。

勿忘思郷意,衣食暖飽慈。

 

【日語】二八家國を憂い,丹心柳枝を解く。

親朋は蕭として酒を酌み,送餞して争危を怨む。

弟妹は堅く袖を拉み,啼哭して歸期を問う。

伏屍童臉の士,胸口妙年の姫。

忘る勿れ郷を思うの意,衣食暖飽の慈を。

 

【解説】未だあどけなさの残る十六歳の少年は、近くは父母兄弟の爲に、寛くは日本国民のために志願して、自分の出来る精一杯の努力を惜しまなかったのである。多くの献身に因って、私達は今日の平和を享受していることを知らねばならない。

 屍には未だあどけなさが有り、胸のポケットには、心を寄せた娘さんで有ろうか、美しい女性の写真が忍んでいる。

 

 

  時事偶感

 

世情混沌路難尋,貨殖甘言惑衆心。

不道人間名利事,邯鄲夢覚失知音。

 

【日語】世情混沌として路尋ね難く,貨殖甘言は衆心を惑す。

不道の人間、名利の事,邯鄲の夢は覚め知音を失う。

 

【意訳】何故に世の中、こんなにも物欲の権化と成って仕舞ったのか。邯鄲の夢なら覚めて欲しいものだ!この物欲の権化の夢から醒めた時には、もう貴方に心を許してくれるものは、誰も居なくなっているで有ろう!

 

 

  “座禅草”

 

早春融雪水之涯,濃紫清秀座禅姿。

随意雙株相寄久,地中生態有誰知?

 

【注】時事當世即時

 

【日語】早春の融雪、水の涯,濃紫清秀、座禅の姿。

随意なる雙株、相寄りて久しく,地中の生態、誰ぞ知るや?

 

【意訳】 早春の雪融けの頃の水の畔に咲く座禅草,座禅草は濃紫清秀の神々しい姿をしている。

 気儘に生えている二株、大分以前から寄り添って生えているが、地中ではどんな繋がりになっているのか、誰にも解らない。

 

 

  題東芝機械事件

 

劫余永契自由盟,欺信重財奢侈盛。

食足衣盈不知節,却憐島嶼厭論兵。

 

【日語】劫余永く契る自由の盟,信を欺き財を重んじ奢侈盛んなり。

食足り衣盈ちて節を不知,却って憐む島嶼は兵を論んずるを厭うを。

 

 

  当世即時

 

大衆歓閙侮永基,老獪秘密弄時宜。

官人痼疾人間事,順逆同根説向誰?

 

【日語】大衆歓閙して永き基を侮り,老獪は密を秘めて時宜を弄ぶ。

官人の痼疾は人間の事,順逆同根、誰に向って説かん?

 

【注】題は当世即時としているが、此処に述べられていることは、当世に限らない。人類が増えて役割分担が出来たときから、自然発生したした人類の性である。

 

 

  剪徒長枝

 

紅飛紫散竹生孫,燕子歸來語簾前。

萬葉如潮花弄影,千蓬任地髄分根。

刈草耕田今夕飯,山囲風冷老樹村。

剪徒長枝救青幹,農夫情愛整郷園。

 

【日語】紅飛び紫散じて竹は孫を生じ,燕子歸り來りて簾前に語る。

萬葉は潮の如く花は影を弄し,千蓬は地に任せ髄は根を分つ。

草を刈り田を耕す今夕の飯,山は囲い風は冷かなる老樹の村。

徒長枝を剪り青幹を救う,農夫の情愛は郷園を整う。

 

【解説】この謂いは、個別には各々の特徴があり勢いがあることは喜ばしいことだが、農園の様な一団の収量をを上げるためには、全体の樹勢をを調整する必要があり、徒長枝を剪る事は辛いことだが、この調整こそが農夫の情愛で有ると・・・。

 この謂いは、農園を謂うのではなくて、国家の繁栄について謂うのであって、作品の要旨は剪徒長枝救青幹,農夫情愛整郷園。に有る。この様な詩法を「興」と謂う。

 漢詩詞曲の詩法は、賦比興の三詩法が有り、詩は比と興が多く、詞は興が多く、曲は賦が多い。

 

 

  《笠翁對韻》

 

民衆哭重税,老鼠酔金巵。

人對地,幹對枝。

父母對童兒。

貧窮對富貴,友誼對親慈。

貧活計,適當宜。

侠骨對追随。

民衆哭重税,老鼠酔金巵。

紅袖裾雑涸硯海,黄髪杞憂靠虚辞。

歳月其如,自由奔放恣専断;

江湖須識,奢餐軽道無習基。

 

【解説】笠翁對韵という定型である。平仄規定があり、全句が對仗によって形成される。

 

【日語】民衆は重税に哭き,老鼠は金巵に酔う。

人對地,幹對枝。

父母對童兒。

貧窮對富貴,友誼對親慈。

貧活の計,適當な宜。

侠骨對追随。

民衆は重税に哭き,老鼠は金巵に酔う。

紅袖の裾雑に硯海は涸れ,黄髪の杞憂は虚辞に靠れる。

歳月は其の如く,自由奔放にして専断を恣にして;

江湖須く識る,餐を奢り道を軽んじ基を習うこと無きを。

 

国外旅游

 

  中國旅游六首四?

  登“滕王閣”口占 全對格

仰塔疑醉夢,登階駭神奇。

西見悠々景,東聞躍々槌。

高楼頻逐政,陋巷恰如曦。

緬憶千秋業,応窺半世姿。

 

【日語】塔を仰げば醉夢を疑い,階を登れば神奇に駭く。

西に悠々の景を見,東に躍々の槌を聞く。

高楼は頻に政を逐い,陋巷は恰も曦の如し。

緬に憶う千秋の業を,応に窺う半世の姿を。

 

 

  太常引・太湖畔看無錫旅情之歌碑

 

  客程千里暮雲端。恋々涙未乾,日々客衣寒。心迹杳,只懐郷歓。

  竹枝一曲,離情一水。歌声剔胸肝,曲調当浪漫。君勿笑,何分袂難。

 

【日語】客程千里暮雲の端。恋々として涙は未だ乾かず,日々、客衣は寒く。心は迹杳に,只だ郷歓を懐むのみ。

 

  竹枝一曲,離情一水。歌声は胸肝を剔り,曲調は当に浪漫たり。君笑う勿れ,何んぞ袂の分ち難きを。

 

【解説】この作品は「太常引」と謂う詞譜に載せて、「無錫旅情」と謂う歌謡曲の歌詞に題材を得て、組み立てた作品である。

 

 

  羅敷媚・無錫太湖旅游 

 

  桂舟幾纜垂揚岸。微雨如塵,落葉迷津,五色小橋湖水濱。

  烟波萬頃篭漁舸。水育潜鱗,鳥啄芳蘋,千歳綿綿養邑民。

 

【日語】桂舟幾纜垂揚の岸に。微雨は塵の如く,落葉は津に迷う,五色の小橋は、湖水の濱に。

 

  烟波萬頃、漁舸を篭め。水は潜鱗を育し,鳥は芳蘋を啄む,千歳綿綿として邑民を養う。

 

 

  長相思・南京城跡口占

 

  萬塊磚,萬枝鞭。京洛多年更築堅,治乱背否天?

  獨游游,思悠悠。九陌隣翁温且柔,古都蓬鬢秋。

 

【日語】萬塊の磚,萬枝の鞭。京洛多年更に堅を築く,治乱は天に背くや否や?

 

  獨り游游して,思は悠悠たり。九陌の隣翁は温且柔なり,古都蓬鬢の秋。

 

 

  廬山途上之作

 

危岩奇石歩纔通,十里羊腸綺夢中。

仰見峻峰雲靉靆,臥看深渓霧冥濛。

近覘樹蔭花應白,遠望山腰葉已紅。

馥郁香煙包疲脚,廟前一息對秋風。

 

【日語】危岩奇石、歩纔かに通じ,十里羊腸、綺夢の中。

仰ぎて峻峰の雲靉靆たるを見,臥して深渓の霧冥濛を看る。

近くに樹蔭を覘えば、花は應に白く,遠くに山腰を望めば、葉は已に紅なり。

馥郁たる香煙は疲脚を包み,廟前に一息し秋風に對す。

 

【解説】仰見・,臥看・。は仰臥對 近覘・,遠望・。は近遠對。

で有る。他に色相と色相は厳格。数詞と数詞は厳格である。

 

 

  桂殿秋・泥人形

 

  塵不穢,玉為肌,几上彫塑未知悲。紅唇向誰語?秋恋春謳,歳幾遷移?

 

【日語】塵に不穢,玉を肌と為し,几上彫塑は未だ悲を知ず。紅唇は誰に向って語らん?秋に恋し春に謳い,歳は幾遷移?。

 

【意訳】世俗に汚れることもなく、珠の肌の、机の上の人形は未だ悲しんだことが有りません。紅い唇は誰に語り掛けるの?秋には恋をして、春には歌い,もう歳が幾回繞ったのでしょうか?

 

 

  廬山瀑布遠望

 

奇峰萬仭白雲間,身在孤村平野閑。

遥見崚巓一条水,指呼畳嶺半丹山。

諳吟李白題詩景,映瞼陶潜栽菊寰。

両人相斎誰缺聖?客程惻惻遺心還。

 

【解説】廬山瀑布を遠望した作品である。風景描写であるが、両人相斎誰缺聖,客程惻惻遺心還。を叙す事によって、この作品は生命を得た。

 

【日語】奇峰は萬仭にして白雲の間にあり,身は孤村に在りて平野は閑なり。

遥かに崚巓の一条の水を見て,指呼す畳嶺半丹の山を。

諳らんじ吟ず李白が詩を題する景を,瞼に映る陶潜が菊を栽する寰を。

両人相ひ斎しくして誰ぞ聖を缺かんか?客程は惻惻として心を遺して還る。

 

 

  訪朱元璋之旧跡口占

 

星移物換覇図空,往事漸留乱世雄。

未熄人痴火兵苦,徒知政治竹簾中。

 

【日語】星は移り物は換り覇図は空しく,往事を漸く留む乱世の雄。

未だ熄ず人痴、火兵の苦,徒だ政治は竹簾の中なるを知る。

 

【解説】此の詩の本旨は、未熄人痴火兵苦,徒知政治竹簾中。に有る。朱元璋之旧跡は随分と古かったが、現在でも世界の状況は全く同じである。今の世の中、大分見通しが良くなったが、矢張り竹垣の向こうで画策されているようだ。

 

 

  鉄路途上 順風体

衝天火車傍街行,景物如奔暫忘情。

細々左窓存古道,迢々右指見江城。

遊人歓喜数觴酒,鉄路飆輪一日程。

飽客眠醒何処是,模糊廣野暮雲横。

 

【日語】天を衝く火車は街に傍いて行き,景物は奔るが如く暫し情を忘る。

細々と左の窓には古道存し,迢々と右の指には江城を見る。

遊人は歓喜す数觴の酒に,鉄路は飆輪す一日の程を。

飽客の眠りは醒め何処か是は,模糊たる廣野に暮雲は横わる。

 

 

  杜甫縁之草堂 

 

湖邊下坡渓聲裏,楓澗描秋詩聖廬。

遊客萬來閑未得,先生却擾亦移居。

 

【解説】この作品の面白味は、遊客萬來閑未得,先生却擾亦移居。にある。合句が此でなかったら、只の凡作となる。

 

【日語】湖邊の坡を下り渓聲の裏に,楓澗は詩聖の廬に秋を描く。

遊客が萬來して閑未だ得ず,先生は却って擾い亦た居を移す。

 

 

  中國旅游途次十六首

 

【解説】この作品は香港を出発して、還た鐵路香港に到る旅程を叙した作品である。読者諸賢は作品から各各の場所を推定し、道順を示して戴きたい。先ずは飛行機で香港空港に到着した。

 

鵬程萬里疑双瞳,眺望如風數刻中。

處處?唖難解得,纔知文字意思融。

 

【日語】鵬程萬里双瞳を疑せば,眺望は風の如く數刻の中に。

處處は?唖として解し難たく,纔かに文字を知って意思融す。

 

喧喧人簇復何求?老少焚香麗寺樓。

合掌低頭何所似,旅途無語問無由。

 

【日語】喧喧と人は簇りて復た何をか求ん?老少は香を焚く麗寺の樓に。

合掌し低頭し何の似たる所ぞ,旅途に語は無く問に由無。

 

貧居臥地数家連,巨宅遮陽能貯銭。

唯有車窓多少涙,帰途聊慰杏花天。

 

【日語】貧居は地に臥せ数家連り,巨宅は陽を遮りて能く銭を貯う。

唯だ車窓に多少の涙有りて,帰途聊か慰む杏花の天。

 

窮身酌酒百家親,破壁寒燈陋巷貧。

浮薄相論時勢事,人間随分太平民。

 

【日語】窮身に酒を酌み百家親しみ,破壁寒燈陋巷の貧たり。

浮薄にも相論ず時勢の事を,人間は分に随う太平の民なり。

 

郊園白杏迎風動,野岸青揚帯露繁。

一路無人村犬吠,陽春十里小桃源。

 

【日語】郊園の白杏は風を迎て動き,野岸の青揚は露を帯て繁たり。

一路人は無く村吠は犬え,陽春の十里は小さき桃源なり。

 

哀聲商貨雨中巡,自養双親三尺身。

門巷得銭銭換粥,可憐兒女老風塵。

 

【日語】哀聲にて貨を商い雨中を巡り,自から双親を養う三尺の身。

門巷に銭を得て銭は粥に換え,可憐兒女が風塵に老るを。

 

一望奇景是誰工,可恨妖氛衆所崇。

鍾乳從来千古祕,焉知彩飾奪天功。

 

【日語】一望の奇景は是れ誰の工ぞ,恨む可妖氛は衆の崇ぶ所なるを。

鍾乳は從来千古の祕に,焉知らん彩飾は天功を奪うを。

 

滔滔歳月客心傷,歌舞琴聲夢一場。

豈識群僚賢聖徳,荒城無主野花香。

 

【日語】滔滔たる歳月に客心は傷み,歌舞琴聲は夢の一場。

豈識らんや群僚賢聖の徳を,荒城の主は無くも野の花は香る。

 

人生五十結交多,君去誰思薤露歌。

老少悲傷歸一夢,墳犂柏焚歳月過。

 

【日語】人生五十交を結ぶこと多く,君去て誰ぞ思わん薤露の歌を。

老少の悲傷は一夢に歸し,墳は犂かれ柏は焚かれ歳月は過ぐ。

 

凌空百仭林間廟,破浪萬牀渡口船。

気暖光浮芳艸岸,種花鋤圃杏花天。

 

【注】漓江下りの景である。著者は大した思慮もなく「寺」の文字を使ってしまった。そうしたら、詩友から漓江沿岸に、寺はないと指摘され、「廟」に改めた経緯がある。

 

【日語】空を凌ぐ百仭林間の廟,浪を破る萬牀渡口の船。

気は暖かに光は浮ぶ芳艸の岸に,花を種え圃を鋤く杏花の天。

 

四面渾黄土,凄涼山下村。

駅亭人不見,落日照頽垣。

 

【日語】四面は渾て黄土なる,凄涼たる山下の村。

駅亭に人は不見して,落日は頽垣を照す。

 

世事安吾分,営々散窮愁。

青山雲不動,惟見大江流。

 

【日語】世事は吾が分に安んじ,営々として窮愁を散ず。

青山の雲は不動して,惟だ大江の流れるを見る。

 

春深滴翠渓頭路,麥秀陰濃竹外村。

俚婦摘青芳草岸,車窓目送別乾坤。

 

【日語】春は深く翠は滴る渓頭の路に,麥は秀で陰は濃し竹外の村。

俚婦は青を摘む芳草の岸に,車窓の目は送る別乾坤を。

 

眼前風景一望平,鉄路飆輪千里行。

處處求詩詩未就,車窓到来海邊城。

 

【日語】眼前の風景は一望平かに,鉄路は飆輪して千里行く。

處處に詩を求めるも、詩は未だ就かざるに,車窓は到来す海邊の城に。

 

五州物品店頭豊,窮鬼相憐嚢已空。

陳列衆珍観未厭,人間娯楽古来同。

 

【日語】五州の物品は店頭に豊に,窮鬼は相憐む嚢の已に空なるを。

衆珍を陳列して観て未だ厭ず,人間の娯楽は古来同じなり。

 

旅人又訪綵船城,電飾縦横照水明。

巨躬浮江海鮮舫,緑醪珍味亦盈盈。

 

【日語】旅人は又訪う綵船の城に,電飾は縦横に水を照て明かなり。

巨躬を江に浮ぶ“海鮮舫”,緑醪珍味亦た盈盈たり。

 

【解説】最終観光地は再び鐵路香港に到る。

海鮮舫は固有名詞である。固有名詞は“海鮮舫”とするが、周知の固有名詞は、その様にしなくとも好いようである。日本の固有名詞でも京都や富士山などは、知名度が高いので、そのまま使われている。

 

 

  訪古廳之苑變貌如桑海閑散愁無花鳥感有作

 

紅欄狂律転迷民,指上弄絃風起頻。

甘果嫩花凡盡墜,倦禽不語厦堂隣。

 

【日語】紅欄の狂律に転た民迷い,指上に絃を弄すれば風は頻に起る。

甘果嫩花凡て墜ち盡し,倦禽は語らず厦堂の隣に。

 

【解説】官吏の一挙手一投足に民衆は翻弄させられる。夫れもこの度の革命で潰失せ、取り巻きは態を潜めている。

 

 

  漓江百里舟行

 

漓江水濶抱村流,陰見疎林蕭亭樓。

遠岫蒼巓微雨霽,深渓翠壁淡雲収。

澄淵移棹投漁網,碧瀬伴鵜浮釣船。

萬項春畦農事遽,野童負耜叱耕牛。

 

【日語】漓江の水は濶く村を抱きて流れ,陰見す疎林蕭亭の樓を。

遠岫の蒼巓に微雨は霽れ,深渓の翠壁に淡雲は収る。

澄淵に棹を移し漁網を投じ,碧瀬に鵜を伴って釣船を浮ぶ。

萬項の春畦は農事遽しく,野童は耜を負うて耕牛を叱る。

 

 

  長江勝游八首

 

【解説】長江勝游の景観を叙した作品である。半ば観光案内の如き内容で、心情描写は咄嗟の描写に止め、作品の趣旨を阻害せぬ様に図ってある。

 

歩歩清幽極,忘吾入夢魂。

山囲千尋谷,路繞百家村。

仰見青巌嶂,回看朱殿門。

勝遊人若問,一棹帯泥渾。

 

【日語】歩歩清幽を極め,吾を忘れて夢魂に入る。

山は千尋の谷を囲み,路は百家の村を繞る。

仰ぎ見る青巌の嶂を,回り看る朱殿の門を。

勝遊を人若し問わば,一棹泥を帯びて渾ると。

 

【解説】この作品は全行程の要約で、帰国后の感想は一棹帯泥渾となる。この句は、表面的には景物描写の感想であるが、真意は社会観察の感想である。趣旨は一棹帯泥渾にある

 

悠閑船上問來因,日日回遊不及旬。

遮断紅塵流水畔,江風吹面波翻銀。

應知青史羊腸路,旅客登楼柳映津。

萬古栄枯文與武,情情句句未爲眞。

 

【日語】悠閑な船上に、來因を問へば,日日回遊して旬に不及と。

紅塵を遮断す流水の畔に,江風は面を吹き波は銀に翻す。

應に青史羊腸の路を知り,旅客は楼に登りて柳は津に映る。

萬古の栄枯、文與武と,情情句句、未だ眞を爲ず。

 

百里天然画,一条古道横。

興亡唯見日,無跡動郷情。

順逆都如夢,追懐識用兵。

車窗何處是,廣野白雲平。

 

【日語】百里天然の画,一条の古道は横わる。

興亡は唯だ日を見,跡無くして郷情を動かす。

順逆は都夢の如く,追懐して兵を用いるを識る。

車窗何處ぞ是,廣き野に白雲は平らかなり。

 

指呼雲上一仙標,桟径羊腸遠市囂。

五尺情根傷宿世,単床黎暁意無聊。

千里羇泊忘塵累,半夜軽煙気寂寥。

邃澗奇峰天下勝,珈琲香味爽快朝。

 

【日語】指呼す雲上、一仙の標を,桟径は羊腸に市囂は遠し。

五尺の情根、宿世を傷み,単床の黎暁、意は無聊たり。

千里の羇泊、塵累を忘れ,半夜の軽煙、気は寂寥たり。

邃澗の奇峰は天下の勝にして,珈琲の香味は爽快なる朝に。

 

【解説】全8句の中、7句は仙境の描写である。最後の句に珈琲を登場させ、それらの景を全て現代に繋げた。

 

旅興人若問,相酌應舊歓。

吟情聊託酒,拙句助清歓。

山磴方回首,低橋跨急湍。

鐵鯨千人客,嶂聳水天寛。

 

【日語】旅興を人若し問はば,相い酌みて應に舊歓と。

吟情は聊か酒に託し,拙句は清歓を助く。

山磴は方に首を回し,低橋は急湍を跨ぐ。

鐵鯨千人の客,嶂は聳え水は天に寛し。

 

青旗老若語相和,亦愛白髪説舊多。

任性恣情天地祕,可憐酩酊乏酣歌。

排雲攀石神仙宅,應見扁船渡頃波。

淹没幾多富国計,永留胸裏綉山河。

 

【日語】青旗の老若は相い和して語り,亦た白髪を愛し舊を説くこと多し。

性に任せ情を恣す天地の祕を,憐む可し酩酊して酣歌の乏しきを。

雲を排し石を攀ず神仙の宅,應に扁船の頃波を渡るを見る。

淹没す幾多、富国の計を,永く胸裏に綉山河を留む。

 

麓邑清涼界,渓流遠遡源。

峰巓催急雨,残蝶數畝園。

血性酬新詠,雄心一尺魂。

訪詩人跡稀,半天道猶存。

 

【日語】麓邑清涼の界,渓流は遠く源を遡る。

峰巓は急雨を催し,残蝶は數畝の園に。

血性は新詠に酬い,雄心は一尺の魂なり。

詩を訪うに、人跡は稀にして,半天の道は猶存す。

 

半天仰見白雲端,何怕軽舟下急湍。

坐草臨風忘倦脚,一眸万里拜仙壇。

囲卓買酔光陰遡,評画品詩酒盞乾。

鴎鷺談談説不盡,厭倦荊妻把杯看。

 

【日語】半天仰て見る白雲の端を,何んぞ怕れん軽舟が急湍を下るを。

草に坐し風に臨み倦脚を忘れ,一眸万里仙壇を拜す。

卓を囲み酔を買い光陰は遡り,画を評し詩を品し酒盞は乾く。

鴎鷺談談、説いて不盡,厭倦た荊妻は杯を把りて看る。

 

【解説】この作品は、旅游中のことと、帰宅後のことと、二部構成である。起聯と頷聯は旅游中の様子である。頸聯と合聯は帰宅後に友人と旅游の話をしている場面である。遂に妻に厭きられて、杯を取り上げられた。

 

【解説】頸聯の評画品詩の句法を「互文」と謂う。此は画も評し詩も評し、画も品し詩も品すると謂う意味である。二度の言い回しを一度で済ませる句法で、句中對である。

 

 

  洞庭春色・游岱廟和泰山

 

  岱廟泰山,千閣龍祠,萬丈雲巓。恍然天下勝,正陽天睨,門門殿殿,古樹冲天。初次旅游,窺前看左,貨貨人人大道邊。神威厳,鬱鬱柏籟起,深邃幽玄。

  羊腸危路三千。銘刻詞詩顕己世上,衆山無大樹,更無渓水,崔嵬累累,醒不成眠。摩字懐賢,冒寒憐我,漸漸紅紅満澗煙。恩波洽,眼前迎旭日,幽境迴旋。

 

【日語】岱廟泰山,千閣龍祠,萬丈の雲巓。恍然たり天下の勝にして,正陽天睨,門門殿殿にして,古樹は天を冲く。初次の旅游に,前を窺い左を看る,貨貨人人は大道の邊に。神威は厳として,鬱鬱として柏籟起り,深邃にして幽玄たり。

 

  羊腸の危路は三千。銘は詞詩に刻み己に世上に顕る,衆山に大樹無く,更に渓水も無し,崔嵬累累として,醒めて眠を不成。字を摩して賢を懐しみ,寒を冒して我を憐み,漸漸紅紅たる満澗の煙。恩波は洽く,眼前に旭日を迎えれば,幽境は迴旋す。

 

 

  望海潮・游孔門遺跡

 

  孔門遺跡,聖賢國市,青衿順耳羇人。金聯兩行,黄瓦半天,堂堂七十儒臣。香煙混廛塵。識文武千載,慈徳三辰。庶民笑容気温純。

  眼前百事猶新。語聲如楚雀,少女花唇。温暖熱情,彬彬有禮,吾應恥腐儒身。流水幾日淪。惑孔孫生意,覇業人倫。想残碑尋往事,星落意尤眞。

 

【日語】孔門の遺跡,聖賢の國市,青衿順耳の羇人なり。兩行の金聯,黄瓦は半天,堂堂たる七十の儒臣。香煙は廛塵に混る。文武千載,慈徳三辰を識る。庶民は笑容にして気は温純たり。

 

  眼前の百事は猶を新たに。聲は楚雀の如くに,少女の花唇は語る。温暖熱情にして,彬彬有禮たり,吾は應に腐儒の身を恥ず。流水幾日淪。孔孫の生意,覇業の人倫に惑う。残碑を想うて往事を尋ね,星落て意尤眞なり。

 

詠物

 

  詠物題七首

 

【解説】詠物題には特有の句法詩法がある。例えば曄歌の三句であっても、律詩の八句であっても、その他の作品であっても、それぞれの句は、対象物との関わりから離れては成らない。必ず関わり有る事柄を述べなければならなず、作品の殆どは「興」である。

 本冊の全作品に謂えることだが、作品の語彙を丹念に調べても、作品の意図に辿り着けるとは限らない。作品には必ず糸口が有るので、糸口を探り当て、自分の人生と重ね合わせてみることだ!よって、作品の意図は人それぞれに異なることは当然の理である。

 

  箸

 

朝朝暮暮好因縁,砕骨撕肉共苦辛。

雖有君折即我死,竹竹木木勝於銀。

 

【意訳】貴方とは毎朝毎晩、良い因縁です,骨を砕いたり肉を切ったり、一緒に苦労しています。でも貴方が折れると私も死んでしまうのです,竹であったり木で有ったり、相生か良いことが要で、銀製だから良いというものではありません。

 

【解説】此処で謂う貴方とは、箸の片方を謂うので、この意図は、夫婦を謂っているのである。

 

  盆栽

 

青苔一点緑陰稠,染出浅紅葉葉秋。

俯瞰新枝和老樹,千年風雪満林邱。

 

【日語】青苔の一点は緑陰稠く,染い出す浅紅、葉葉の秋を。

俯瞰す新枝和老樹と,千年の風雪は林邱に満つ。

 

  紀元杉 曄歌

 

數千年。深山杉樹,萬物雄。

 

【日語】數千年。深山の杉樹,萬物の雄たり。

 

  折扇里的圖画

 

美女江山兩従容,涼風断続繞芳叢。

指呼三径別天地,遮断人寰路不通。

 

【日語】美女と江山、兩ながら従容たり,涼風は断続し芳叢を繞る。

指呼す三径の別天地,人寰を遮断し路は通ぜ不。

 

【解説】扇子に書かれた画を題材にして、書かれた画を別世界と見立て、その別世界と著者との遣り取りを述べた。遮断人寰路不通で結んでいる。

 

  風鈴

 

鳥聲鐵馬兩鮮明,寂響初秋落葉風。

誰似疲労睡軒下,年経絲繞黄昏鳴。

 

【解説】四句ともそれぞれに風鈴を写している。起句は鳥の声も風鈴の声も鮮明である。承句は風鈴も秋風になると寂しく鳴る。轉句では、その姿は軒下で草臥れているようだ。合句は風鈴も古くなると、糸が絡まって夕方に漸く鳴り出す。

 この作品は何を訴えているのか?其れは著者の現状を謂っているのである。若いときは矢鱈に元気が良く、壮年を過ぎると郷愁が過ぎり、何方かと同じで、草臥れた様子です。そして今は、もつれた糸で、ようやっと動き出す始末。

 

  題空房図画

 

柿熟斜陽色,雀啄富味秋。

空房懸画面,路断繋耕牛。

 

【日語】柿は熟す斜陽色に,雀は啄む富味の秋を。

空房に画面懸り,路を断ちて耕牛を繋ぐ。

 

【解説】秋の風景を描いた画を詠った作品で、絵画の世界と現実世界とを繋ぐ路は断たれている。文字面を辿って解釈しても、作品の意図を読み取った事には成らない。糸口は合句の路断繋耕牛に有る。

 

  渓谷圖画

 

羊腸樵徑白雲山,酌酒弾琴指顧間。

四面紅楓衣欲染,眼前深谷隔人寰。

 

【日語】羊腸の樵徑は白雲の山に,酒を酌み琴を弾ずは指顧の間に。

四面の紅楓は衣を染めんと欲,眼前の深谷は人寰を隔つ。

 

【解説】文字面を手繰って、語彙をどんなに細かに調べても、夫れで作品を読み解くことは出来ない。自分の生き様と重ね合わせて、糸口を探れば、作品の意図が読み取れる。よって、作品の意図は人それぞれに異なることは当然の理である。この事は本冊全作品に言えることである。

 

 

  小花十題

 

【解説】以下の四首は文字面を読めば、殆ど読み解ける構成である。

 

  石榴(ザクロ)

窗前幾点落花春,雨里紅紅半是塵。

緑葉枝頭有鮮果,粒粒嬰兒逼天眞。

 

【日語】窗前の幾点か落花の春,雨里は紅紅として半ば是れ塵。

緑葉の枝頭に鮮果有り,粒粒たる嬰兒は天眞に逼る。

 

  梔子(クチナシ)

籬邊軟蕾晩春時,緑葉遮陽花信遅。

遂有秋天割硬果,橙黄染上貴人衣。

 

【日語】籬邊の軟蕾、晩春の時,緑葉は陽を遮りて花信は遅し。

遂に秋天に硬果を割有て,橙黄は貴人の衣を染上。

 

  罌粟(ケシ)

浮世自古愛花多,一片愁心誘妖魔。

可恐果実産阿片,輕輕素萼勝傾國。

 

【日語】浮世古自り花を愛すること多く,一片の愁心は妖魔を誘う。

恐る可果実は阿片を産し,輕輕たる素萼は傾國に勝る。

 

  罌粟(ケシ)

薄薄玉蕊属西施,淡白微紅絶世姿。

可識隠瞞青史裏,妖葩傾國勝貴妃。

【注】楊妃;楊貴妃

 

【日語】薄薄たる玉蕊は西施に属し,淡白微紅にして絶世の姿なり。

可識 隠瞞は青史の裏に,妖葩の傾國は貴妃に勝る。

 

  八仙花

 

梅霖花發籠紫煙,小小千葩為轉圓。

細雨難除繊枝撓,紛々畳畳若華鈿。

 

【日語】梅霖の花は發き紫煙を籠め,小小千葩轉圓を為。

細雨は除き難く繊枝は撓み,紛々畳畳として華鈿の若し。

 

  階前的“山野草”和牡丹

 

階庭四月養花天,留客酌茶述竝肩。

野草千叢香蕊畳,牡丹幾株玉魂眠。

何恨緑雨唯一日,偏惜紅苞僅數天。

大胆謙虚還寿命,紛紛狼藉受風旋。

 

【日語】階庭の四月は花を養う天,客を留め茶を酌み肩を竝べて述ぶ。

野草千叢の香蕊は畳なり,牡丹の幾株かは玉魂眠る。

何ぞ恨まん緑雨唯だ一日を,偏に惜む紅苞は僅か數天なるを。

大胆謙虚にして還た寿命も,紛紛たる狼藉、風を受けて旋る。

 

【解説】山野草と牡丹とを比較して、・・・・・自分の生き様と重ねてみると・・・・。牡丹は豪奢だけど数日しか保たない。

 

  菊花

 

落葉南軒下,新寒日暮時。

與君相擁坐,淡照折残枝。

 

【日語】落葉す南軒の下に,新寒の日暮れ時。

君與相い擁して坐し,淡照は残枝を折る。

 

【注】淡照;淡き照りとは、夕刻或いは晩秋

 

  菊

 

一簇鮮葩蝋様黄,粉華紬蕋散清香。

芳叢日々争秋色,楚々千枝耐傲霜。

 

【日語】一簇の鮮葩は蝋様黄,粉華紬蕋は清香を散ず。

芳叢は日々秋色を争い,楚々たる千枝は傲霜に耐える。

 

  草珊瑚(せんりょう)自由詩

 

【解説】この作品は「興」であり仮借で有る。作品の意図は読者の人生に置き換えれば、具に理解できる。

 

松杉下,身高僅有三寸三。

矮木影,細竹間。

不識初陽燦,無憂凍雨寒。

 

草珊瑚。

累累小果,粒粒鮮朱。

啄朝雀,掉暮烏。

 

微雨如糸花落季。

薫風換景水暖時。

櫟樹香塵下,四四嫩芽幾百,緑芽両三枝。

春夏秋冬両三遷。

身高已有三寸三。

粒粒鮮紅。

 

【日語】松杉の下,身高は僅かに三寸三有り。

矮木の影,細竹の間。

初陽の燦たるを識らず,凍雨の寒きを憂う無し。

 

草珊瑚。

豊豊たる小果,粒粒たる鮮朱。

朝に雀が啄み,暮に烏が掉く。

 

微雨は糸の如く花が落ちる季節。

薫風は景を換えて水暖の時。

櫟樹香塵の下,四四たる嫩芽は幾百,緑芽は両三枝。

春夏秋冬両三遷。

身高は已に有り三寸三。

粒粒として鮮紅たり。

 

 

  詠物 厠所便器 四首

 

【解説】殆どの詩家は綺麗なものを写したがる。だが便器は現代社会にとって、重要な機材の一つである。人との関わりも古く、食器と同じくらいに、人と密接な関わりを持つ什器の一つである。

 

土塊陶工匠,出窯納小斎。

誰期蒙糞尿,萬戸必需材。

 

【日語】土塊陶工の匠,窯を出でて小斎に納る。

誰ぞ期せん糞尿を蒙とは,萬戸に必需の材たり。

 

時時老大訪清晨,睡眼五尺如滝奔。

只顧担心君健否,年年日日見天眞。

 

【意訳】時時老人が朝早く訪れる,寝ぼけた子供は滝のように勢いがよい。

私にとっては、貴方が健康かどうかが気に掛かる,日日長い間、真の姿を見ています。

 

郊墟陋屋有閑間,半壁半窗一白鞍。

朝晩須騎同飯客,湯風随意太平歓。

陶瓷只有熔変事,色形参差工匠艱。

閉戸模糊窺水面,君吾舊知布衣看。

 

【意訳】郊外の陋屋に閑かな部屋がある,小さな壁と小さな窗と白い鞍。朝晩みな同じ飯を食うものが此に跨り,湯と風が随意に出て来て、とても幸せ。

 陶瓷には只だ焼成するときの違いが有って,色や像のあれこれには、職人の難しさがある。戸を閉じてぼんやりと水面を覗くと,君と吾と、昔からの、飾り気のない本当の姿が見える。

 

獨坐真清福,關門共一天。

朝朝専浄臓,日日互争先。

夜半看童懶,清晨有母賢。

誰知嫁婦涙,想得奉親艱。

不恨同輩誉,緬思工廠煙。

私誇千古器,就任自平安!

 

【日語】獨り坐して真に清福たり,門を關し共に一天をなす。

朝朝、専ら臓を浄い,日日、互に先を争う。

夜半に童懶を看て,清晨に母賢有り。

誰ぞ知らん嫁婦の涙を,想い得たり奉親の艱を。

不恨同輩の誉を,緬に思う工廠の煙を。

私誇る千古器を,任に就きて自から平安たり!

 

【解説】この作品の本旨は、私誇千古器,就任自平安。にある。何ものにも重要な任務があり、その事に誇りが有ると!

 

官吏

 

  坤歌五首

 

【解説】坤歌の定型は曄歌と同じだが、述べることが異なる。社会諷刺や諧謔を述べるのである。読むときには、何が書いてあっても、坤歌の前提で読むのであって、内容によって決めるのではない。

 

架念珠。落網蜘蛛,被埋葬。

 

【日語】念珠を架け。蜘蛛の網に落ちて,埋葬被。

 

奏瑶琴,人皮銭奴,吃赤心。

 

【日語】瑶琴を奏す,人皮の銭奴,赤心を吃う。

 

入錦帷。不知穀倉,黒鼠馳。

 

【解説】特別会計など母家で雑炊、離れて鋤焼き・・・

 

【日語】錦帷に入り。穀倉を不知,黒鼠は馳る。

 

力士禍。官憲不罰,等時過。

 

【解説】相撲部屋のリンチで若い力士が殺されました・・・

 

【日語】力士の禍。官憲は罰せず,時の過ぎるを等。

 

恫紅唇。盗用公款,魁偉人。

 

紅唇を恫し。公款を盗用し,偉人の魁となる。

 

 

  我養花猫

 

花猫吃飽一何安,天下太平似去官。

只恐偽装猾老鼠,貧家米櫃保粮難。

 

【注】花猫;三毛猫  老鼠;悪賢い泥棒

 

【意訳】三毛猫は腹一杯なら天下太平,天下太平なのは退官した役人に似ている。 只恐ろしいのは、悪賢い泥棒の真似をすることだ,貧しい家計を食い散らかすので、用心するのが難しい。

 

 

  對反対建設成田机場並反対国鉄分割民営化之行動憤慨有作

 

横図画策狼狐徒,阿世迂儒無筆誅。

井底棲蛙論大海,繋催眠術乱江湖。

 

【日語】横図画策す狼狐の徒,阿世の迂儒、筆誅無なし。

井底に棲む蛙は大海を論じ,催眠術に繋りて江湖を乱す。

 

 

  流亡民 評林体四首

 

一朝電視照國囂,婦女亡命不可逃。

官吏呆然齋白衫,警察奮力亂青袍。

人権貧困譁論客,援助“拉致”備怪刀。

草舎黙見窗外雨,不知打傘爲誰勞。

  日本国民数百人被北朝鮮工作員強行?架。這個問題還没解決。

 

 

【日語】一朝の電視は國囂を照し,婦女が亡命するも逃る不可。

官吏は呆然として白衫を齋え,警察は奮力して青袍を亂す。

人権と貧困と論客は譁く,援助“拉致”怪刀に備えよ。

草舎で黙して見る窗外の雨を,打傘は誰が爲の勞かを不知

 

  日本国民数百人が北朝鮮工作員に強行?架被。這個問題は還だ没解決。

 

賭命可憐婦,迢迢拭涙看。

何傷家國事,“豆萬”水尚寒。

 

【日語】命を賭ける可憐婦,迢迢と涙を拭て看る。

何んぞ傷まんや家國の事に,“豆萬”の水は尚寒し。

 

真偽糾紛握手難,逃苛犯禁敢求安。

鳶飛魚躍只荒草,豆萬江風是否寒。

 

【日語】真偽糾紛して手を握り難く,逃苛の禁を犯し、敢えて安を求めん。

鳶は飛び魚は躍り、只荒草あるのみ,豆萬江の風は是れ寒きや否や。

 

四海青雲士,積年日出遅。

南征煽敵愾,北向失佳期。

政事羊腸路,陰雲覇業危。

荒村溢飢餓,帝宅侍蛾眉。

爲問誰災禍,革命懐往時。

丹心和俗念,世論細如絲。

 

【日語】四海青雲の士,年を積も日の出る遅し。

南征して敵愾を煽り,北に向いて佳期を失う。

政事は羊腸の路にして,陰雲に覇業は危し。

荒村に飢餓溢れ,帝宅に蛾眉を侍らす。

爲に問う誰が災禍かと,革命の往時を懐う。

丹心和俗念と,世論は細くして絲の如し。

 

 

  近世之亜細亜

 

列強覇業互争先,懐柔隣国迫砲煙。

左手聖書右端銃,人民阿片吏遮天。

須疑富裕即英傑,勿謂飢窮是賤挙。

日日専財誰悟理,暖衣飽食幾経年。

 

【日語】列強の覇業、互に先を争い,隣国を懐柔して砲煙で迫る。

左手に聖書、右に端銃,人民に阿片、吏は天を遮る。

須く富裕は即ち英傑なるを疑うべし,謂う勿れ飢窮は是れ賤挙と。

日日財を専にして誰ぞ理を悟らん,暖衣飽食、幾経年。

 

 

  民衆

 

北風蹴地酒家門,獨坐炉邊只一樽。

傳識病牀醫已去,可憎饗宴價何論?

愚笨群僚軽塵世,無智大衆喜巧言。

反復糊塗誰似得,歓迎百薬水渾渾。

 

【日語】北風は地を蹴る酒家の門,獨り炉邊に坐して只だ一樽あるのみ。

傳え識る病牀の醫は已に去ると,憎む可し饗宴の價は何んぞ論ぜんか?

愚笨なる群僚は塵世を軽んじ,無智の大衆は巧言を喜ぶ。

糊塗を反復して誰ぞ似たるを得んや,百薬を歓迎して水は渾渾たり。

 

 

  伏魔殿

 

伏魔殿栖政商,専私欲貪怠慢。

操巧言煽民衆,餌朝飯奪晩飯。

謂公平枉公道,聚利権恣特権。

二世公子小姐,無恥無智蔑縁。

填沃田築高楼,刺父母買鋼鞍。

衣食足輕仁徳,強欲吝嗇惰眠。

令人可嘆的世道!!

 

【日語】伏魔殿に政商栖み,私欲を専にし怠慢を貪る。

巧言を操り民衆を煽り,朝飯を餌にして晩飯を奪う。

公平を謂い公道を枉げ,利権を聚めて特権を恣す。

二世の公子と小姐,無恥、無智、蔑縁。

沃田を填めて高楼を築き,父母を刺して鋼鞍を買う。

衣食は足りて仁徳を輕んじ,強欲、吝嗇、惰眠。

令人可嘆的世道!!

 

【意訳】役所には政商が栖みつき,私欲にばかり励んで、懶けてばかり居る。

 政治家は耳障りの好いことを謂って、民衆を煽り,目前の欲望を満たして、後からは約束を守らない。

 口では公平を謂いながら、遣ることは道理に適わぬ事をして,のらりくらりと身を処し利権を集めて、特権を遣りたい放題にする。

 二世議員は能力無しで,朝令暮改は朝飯前。

 官僚は大切なものを軽んじ、無駄な大金を使い,愚民は父母を刺して欲しいものを買う始末。

 敗戦後豊になった御陰で、人として最も大切なものを軽視し、強欲、吝嗇、惰眠と成った。

 ああ何と嘆かわしいな、この世の中は!!

 

【解説】この作品は六言句で有る。六言句は2+2+2或いは3+3で構成され「唐韵」である。

 

 

  致退休而與官勾結猶未盡者

 

吏道朦朧約弟兄,年年歳歳偽民情。

名車熱閙欺家國,豪宅凄美恣世名。

俗吏退官應友簇,閑職多禄使人驚。

饑窮遮断閑天地,馬耳東風碧蘚生。

 

【日語】吏道は朦朧と弟兄を約し,年年歳歳民情を偽る。

名車熱閙家國を欺き,豪宅凄美世名を恣にす。

俗吏は官を退きて、應に友簇り,閑職多禄、人をして驚か使。

饑窮を遮断す閑天地,馬耳東風にして碧蘚は生える。

 

【意訳】天下り官僚を揶揄した作品である。是が中國で紙面に載ったことは、中國でも役人の横行は日本と同様と言える。

 

工人咏懐

 

  漢俳・近古稀

 

開墾栽樹苗。一年一葉應發育,不憂老駱背。

 

【日語】開墾し樹苗を栽る。

一年一葉ずつ應に發育す,老駱背を不憂。

 

 

  漢俳五首

 

【解説】漢俳は日本俳句に呼応して、中國の文化人が創成した定型である。因って文字数を五七五に合わせてある。だが表意文字と表音文字では、自ずと情報量の違いは否めない。

 詩法も漢詩詩詞法に準じ、文字数が少ないからと謂っても、何も謂っていないわけではない。文字面通りに読んだのでは、読んだことには成らない。

 

拭汗老農勤。晩餐囲坐思孫酒,合掌祷神勲。

 

【日語】汗を拭いて老農は勤め。

晩餐に坐を囲んで孫酒を思い,掌を合せ神勲を祷る。

 

葉背昆虫卵。月華星影只睡眠,母祷天行健。

 

【日語】葉背昆虫の卵。

月華星影只睡眠,母は天行の健なるを祷る。

 

昼睡門前犬。不知父母秋光静,半霜長寿面。

 

【日語】昼睡る門前の犬。

父母は知らず秋光の静けさを,半霜長寿の面。

 

【解説】意図の糸口は昼睡門前犬にある。犬とは何を指して謂っているのか?文字面通りに読んでは、読んだことには成らない。犬とは何を指して謂うのか?

 

日日半塵泥。柳外風軽人亦懶,銜蟲稲秧畦。

 

【日語】日日半ば塵泥。

柳外の風は軽く人は亦た懶に,蟲は稲秧の畦に銜む。

 

紫衣有禅縁。浮名自憂古稀歳,栄枯數畝田。

 

【日語】紫衣には禅縁有り。

浮名は自から古稀の歳を憂い,栄枯す數畝の田に。

 

 

  漢俳 客中白家鴿

 

幼幼白家鴿,碧碧紅紅秋色好,目送小楼客。

 

【日語】幼幼白い家鴿,

碧碧紅紅として秋色は好く,目は小楼の客に送る。

 

【解説】幼い鳩が何故に小樓の客に目を遣るのか?其の答えが、この作品の糸口である。

 

 

  客中夏雨

 

窗前燕子飛,竹樹薫風疎雨後。尺翰涙沾衣。

 

【日語】窗前に燕子は飛び,竹樹の薫風、疎雨の後。

尺翰の涙は衣を沾す。

 

【解説】客中とは旅行に行ってのことではない。何かの理由で家を離れている事を指している。

 尺翰とは手紙のこと、手紙を読んで涙を催し、その涙が衣を沾してしまった。さて是はどういう事なのか・・・?

 

 

  客中想故郷

 

薄暮阻吟行。淡月掛枝花尚明。映水忘歸程。

 

【日語】薄暮は吟行を阻げ。淡月は枝に掛り花は尚明かなり。

水に映りて歸程を忘る。

 

 

  工人想故郷二首

 

蓬頭拭汗堪炎暑,驟雨跳珠亂暮蝉。

手冊密藏妻子貌,工棚洗臉落暉前。

 

【日語】蓬頭の汗を拭うて炎暑に堪え,驟雨は珠を跳ね暮蝉は亂る。

手冊に密かに藏す妻子の貌,工棚で臉を洗う落暉の前。

 

初冬分袂一農夫,小婦守家弟妹扶。

哺乳舗床寄情愛,風寒譲馬換衣服。

憐妻祈康哭山驛,草萎売牛買飼麸。

仰見落雁人否健,工棚記得兩封書。

 

【日語】初冬袂を分つ一農夫,小婦は家を守り弟妹は扶く。

乳を哺せ床を舗て情愛を寄せ,風寒く馬を譲りて衣服に換える。

妻を憐み康を祈りて山驛に哭き,草は萎え牛を売りて飼麸を買う。

仰ぎて落雁を見て人健なるや否を,工棚にて記し得たり兩封の書を。

 

 

  勤勉聯

 

克勤克儉功更倍;同徳同心志益堅

 

 

  瀛歌二首

 

新緑稠。客舎石榴,簾上鉤。

三年濁酒,六腑積憂。

 

【日語】新緑は稠い。客舎の石榴,簾上の鉤。

三年の濁酒,六腑の積憂。

 

 

眄蒼穹。凭靠鐵鋤,老土工。

欣遠雷動,恨夕陽紅。

 

蒼穹をちょっと眄て。鐵鋤に凭靠れる,老土工。

遠くの雷動を欣き,夕陽の紅を恨む。

 

 

  農夫帰郷

 

星漢輝如昼,農夫去向郷。

還思秋漾漾,山駅入秋香。

 

【日語】星漢は昼の如く輝き,農夫は郷に向いて去く。

還た秋の漾漾たるを思えば,山駅に秋香入。

 

 

  郵逓員

 

東風小径早鶯聲,溽暑厳寒送信行。

一紙拙詩貧士楽,万国無境布衣盟。

 

【日語】東風の小径、早鶯の聲,溽暑厳寒、信を送り行く。

一紙の拙詩、貧士の楽み,万国に境い無く布衣の盟。

 

 

  道路工人

 

驕陽徹夜労塵衢,依靠鐵鍬息我躯。

一半工棚払暁酒,故郷消息客中娯。

 

【注】鐵鍬;スコップ 工棚;飯場・工事現場用仮宿舎

 

【日語】驕陽夜を徹して塵衢に労き,鐵鍬に依靠て我躯を息う。

一半工棚、払暁の酒,故郷の消息は客中の娯み。

 

 

  苦熱 陋巷野夫

 

驕陽払雲燎長空,痩骨解衣矮屋中。

仄仄平平何事好,青蝉脱殻七年功。

 

【注】暑くて暑くて頭が混乱して仕舞いました。仄仄平平とは、詩詞の平仄ではない事に注意!

 

【日語】驕陽は雲を払いて長空を燎き,痩骨は衣を解く矮屋中に。

仄仄平平何事か好き,青蝉は殻を脱す七年の功なり。

 

 

  苦熱建設工地之景

 

煎沙燗石衣流汗,宵短日長気不蘇。

吮血妨眠群擾擾,工人薄酒一杯娯。

 

【日語】沙を煎り石を燗き、衣は汗を流し,宵短く日長くして、気は蘇らず。

血を吮い眠を妨げ擾擾と群り,工人の薄酒は一杯の娯。

 

 

  残暑苦熱

 

驕陽昼永送炎熱,蟋蟀聲枯恨夏天。

午熱無風眠不就,今宵鎮暑杖頭銭。

 

【日語】驕陽の昼は永く炎熱を送り,蟋蟀の聲は枯れ夏天を恨む。

午熱は風無く眠に就不,今宵の暑を鎮める杖頭の銭。

 

【注】杖頭銭;典故

 

 

  古詩 草

 

  肥沃的土地種植農作物,寒冷的土地種草養乳牛,貧痩的土地養綿羊,山羊。

乾燥原野放綿羊,砂礫荒野養山羊。

緑溪滾滾溢清水,沃田茫茫稔稲穂。

牧夫堪寒飼乳牛,一木一草整地球。

 

【日語】肥沃な土地には農作物を種植,寒冷な土地には草を種き乳牛を養う,貧痩た土地には綿羊を養う。更に痩せた土地では山羊を養う。

 

乾燥の原野に綿羊を放ち,砂礫の荒野に山羊を養う。

緑溪は滾滾と清水溢れ,沃田は茫茫と稲穂稔る。

牧夫は寒に堪え乳牛を飼い,一木一草は地球を整う。

 

自嘲

 

  残蝉

 

哀惜残蝉識素秋,茅亭誰人恣優游。

門無車馬握團扇,黄昏枝上慌亂鳴。

 

【日語】哀惜なり残蝉は素秋を識り,茅亭の誰人優游を恣す。

門に車馬無く團扇を握り,黄昏の枝上に慌亂鳴く。

 

【解説】門無車馬の句は屡々目にするが、日本での解釈は門無車馬は、世間から忘れられて閑古鳥が啼くことを謂う。是までは日本でも中国でも同じだが、中國での門無車馬と成ることは、その一方で目的の達成を謂っているとの解釈もある。当人は、世間から忘れて貰わなければ困る人なのである。だから団扇を持ち出して、平穏に浸っているのである。

 

【注】著者は先方の作品に迎合して書いたまでで、今までに世間から忘れて貰わなければ困るような事はしていない!逆説に読んで頂ければ幸である。

 

 

  偶成

 

應愚失覇俗塵侵,歴史歪曲未有尋。

成守財奴消歳月,暖衣飽食売郷心。

 

【日語】應に覇を失し俗塵を侵し,歴史を歪曲して未だ尋ねざるの愚。

守財の奴と成り、歳月を消し,暖衣飽食して郷心を売る。

 

 

  余生得閑

 

小手千金笑,双親未得安。

桜花迷處所,意気入心肝。

有志閑読書,偸時共凭欄。

沈心千畳閣,不慮四隣欒。

免職無人識,従心談弱冠。

余生天地濶,莫道事時難。

 

【注】弱冠:礼記;二十を弱と云いて冠す。

   従心:論語;七十而従心所欲不踰矩。

 

【日語】小手千金の笑,双親は未だ安きを得ず。

桜花處所に迷い,意気は心肝に入る。

志有りて閑かに書を読み,時を偸んで共に欄に凭る。

心を沈める千畳の閣に,慮不四隣の欒を。

職を免んじて人の識る無く,心従、弱冠を談う。

余生の天地は濶く,道う莫れ事時の難きを。

 

【注】不慮四隣欒;隣近所との誼を大切にしなかった。

 

【解説】この作品の意図は、免職無人識に有る。第2句の双親未得安、ご両親の心配は的中した。自分の事だけに生きていると、遂にこの様になると!こういう人が實に多い。

 儂族や濡れ落ち葉・・・と謂われる人が是に当たる。

 

 

  口占

 

半生黄梁夢,雄心年少時。

頭上撒?子,歳歳成功遅。

 

【注】頭上撒?子:頭に虱を撒いて酷い目に遭う;余計な事をして酷い目に遭う「歇後語」

日本語で言うところの、薩摩の守忠則 に相当する。

 

【日語】半生は黄梁の夢,雄心は年少時。

頭上に?子を撒いて,歳歳功の成る遅し。

 

【解説】余計なことばかりしていて、酷い目にあってばかりで、なかなかに、功績が上がらない。著者の生き方そのものである。

 

 

  口占

 

五尺青雲戴星耕,當年自識破風筝。

蓬頭未棄功名念,?起脚來望里程。

 

【注】破風筝;破れ凧;さっぱり揚がらない。

  ?起脚來;背伸びをして。

 

【日語】五尺の青雲、星を戴きて耕し,當年自から識る破風筝。

蓬頭未だ棄ず功名の念を,?起脚來里程を望まん。

 

 

  秋日自遣

 

園林柿熟近霜天,萬樹丹楓烱欲燃。

刈稲収蕎秋圃裏,萍枯水落野江邊。

按詩兀坐寒窓下,撫景修行乱菊前。

終日偸閑君勿笑,個中清趣不須銭。

 

【日語】園林の柿は熟し霜天は近く,萬樹丹楓は烱かに燃えんと欲。

稲を刈り蕎を収め秋圃の裏に,萍は枯れ水は落ち野江の邊に。

詩を按じ兀坐す寒窓の下に,景を撫し修行す乱菊の前に。

終日閑を偸みて、君は笑う勿,個中の清趣は銭を不須。

 

 

  坤歌二十七首

 

【解説】坤歌とは時事諧謔を賦すための定型である。文字面に何が書いてあっても、時事諧謔を前提に読み取ることが肝要である。創るときも、時事諧謔なら坤歌を用いる。

 

処女路、局勢変化、廉売路。

 

【注】処女路;バージンロード  廉売路;バーゲンロード

 

幾年経?糾纏不休、双軛牛。

 

【日語】幾年経たか?糾纏不休にして、双軛牛。

 

老爺婆、腰酸肩酸、上病院。

 

【日語】爺婆は腰肩痛くて医者通い

 

横排坐、説話手機、互遠處。

 

【注】手機是「携帯電話」

 

【意訳】並んで座っているのに、隣の人と話さず、携帯電話で遠くの人と話している。

 

退職后。重新知道,妻子愛。

 

【意訳】退職后、改めて識る妻の愛

 

国運昌。狭小院子,一枝香。

 

【日語】国運昌んに。狭小院子,一枝の香。

 

在鳥籠,不知外界。我自由!

 

【日語】鳥籠に在て,外界を知不に。我は自由!

 

青年期。唯一友人,電脳機。

 

【意訳】青年の、たった一人の友人,夫れはパソコン。

 

百忙處。抛棄辛苦,后巷路。

 

【日語】百忙の處。辛苦を抛棄る,后巷路。

 

故郷路。抛酒熱泪,陋巷宿。

 

【日語】故郷の路。酒を抛て泪は熱し,陋巷の宿に。

 

探秘密。老妻臭覚,如狗鼻。

 

【意訳】秘密を捜す。女房の臭覚,犬の鼻。

 

不説話。象是癌瘤,家族下。

 

【意訳】謂えないけれど。是は癌ですね,ご家族の方!

 

古人径。何言酔狂,天下興。

 

【日語】古人の径。何を言うの酔狂に,天下の興。

 

百分率。小利大損,貧心疾。

 

【意訳】割引に 欺されやすい 貧乏性

 

咎政客。東食西宿,選挙民。

 

【日語】政客を咎める。東食西宿の,選挙民。

 

姓名先,空理空論。尊我銭。

 

【意訳】名前が第一・・,空理空論謂うけれど。實は私は銭が好き。

 

専近憂。不知遠慮,已死我。

 

【日語】近憂を専にし。遠慮を不知,已に我は死んでいる。

 

花粉症。郷里萬黄,恨春晴。

 

【意訳】花粉症。故郷は黄天,春晴を恨む。

 

回家臉。晩餐材料,外国産。

 

【意訳】家に帰れば。夕餉の材料,外国産。

 

窗附近。家父卓子,獨空斟。

 

【日語】窗附近。家父卓子,獨空斟。

 

憧憬君。躊躇投函,錦恋文。

 

【意訳】憧れの君に、ポストに入れようかしら、恋文を

 

禿子頭。嫉妬黒髪,竹馬儔。

 

【日語】 禿子頭。黒髪を嫉妬す,竹馬の儔。

 

真心話。情人面前,不能説。

 

【意訳】真面目な話。恋人の前では,言えません。

 

故里人。確認生存,年賀信。

 

【日語】故郷の人。生存の確認,年賀信。

 

停職中。孝敬父母,希望時。

 

【日語】停職中。父母に孝行するのは,この時だ!

 

 

  瀛歌二十三首

 

從冥土,有相呼喚、父與母。

希望待候、到白頭老。

 

【意訳】冥土から、相喚ぶ有り、父と母。

ちょっと待ってよ、老いるまで

 

只聴到、降雨蝉聲、“永平寺”、

巡遊長廊、巡巡遊遊。

 

【意訳】ただ聴いた丈、雨のような蝉の聲、

永平寺の長い廊下を巡り、巡游巡游たり。

 

亂雲間。手指那邊,五彩山。

杖知往事,我懐塵寰。

 

【日語】亂雲の間。那邊を手指,五彩山。

杖は往事を知り,我は塵寰を懐う。

 

禾黄青。栖止農具,紅蜻蜒。

藕耕如夢,夫婦應寧。

 

【意訳】稲穂は黄青、農具に止まる赤蜻蛉。藕耕はずっと昔のこと、夫婦仲は良かったなあ・・・

 

七色美。彩虹小懸,孫撒水。

共楽雅興,獨領天佩。

 

【意訳】孫が水を撒くと小さな七色の虹が架かった。一緒に楽しんだなあ・・・わたし一人の宝物。

 

川風吹,兩箇影子,渡板橋,

還有一箇,黒色野猫。

 

【意訳】川風が吹き,二個の影,板橋を渡る,

還た一箇有り,黒色の野猫。

 

西餐館,生意不旺,白雲浮。

照常営業,感到秋愁。

 

【意訳】レストランの元気がなくて、曇り空みたいです。

いつも営業しているけれど、秋風が吹いて来たみたい・・・

 

鐘表店,紛紜時刻,互不争。

寂静午后,緩急一生。

 

【日語】鐘表店,紛紜たる時刻,互に争不。

寂静の午后,緩急の一生。

 

酒盈樽。半壁寒燈,月窺軒。

老安吾分,懐鎖柴門。

 

【日語】酒は樽に盈ち。半壁の寒燈,月は軒を窺う。

老いて吾が分に安んじ,柴門を鎖して懐しむ。

 

二八臉。明窗一夜,月憾短。

黄髪歎近,青雲路遠。

 

【日語】二八の臉。明窗の一夜,月の短かきを憾む。

黄髪の歎きは近く,青雲の路は遠し。

 

送春時。紅不可追,違宿志。

半壁月白,一夢魂馳。

 

【日語】春を送る時。紅は追う可不,宿志を違う。

半壁の月は白く,一夢の魂は馳す。

 

雨如塵。客裏無人,誰惜春。

枝頭已堰C筆下亦新。

 

【日語】雨は塵の如く。客裏に人無く,誰ぞ春を惜まん。

枝頭は已に奄「,筆下は亦新なり。

 

水皺静。嫩嫩葦境,撫面風。

両三天鵝,青緑萬項。

 

水皺は静かに。嫩嫩たる葦境,面を撫る風。

両三の天鵝,青緑は萬項たり。

 

同時難。何憐薄命,小花壇。

鮮赤芍薬,豊麗牡丹。

 

【日語】同時は難しい。何んぞ薄命憐れなり,小さき花壇。

鮮赤の芍薬,豊麗なる牡丹。

 

【意訳】何物にも当て嵌まることで、花壇の様な小さな世界でも、美しいものには、薄命なものが多い。ましてや両手に花の、真っ赤な芍薬と豊麗な牡丹など、二つ同時に愛でる事は、更に難しい!

 

已故妻、生前移植、數畝園。

雨脚飛紅、茗話懐人。

 

【意訳】亡き妻の、生前植えし、狭き園。

雨に紅飛び、茶話に懐いを。

 

乗坐車、清馨馥郁、玉芳蘭。

心情爽快、春天的士。

 

【日語】坐車に乗り、清く馨り馥郁たり、玉芳蘭。

心情は爽快なり、春天の士。

 

“蓬莱橋”,半壊的橋,入晩秋。

随風鳥歸,側耳鐘幽。

 

【日語】“蓬莱橋”,半壊の橋,晩秋に入る。

風に随い鳥は歸り,耳側てて鐘は幽かに。

 

“地蔵尊”。奉献糖玉,轉銷魂。

一霜父母,兩窩兒孫。

 

【日語】“地蔵尊”。糖玉を奉献し,轉た銷魂。

一霜の父母,兩窩の兒孫。

 

早梅披。“新年参拝”,増鬢絲。

仰天立志,酔酒託詩。

 

【日語】早梅は披き。“新年参拝”,鬢絲を増す。

天を仰ぎ志を立て,酒に酔い詩に託す。

 

寄?信。二句一章,寫情眞。

目前破硯,胸裏花菌。

 

【日語】?に寄せし信。二句一章,情眞を寫す。

目前の破硯,胸裏の花菌。

 

月光幽。江心如鏡,微雨収。

樹影値秋,散雲勿流。

 

【日語】月光は幽に。江心は鏡の如く,微雨は収る。

樹影は秋に値し,雲散じて流れる勿。

 

老幹桃。有如迎接,母故郊。

挙起双手,地守神招。

 

【日語】老幹の桃。迎接の如有,母の故郊。

挙起双手,地守神は招く。

 

衰老體。継承農戸,傳家地。

期望嗣子,編歳時記。

 

【日語】衰老の體。農戸を継承し,家地を傳う。

期望の嗣子,歳時記を編む。

 

 

  我是井底之蛙

 

天青水K占清涼,春夏秋冬報太陽。

我與青蛙何事異,多年満意僅輝光。

 

【日語】天青く水Kくして清涼を占め,春夏秋冬太陽を報ず。

我與青蛙、何事か異る?多年の満意、僅かな輝光。

 

【意訳】私と青蛙と何処が違うんだ?・・・・・

 

 

  軒下水蓮

 

新居軒下水蓮香,君栽葵花依舊黄。

砂上楼閣是貧病,絶無塵處羨田郎。

 

【日語】新居の軒下水蓮の香,君が栽えし葵花、舊に依り黄。

砂上の楼閣、是れ貧病,絶えて塵無き處、田郎を羨む。

 

 

  漢俳五首

 

竹馬萬里情。移簾矮屋消辱暑,開封憶舊盟。

 

【日語】竹馬萬里の情。

簾を矮屋に移して辱暑を消し,封を開きて舊盟を憶う。

 

矮屋納涼台。門無車馬音信絶,生雲白雨來。

 

【日語】矮屋の納涼台。

門に車馬無く音信絶え,雲生じて白雨來る。

 

拭汗老農勤。晩餐囲坐思孫酒,掌合祷佛神。

 

【日語】汗を拭いて老農は勤め。

晩餐の坐を囲んで孫酒を思い,合掌して神仏に祷る。

 

閣閣水邊村。半夜寒燈聊自慰,開封想田園。

 

【日語】閣閣たる水邊の村。

半夜の寒燈は聊か自から慰む,封を開き田園を想う。

 

新篁不知断,梧葉已落雁初過。剛直誤人多。

 

【日語】新篁は断つを知らず,梧葉は已に落ち雁は初めて過ぐ。

剛直は人を誤ること多し。

 

 

枯魚銜索

 

枯花任地雨絲絲,魚肉饒痾勝大醫。

銜恤人生眞一夢,索求晩節奉親慈。

 

【日語】枯花は地に任せ雨は絲絲たり,魚肉は饒痾にし大醫に勝る。

銜恤の人生は眞に一夢なり,晩節を索求して親の慈に奉ぜん。

 

 

  五絶

 

香雪黄塵裡,訪芳抱杞憂。

幾多看世変,我亦背時流。

 

【日語】香雪は黄塵の裡に,芳を訪ねて杞憂を抱く。

幾多の世変を看るに,我は亦時流に背く。

 

 

  困惑貪得無厭

 

銭擲神啓祠,重道更無心。

祈告三千業,不?萬千金。

 

【解説】神社で沢山のお願いをしますね!

 

 

  偲歌十六首 

 

茶館一隅,窗前行人。鬢霜因縁,幻化身。

 

【日語】喫茶店の片隅,窗前の行人。鬢霜の因縁,幻化の身。

 

老樹梅花,陋巷情縁。多年追憶,几杖前。

 

【日語】老樹の梅花,陋巷の情縁。多年の追憶,几杖の前。

 

梅雨昼暗,同衾双枕。庭紫陽花,羞微粉。

 

【日語】梅雨の昼は暗く,同衾双枕。庭の紫陽花,微粉に羞ず。

 

只有君情,堅信不疑。優柔不断,歳月移。

 

【日語】只だ君が情有りて,堅く信じて疑わず。優柔不断にして,歳月は移る。

 

親手培育,開得美麗。遺憾撒花,春桃李。

 

【日語】親手は培育し,美麗に開き得たり。

遺憾なり花の撒を,春桃李。

 

枯萎心里,照進朝陽。輕羅繊指,圓眼睛。

 

【日語】枯萎した心の里,朝陽は照進む。輕羅、繊指,圓眼睛。

 

見面佳人,幸福很多。心里興奮,不能説。

 

【日語】佳人の面を見,幸福は很み多し。心の里に興奮し,不能説。

 

新年参拝,沸騰煩悩。除夕鐘聲,拂煩悩。

 

【日語】新年の参拝,煩悩は沸騰。除夕の鐘聲,煩悩を拂う。

 

成功付款,貨攤的酒。陋巷荊妻,郷父母。

 

【日語】成功の付款,貨攤の酒。陋巷の荊妻,郷の父母。

 

貧困驕傲,陋巷草居。荊妻笑顔,我不如。

 

【日語】貧困にして驕傲,陋巷の草居。荊妻の笑顔,我は如不。

 

没有志気,酒規戒我。蛾眉賢妻,面壁坐。

 

【日語】没有志気,酒規は我を戒める。蛾眉の賢妻,面壁して坐す。

 

一縷涙痕,一夜春風。満窗風雪,臙脂紅。

 

【日語】一縷の涙痕,一夜の春風。満窗の風雪,臙脂の紅。

 

不要紅妝,只有双床。年輕夫婦,怨日長。

 

【日語】紅妝は要ず,只双床が有れば。

年輕夫婦は,日の長きを怨む。(日が長いと夜が短い)

 

細腰悍婦,初老恋患。晩起晨酌,人寿険。

 

細腰の悍婦,初老の恋患。晩に起き晨に酌む,人寿険。

 

深窗花貌,只三箇月。熱愛熱愛,凋秋葉。

 

深窗の花貌,只三箇月。熱愛熱愛,秋葉は凋む。

 

恋情盲目,充耳不聞。那里不好!反復問。

 

【意訳】恋は盲目,聞く耳持たず。どうしてダメなの!何度も聞く。

 

 

  對聯六副

 

奔雷解渇抛団扇;凉影満身生惰性。

 

【日語】奔雷は渇を解き団扇を抛ち;凉影は身に満ちて惰性を生む。

 

満院苔銭生計拙;空階霖雨客心封。

 

【日語】満院の銭苔は生計の拙;空階の霖雨は客心を封ず。

【注】苔銭;銭苔;貧乏苔

 

細雨穿窗惨野服;残花任地泣騒人。

 

【日語】細雨は窗を穿ち野服惨たり;残花は地に任せて騒人泣く。

 

架上奇書似玉;杖頭宝物難抛。

 

【注】本も好きだが飲むのも辞められない。

 

僅歳功名託酒;多年畏友因眞。

 

【日語】僅かな歳の功名は酒に託し;多年の畏友は眞に因る。

 

百瀑自空垂,洗ュ迎賓;千峰経地染,彩虹湧霧。(于屋久島)

百瀑は空自垂れ,ュを洗いて賓を迎える;

千峰は地を経て染まり,虹を彩て霧を湧かす。

 

 

  曄歌二首組詩

 

【解説】曄歌は俳句のような内容にすることが、定型の基本にされている。文字数が少ないので、その弊を免れる手段として、予め趣旨を決めておくのである。

 字数が少なくても、夫れを重ねれば大きくなる。この作品は二首で一つの意図である。

 

一蟲鳴。微月階前,相懐生。

 

【日語】一蟲鳴き。微月の階前,相い懐を生ず。

 

二枯枝。一陣冷風,節序移。

 

【日語】二枯れ枝。一陣の冷風,節序は移る。

 

 

 曄歌十八首

 

【解説】曄歌の句は漢詩詞と違って、句と句の連携が疎で有る。夫れを埋め合わせ繋げるのは読者の思慮である。

 

洗衣機。百事浮沈,糟糠妻。

 

【日語】洗衣機。百事浮沈たり,糟糠の妻。

 

細雨途。是否睡覚,老蝸牛。

 

【日語】細雨の途。是否睡覚,老蝸牛。

 

故郷川。霓虹窗邊,驟雨喧。

 

【注】著者の若い頃には、こんな状景は屡々だったけど、今では・・・・。

 

鬢白早。小鉢小堂,福寿草。

 

【日語】鬢白は早く。小鉢と小堂と,福寿草。

 

福寿草。相逢相別,雪中道。

 

【日語】福寿草。相い逢い相い別れ,雪中の道。

 

黄菜花。少小同学,聴漁歌。

 

【日語】黄色の菜の花。小学校の同級生,漁歌を聴く。

 

暮鐘和。南国二月,黄菜花。

 

【日語】暮鐘和。南国の二月,黄色菜の花。

 

紅梅花。二十歳月,客中過。

 

【日語】紅梅の花。二十の歳月,客中に過ぐ。

 

枯女蘿。舊縁鶯未?紅梅花。

 

【日語】枯女蘿。舊縁の鶯は未だ?紅梅の花。

 

新樹横。一夜細雨,落花軽。

 

【日語】新樹は横たわり。一夜の細雨,落花は軽し。

 

一詩痴。電脳対座,落花時。

 

【注】この頃は作詩するにも、パソコンと対座する。

 

爺婆和。稚児喧閙,聴笛歌。

 

【日語】爺婆和。稚児は喧閙,笛歌を聴く。

 

落花香。老若男女,綿花糖。

 

【意訳】落ち花香る花見路。老いも若きも,綿花糖を。

 

渡頭柳。恋々離開,微舟路。

 

【日語】渡頭の柳。恋々と離開,微かな舟路。

 

月半弓。柳樹随風,使朦朧。

 

【日語】月は半弓。柳樹は風に随い,朦朧と使。

 

來春天。焼毀寺院,新緑斑。

 

【日語】春天來り。焼毀の寺院,新緑の斑。

 

春祭祀。隆重太鼓,点心市。

 

【日語】春祭り。隆重な太鼓,露天市。

 

南天竹。窗邉嫩緑,野兎目。

 

【意訳】窗邊の南天、野ウサギの目

 

 

偶成

 

七歳無光在土中,青山白雲想陽紅。

豈知拿網兒童影,旬日忙忙對晩風。

 

【日語】七歳光無く土中に在り,青山白雲陽紅を想う。

豈知らんや拿網兒童の影を,旬日忙忙として晩風に對す。

 

【注】蝉を詠っている。

 

 

  五絶

 

秋到裂芭蕉,浮世一片愁。

栽花花徑亂,赴任任縁周。

 

【日語】秋到りて芭蕉は裂け,浮世一片の愁。

花を栽れば花徑は亂れ,任に赴けば任縁は周し。

 

 

   竜孫七題

  七絶竜孫其之一(比喩)

 

肥園大筍眄高穹,痩藪小芽混矮叢。

幼樹千年逼雲幹,修篁六十壊空躬。

 

【注】樹木寿命は相当に長いが、竹の寿命は60年で有る。寿命が来ると枯れてしまう。

 

【注】竹は太ることは無いから、筍が痩せていれば、成竹も痩 せ!太った筍は成竹も太い大きな竹になる。

 

【日語】肥園の大筍は高穹を眄み,痩藪の小芽は矮叢に混る。

幼樹千年雲幹に逼り,修篁六十、空躬を壊す。

 

  七絶竜孫其之二(比喩)

疎枝痩痩薜蘿深,歳歳卑梢任覆陰。

應想宿根現強筍,草叢一夜変篁林。

 

【注】大きな竹の種類でも、条件が悪ければ、細く小さな筍で小さな成竹と成る。何年も何年も根に養分を蓄えていて、一端周囲の樹木が枯れるなどして、条件が良くなると、太い筍を一斉に生やして、一春で立派な竹藪にして仕舞う。(比喩;じっと我慢して財を蓄え、一旦状況が変われば、主客交替も・・・!)

 

  南歌子・春宵曲 竜孫其之三(比喩)

  修竹閭雀宿,枯篁蔓草牀。舊聞黄幹払塵腸?歳歳年年花蕊。巧施妝!

 

【意訳】立派な竹は雀のお宿、枯れた竹は蔓草の拠り所。昔話に竹の黄色い幹は、俗心が無いからだと聞いたけど?毎年毎年花が一杯で、モテモテですね!

 

  魚父・竜孫其之四(比喩)

  窮里篁園意悠哉。翠姿呼雨湿塵埃。

命方盡,蔓方來,寒窗爐炭竹芻灰。

 

【日語】窮里の篁園、意は悠なる哉。翠姿は雨を呼び塵埃を湿らす。

命方に盡き,蔓は方に來る,寒窗の爐炭は竹芻の灰なり。

 

  梧葉兒・竜孫其之五

 

  韶光好,爾早安。籬落正齎歡!欲買貴,欲植難。碧珊珊。隣家祖竹,吾家玉筍!

 

【意訳】今日は、お早う。垣根の所で嬉しいことがあったのよ!買おうと思ったけど高いし、植えようと思ったけどねえ・・・。青々とした好い竹。隣の家の親竹、私の家のタケノコ!

 

  九張機・竜孫其之六

 

  訪君家,庭前杏蕚映窗紗。厨房香味春畦菜,郷間恩恵,内人得意,為婦一瓶加!

 

【意訳】君の家を訪問したら、庭の前の杏の花が窓のカーテンに映っている。台所は春の香り豊かな山菜調理中、村里の恩恵です,奥さんの自慢料理、奥さんの分を一本買ってきたから一緒に呑みましょうよ!

 

  憶江南 竜孫其之七(興)

  鶯聲老,閭巷竹林園。碧緑重重闢月,年年繁茂大生根。天地育竜孫。  流水畔,應見布衣臣。舟棹釣竿浅筺類。剛強柔軟自無言。身秘勁黄魂。

 

【日語】鶯聲老い,閭巷の竹林園。碧緑重重として闢月,年年繁茂して大生根。天地は竜孫を育す。

 

  流水の畔,應に布衣の臣を見る。舟棹釣竿、浅筺の類。剛強柔軟にして自ら言無し。身に勁黄魂を秘める。

 

寺社

 

  曄歌 周游四国八十八霊地五首組詩

【解説】組詩とは、ただ数が有るという事ではない。組詩全体で一つの趣旨が叙されていて、個々の事柄に傾倒して、全体を俯瞰することを疎かにしないことが肝要である。

 

古禅宮。半日踏苔,仰碧空。

 

【日語】古禅宮。半日苔を踏みて,碧空を仰ぐ。

 

何法堂。登望仏閣,俗未忘。

 

【日語】何法堂。登りて仏閣を望むも,俗を未だ忘れず。

 

供香火。欲洗塵胸,訪遺蹤。

 

【日語】香火を供へ。塵胸を洗わんと欲し,遺蹤を訪う。

 

【解説】遺蹤とは弘法大師の辿った址と謂う意味である。

 

好風吹。數日因縁,草木知。

 

【日語】好風吹き。數日の因縁,草木は知る。

 

一枝梅。欲隔塵埃,昔誰栽?

 

【日語】一枝の梅。塵埃を隔てんと欲し,昔誰が栽しか?

 

 

  漢俳 周游四国八十八霊地五首組詩

【解説】この組詩作品は揶揄である。

 

石磴對夕陽。山門紛壁兩千秋,士女爲誰忙?

 

【日語】石磴は夕陽に對す。

山門の紛壁は兩千の秋,士女は誰が爲に忙し?

 

風冷絶人烟。俯瞰塵街是仙寰,望遠數畝田。

 

【日語】風は冷かにして人烟を絶つ。

塵街を俯瞰すれば是れ仙寰なり,遠く數畝の田を望む。

 

峯上住神霊。麓下寺院説仏法,民衆仰山峯。

 

【日語】峯上に神霊は住み。

麓下の寺院は仏法を説き,民衆は山峯を仰ぐ。

 

神霊住秀嶺。老木也更宿神霊,山麓大禅堂。

 

【日語】神霊は秀嶺に住み。

老木は也更に神霊を宿す,山麓の大禅堂。

 

應識法徳功。商賈蕭条民衆愁,糧愁仏寺隆。

 

【日語】應に法徳の功を識る。

商賈は蕭条として民衆は愁う,糧は仏寺の隆んなるを愁う。

 

 

  周游四国八十八霊地七抒 十二首二?

 

【余談】詩を数える単位は「首」である。詞を数える単位は「闕」で有る。對聯を数える単位は「副」である。

 

【解説】この作品は先ず、叙景対象を逐一換えている。次に叙事視点を七視点(七抒は拙著漢詩詞講座を参照)に定めて、個々に換えている。因って十四作品は、十四の叙景対象と、七つの視点で捉えられている。

 

梵城山麓隔塵埃,錫杖行尋百寳臺。

偸閑念仏春四月,桜花片片共徘徊。

 

【日語】梵城の山麓は塵埃を隔て,錫杖行き尋ぬ百寳の臺を。

閑を偸み念仏す春四月,桜花片片として共に徘徊す。

 

老樹花空落,優游日正長。

偸閑何事好,凭欄浴春光。

 

【日語】老樹の花は空しく落ち,優游の日は正に長し。

閑を偸みて何事か好き,欄に凭り春光に浴す。

 

清明一路繞祗園,百里誦経爲客煩。

同行二人能養老,焚香拝佛絶塵魂。

 

【日語】清明の一路、祗園を繞り,百里の誦経は客の爲に煩たり。

同行二人して能く老を養い,香を焚き佛を拝し塵魂を絶つ。

 

  凭欄人

 

  風送紅塵療客愁,人仰青穹心自柔。焚香無所求,偸生恩未酬。

 

【日語】風は紅塵を送り客愁を療し,人は青穹を仰ぎて心自から柔なり。香を焚き求むる所無く,生を偸みて恩に未だ酬いず。

 

白衣錫杖立堂前,福壽護符乞賽銭。

拝廟歌聲先導下,不知章義総成禪。

 

【日語】白衣の錫杖堂前に立ち,福壽の護符は賽銭を乞う。

拝廟の歌聲は先導の下,章義を知ずして総て禪を成す。

 

堂前老女浴春光,清昼香烟滞法堂。

未識無常先拝佛,不知句意只焚香。

 

【日語】堂前の老女は春光に浴し,清昼の香烟は法堂に滞る。

未だ無常を識らずして先ず佛を拝し,句意を知ずして只だ香を焚く。

 

堂門古墨筆如龍,迷道仰天杖履從。

獨領神山麓打磬,伽藍鎖路覓無蹤。

 

【日語】堂門の古墨、筆は龍の如く,道に迷い天を仰ぎ杖履は從う。

獨り神山を領して麓に磬を打ち,伽藍は路を鎖し、覓めて蹤無し。

 

石磴春風冷,行人白道装。

山桜花未發,何処自天香。

俗界塵無洗,方知尚虎狼。

幽庭苔色碧,拝廟歎空嚢。

 

【日語】石磴の春風は冷かに,行人は白い道装。

山桜の花は未だ發かず,何の処か自から天香たり。

俗界の塵は洗う無く,方に尚虎狼を知る。

幽庭の苔色は碧く,廟を拝してして空嚢を歎く。

 

白衣結隊興何狂?名刹導師説妙光。

却憶高居梁下蟻,高碑寂寂無焚香。

 

【日語】白衣は隊を結びて興何んぞ狂なる?名刹の導師は妙光を説く。

却って高居梁下の蟻を憶い,高碑は寂寂として香を焚く無し。

 

  解連環

 

  麗春淋汗,白衣登磴砌,樹薫雲淡。老壮青、合掌焚香,念般若心経,真言經典。一畝清陰,聖人意、客心温暖。楽浮世如夢,圓檀巡禮,古衢遊覧。

  還尋法車道遠。愉心幽歩緩,影濃風暖。脚力疲、亦宿香臺,酒教俗情忘,敬愁吃飯。數想浮生,死尚競、墓碑高矮,創還存、香閣栄枯,甍輝衆懶。

 

【日語】麗春淋汗,白衣は磴砌を登り,樹は薫じ雲は淡し。老壮青、合掌して香を焚き,般若心経,真言の經典を念ず。一畝の清陰,聖人の意、客心は温暖たり。浮世は夢の如く,圓檀の巡禮,古衢の遊覧を楽しむ。

 

  還た法車の、道の遠きを尋ね。心幽かに歩緩かに,影は濃く風の暖かなるを愉しむ。脚力は疲れ、亦た香臺に宿れば,酒は俗情を忘れ教め,敬愁して飯を吃う。浮生を數えれば,死して尚を競う、墓碑の高矮,創り還た存し、香閣の栄枯を想えば,甍は輝き衆は懶たり。

 

白衣登磴花空落,黄髪仰天意自蒙。

百代祥福委銭袋,千秋祕宝満禅宮。

 

【日語】白衣は登磴し、花は空く落つ,黄髪は天を仰ぎ意は自ら蒙たり。

百代の祥福を銭袋に委ね,千秋の祕宝は禅宮に満つ。

 

山門高聳逼人幽,両袖阿吽何被囚。

浮世光陰人易老,時時景物萬端憂。

黄泉妙法天無語,處處祇林千歳修。

諸行無常身後計,香銭合掌那須求。

 

【日語】山門は高く聳え人に逼りて幽か,両袖の阿吽は何ぞ囚被る。

浮世の光陰、人は老い易く,時時の景物に萬端憂う。

黄泉の妙法は天語る無く,處處の祇林は千歳に修む。

諸行無常、身後の計,香銭合掌して那んぞ須く求めん。

 

山門俯視白衣人,競買護符委此身。

守否阿吽三歳福,信徒佛寺兩無因。

 

【日語】山門は俯て視る白衣の人を,競いて護符を買い此身を委す。

守るや否や阿吽三歳の福を,信徒も佛寺も兩ながら因る無し。

 

【解説】参拝客を見ているのは、寺社の山門である。

 

白衣凡夫春風外,錫杖念珠同一姿。

不學句意説仏法,未識章義貪神詞。

商賈凋弊炊煙細,諸行無常人已知。

萬唱真言追雄図,草庵改築成新祠。

争買護符求安寧,寺務繁多欲誇誰。

競献香資摸銭袋,煩悩相交無可醫。

 

【注】真言;般若心経

 

【日語】白衣の凡夫、春風の外,錫杖念珠、同一の姿。

句意を學不仏法を説き,未だ章義を識らずして神詞を貪る。

商賈凋弊して炊煙細り,諸行無常にして人は已に知る。

真言を萬唱して雄図を追い,草庵改築して新祠成る。

護符を争い買いて安寧を求め,寺務繁多にして誰に誇欲。

競いて香資を献じて銭袋を摸,煩悩相い交わりて醫す可く無し。

 

 

  山寺参拝四首

 

  身安寧然而心不寧,怎様如果做,能不能得到安寧。

緑暗苔痕湿,紫散昼自幽。

登磴禅境寂,流汗此中遊。

 

【日語】緑暗く苔痕は湿り,紫は散じ昼は自から幽なり。

磴を登りて禅境は寂に,汗を流して此の中に遊ぶ。

 

伽藍石磴昼猶昏,燕子出巣繞寺門。

擦汗相融参拝客,空堂跪坐話田園。

 

【意訳】伽藍の石段は昼でも暗くて、燕は巣を出て寺の門を繞っている。汗を拭いながら互に打ち解ける参拝客,人気のない寺堂に腰を下ろして農作業の話などをする。

 

積翠浮世外,唱経古禅房。

伏登危石磴,皆同老人装。

只有甘吾分,無由赴此堂。

一陣風籟起,吹面暫招香。

 

【意訳】緑濃い、世俗を離れたところ,経文を称える古い寺。

俯き加減に危うい石段を登り、夫れが皆老人達である。

ただ彼等は自分の分に合わせ、何の訳も無いが、此の寺堂に来たのだ。

一陣の風が起きて、疲れた頬に、春の香りを運んでくる。

 

山中無夏只泉聲,遮断紅塵心未軽!

石径盤廻白衣湿,香烟籠罩紫雲生。

偏爲合掌千福祷,尚有心平萬骨誠。

般若心経誦琅琅,朱泥法印結佛情。

 

【日語】山中に夏無く只泉聲のみ,紅塵を遮断するも心は未だ軽からず。

石径を盤廻して白衣は湿り,香烟は籠罩して紫雲は生ず。

偏に合掌千福の祷を爲し,尚心平かに萬骨の誠有り。

般若心経を琅琅と誦し,朱泥法印は佛情を結ぶ。

 

【解説】起聯落句に黄塵を遮断しても、夫れだけでは未だ心は軽くは成らない!と述べている。頷聯頸聯合聯で、夫れならどうしたら、心が軽くなるのか?を述べている。頷聯から頸聯へと、参拝の順序を進め、合聯で、般若心経を琅琅と誦して、夫れから寺院で、参拝の法印を戴けば良い!と述べている。

 

 

  約友礼拝古祠

 

友領天然画,相談仙境幽。

推敲貧士楽,祈祷古祠頭。

 

【意訳】友人と自然の風景を満喫し,二人して仙境の幽けさを語り合った。

 あれやこれやと、言い合うのが貧士の楽みで,古祠の頭に、お参りをしました。

 

陋巷

 

  曄歌九首

 

白薔薇。一封懐人,燕子飛。

 

【意訳】白き薔薇 一封人を思い ツバメ飛ぶ

 

緑陰囲。風鐸無聲,昼掩扉。

 

【意訳】緑は囲み 風鈴は聲なく ひる門鎖す

 

雨霏霏。一路香泥,人未帰。

 

【日語】雨は霏霏として。一路の香泥,人は未だ帰らす。

 

坐書楼。一椀新茶,一片愁。

 

【日語】書楼に坐し。一椀の新茶,一片の愁。

 

避塵喧。僻地深居,農事繁。

 

【日語】塵喧を避け。僻地に深居して,農事は繁たり。

 

新樹横。一夜細雨,落花軽。

 

【日語】新樹横たわり。一夜の細雨,落花は軽し。

 

“十二橋”、舟潜穿過、燕一起。

 

【碌読売俳壇】十二橋くぐる舟道つばくらめ 

 

大頭?、用報紙折、児童節。

 

【碌読売俳壇】新聞で折る大兜こどもの日

 

蘂作塵、攀茎上爬、山櫻花。

 

【碌読売俳壇】蘂のふる山の櫻にかづら這う

 

 

  坤歌七首

 

老夫婦。不能飼養,小狗也。

 

【意訳】老夫婦では、子犬を飼うことは出来ません。

 

有余暇。百円商店,消遣妻。

 

【意訳】暇なとき 百円ショップで 妻暇つぶす

 

寡黙妻。手工緬条,依舌題。

 

【日語】寡黙妻。手工緬条で,舌話題。

 

祝米寿,一見鐘情。自相驚。

 

【日語】米寿の祝,一見の鐘情。自から相い驚く。

 

鬼神功。不問紛糾,垂髫瞳。

 

【日語】鬼神の功。不問紛糾,垂髫の瞳。

 

曳短?,秋到友去,霊前鐘。

 

【日語】短?を曳き,秋は到り友は去る,霊前の鐘。

 

【解説】夏の暑さは無事に通り越し、是から旅游にと話していたのに、わたしを誘わずに勝手に旅立つ同輩が多い。

 

三日月,掲老瘡心。照高林。

 

【日語】三日月,掲老瘡心。高林を照す。

 

報暁鶏。假装庸碌,聡明妻。

 

【日語】暁を報げる鶏。假装庸碌,聡明な妻。

 

 

  偲歌八首

 

【解説】偲歌は男女の艶情を写すことを前提にした漢詩の定型である。内容も読みも易しい。

 

恋々三年,花顔紅姿。今誰執主,月何窺。

 

【日語】恋々三年,花顔紅姿。今誰執主なる,月は何を窺うか。

 

輕羅繊指,伏枕断腸。難忘句句,草木黄。

 

【日語】輕羅繊指,枕に伏して断腸。句句を忘れ難し,草木は黄に。

 

匆々嬋妍,夏爐冬扇。新涼風簾,不計年。

 

【日語】匆々嬋妍,夏爐冬扇。新涼の風簾,年を計らず。

 

急忙回家,斜陽寒鴉。没有意図,染紅雛。

 

【日語】急いで家に回る,斜陽の寒鴉。意図は没有の,染紅雛。

 

勧誘誰人?噴香穿羅。紅燈春夜,沈丁花。

 

【日語】誰を誘惑するの?香水付けて。春夜のネオン,沈丁花。

 

享受斜陽。闇夜胡蝶,没有意図,留鬱香。

 

【日語】夕暮を享受す。

闇夜の胡蝶は,何でもないの・・・,鬱香を留む。

 

故意擦膏,淡唇紅美。回敬酒杯,話引子。

 

わざと触って、薄紅女。盃回て、話しかけ。 

 

只穿浴衣,隣家少女。腫起胸部,春情曙。

 

【日語】浴衣着る,隣のむすめ。胸のふくらみ,春の曙。

 

 

  瀛歌八首

 

【解説】瀛歌何を詠っても良いが、純情な愛を詠うに適した漢詩の定型である。

 

蓮華田、對花埋上、在香酔。

心乗載雲、拍打翅膀。

 

【意訳】蓮華畑で、花に埋もれりゃ、香りに酔い。

心は雲に乗り、翼付け。

 

老人説、病事同様、常説了。

約定旅行、随意出発。

 

【意訳】老人は説う、体の具合は何時もと同じ。

旅行の約束、勝手に出発。

 

街道隈。黄昏楊柳,寫我衷。

請不要別!請不要回!

 

【日語】街道の隈。黄昏の楊柳,我が衷を寫す。

請不要別!請不要回!

 

君寫吾。赤色小鏡,意不孤。

君給真心,一起歓娯。

 

【日語】君は吾を寫す。赤色の小鏡,意孤ならず。

君の給し真心,一起歓娯。

 

【解説】この作品は、手鏡と女性の会話である。

女性は手鏡に対して、君寫吾と謂っている。

 

等侯室。細腰分袂,侯車室。

胖痩相坐,侯診察室。

 

【意訳】待合室。別れの驛の待合室。調子が悪くて病院の待合室。

 

鐵線蓮。開花季節,來情人。

一日千秋,遣水早晨。

 

【日語】鐵線蓮。開花の季節,情人來る。

一日千秋,早晨の水遣。

 

歳月移。青春日日,共君知。

垢面姻縁,若輩曽離。

 

【日語】歳月は移り。青春の日日,共に君は知る。

垢面の姻縁,若輩は曽つて離れ。

 

退休状。來到早餐,飯卓上。

茶和報紙,総是那様。

 

【日語】退休状。早餐來到,飯卓上。

茶和報紙,総是那様。

 

男女

 

  七言絶句

 

今宵一盞竹窗前,養拙含羞翰墨縁。

私慕花顔傷宿世,輕羅有罪染長箋。

 

【日語】今宵の一盞、竹窗の前,拙を養い羞を含む翰墨の縁。

私に花顔を慕い宿世を傷み,輕羅に罪有り長箋を染む。

 

 

  愛慕情絲二首組詩

 

秋到裂芭蕉,浮世一片愁。

栽花花徑亂,赴任任縁周。

 

【日語】秋到りて芭蕉は裂け,浮世一片の愁。

花を栽えれば花徑は亂れ,任に赴けば任縁周し。

 

【解説】轉合は連綿對である。

秋到裂芭蕉は典故である

 

知君我言志,知我君堪貧。

信歩秋郊路,西風濯世塵。

 

【日語】君を知りて我は志を言い,我を知りて君は貧に堪える。

歩に信す秋郊の路,西風は世塵を濯う。

 

【解説】起承句は、我知君我言志,君知我君堪貧。の、出句は我を省き落句は君を省いている構文である。私は君のことを知っていて・・・,君は私のことを知っていて・・・・である。

 

 

  門巷雨二首

 

門巷分袂雨,放晴夕陽中。

難忘煙柳緑,妬見石榴紅。

 

【日語】門巷分袂の雨,晴を放つ夕陽の中。

忘れ難し煙柳の緑を,妬み見る石榴の紅を。

 

蛙鼓侵窗入,君情已自知。

紅残新翠滴,啜茶憶郷時。

 

【日語】蛙鼓窗を侵して入り,君が情は已に自から知る。

紅は残し新翠は滴り,茶を啜り故郷を憶う時。

 

 

  憶?對月

 

空庭落葉葉堆門,諍友傷吾吾靠轅。

愛慕尋思思我否,憶君對月月臨軒。

 

【解説】空庭落葉葉堆門,諍友傷吾吾靠轅。

    愛慕尋思思我否,憶君對月月臨軒。

 この作品は起承對仗で轉合對仗で、全對格である。次に白抜き文字の葉葉と吾吾。思思と月月。は連綿對である。

 

 

  恋慕情絲

 

葉落西風動,窗開促織鳴。

思君君健否?恋恋不問程。

 

【日語】葉は落ち西風は動き,窗は開き促織は鳴く。

我は君の健なるや否やを思う,恋恋として程を問ず。

 

 

  朦朧月二首

 

梳朶朦朧月,思君爛漫花。

心隔千里外,眼到兩三家。

 

【日語】梳朶たり朦朧の月,君を思う爛漫の花。

心は隔つ千里の外に,眼は到る兩三家に。

 

一白芳香散,方知花發時。

何傷春又暮,恋恋獨裁詩。

 

一白芳香散じ,方に知る花の發く時を。

何んぞ傷まん春又暮るを,恋恋として獨り詩を裁す。

 

 

  男恋女愛四首組詩

 

【解説】一つの事柄について、叙景を換える、視点を換える、などして作品を構成する方法を組詩と謂う。個々に載せた作品四首は、叙景と視点は異なっているが、意図は一つである。

 

赤裸無人識,橙香二八年。

黄昏吹急雨,緑葉倍鮮鮮。

 

【日語】赤裸にして人の識る無く,橙は香る二八の年。

黄昏は急雨を吹き,緑葉は鮮鮮と倍す。

 

青絲思君處,藍褸寄恋書。

紫蘭萎炎気,白雨満枯渠。

 

【日語】青絲君を思う處,藍褸は恋書を寄す。

紫蘭は炎気萎え,白雨は枯渠を満す。

 

一雨微風起,兩日隔世塵。

三旬君情恨,四面更清新。

 

【日語】一雨、微風起り,兩日、世塵を隔つ。

三旬、君が情は恨めしく,四面、更に清新なり。

 

【解説】構成を起承轉合にするのではなく、四つの事柄を並列して、其集合として一義を導き出す詩法である。

 

千里想君久,凭欄老漸羞。

十年思我否,執筆更深憂。

 

【日語】千里君を想うこと久しく,欄に凭り老い漸く羞ず。

十年我を思うや否や,筆を執り更に深く憂う。

 

 

  幽径紅裙

 

幽径半背面,紅裙歩自遅。

歓情疑是夢,一顧十分奇。

淡掃清如水,双眸七寶慈。

紛紛唯欲逢,鬱鬱遂同時。

何恨光陰早,浮雲待雨移。

 

【日語】幽径に半ば面を背き,紅裙の歩は自から遅し。

歓情、是れ夢かと疑い,一顧して十分の奇なり。

淡掃清きこと水の如く,双眸は七寶の慈なり。

紛紛と唯だ逢わんと欲し,鬱鬱として遂に時を同じうす。

何んぞ恨まん光陰の早きを,浮雲は雨の移るを待つ。

 

 

  白薔薇

 

風吹雨打白薔薇,老妻丹精不許飛。

未問何縁遥寄柯,棘茎薄葉怯炎威。

 

【日語】風吹き雨打つ白き薔薇,老妻の丹精せ飛ぶを許さず。

未だ問ず何に縁りて遥に柯を寄すを,棘茎薄葉炎威を怯ると。

 

 

  空閨枕上

 

空閨枕上夜殊長,夢醒紙窗映朝陽。

歳月須知千里別,憐憐還恨試新妝。

禍福兼得一樽酒,妬妬應恥惑袖香。

數識花顔春若夢,粧成只有蓐鴛鴦。

 

【日語】空閨枕上の夜は殊に長く,夢醒め紙窗に朝陽映る。

歳月須く知る千里の別を,憐憐還た恨む新妝を試すを。

禍福兼得たり一樽の酒に,妬妬應に恥ず袖香に惑うを。

數識る花顔の春は夢の若くを,粧成りて只だ有り鴛鴦の蓐を。

 

 

  洞房聯

 

【解説】夫婦の寝室に関わる。

 

洞外桃花啓灼灼;房内淑女舞翩翩。

 

洞天福地春光好;房間新婚恩愛長。

 

子女夫妻福;鶴髪偕老縁。

 

 

  嫁女聯

 

月白風清,今夜相思無雨;

 

天寒地凍,明朝必定結霜。

 

娶親奏楽,無非使客人高興;

 

嫁女陪奩,総是爲門婿發財。

 

愛恋人生人恋愛;情聯友誼友聯情。

 

【解説】どちらからでも読める回文聯。對聯末字は平字と決められているので、情が末字となる。

 

 

  再婚聯

 

月缺月圓圓古月;人離人合合新人。

 

琴断一弦籬舊綫;簫吹二度奏新歌。

 

 

  再婚聯横批

 

【解説】柱と柱の間に掛けられた額縁に描かれた文言である。

 

破鏡重圓

 

鵲橋二渡

 

 

  結婚横批

 

百年好合

 

幸福家庭

 

双喜臨門

 

 

  漢俳・恋慕心

 

君是任人評,我是恋恋不耐情,誰道心不争。

 

【日語】君は是れ人の評するに任せ,我は是れ恋恋として情に耐不,誰か道う心が争から不と。

 

 

  漢俳・雲雀

 

飛翔天縦横,飛來飛去春好處。羨憾百恋情。

 

【日語】天を縦横に飛翔,飛來飛去、春好き處。百恋の情を羨憾す。

 

 

  偲歌三首

 

【解説】偲歌は男女の情愛を専らとする定型である。

多年追憶,一隔香塵。恨別離詩,鏡裏春。

 

【日語】多年の追憶,一隔の香塵。

別離の詩を恨む,鏡裏の春に。

 

一吟双涙,分袂成章。恋恋含羞,夜夜長。

 

【日語】一吟双涙,分袂章を成す。

恋恋と羞を含み,夜夜長し。

 

驛頭相約,共吃茶時。秘喜聲奮,憂帯弛。

 

【日語】驛頭の相約,共に茶を吃すの時。

秘めた喜びの聲は奮い,帯の弛むを憂う。

 

【解説】帯弛は慣用句で有る。思いが募って食事も喉を通らず、痩せてしまうと、帯が弛むと謂うこととなる。辛い思いをしないかと憂う事を言う。

 

 

  十六字令・美人待郎之圖

 

裳。酒醒香消夜未央。灯下静,枕上月如霜。

 

【日語】裳。酒醒め香消え夜は未だ央ならず。

灯下静かにして,枕上の月は霜の如し。

 

 

  乳燕飛・梅雨書窗

 

  梅雨書窗下。湿衣襟,群蛙閣閣,俳詩幽雅。開封亦読相思字,信亦約相会夏。日日永,夕陽居厦。屋頂風爽人不到,望雲端,模糊藍天挟。看時遷,妾心劃。

  思君歳月未閑暇,疲垢面,空閨黛匣,胸中秋颯。閑窗双魚千行涙,何識不惑黒髪。勿忘而立紅潮頬。心火方訴雙飛翼,任人評,牽袂薔薇夏,書帙湿,書窗下。

 

【日語】梅雨書窗の下。衣襟は湿り,群蛙閣閣,俳詩は幽雅なり。封を開きて亦相い思うの字を読む,信は亦夏に会うを相約す。日日永く,夕陽の居厦。屋頂は風爽にして人到らずに,雲端を望む,模糊たる藍天の挟。時の遷を看,妾が心は劃く。

 

  君を思い歳月未だ閑暇なく,疲れたる垢面,空閨の黛匣,胸中の秋颯。閑窗の双魚、千行の涙,何んぞ識らん不惑の黒髪を。忘るる勿れ而立す紅潮の頬を。心火方に雙飛翼に訴えん,人の評するに任せ,袂を牽く薔薇の夏,書帙は湿る,書窗の下に。

 

 

  章臺柳・故郷意中之人

 

  春情筆,幽情筆,竹馬相思何処邑?緬懐山川又断腸,想君照瞼故郷夕。

 

【日語】春情の筆,幽情の筆,竹馬相い思い何処の邑?緬に山川を懐い又断腸す,君を想い瞼を照す故郷の夕。

 

 

  詠“白百合”詩四首詞一闕

  十三絃

 

【解説】この作品は琴の名手と学僧の悲恋を題材にして創作した。

恋恋相思切,盟約緑柳前。

少小升學去,老大為君憐。

難弁三千界,何論五十年。

莫尋禅寂境!難断連理縁。

縷縷應揮涙,蕭蕭乍弄絃。

香盈情素裏,艶艶入深淵。

 

【日語】恋恋として相い思は切に,盟約す緑柳前。

少小にして學に升り去き,老大にして君が為に憐む。

弁じ難し三千界,何んぞ論ぜん五十年。

尋ぬ莫れ禅寂の境を!断じ難し連理の縁を。

縷縷として應に涙を揮い,蕭蕭として乍ち絃を弄す。

香は情素の裏に盈ち,艶艶として深淵に入る。

 

  望海潮・彩籃

 

  軟塵公園,彩籃葯草,“平安”鬱鬱京華。落花流水,禅門萬里,嘆嗟十年歳月。琴韵渡天河。訴連理盟約,離別悲憤。惻惻悠悠,整襟端坐為君歌。

  修行日日蹉躓。惑故郷妙舞,寒暑天涯。君去憶君,空閨恋恋,留魂“白百合”花。紅袖映袈裟。識巫雲蜀雨,崎嶇坎軻!琴線悠悠戛戛,香静發霜葩。

 

【日語】軟塵の公園,彩籃の葯草,“平安”鬱鬱たる京華。花は落ち水は流れ,禅門は萬里,十年の歳月を嘆嗟す。琴韵は天河を渡り。連理の盟約,離別の悲憤を訴う。惻惻悠悠,襟を整え端坐して君が為に歌わん。

 

  修行の日日は蹉躓たり。故郷の妙舞,寒暑の天涯に惑う。君去君を憶う,空閨恋恋たり,“白百合”花に魂を留めん。紅袖は袈裟に映る。巫雲蜀雨,崎嶇坎軻を識る!琴線は悠悠戛戛たり,香は静かに霜葩に發く。

 

   連理枝

 

帝里芳園燕來時,一隔紅塵哀惜詩。

鸞交鳳友摘葯草,青春楽逸有交期。

桃夭雅韵多情思,墨子悲哀染素絲。

剃髪十年断俗世,故郷橋畔舊楊枝。

 

【日語】帝里の芳園に燕來る時,一隔の紅塵、哀惜の詩。

鸞交鳳友は葯草を摘み,青春の楽逸は交期有り。

桃夭雅韵は情思多く,墨子の悲哀は素絲を染む。

剃髪十年俗世を断じ,故郷の橋畔、舊楊枝。

 

  九衢埃

 

橋邉柳下春慌去,案頭燈架秋亦來。

胸臆何忘分袂日,光陰更重九衢埃。

 

【日語】橋邉柳下、春は慌しく去り,案頭の燈架、秋亦來る。

胸臆何んぞ忘れん分袂の日を,光陰は更に重なる九衢埃。

 

  客裏恋々

 

家郷山川下,恋々結垂楊。

客裏花没有,嵩崖馥郁香。

 

【注】比翼連理;男女の睦まじく離れがたい事の譬え

落花流水;男に女を思う情が有れば、女もその男を慕う情が生ずるという譬え

巫雲蜀雨;遠く離れている夫婦がお互いを思いやる譬え

崎嶇坎軻;厳しい世の中で、多いに苦労し、志が遂げられないさま

墨子悲絲;人は境遇・習慣や他人の影響で良くも悪くも成るという譬え

鸞交鳳友;男女が慣れ親しみ合う譬え

 

【日語】家郷山川の下,恋々と垂楊を結ぶ。

客裏に花は没有,嵩崖に馥郁と香る。

 

 

 章臺柳・離杯暁

 

  階前草,階前草,白白晶晶珠露輝。濡泪空閨浅画眉,濡泪欄干離杯暁。

 

【日語】階前の草,階前の草,白白晶晶として珠露は輝く。泪は濡れる空閨浅画の眉に,泪は欄干離杯の暁に濡れる。

 

 

 章臺柳・陋巷想君

 

  離家日,逢君日,五尺青春年少志。酒醒心中開笑眉,夢醒窮巷傷塵市。

 

【日語】家を離れる日,君に逢う日,五尺の青春、年少の志。酒醒心中に笑眉を開く,夢醒窮巷に塵市を傷む。

 

 

  巫山一段雲・秋日郊行

 

  一葉紅和緑,無人農事忙。白雲生恰似吾郷。往事思何長。

  二八千金笑,含情淡淡妝。残蝶何処草枯霜。移歩半青黄。

 

【日語】一葉紅和緑,人無くして農事は忙し。白雲生じ恰も吾郷に似たり。往事の思は何んと長きか。

 

  二八千金の笑,情を含みて淡淡と妝う。残蝶は何処か草は霜に枯れる。歩を移せば半ば青黄たり。

 

 

  深院月・本意

 

  懐白屋,仰蒼穹。竹馬離情兩心同。深院影照一窗月,千里春恨託冥鴻。

 

【注】外面世界の月は内面世界の少婦の意味を併せ持つ。:雑詩沈期;可憐閨裏月,常在漢家営。

 

【日語】白屋を懐い,蒼穹を仰ぎ。竹馬の離情は兩心同うす。深院の影は一窗の月を照らし,千里の春恨を冥鴻に託さん。

 

 

  題梅園花下偶然遇見之圖

 

一白東風急,寒枝得春先。

偶見同好客,歩歩互忘年。

 

【日語】一白の東風は急に,寒枝は春の先んずるを得たり。

偶たま見る同好の客を,歩歩互に年を忘る。

 

 

  乳燕飛・石榴花下連理之圖

 

  繊指千金笑。帯明瑯,天資麗質,浩然文教。一毫寫成孤燈下,胸裡難酬到暁。芳草暗,朝陽輝照。院落南薫新翠滴,一石榴,緑緑紅紅輝。還磨墨,妾心調。

  紅落緑暗朝靄漂,涙沾衣,自悲浮剽,映光珠燿。紅緑石榴陽光漲,與緑紅相交妙。解放慷情盈盈叫。心火方訴雙飛翼,約佳期,楚楚應知嘯,純粋念,錦心笑。

 

【日語】繊指千金の笑。明瑯を帯び,天資は麗質なり,浩然たる文教。一毫寫し成る孤燈の下に,胸裡酬い難く暁に到る。芳草暗く,朝陽は輝き照る。院落の南は薫り新翠は滴り,一石榴,緑緑紅紅と輝く。還た墨を磨し,妾心を調ぶ。

 

  紅落ち緑暗く朝靄漂い,涙は衣を沾す,自から悲しみ浮剽す,光珠は燿き映る。紅緑の石榴、陽光は漲り,緑紅與相い交り妙なり。慷情を解き放ち盈盈と叫ぶ。心火は方に雙飛翼を訴う,佳期を約し,楚楚として應に知嘯たり,純粋の念,錦心の笑。

 

 

  彩雲歸・鴛鴦靠近芳園梅樹之圖

 

  一只黄鶯,春天過去,夏天到,秋天,冬天来臨也。不回到森林,芳苑転移居住,訪問了一梅樹下。

  嫩葩任地送春時,泣詩人,楚雀休飛。應野花散草如香霞,梢寂寂,素魄冰肌。恨経雨,遠山残雪,憶故郷緑渓。來那處聊違俗,婀娜玉枝。

  何之。伏憐仰憫,不厭千里更堪思。夢醒太息分袂,醒夢未識雄辭。有限光陰芳梅樹,巷議莫道毘尼。暑寒遍,君下留園互話襟期。

 

【日語】一只の黄鶯,春天は過去り,夏天は到る,秋天,冬天来り臨む也。森林に回到不,芳苑に転移し居住し,訪問したり、一梅樹の下へ。

 

  嫩葩は地に任せ春を送る時,詩人は泣き,楚雀は飛び休む。應に野の花は散り草は香霞の如し,梢は寂寂,素魄冰肌。経雨を恨む,遠山の残雪,故郷の緑渓を憶う。那處に來りて聊か俗と違う,婀娜玉枝。

 

  何之。伏憐仰憫,千里を不厭更に思に堪える。夢醒め太息し分袂す,夢醒め未だ雄辭を識らず。有限の光陰、芳たる梅樹,巷議毘尼を道う莫れ。暑寒遍く,君が下、園に留り互に襟期を話さん。

 

幽會

 

【余談】交歓と謂う語句がある。辞書には誼を結ぶ、と書かれているが、この誼とは男女の誼の事で、男女の秘め事と謂う意味である。使うときには注意を要す。

 

【解説】漢民族詩歌は、叙事内容が限定されているわけではない。逢い引きに拘わる作品も例外ではない。時と場所を異にして掲載された作品だが、二十二首ほど集めて掲載した。

 

  陽春駅頭之圖

 

疎雨随風散,紅紅僅綻時。

駅頭呑下衆,挂票各何之。

蛾眉半披臉,低頭獨有期。

仰天憐宿世,含恨湿燕脂。

應見嬌羞面,春陽透玉肌。

 

【訓読】疎雨は風に随って散り,紅紅僅に綻ぶ時。

駅頭は衆を呑み,挂票各おの何にか之く。

蛾眉、半ば臉を披い,頭を低れて獨り期有り。

天を仰ぎて宿世を憐み,恨を含みて燕脂は湿る。

應に見る嬌羞の面,春陽は玉肌を透す。

 

 

  雨中駅頭遇見之圖

 

日午階前雨,亦煩羅袖長。

枝頭花落盡,足下僅含香。

 

【日語】日午階前の雨,亦た煩う羅袖の長きを。

枝頭の花は落ち盡し,足下は僅かに香を含む。

 

【解説】是は女性の心中を詠っている。雨が降ってスカートが煩わしい。

 

 

  雨中駅頭幽會之圖

 

佇立駅舎下,僅湿五彩箋。

憐憐情勝萬,恋恋字値千。

坐恨無春色,徒憂凋態妍。

嬌羞心孰主,一傘細雨天。

 

【訓読】佇み立つ駅舎の下,僅に湿る五彩の箋。

憐憐たる情は萬に勝り,恋恋たる字は千に値う。

坐に恨む春色の無きを,徒だ憂う態妍の凋むを。

嬌羞、心は孰か主なる,一傘、細雨の天。

 

 

  陽春相會之圖 五首連環体

 

【解説】この作品は五首連環体で、合句を次の句の起句に充当する詩法である。

  其一

 

莽莽兩年期,紅紅僅綻時。

駅頭呑下衆,挂票各何之。

 

【日語】其五合句,紅紅僅かに綻ぶ時。

駅頭は衆を呑下,票を挂けて各おの何之。

 

  其二

 

挂票各何之,低頭獨有期。

仰天憐宿世,含恨湿燕脂。

 

【日語】其一合句,頭を低れて獨り期する有り。

天を仰ぎて宿世を憐み,恨を含みて燕脂は湿る。

 

  其三

 

含恨湿燕脂,駅頭燕子飛。

傷春空看鏡,鶴首亂羅衣。

 

【日語】其二合句,駅頭に燕子飛び。

春を傷みて空しく鏡を看み,鶴首して羅衣を亂す。

 

  其四

 

鶴首亂羅衣,紛紛何處之。

尋芳禅院下,藤架紫成絲。

 

【日語】其三合句,紛紛として何處之。

芳を尋ぬ禅院の下,藤架の紫は絲を成す。

 

  其五

 

藤架紫成絲,毫端墨醒時。

綿綿孤雁叫,莽莽兩年期。

 

【日語】其四合句,毫端の墨が醒める時。

綿綿と孤雁は叫び,莽莽たる兩年の期。

 

 

  緑風駅頭之圖

 

【解説】題材を同じくして、押韵を異にした。

  其一 微韵

 

白白随風散,駅頭燕子飛。

傷春空看鏡,鶴首亂羅衣。

 

【日語】白白は風に随つて散じ,駅頭に燕子飛ぶ。

春を傷みて空しく鏡を看,鶴首して羅衣を亂す。

 

  其二 波韵

 

首夏相逢處,駅頭愁緒多。

薔薇堆板架,欲買卻如何。

手表告時刻,思君已自和。

香紅情不浅,燕子掠檐過。

 

【日語】首夏相い逢う處,駅頭に愁緒多し。

薔薇は板架に堆,買わんと欲すに卻って如何。

手表時刻を告げ,君を思て已に自から和す。

紅は香りて情は浅不,燕子は檐を掠て過ぎる。

 

  其三  寒韵

 

細雨疎簾五月天,駅頭茶館煮香烟。

徒知恋慕人間事,一傘含羞共竝肩。

 

【日語】細雨の疎簾五月の天,駅頭の茶館は香烟を煮る。

徒だ恋慕は人間の事と知る,一傘羞を含めて共に肩を竝ぶ。

 

  其四 微韵

 

茶房角落兩珈琲,一顧惹情即厭歸。

星眸花顔心孰主,傷春寄語思已飛。

寒廚浄几何由問,遠近親疎不可非。

首夏駅頭人亦忙,残花任地應緑肥。

 

【日語】茶房の角落、兩珈琲,一顧情を惹き即ち歸るを厭う。

星眸の花顔、心孰主なる,傷春語を寄せ、思は已に飛ぶ。

寒廚の浄几、何に由る問う,遠近親疎不可に非。

首夏の駅頭、人亦忙しく,残花は地に任せて應に緑は肥たり。

 

  其五 豪韵 章臺柳

 

相思笑,眞情叫,細雨尖風花否落。

不定心神会駅頭,誓約来世双棲道。

 

【日語】相い思い笑い,眞情は叫ぶ,細雨と尖風と、花落るや否や。

心神定不駅頭に会す,来世を誓約す双棲の道を。

 

 

  題桜花下遇見之圖

 

蓬頭歩歩苦吟中,白白紅紅春昼長。

偶見相知天所劃,明眸含羞託鱗鴻。

 

【日語】蓬頭歩歩苦吟の中,白白紅紅春昼は長し。

偶ま相知り天の劃する所を見,明眸は羞を含み鱗鴻に託す。

 

 

  題山館相逢之図

 

山腰旅館半紅楓,久濶相逢好悪同。

一泊含恥都下客,両人回首世塵中。

 

【日語】山腰の旅館半紅の楓,久濶に相い逢い好悪同じ。

一泊恥を含む都下の客,両人回首す世塵の中に。

 

 

  雨中駅頭遇見之圖

 

駅頭双燕避車塵,誰待細腰彩袖新。

経史千篇天所許,春秋一夢本人倫。

 

【日語】駅頭の双燕は車塵を避け,誰ぞ待たん細腰彩袖の新たなるを。

経史千篇は天の許す所,春秋の一夢は本人の倫たり。

 

 

  躑躅花邉相遇之圖

 

禅林後園老鶯鳴,角落籬邉新樹平。

茅店啜茶相擁坐,徒聞窗外野禽聲。

目前含笑却思烈,忽覚胸中昔年情。

萬朶鵑花紅影亂,老株六尺兩枝瓊。

 

【日語】禅林の後園に老鶯は鳴き,角落籬邉に新樹平かなり。

茅店で茶を啜り相い擁して坐し,徒だ聞く窗外野禽の聲を。

目前笑を含み却って思いは烈しく,忽ち覚ゆ胸中昔年の情を。

萬朶の鵑花、紅影は亂れ,老株六尺、兩枝は瓊たり。

 

 

  題久濶相逢之図

 

楓渓一路叫山禽,緬想青絲共擁衾。

傍晩澡盆妖艶指,晨朝鏡裏雪毛簪。

 

【日語】楓渓一路山禽叫び,緬に想う青絲、共に擁衾。

傍晩の澡盆、妖艶の指,晨朝の鏡裏に、雪毛の簪。

 

 

  花下連理之圖

 

薫風蕭寺白雲収,一兩離枝那處由。

應緩指環嗟握別,共知潜懐更何求。

人生助互誓連理,密意煩相分享愁。

黄緑雲裳心孰主,紅唇繍履為花憂。

 

【日語】薫風の蕭寺に白雲は収り,一兩枝を離れて那處由。

應に指環緩みて握別を嗟き,共に潜懐を知りて更に何をか求めん。

人生互に助け連理を誓い,密意相い煩して享愁を分つ。

黄緑の雲裳に心は孰主なる,紅唇の繍履は花の為に憂えん。

 

 

  五言排律・藤架花下相遇之圖

 

香雨無人掃,紛紛何處之。

尋芳禅院下,藤架紫成絲。

繞想音書裡,毫端墨醒時。

綿綿孤雁叫,莽莽兩年期。

欲訪風東起,思君日西移。

神籤何識閔,随意蘂雙垂。

 

【日語】香雨は人の掃う無く,紛紛と何處にか之く。

芳を尋ぬ禅院の下に,藤架の紫は絲を成す。

想は繞る音書の裡に,毫端の墨醒めるの時。

綿綿たる孤雁の叫び,莽莽たり兩年の期。

訪はんと欲すれば風東起り,君を思えば日は西に移る。

神籤は何んぞ閔を識らん,意に随って蘂は雙垂す。

 

 

  雨中駅頭幽會之圖

 

思君隔地恨長虹,歩似蝸牛日日空。

挙手招呼千麗笑,伸腰相見兩心融。

鞣x筆硯柔剛跡,閭巷犂鍬雨土工。

説菜聞書如走馬,駅頭茶舗僅天同。

 

【日語】君を思い地を隔て長虹を恨み,歩は蝸牛に似て日日空し。

手を挙げ招呼す千麗の笑,腰を伸し相見て兩心融す。

鞣xの筆硯は柔剛の跡,閭巷の犂鍬は雨土の工。

菜を説き書を聞き走馬の如く,駅頭の茶舗に僅天を同うす。

 

 

  駅頭待君之圖五首

  其一

 

残花任地爲君憂,一兩離枝那處由。

應緩指環嗟握別,共知潜懐更何求。

 

【日語】其五合句,一兩枝を離れ、那處由。

應に指環緩む嗟握の別に,共に懐を潜めて更に何を求んかを知る。

 

  其二

 

共知潜懐更何求,密意煩相分享愁。

黄緑雲裳心孰主,紅唇繍履避人游。

 

【日語】其一合句,意を密め、相い煩い享愁を分つ。

黄緑の雲裳、心孰主なる,紅唇繍履、人を避けて游ぶ。

 

  其三

 

紅唇繍履避人游,駅頭茶館懶上鉤。

徒知恋慕人間事,茶房角落美簪頭。

 

【日語】其二合句,駅頭の茶館、鉤を上る懶し。

徒だ知しる恋慕は人間の事なるを,茶房の角落、美簪の頭。

 

  其四

 

茶房角落美簪頭,一顧惹情涕涙流。

星眸花顔心孰主,傷春寄語爲君留。

 

【日語】其三合句,一顧情を惹き涕涙流れ。

星眸の花顔、心孰主,傷春語を寄せ吾が爲に留めん。

 

  其五

 

傷春寄語爲吾留,遠近親疎歳月周。

首夏駅頭人亦忙,残花任地爲君憂。

 

【日語】其四合句,遠近親疎、歳月は周り。

首夏の駅頭、人亦忙し,残花は地に任せて君が爲に憂う。

 

陋巷雑詠

 

  曄歌十二首

 

【解説】陋巷雑詠詩である。曄歌は読みは簡易で創作も簡易である。

鬱陶心。小院生苔,又自斛。

 

【日語】鬱陶の心。小院に苔生え,又自から斛む。

 

文字縁。幽居半壁,寄吟箋。

 

【日語】文字の縁。幽居半壁,吟箋を寄せる。

 

病室白。相互握手,冬燈火。

 

【日語】病室は白。相互に握手,冬燈火。

 

亂蛙喧。窗前水田,水半渾。

 

【日語】亂蛙喧し。窗前の水田,水は半ば渾。

 

読書軒。詩債成山,席未温。

 

【日語】読書の軒。詩債は山を成し,席は未だ温まらず。

 

冷透襟。亦憶利名,酒獨斛。

 

【日語】冷は襟を透し。亦た利名を憶い,獨り酒を斛む。

 

断腸詞。檐頭微雨,夢醒時。

 

【日語】断腸の詞。檐頭の微雨,夢が醒める時。

 

陋習情。一陣尖風,燕子鳴。

 

【日語】陋習の情。一陣の尖風,燕子鳴。

 

故郷語。閑窗抱膝,初陣雨。

 

【日語】故郷の語。閑窗に膝を抱き,初陣雨。

 

暁鴉聲。只有虚窗,詩未成。

 

【日語】暁鴉の聲。只だ虚窗有りて,詩は未だ成らず。

 

彩雲箋。筆硯払愁,一味禅。

 

【日語】彩雲の箋。筆硯は愁を払い,一味の禅。

 

一寸天。四季優游,迸玉泉。

 

【日語】一寸の天。四季優游し,玉泉は迸しる。

 

 

  對聯

 

半壁寒灯塵事少;二杯餐飯紛糾多

 

 

  偲歌六首

 

不發脾気,早晨回家。心情可怕,五更花。

 

【日語】不發脾気,早晨回家。心情可怕,五更の花。

 

一縷涙痕,一夜春風。満窗風雪,臙脂紅。

 

【日語】一筋の涙痕,一夜の春風。満窗の風雪,臙脂の紅。

 

一起洗澡,屈指幾年。天真爛漫,姑娘臉。

 

【日語】一緒に風呂に入ったのは・・屈指幾年。・・・

 

同衾情人,氷冷夜晩。一心同体,萬暖暖。

 

【意訳】連れ合いと,冷たい夜も。一心同体,暖かい。

 

酒亭無客,霓虹逼帷。細腰玉肌,満羅衣。

 

【日語】酒亭に客無く,霓虹は帷に逼る。

細腰玉肌,満羅の衣。

 

秋逢梧葉,月照素帷。深窗粧鏡,隠鬢絲。

 

【日語】秋の梧葉,月は素帷を照す。

深窗の粧鏡,鬢絲を隠す。

 

 

  漢俳 雨餘訪山寺九首

 

移杖絶俗縁。枝頭微動雨餘天,鐘聲最上禅。

 

【日語】杖を移して俗縁を絶つ。

枝頭微に動く雨餘の天,鐘聲は最上の禅なり。

 

初鶯試吟喉。枝上三紅促軽暖,一白足清幽。

 

【日語】初鶯は吟喉を試みる。

枝上の三紅は軽暖を促し,一白は清幽に足りる。

 

雨細鎖蓬扉。書窗繚乱人懶臥,貧富兩相違。

 

【日語】雨細に蓬扉を鎖し。

書窗は繚乱、人は懶臥す,貧富兩つながら相い違う。

 

暴富貪功名,妄自尊大四坐驚。何勝百畝耕。

 

【日語】暴富は功名を貪り,

妄自尊大で四坐驚く。何んぞ百畝の耕に勝るや。

 

祖父賞功時。富貴貧賤悉不鵠,平等未可爲。

 

【日語】祖父が功を賞するの時。

富貴貧賤悉く不鵠,平等は未だ爲す可ず。

 

書窗少篆紋。嫩寒細雨湿鶯語,指下寫詩文。

 

【日語】書窗の少篆紋。

嫩寒細雨に鶯語は湿り,指下に詩文を寫す。

 

花落燕來飛。今昔幾年屈指数,開封人未帰。

 

【日語】花は落ち燕は來飛し。

今昔幾年屈指数,封を開きて人は未だ帰らず。

 

薄暮阻吟行。淡月掛枝花尚明。映水忘歸程。

 

【日語】薄暮は吟行を阻み。

淡月は枝に掛りて花は尚お明らかに。水に映りて歸程を忘る。

 

杖下一寸天。春夏秋冬高懐興,奇句啓千年。

 

【日語】杖下一寸の天。

春夏秋冬高懐の興,奇句は千年を啓く。

 

 

  詠婦女

 

十八美人擦暗涙,傷時字字染華箋。

三年惜別疏憂面,任分朝朝起煮烟。

 

【日語】十八の美人暗涙を擦し,時を傷み字字華箋を染む。

三年惜別して疏憂の面,分に任せ朝朝煮烟を起す。

 

【意訳】若い娘は人知れず涙を流し、手紙を沢山書いたのに・・・そんな娘さんも、三年経つと、別れの辛さも薄らいで、今では結婚して、朝食の支度をしているのであろうか!・・

 

 

  當世即事(比喩)

 

妙法慈悲獨矜驕,巧言令色慕高標。

撒衢糞尿安吾事,殺食牛猪何愛猫。

 

【日語】妙法の慈悲、獨矜驕,巧言令色、高標を慕う。

衢に糞尿を撒き吾事に安んじ,牛猪を殺し食して何んぞ愛猫。

 

【解説】動物愛護と立派なことを謂うけれど、街にオシッコを撒き散らして、自分の家は綺麗にしている。牛や豚を殺戮して、死肉を食べているのに、どうして動物愛護家なのでしょうか?

 

 

  平平仄仄只喧譁

 

  絶代的丈夫與才媛不一定培養絶代的家庭。

高居傑叟屬詩家,黙黙獨修寫物華。

麗質才媛努相睦,清新妙句趣尤嘉。

飜聲對意興無限,仄仄平平路更遐。

遺憾丈夫缺互補,平平仄仄只喧譁。

 

【日語】高居の傑叟は詩家に屬し,黙黙と獨修し物華を寫す。

麗質な才媛は相い睦むを努め,清新な妙句の趣は尤も嘉なり。

飜聲對意、興は限り無く,仄仄平平路は更に遐なり。

遺憾なり丈夫は互に補うに缺け,平平仄仄只喧譁。

 

 

  少婦行 題憐老婆図(80句544字)

【解説】この作品は解毎に押韵を平仄交互に換えて有る。

 

小斎窓下菊花薫,庭際柿枝衆鳥群。

老骨何辞睡魔誘,暫時入夢亦懐紛。

三尺青春多楽事,紅塵香雪潔白指。

深窗少女未知悲,父母慈育天性翅。

東郊風暖柳成絲,十里春畦逐蝶兒。

夜夜沈潜耽誦読,双親薫育學無為。

賢才順孝専慈愛,繊指蛾眉恣淑姿。

二八妙齢歩花下,千篇雁信欲投誰?

桜花不背期,雁書難傳意。

多恨此時情,躍心今日筆。

一樽濁酒與清吟,半壁寒燈惜僅陰。

互涙相憐吾不独,何疑人生任君尋。

六尺青襟佳配偶,三年紅頬新婚酒。

不知九月合歓花,處處飛翔周旋久。

単身得任半憫歓。折柳思程涙未乾。

三尺帛書忘髪白,十年客里祷身安。

啓封感激新,懐舊光陰早。

難過別離情,眞誠思慕祷。

紛紛亂意悲歌起,恋恋思君牀褥寒。

襁褓幼童初度宴,莫教哀訴強加餐。

夜夜要求千里馬,朝朝欲靠八占卦。

却悵愛人學才多,鏡裡花顔微白髪。

単身百里就塵沙,五尺心中未足誇。

客舎年年増悪酒,常時奔走不思家。

毎月君説杞人憂,毎年我拒奴僕道。

聡明婦女敢鞭駑,只顧丈夫誰有靠。

任重臥病赴泉途,偏惜壮年豪気夫。

父母妻孥崩惻惻,弟師朋輩嘆啾啾。

咨嗟血涙應難盡,耳目身心忽如無。

百事崢エ生活計,千秋慈愛掌中珠。

恋恋恨君懐往事,帯杯欲尋故郷景。

空閨暗泪畏人知,雨雨風風眞一夢。

悲歓訴君已無言,夙昔朋知豁短垣。

陋巷窮愁空看鏡,浮生行業未知源。

染血繊指育兒子,授學驕童頌結婚。

漸就宿心年若水,衰顔老叟坐南軒。

呆看西窗夕陽淡,應聴院落童子玩。

歩歩雛孫領我衣,邯鄲夢覚低階段。

紅顔三尺絡嚔裳,夕餉炊煙罩草堂。

無主巷居燈影淡,可憐少婦守空房。

 

【注】只顧;融通が利かない。 難過;耐え難い 

 

【日語】小斎窓下に菊花は薫り,庭際の柿枝に衆鳥は群る。

老骨何んぞ辞せん睡魔の誘を,暫時夢に入りて亦た懐いは紛たり。

三尺の青春、楽事多く,紅塵香雪潔白の指。

深窗の少女、未だ悲みを知らず,父母は慈育して天性に翅く。

東郊の風は暖かに柳は絲を成し,十里の春畦に蝶兒を逐う。

夜夜沈潜して誦読に耽り,双親は薫育して無為を學ぶ。

賢才順孝、慈愛を専にし,繊指蛾眉、淑姿を恣にす。

二八の妙齢、花下に歩し,千篇の雁信、誰に投欲か?

桜花は期に不背,雁書の意は傳り難し。

多く恨む此の時の情に,心は躍る今日の筆に。

一樽の濁酒與清吟と,半壁の寒燈に僅陰を惜む。

互に涙し相い憐み吾は独ならず,何ぞ疑わん人生君に任せ尋ねるを。

六尺の青襟、佳配偶,三年の紅頬、新婚の酒。

不知九月合歓の花,處處に飛翔して周旋久し。

単身任を得て半ば憫歓。柳を折り程を思い涙未だ乾かず。

三尺の帛書に髪の白を忘れ,十年の客里に身の安きを祷る。

封を啓けば感激新たに,舊を懐えば光陰は早し。

過ぎ難し別離の情,眞誠なり思慕の祷り。

紛紛と意は亂れて悲歌は起り,恋恋と君を思いて牀褥は寒し。

襁褓の幼童、初度の宴,哀訴教む莫れ強いて餐を加えん。

夜夜要求す千里の馬を,朝朝靠んと欲す八占の卦に。

却って悵む愛人の學才の多きを,鏡裡の花顔に微な白髪。

単身百里塵沙に就き,五尺の心中、未だ誇るに足らず。

客舎年年悪酒を増し,常時奔走して家を不思。

毎月君は説う杞人の憂と,毎年我は拒む奴僕の道を。

聡明な婦女は敢えて駑鞭,只顧に丈夫は誰ぞ靠る有らんか?

任は重く病に臥して泉途に赴き,偏に惜しむ壮年豪気の夫を。

父母妻孥は崩れて惻惻,弟師朋輩は嘆きて啾啾たり。

咨嗟血涙、應に盡き難く,耳目身心、忽として無きが如し。

百事崢エたる生活の計,千秋慈愛す掌中の珠を。

恋恋君を恨みて往事を懐しみ,杯を帯え尋ねんと欲す故郷の景に。

空閨の暗泪、人の知るを畏れ,雨雨風風、眞に一夢たり。

君に悲歓を訴えるに已に言無く,夙昔の朋知は短垣を豁く。

陋巷の窮愁に空しく鏡を看,浮生の行業に未だ源を知らず。

繊指は血に染り兒子を育て,驕童に學を授け結婚を頌す。

漸く宿心就けば年は水の若く,衰顔の老叟は南軒に坐す。

呆と看る西窗の夕陽の淡きを,應に院落に童子の玩ぶを聴く。

歩歩たる雛孫、我が衣を領み,邯鄲の夢は覚む低き階段に。

紅顔三尺、嚔裳に絡り,夕餉の炊煙は草堂に罩む。

主無き巷居は燈影淡く,憐む可し少婦が空房を守るを。

 

 

  對聯十副

 

萬巻詩門秘;千秋筆硯師。

 

一病安心處;千金落魄身。

 

歳歳花開落;年年人死生。

 

英勇功名羊腸路;朋友氷心翰墨縁。

 

殺戮牛豚称愛護;侵略国土弄和平。

 

【日語】牛豚を殺戮て愛護と称し;国土を侵略して和平を弄す。

 

我想青山幾層楼;君看白梅数枝紅。

 

【日語】我は想う青山幾層の楼を;君は看る白梅数枝の紅を。

 

【解説】男子は自己の功名を・・・、女性は家族の幸せを・・・

 

幾度春風人結髪;多年交友月有情。

 

峯嶽雷轟輸急雨;林蹊客惑結深憂。

 

臨風喞喞自終夕;邀月啾啾度永宵。

 

立志諮功出郷里;耽詩溺酒散私財。

 

 

  父母

 

  模倣《重陽先生著看明月“書”》

  父,

世事怱忙舊業空。

聊託酒,養拙不言功。

  母,花顔含笑愛情豊。

貧無恨,抛愁不失紅。

 

【日語】父は,

世事怱忙として舊業は空し。

聊か酒に託し,拙を養い功を言ず。

母は,花顔笑を含みて愛情豊かに。

貧を恨む無く,愁を抛てて紅を失はず。

 

 

  老夫之不安

  欺騙老人的住宅装修(2005年7月20日)

老夫惑巧言,倒壊未得安。

爲修繕費萬銭。

爲欺詐失萬銭。

目前黄泉。

余生幾年。

百痾不安,嚢無銭。

老駝背,何処由。

百痾老骨痩,病床医生手。

遺留借款老躯枯。

棄置不顧幾歳月,家屋無人保堅固。

 

【意訳】老人はセールスの言葉に惑い、家が壊れぬかと心配する。

修繕のために沢山のお金を使う。

詐欺にあって沢山のお金を失いました。

もうじき死にそうなのに。

あと何年生きられるのか。

病気の不安があっても、銭がありません。

腰が曲がって,どうしたのかな。

病気で老人は痩せ細り,病院のお世話になります。

未だ借金が残っているのに、体は枯れ果てました。

家は何年も捨て置かれて,家屋は人も居ないのに堅固なり。

 

 

  十六字令

 

塵。担腹詩痴両地春。深似海,投句餞徂春。

 

【日語】塵。担腹詩痴両地の春。

深きこと海に似て,句を投し徂く春に餞す。

 

 

  五言絶句

 

雪急栖烏散,階前並菊盆。

勿謂塵事少,誰老坐南軒。

 

【日語】雪は急に栖烏は散り,階前に菊盆は並ぶ。

謂う勿塵事の少きと,誰ぞ老いて南軒に坐すや。

 

 

  南窗下

 

展巻南窗下,未読満架書。

高論何事好,我嫌涸轍魚。

 

【日語】巻を展る南窗の下に,未だ読まず満架書。

高論は何事か好き,我は嫌う涸轍魚を。

 

 

  五絶

 

茶店無人訪,難抛梅一枝。

我約三四輩,買酔得新詩。

 

【日語】茶店に人の訪う無く,抛ち難し梅一枝を。

我は三四輩と約し,酔を買いて新詩を得たり。

 

 

  五絶

 

冷露湿葦屋,庭梧先入秋。

茶店相擁坐,芳香杞人憂。

 

【日語】冷たき露に葦屋は湿り,庭梧は先ず秋に入る。

茶店に相い擁して坐し,芳香は杞人の憂なり。

 

 

  勝花時

 

柿熟芭蕉裂,雲流節序移。

應看残照外,一路勝花時。

 

【日語】柿は熟し芭蕉は裂け,雲は流れ節序は移る。

應に残照の外を看れば,一路は花時に勝る。

 

 

愁禍福

 

門巷人語絶,窗前玉樹生。

多愁羞素志,禍福是虚聲。

 

【日語】門巷に人語は絶え,窗前に玉樹生ず。

素志を羞じるに愁は多く,禍福は是れ虚聲なり。

 

 

  坤歌三十二首

 

野千鳴。巧言令色,民歓迎。

 

野に千鳴す。巧言令色,民は歓迎す。

 

接電話。太太不在!断電話。

 

【日語】電話を執り。女房は居ません!電話切る。

 

推銷員。称賛嗣子,袖手観。

 

【日語】推銷員。称賛嗣子,袖手観。

 

養老院。不愿死去,吃葯丸。

 

【日語】養老院。死にたくないと,薬飲み。

 

称徳家。?没日本,井底蛙。

 

【日語】徳家と称し。?没日本,井底の蛙。

 

凭威風。虚張聲勢,跡成空。

 

【日語】威風に凭れ。虚張聲勢,跡は空と成る。

 

歳月空。妻子不聴,嚢已空。

 

【日語】歳月は空し。妻子は聴かず,嚢は已に空なり。

 

只忙忙。退休閑閑,亦慣貧。

 

【日語】只だ忙忙たり。退休したら閑閑,亦た貧に慣れた。

 

侮古賢。百事巧言,怠萬銭。

 

【日語】古賢を侮り。百事巧言,萬銭を怠る。

 

雨後畦。不知播種,只求益。

 

【意訳】雨後の畦。種播を知らず,只益を求む。

 

雖然小。這箇幸福,不放手。

 

【日語】小さくとも。この幸福は,手放さず。

 

退休后。愛情表白,數増加。

 

【日語】退職后。愛してるよと,数が増え。

 

新春禧。僅僅祝酒,假元気。

 

【日語】新春祝。僅かな祝酒に,空元気。

 

在公園。吸入新緑,深呼吸。

 

【意訳】公園で新緑を吸い込む深呼吸

 

退休后。剥奪充裕,低利銭。

 

【日語】退職后。余裕が無くなる,低金利。

 

頑固脳。石仏頭上,感冒薬。

 

【日語】頑固頭。石仏頭上に,風邪薬。

 

風偶然。生生流転,花偶然。

 

【日語】風偶然。生生流転,花偶然。

 

大衆詩。簡易深奥,自多姿。

 

【日語】大衆詩。簡易で深奥く,自から多姿。

 

愛三餘。詩歌國境,有若無。

 

【日語】三餘を愛し。詩歌の國境は,有れども無きが若し。

 

衆與箇。衆當龍虎,箇朴訥。

 

【日語】衆與箇。衆は将に龍虎にして,箇は朴訥なり。

 

窗附近。家父卓子,獨空斟。

 

【日語】窗近く。親父のテーブル,獨り飲む酒。

 

十五年。早朝深夜,隣家縁。

 

【日語】十五年。早朝と深夜,隣家の縁。

 

看電脳。不観患者,医生巧。

 

【日語】パソコン看て。患者を診ない,お医者さん。

 

支援財。評価善意,燕雀猜。

 

【日語】支援財。善意の評価,燕雀は猜。

 

探秘密。老妻發覚,衣袋里。

【日語】秘密を探る。女房は見付ける,ポッケの中に。

 

回家燕。重建房子,営巣難。

【日語】帰ってきた燕。家建て直されて,巣が作れず。

 

一灯紅。有酒無銭,竹馬童

 

【日語】一灯紅に。酒有り銭無し,竹馬の童

 

読書人。白髪他郷,陋巷貧。

 

【日語】読書の人。白髪他郷,陋巷の貧。

 

 

  足衣食忘礼節 坤歌組詩

 

太平民。當無塵處,却有塵。

 

【日語】太平の民。當に塵無き處,却って塵有り。

 

飲用水,比油高価,應該貧。

 

【日語】飲用水,油より高価で,應に貧乏。

 

無公徳。無恥無知,無恐惧。

 

【日語】無公徳。無恥無知,無恐惧。

 

 

  荒庭碧樹

 

痩骨功名念,雄図夜二更。

多年成底事,僅歳任人評。

陋巷紅花落,荒庭碧樹横。

双酌今夕酒,恵畝待晴耕。

 

【日語】痩骨功名の念,雄図夜二更。

多年底事か成さん,僅歳人の評するに任す。

陋巷に紅花は落ち,荒庭に碧樹は横たわる。

双酌す今夕の酒を,恵畝に晴耕を待たん。

 

 

  暮鐘聲

 

一路村村静,題詩杖履軽。

枝頭紅柿熟,嶺上白雲横。

酌酒酬新詠,恣情輕世榮。

邯鄲何処是,忽聴暮鐘聲。

 

【日語】一路村村は静かに,詩を題すれば杖履は軽し。

枝頭に紅柿は熟し,嶺上に白雲は横たわる。

酒を酌み新詠に酬い,情を恣に世榮を輕んず。

邯鄲は何処の是ぞ,忽ち聴く暮鐘の聲を。

 

 

  五言排律

 

閉戸炉頭坐,襟寒一事無。

栄枯何宿命?苦楽似過駒。

乞食還分手,惜時獨出衢。

雅情迷白雪,俗興對金壺。

守拙南天果,紅紅檐下朱。

 

【日語】戸を閉し炉頭に坐し,襟は寒く一事無し。

栄枯は何んの宿命か?苦楽は過駒に似たり。

食を乞おて還た手を分ち,時を惜みて獨り衢を出る。

雅情は白雪に迷い,俗興は金壺に對す。

拙を守る南天果,紅紅たり檐下の朱。

 

 

  梧葉驚秋

 

籬邊玉露亂蛩音,一穂青燈一字難。

懐友寄詩孤俯仰,農村陋巷共甘酸。

浮名傲世輕衫破,天漢如瓊旅雁寒。

梧葉驚秋人亦老,半彎皓月挂林端。

 

【日語】籬邊の玉露と亂蛩の音,一穂の青燈一字の難。

友を懐い詩を寄せ孤り俯仰すれば,農村と陋巷は共に甘酸。

浮名は世に傲り輕衫は破れ,天漢は瓊の如く旅雁は寒し。

梧葉は秋に驚きて人亦た老い,半彎の皓月は林端に挂る。

 

 

  瀛歌十一首

 

同窗会。君的風貌,照片累。

紀念合影,記憶幾歳?

 

【日語】同窗会。君の風貌,照片は重なる。

紀念写真,記憶は幾歳?

 

銘刻心。憶君私慕,不可尋。

孀婦紅濃,鏡裏白深。

 

【日語】銘は心に刻み。君を憶い私かに慕う,尋ぬべからず。

孀婦の紅は濃く,鏡裏の白は深し。

 

愛花人。一片詩情,語笑親。

千秋情致,百事風塵。

 

【日語】花を愛する人。一片の詩情,笑い親みて語る。

千秋の情致,百事の風塵。

 

俗事稀。半壁寒燈,與世違。

君枕書睡,月入窗微。

 

【日語】俗事は稀に。半壁の寒燈,世と違う。

君は書を枕に睡り,月は窗に入りて微かなり。

 

波似羅。浮得扁舟,仰銀河。

恨江天雨,欣美人歌。

 

【日語】波は羅に似て。扁舟は浮び,銀河を仰ぐ。

江天の雨を恨み,美人の歌を欣ぶ。

 

落花春。萬紫千紅,半是塵。

年光易過,竹樹迎新。

 

【日語】落花の春。萬紫千紅,半ば是れ塵。

年光は過ぎ易く,竹樹は新を迎える。

 

稲雲黄。隔地相思,兩不忘。

故郷諍友,繊指淡粧。

 

【日語】稲雲は黄に。地を隔て相い思い,兩ながら忘れず。

故郷の諍友は,繊指淡粧なり。

 

四無聲。密雪凍雲,折竹鳴。

浮生道義,俗吏都城。

 

【日語】四方に聲無く。密雪と凍雲と,竹が折れて鳴る。

浮生の道義,俗吏の都城。

 

昼關門。一句懐君、坐小軒。

燕子銜泥,残花傷魂。

 

【日語】昼に門を關し。一句君を懐い、小軒に坐す。

燕子は泥を銜み,花は残い魂は傷む。

 

白雲迷。小雨菜園、半尺泥。

眼前蝸牛,軒下錆犂。

 

【日語】白雲は迷い。小雨の菜園、半尺の泥。

眼前の蝸牛,軒下の錆びた犂。

 

小橋横。隔地相思,百里情。

思君懐舊,柿熟蟲鳴。

 

【日語】小橋は横たわり。地を隔て相い思う,百里の情を。

君を思い舊を懐,柿は熟し蟲は鳴く。

 

 

  對聯十副

 

秋雨詩門秘;春香野郎餐。

 

萬巻詩門秘;千秋筆硯師。

 

一病安心處;千金落魄身。

 

歳歳花開落;年年人死生。

 

子女夫妻福;鶴髪偕老縁。

 

英勇功名羊腸路;朋友氷心翰墨縁。

 

峯嶽雷轟輸急雨;林蹊客惑結深憂。

 

臨風喞喞自終夕;邀月啾啾度永宵。

 

兩手皺紋貧活計;一畦晩稲故郷情。

 

寒江雪月三冬白;草屋南天百点紅。

 

 

  桂殿秋・応皺皺

 

  亦酸酸,故郷厚恵透心胆。忽懐少年夢,偕老夫妻,矍鑠金丹。

 

【日語】亦酸酸にして,故郷の厚恵は心胆に透る。忽ち懐う少年の夢,偕老の夫妻,矍鑠として金丹たり。

 

 

  長相思・舐筆寫信

 

  月影沈,詩興深。舐筆挑燈酒獨斟。思君一片心。

  惜光陰,憶知音。守拙耽詩曾不簪。想君同此心。

 

【日語】月影は沈み,詩興は深し。筆を舐め燈を挑げ獨り酒を斟む。君を思う一片の心に。

 

  光陰を惜しみ,知音を憶う。拙を守り詩に耽り曾つて不簪。君を想う此の心は同じ。

 

 

  自由題 風

 

風。

門睡犬,雨含烟。

籬落老梅香尚浅,枝頭嫩葉緑争鮮。

分袂垂楊岸,澆愁落日邊。

蛙聲盈盈水,白屋燕來歸。

何忘宿志青雲気,一紙題詩客思微。

織女牽牛,親朋老父。

耽吟貪腐儒,陋巷涸轍鮒。

家雀避寒茅屋横,凍月照梧桐。

平安処士風,屈指待春風。

 

【日語】風。

門に犬は睡り,雨は烟を含む。

籬落の老梅は香尚お浅く,枝頭の嫩葉は緑争いて鮮なり。

分袂す垂楊岸に,澆愁す落日の邊に。

蛙聲、盈盈たるの水,白屋、燕は來り歸り。

何ぞ忘れん宿志、青雲の気を,一紙、詩を題して客思微なり。

織女牽牛,親朋老父。

吟に耽り腐儒を貪り,陋巷、涸轍の?。

家雀は寒を避け茅屋の横に,凍月は梧桐を照す。

平安たり処士の風,指を屈して春風を待たん。

 

【解説】自由詩と謂っても、著者が自由に構成したわけではない。中國詩友から寄せられた作品の構成を真似て創ったのである。

 

遊戯放逸

 

【解説】漢詩詞創作の余興である。ただ当たり前の作品を作っているのばかりが能ではあるまい。余興と言えば枚挙に遑がない程沢山あるが、其の一部を掲載した。余興の方が難しい場合も多多有るので、能力を試される場面でもあるから、是非とも試みて欲しい。

 

  曄歌翻訳俳句

  

 

うかれける人や初瀬の山桜      松尾芭蕉

 

 

狂歓楽 人初遇見 山櫻花 曄歌

 

岩躑躅染まる泪やほととぎ朱     松尾芭蕉

 

 

岩躑躅 染上泪? 是杜鵑 曄歌

 

しおれふすや世はさかさまの雪の竹 松尾芭蕉

 

 

萎折彎 世間倒看 雪覆竹 曄歌

 

 

  新緑試筆 五言絶句

 

【解説】回文詩とは、上から読んでも下から読んでも読める詩を謂い、順讀倒讀言う。

  順讀

 

躬老春園寂,幽窗與舊居。

風塵抛筆硯,宿志題未詩。

 

【日語】躬は老いて春園は寂しく,幽窗與舊居と。

風塵は筆硯を抛ち,宿志の題は未だ詩せず。

 

  倒讀

 

詩未題志宿,硯筆抛塵風。

居舊與窗幽,寂園春老躬。

 

【日語】詩は未だ志宿を題せずして,硯筆を塵風に抛つ。

居は舊く與窗幽かに,寂しき園は春の老いるの躬なり。

 

 

  新春憶家郷 七言絶句 順讀

 

傷春爲詞恨堪憐,桟古横淵野架烟。

章有痕涙空看我,郷家豊稷満沃田。

 

【日語】傷春は詞を爲して恨は堪だ憐れに,桟古き横淵の野に烟は架かかる。

章に涙痕有りて空しく我を看て,郷家の豊稷は沃田に満つる。

 

           倒讀

 

田沃満稷豊家郷,我看空涙痕有章。

烟架野淵横古桟,憐堪恨詞爲春傷。

 

【日語】田は沃え稷は満つ豊かな家郷,我は空しく涙を看て痕は章に有り。

烟は野淵に架り古桟横たわり,詞を恨みて春傷を爲すの憐に堪える。

 

 

  長江游草 五言排律

  順讀

 

人駭渓聲烈 青青露滴枝。

神威萬山勝,連岳壑巌欹。

塵俗千邑旅,遊程雨道危。

眞情史紀筆,夢裏覇題詩。

頻唱高心素,潭前月映碑。

 

【日語】人は渓聲の烈しきに駭き,青青たる露は枝に滴る。

神威萬山の勝,連岳の壑巌は欹ち。

塵俗千邑の旅,遊程の雨道は危き。

眞情に史を紀すの筆,夢裏に覇を題すの詩。

頻唱う高き心素を,潭前の月は碑に映る。

 

  倒讀

 

碑映月前潭,素心高唱頻。

詩題覇裏夢,筆紀史情眞。

危道雨程遊,旅邑千俗塵。

欹巖壑岳連,勝山萬威神。

枝滴露青青,烈聲渓駭人。

 

【日語】碑は月前の潭に映り,素心の高唱は頻なり。

詩は覇裏の夢を題し,筆は史情の眞を紀す。

危き道は雨程の遊,旅の邑は千俗の塵。

欹巖と壑岳は連り,勝山と萬威は神たり。

枝に滴る露は青青と,烈き聲の渓は人を駭かす。

 

 

  女傑雅興

 

木偶芳筵酒萬巵,女傑雅興舞千姿。

貝原益軒養生訓。櫻綻人狂共一時。

 

【注】貝原益軒;江戸時代的儒学者

   養生訓;貝原益軒先生的著作;健康指導書

 

【日語】木偶の芳筵に酒は萬巵,女傑の雅興に舞は千姿。

貝原益軒の養生訓。櫻は綻び人は狂い共に一時なり。

 

 

  戯劇“水戸黄門”

 

“水戸黄門”衆人知,狸政治家貪虎皮。

勧善懲悪千里旅,薬盒威力破邪時。

 

【注】狸是狡猾欺騙動物

 

【日語】“水戸黄門”は衆人知り,狸政治家は虎皮を貪る。

勧善懲悪千里の旅,薬盒の威力は破邪時。

 

 

  秘潭思?

 

秘覓謎眩蜜,mi4 mi4 mi2 mi2 mi4

潭曇岸暗深。tan2 tan2 an4 an4 shen1

思私時史紙,si1 si1 shi2 shi3 shi3

?牾虎狐紛。wu4 wu4 hu3 hu2 fen1

 

【解説】承句と合句は押韵句なので同韵である。他の句は子音が皆同じである。

 

 

  一白二天

 

一白随風散,二天雨露恩。

三春同志道,四海尚文園。

 

【日語】一白は風に随って散り,二天は雨露の恩。

三春は同志の道,四海は尚文の園なり。

 

 

  戯題 勤学少女

 

寒窗展巻惜光陰,任性勉学斜月臨。

双親嘆息懐往事,明眸少女泣霑襟。

 

【日語】寒窗に巻を展べ光陰を惜み,性に任せ勉学し斜月に臨む。

双親は嘆息して往事を懐い,明眸な少女は襟を霑して泣く。

 

【解説】少女は夜を徹して勉強したのに、・・・・・

 

  放蕩少女

 

寒窗展絹惜光陰,任性免学斜月臨。

双親嘆息懐往事,明眸少女泣霑襟。

 

【日語】寒窗に絹を展べ光陰を惜み,性に任せ学を免じ斜月に臨む。

双親は嘆息して往事を懐い,明眸な少女は襟を霑して泣く。

 

【解説】少女は夜を徹して遊び呆けていたので、・・・・・

【解説】発音では同じなのに文字が異なる。

    巻juan4 絹juan4 勉mian3 免mian3

 

 

集句

 

【解説】古来幾多の佳作がある。これらの句の内容と平仄と韵を記憶していれば、それらを集めて詩を作ることが出来る。記憶だけが頼りの創作法である。

 最初から全句を集めることは難しいが、この作品の中の一句を入れ替えるのなら、差ほどに難しくはない。一句の入れ替えが出来たのなら、そのついでに、他の句も入れ替えてみよう。

 

【解説】作品題に添えて「集句」とだけ書けば、抽出先を書く必要はないが、便宜のために抽出先を書き入れた。

 

【注】著者から見ても下手なところが有ったが、修正せずにその儘掲載した。読者諸賢が其れを入れ替えることを勧める。

 

 客中閑酌 集句

 

江山留勝跡,   孟浩然 與諸子登?山

天畔獨潸然。   劉張卿 新年作

白髪悲花落,   岑参 寄左省杜拾遺

臨風聴暮蝉。   王維 閑居贈裴秀才迪

 

 

  桃花谿 集句

 

石磯西畔問漁船, 張旭 桃花谿

千里江陵一日還。 李白 下江陵

今夜偏知春気暖, 劉方平 月夜

黄河遠上白雲間。 王之渙 出塞

 

 

  回故郷 集句

 

葡萄美酒夜光杯, 王翰 涼州曲

少小離家老大回。 賀知章 回郷偶書

白狼河北音書断, 沈全期 獨不見

黄竹歌声動地哀。 李商隠 揺池

長風連日作大浪, 元結 石魚湖上酔歌

落葉添薪仰古槐。 元槙 遺悲懐

千載琵琶作胡語, 杜甫 詠懐古蹟

暫憐團扇共徘徊。 王昌齢 青信怨

 

 

  回故郷 集句

 

  被免職失去地位回故郷,故郷已経我返回的土地没有

空山不見人,   王維 鹿柴

積雪浮雲端。   祖詠 終南望積雪

自顧無長策,   王維 酬張少府

馳車登古原。   李商隠 登楽遊原

明朝有封事,   杜甫 春宿左省

離杯惜共傳。   司空曙 雲陽館與韓国紳宿別

飛鳥没何處?   劉張卿 餞別王十一南遊

虚里上孤煙。   王維 網川閑居裴秀才迪

落葉他郷樹,   馬載 潮上秋居

断雁警愁眠。   杜牧 旅宿

 

 

  羊角對四對

 

【解説】羊角對は對聯の中の独特な種類である。羊角對又の名を無情對とも言う。羊角對は文字の對仗は良く整い兩句の内容は羊の角のように遠く隔たることを良しとする。この定型の趣旨は互に乖離する對仗によって笑いを誘うことにある。

 

寒窗破壁紅炉下;苦薬高銭黒夜情。

 

龍争痩虎長臉笑;雨洗残炎節序移。

 

一杯午飯生涯計;百戦英雄絶代功。

 

千樽濁酒兒曹夢;一夜春情隠士家。

 

 

  春日閑窗 轆轤体

 

【解説】組詩の様なもので、ただ最初の出句が次々と順送りに使われてゆく詩法である。詩法は作品から簡単に会得できる。

 

開窗蝶恋香,案句興偏長。

我嘆春猶浅,妻栽菜正芳。

籬邊花幾点,雨後滴千光。

歳未修空意,無由老自傷。

 

【日語】窗を開ければ蝶は香に恋し,句を案じ興は偏えに長し。

我は春の猶お浅きを嘆き,妻は菜の正に芳しきを栽る。

籬邊の花幾点かに,雨後に千光が滴る。

歳は未だ空意を修めず,由無くして老いて自から傷む。

 

陋巷小茅堂,開窗蝶恋香。

漠然吾厭我,夢夢憶家郷。

艶麗花含涙,珠珠輝淡陽。

賦詩詩未就,墻角日増長。

 

【日語】陋巷の小茅堂,窗を開ければ蝶は香に恋し。

漠然と吾は我を厭い,夢夢家郷を憶う。

艶麗なる花は涙を含み,珠珠として淡陽は輝く。

詩を賦すに詩は未だ就ず,墻角の日は長さを増す。

 

菜花受雪霜,緑緑與黄黄。

執筆吾思舊,開窗蝶恋香。

仰天羞傲骨,託酒慰愁腸。

重歳従疎懶,相説也自装。

 

【日語】菜花は雪霜を受け,緑緑與黄黄と。

筆を執り吾は舊を思い,窗を開ければ蝶は香に恋す。

天を仰ぎて傲骨を羞じ,酒に託して愁腸を慰む。

歳を重ねて疎懶に従い,相い説く也た自から装と。

 

風動白花翔,看前路渺茫。

妻謂梅有信,我見樹為妝。

養拙詩成癖,開窗蝶恋香。

花禽和草木,矮屋是我郷。

 

【日語】風動きて白花は翔き,前を看れば路は渺茫たり。

妻は謂う梅に信有りと,我は見みる樹は妝を為すを。

拙を養い詩は癖を成し,窗を開ければ蝶は香に恋す。

花と禽和草と木と,矮屋は是れ我が郷なり。

 

狭庭果菜芳,陋巷又春陽。

欲賦平生事,望調時尚装。

鶯鳴梅蕚白,露照菜花黄。

相坐薫風裏,開窗蝶恋香。

 

【日語】狭き庭に果菜は芳しく,陋巷は又た春陽なり。

平生の事を賦さんと欲し,調えんと望む時尚の装を。

鶯は鳴き梅蕚は白く,露は照り菜花は黄なり。

相い坐す薫風の裏に,窗を開ければ蝶は香に恋す。

 

 

  庭梅 轆轤韵

 

枝頭艶態値芳辰,破蕾魁春泣鬼神。

煦煦庭除鶯語未?荵荵樹陰鳥聲頻。

秀木定居黄梅苑,諸人解悶緑酒筵。

軽暖横斜如老懶,東風砌畔杖凭眠。

 

【解説】律詩に於ける押韵法の一つで、律詩の第二句と第四句に甲の韵を用いたとすれば、第六句と第八句に甲韵の通韵用いる詩法である。ただ是は古典韵の場合には其れなりの効果が有ったが、現代通用の韵ではその使用効果は疑問である。

 

【日語】枝頭の艶態は芳辰に値し,蕾を破り春に魁け鬼神は泣く。

煦煦たる庭除に鶯語は未だしか?荵荵たる樹陰には鳥聲頻なり。

秀木は定居す黄梅の苑に,諸人の悶を解く緑酒の筵。

軽暖横斜は老懶の如く,東風の砌畔にて杖に凭りて眠る。

 

 

  庭梅 進退韵

 

芒鞋花径自春風,信歩偸閑望不窮。

万物來期復逐約,一枝未咲故敲窗。

時時案句安吾分,日日思君慰比躬。

破蕾矮梅疎廉下,送香閨室影相雙。

 

【解説】律詩に於ける押韵法の一つで、律詩の第二句と第六句に甲の韵を用いたとすれば、第四句と第八句に甲韵の通韵用いる詩法である。ただ是は古典韵の場合には其れなりの効果が有ったが、現代通用の韵ではその使用効果は疑問である。

 

【日語】芒鞋花径は自から春風,歩に信せ閑を偸み望みは窮まらず。

万物來る期復た約を逐い,一枝未だ咲かず故敲の窗。

時時句を案じ吾が分に安んじ,日日君を思いて比の躬を慰む。

蕾を破る矮き梅は疎廉の下に,閨室に香を送れば影は相い雙なり。

 

 

  廬山途上之作回文

  順讀

 

懐留筆達苦無踪,廟塔晴嵐緑樹叢。

堆起雲峯雲靉靉,接來霧澗霧濛濛。

衣沾草露才花白,杖曳泉飛已葉紅。

誰寄?嚢詩骨健?危岩磴桟徑重重。

 

【日語】懐を筆達に留めて苦の踪無し,廟塔晴嵐緑樹は叢たり。

堆起す雲峯の雲は靉靉にして,接來す霧澗の霧は濛濛たり。

草露に衣を沾し花は才白く,杖を曳き泉は飛び已に葉紅。

誰ぞ寄せん?嚢詩骨の健なるを?危岩磴桟徑は重重たり。

 

  倒讀

 

重重徑桟磴岩危,健骨詩嚢?寄誰?

紅葉已飛泉曳杖,白花才露草沾衣。

濛濛霧澗霧来接,靉靉雲峯雲起堆。

叢樹緑嵐晴塔廟,踪無苦達筆留懐。

 

【日語】重重たる徑桟磴岩は危く,健骨の詩嚢?誰に寄せん?

紅葉は已に飛びて泉に杖を曳き,白花の才露に草は衣を沾す。

濛濛たる霧澗に霧来り接し,靉靉たる雲峯に雲は起き堆る。

叢樹緑嵐晴塔の廟,踪に苦達無く筆は懐を留む。

 

 

  辛巳新春書懐

 

【解説】巳年であるので、白抜き文字を辿と「巳」の文字となる。

憶 翰 墨 遊

君 海 跡 鴻

文 投 詩 信

牘 竿 縁 裏

是 得 嘉 写

清 聞 友 仁

新 識 人 真

(日本人向け作品)

 

  辛巳新春書懐七絶一首 (日本人向け)

遊鴻信裏写仁真,墨跡詩縁嘉友人。

翰海投竿得聞識,憶君文牘是清新。

 

【日語】遊鴻信裏に仁真を写し,墨跡の詩縁は嘉き友人なり。

翰海に竿を投し聞識を得て,君を憶うの文牘は是れ清新なり。

 

(中国人向け)

遊鴻信裏写仁真,墨跡詩縁万里人。

翰海投竿得聞識,憶君文牘是清新。

 

【日語】遊鴻信裏に仁真を写し,墨跡の詩縁は万里の人。

翰海に竿を投し聞識を得て,君を憶うの文牘は是れ清新なり。

 

 

  瀛歌一首

 

  翰墨遊、鴻信投詩、憶君文。牘是清新。識人真仁。

  平成十三年元旦 平成13年は巳年である

 

【日語】翰墨の遊、鴻信に詩を投じ、君を憶う文。

牘は是れ清新。人の真仁を識る。

 

 

  題恵風琴景先生與門下諸兄弾琴詩梅園之図

 

【解説】巳年であるので、白抜き文字を辿と「巳」の文字となる。

 

清 素 蕚 吟

香 月 下 詩

遍 娟 題 友

遍 娟 春 誼

得 輝 幾 有

丹 露 奏 酣

心 玉 琴 音

 

  七絶一首

 

吟詩友誼有酣音,蕚下題春幾奏琴。

素月娟娟輝露玉,清香遍遍得丹心。

 

【日語】吟詩の友誼に酣音有り,蕚下に春を題し幾奏琴。

素月は娟娟と露玉は輝き,清香は遍遍として丹心を得たり。

 

  瀛歌一首

 

【解説】白抜き文字“巳”の筆順に沿って読めば瀛歌に成る。

 

  素蕚吟、詩友娟題、清香遍。遍得丹心。玉琴音酣。

 

【日語】素蕚の吟、詩友娟題、清香は遍し。

遍に丹心を得たり。玉琴音酣。

 

 

  看梅 鶴頭格 八首

 

【解説】鶴頭格又称藏頭格とも謂い、相手様への挨拶に用いる詩法である。此処に吟社同人宛の作品を提示した。初対面の人との親睦を深めるには有効な手段で、その都度葉書に書いて挨拶代わりに贈った。中華詩詞壇誌で葛飾吟社同人紹介の爲に纏めて掲載された。

 

  平成十三年一月二十四日(陰暦元旦)

 

高峰深渓趁前遊, 岩上老梅似繁星,

橋畔老梅今正稠。 淵邊泉韵養性霊。

香径魁春鶯語巧, 正識勝遊塵境外,

雪花任筆画中収。 子夜拈筆畫難形。

 

【日語】 【日語】

高峰の深渓に前遊を趁い,   岩上の老梅き繁星に似て,

橋畔の老梅は今正に稠し。 淵邊の泉韵は性霊を養う。

香径は春に魁け鶯語は巧に, 正に勝遊塵境の外を識り,

雪花は筆に任せ画中に収る。 子夜筆を拈り畫けど形なり難し。

 

高枝破蕾送花神, 石礫蘭香如麗人,

野樹鶯声處處春。 塚原菊蕊似黄茵。

白白紅紅誰否勝, 萬李雖有謠葩艶,

雅遊恰好淡梅辰。 子愛盆梅又花神。

 

【日語】 【日語】

高枝蕾を破り花神を送り, 石礫の蘭香は麗人の如く,

野樹の鶯声は處處の春。  塚原の菊蕊は黄茵に似る。

白白紅紅誰ぞ勝るや否や, 萬李有と雖ども謠葩艶かに,

雅遊は恰も好し淡梅の辰に。 子愛の盆梅は又花神なり。

 

小梅一白薄寒天, 恵雨養花紅満枝,

林下金葩春可憐。 風暖温水四時移。

玲佩紅裙心孰主, 琴韻戛戛芳梅下,

子都不管鶴逋仙。 景致任弦自寄思。

 

【日語】 【日語】

小梅一白薄寒の天,     恵雨は花を養い紅は枝に満ち,

林下の金葩は春を憐む可。   風暖かに水は温み四時移る。

玲佩の紅裙は心孰か主,   琴韻は戛戛と芳梅の下,

子都は不管鶴逋の仙なり。 景致弦に任せ自から思を寄せる。

 

林下幽居酒是媒, 坂田歩歩訪郷隣,

岫雲照陽臥牀開。 口唱竹枝千樹春。

女貞最愛微茫馥, 日日怱忙終忘曲,

士族窗前一朶梅。 月琴自奏玉梅辰。

 

【日語】 【日語】

林下の幽居は酒是れ媒に, 坂田歩歩して郷隣を訪えば,

岫雲は陽に照り臥牀は開く。 口唱の竹枝は千樹の春。

女貞最も愛すは微茫馥に, 日日怱忙として終に曲を忘れ,

士族の窗前に一朶の梅。 月琴自から奏す玉梅の辰。

                 訪郷里校舎,曽経學過拉小提                琴、然而已経忘了奏法。

 

 

  謹賀新年 葛飾吟社十九詩家蔵頭格

  秋山北魚兄     池田耕堂兄

 

秋晴十里稲如雲, 池頭双雁互相通,

山静一峰鶴赴羣。 田里千花指顧中。

北斗恒心深似海, 耕句敲文呼筆硯,

魚書曼來自成文。 堂堂雅興擅才雄。

 

【日語】 【日語】

秋晴十里稲は雲の如く,   池頭の双雁は互に相い通じ,

山は静かに一峰鶴赴羣。   田里の千花は指顧の中に。

北斗恒心深きこと海に似て, 耕句敲文き筆硯を呼び,

魚書曼來りて自に文を成す。 堂堂たる雅興は擅才の雄たり。

 

  石倉鮟鱇兄      石塚梨雲女史

 

石交知友染華箋, 石榴艶影美人魂,

倉府詩神呼謫仙。 塚社仁風福慶樽。

兄弟相歓高士侶, 梨雪墨痕魂使醒,

鮟鱇照海得芳妍。 雲英遣興到君門。

 

【日語】 【日語】

石交知友は華箋を染め,   石榴は艶影にして美人の魂に,

倉府詩神は謫仙を呼ぶ。 塚社の仁風は福慶の樽たり。

兄弟相歓ぶは高士の侶に, 梨雪の墨痕は魂を醒ま使め,

鮟鱇は海を照して芳妍を得たり。 雲英は興を遣りて君が門に到る。

 

  今田菟庵兄    大沼春風女史

 

今古書編悉故人, 大川小径遠鐘聲,

田駢遺業見天眞。 沼柳青簾梳日軽。

菟裘一隔應有意, 春巷明窗雲樹念,

庵裏吟詩動鬼神。 風寒未識少年名。

 

【日語】 【日語】

今古の書編は悉故人にして, 大川と小径と遠鐘の聲と,

田駢の遺業に天眞を見る。 沼柳の青簾は日を梳いて軽し。

菟裘一隔應に意有りて, 春巷の明窗に雲樹の念ありて,

庵裏に詩を吟じ鬼神をも動かす。 風寒は未だ識らず少年の名を。

 

  小畑旭翠兄   斎川子游

 

小花結実識天恩, 斎厳姿貌全天真,

圃囿千紅象外言。 川怒山巖幾積辛。

旭日照窗眞久濶, 游藝楽心聊託酒,

翠帷孝婦共開樽。 子思使教避囂塵。

 

【日語】 【日語】

小花は実を結び天恩を識り, 斎厳たる姿貌は全く天真にして,

圃囿の千紅は象外の言たり。 川は怒り山は巖く幾積辛たり。

旭日は窗を照し眞に久濶, 游藝と楽心と聊か酒に託し,

翠帷の孝婦は共に樽を開かん。 子思は囂塵を避けるを教え使む。

 

  坂口日月女士     高橋香雪女士

 

坂田沃野異郷扉, 高雅筆硯古人心,

口脂星眸繍布衣。 橋畔優遊接翰林。

日照案頭詩就處, 香径摘花懐往事,

月精識否白薔薇。 雪窗温酒滌煩襟。

 

【日語】 【日語】

坂田沃野異郷の扉,     高雅な筆硯は古人の心,

口脂星眸繍布の衣。 橋畔に優遊して翰林に接す。

日は案頭を照らし詩就く處, 香径に花を摘み往事を懐い,

月精は識るや否や白薔薇を。 雪窗の温酒は煩襟を滌う。

 

  田村星舟女士     萩原艸禾兄

 

田家籬菊咲相迎, 萩花覆地白雲留,

村里仰天萬象晴。 原野無人蟷螂游。

星夜思君遙寄意, 艸屋得閑凭浄几,

舟人喚鵲適幽情。 禾苗垂穂復迎秋。

 

【日語】           【日語】

田家の籬菊は咲きて相い迎え, 萩花は地を覆い白雲は留まり,

村里に天を仰げば萬象晴れる。 原野に人無蟷螂は游ぶ。

星夜に君を思い遙に意を寄せ, 艸屋に閑を得て浄几に凭れ,

舟人は鵲を喚び幽情に適う。 禾苗は穂を垂れ復た秋を迎える。

 

  三宅遥峰兄     宮本英函兄

 

三儀修己養詩魂, 宮商走玉洗心魂,

宅裏得閑未敢論。 本義欲知更溯源。

遥望層雲思絳闕, 英気何嫌人海事,

峰図掛壁小桃源。 函鍾一曲好開樽。

 

【日語】           【日語】

三儀を己に修め詩魂を養い, 宮商玉を走せ心魂を洗い,

宅裏に閑を得て未だ敢て論ぜず。 本義知らんと欲し更に源を溯る。

遥に層雲を望絳闕を思い,  英気何んぞ嫌わん人海の事を,

峰図は壁に小桃源を掛る。 函鍾の一曲は好く樽を開く。

 

  門馬清明女士     山田鈍耕兄

 

門前旭旗太平風, 山腰日落夜應長,

馬上兒孫膽気雄。 田屋開窗月満牀。

清風朗月吾事足, 鈍筆孤燈人若問,

明衣五尺養心功。 耕詩寄語酒盈觴。

 

【日語】            【日語】

門前の旭旗は太だ平風に, 山腰に日は落ち夜は應に長く,

馬上の兒孫の膽気は雄たり。 田屋は窗を開きて月は牀に満つ。

清風朗月に吾事は足り,   鈍筆と孤燈を人若し問わば,

明衣五尺は心を養の功たり。 耕詩寄語て酒は觴に盈と。

 

  黒木宏治兄    田中春水女士

 

黒甜夢寐隔風塵, 田翁任性染雲箋,

木客與吾語草茵。 中夜傾杯慕昔賢。

宏構詩情生計巧, 春信一毫知我否,

治平富裕苦難眞。 水香数滴為君憐。

 

【日語】            【日語】

黒甜の夢寐は風塵を隔て, 田翁は性に任せ雲箋を染め,

木客與吾と草茵に語らん。 中夜に杯を傾け昔賢を慕う。

宏構たる詩情は生計に巧く, 春信の一毫は我を知るや否や,

治平の富裕は苦難の眞たり。 水香の数滴は君の為に憐む。

 

  布川幸市兄

 

布衣交友共披襟,

川畔賃舟賞月斟。

幸此新涼模赤壁,

市塵明滅映清潯。

 

【日語】

布衣の交友に共に襟を披き,

川畔の賃舟に月を賞て斟む。

幸にも此の新涼に赤壁を模し,

市塵は明滅して清潯を映す。

 

 

  慶賀山田和雄吟長藏頭格

 

【解説】この作品は横に読んでも縦に読んでも、どちらからでも読める作品である。

 

山 深 花 融 筆

田 廣 紅 伴 人

和 意 雖 詩 庭

雄 泰 老 百 春

 

  横読み

 

山深花融筆,田廣紅伴人。

和意雖詩庭,雄泰老百春。

 

【日語】山は深く花は筆に融し,田は廣く紅は人に伴う。

和意は詩庭と雖も,雄泰にして百春に老いる。

 

  縦読み

 

筆人庭春融,伴詩百花紅。

雖老深廣意,泰山田和雄。

 

【日語】筆人は庭の春に融し,詩を伴って百花は紅なり。

老いたりと雖ども意は深く廣く,泰山田和の雄たり。

 

【注】田和:田斉 戦国時代斎國の家老田和が前368年に政権を奪って君主に成った國を斎と言う。現在の山東省泰山付近。

 

純情

 

  文字縁  

 

文字縁。幽居半壁,寄吟箋。

 

【日語】文字の縁。幽居半壁,吟箋を寄せる。

 

 

  水仙花

 

籬落前。忍寒迎春,經幾年。

 

【日語】垣の前。寒に耐え春を迎う,幾年か。

 

 

  友到囲炉

 

茶梅一点酒家傍,短日寒畦農事忙。

友到囲炉還懶出,傷春説舊過江郷。

 

【日語】茶梅一点、酒家の傍,短日、寒畦、農事は忙し。

友が囲炉裏に到り、還た出に懶く,春を傷み舊を説き江郷を過ぐ。

 

【解説】起承句で忙しい状況を述べている。其れなのに轉合句で、友人が遊びに来た。迷惑なことである。話題と言えば昔話とは!

 

 

  客中想君五首

 

秋晴小径雨餘情,柿熟花開杖履軽。

緬想家郷師與友,村童何処俚歌聲。

 

【日語】秋晴の小径、雨餘の情,柿は熟し花は開き杖履は軽し。

緬に家郷の師與友を想えば,村童は何処か俚歌の聲。

 

今宵一盞竹窗前,養拙含羞翰墨縁。

私慕花顔傷宿世,輕羅有罪染長箋。

 

【日語】今宵の一盞は竹窗の前に,拙を養い羞を含む翰墨の縁。

私かに花顔を慕いて宿世を傷み,輕羅に罪有りて長箋を染む。

 

兩三小蕾避寒霞,穀雨経旬未足誇。

燕子歸來春已去,舞風落地亦残花。

 

【日語】兩三の小蕾は寒霞を避け,穀雨経旬するも未だ誇るに足ず。

燕は歸り來て春は已に去りて,風は舞て地に落ち亦た花は残う。

 

小齋六月満花香,竹馬偶然寄短章。

窗石榴紅燕巣噪,晴天宿雨念故郷。

 

【日語】小齋の六月、花香満ち,竹馬は偶然に短章を寄せる。

窗の石榴は紅にして燕巣は噪しく,晴天と宿雨と故郷を念う。

 

新居軒下水蓮香,君栽葵花依舊黄。

砂上楼閣是貧病,絶無塵處羨田郎。

 

【日語】新居の軒下に水蓮は香り,君が栽えし葵花は舊に依り黄。

砂上楼閣は是れ貧病にして,絶えて塵無き處の田郎を羨やむ。

 

 

  万年觴二首

 

青春意気與誰評,待月託思萬里情。

二十光陰追往事,奇縁五十爲君晴。

 

【日語】青春意気を誰與評せんか,月を待ち思を託す萬里の情に。

二十の光陰に往事を追えば,奇縁五十、君が爲に晴れん。

 

一燈相伴何心傾,四十餘年分袂情。

酔倒屠蘇亦是夢,何時共賞早鶯聲。

 

【日語】一燈相い伴いて何ぞ心は傾かん,四十餘年、分袂の情に。

酔て屠蘇を倒すは亦た是れ夢,何れの時にか共に早鶯の聲を賞せん。

 

 

  深院月・本意

 

  懐白屋,仰蒼穹。竹馬離情兩心同。深院影照一窗月,千里春恨託冥鴻。

 

【日語】白屋を懐しみ,蒼穹を仰ぐ。竹馬の離情は、兩人の心は同じく。深院の影は一窗の月に照り,千里の春恨を冥鴻に託さん。

 

【注】外面世界の月は内面世界の少婦の意味を併せ持つ。:雑詩沈期;可憐閨裏月,常在漢家営。この句法は双關と謂い、この場合は義の双關で有る。

 

 

  偲歌十六首

 

籬邊窺君、幾幾焦思。寄真心信、奪君心。

 

【日語】籬邊に君を窺い、幾幾思を焦す。

真心の信を寄せ、君が心を奪わん。

 

一章恋信,半壁寒灯。深切曄歌,鬼神愕。

 

【日語】一章の恋信,半壁の寒灯。

深切な曄歌に,鬼神は愕く。

 

今年雄魚。来年雌魚。模糊雌雄,君?魚?

 

【日語】今年は雄魚。来年は雌魚。

模糊たる雌雄,君は?なの?

 

【注】雌雄没決定?魚的一生,有的時候成爲雌魚、有的時候成爲雄魚。

 

【注】結婚したときは確かに女性だったのに、いつの間にか男性になっていた人が、ごく身近に居ませんか?

 

壮石榴樹,紅紅堅花。粒粒甘果,競相誇。

 

【日語】立派な石榴,紅くて堅い花。粒は甘く,競いて相い誇る。

 

老樹梅花,陋巷情縁。多年追憶,几杖前。

 

【日語】老樹の梅花,陋巷の情縁。多年の追憶,几杖の前に。

 

不知時候,深厚情意。服待酔漢,我跟君。

 

【日語】時を知らず,熱い思い。酔漢に待たされる,私と君。

 

只有君情,堅信不疑。優柔不断,歳月移。

 

【日語】只だ君が情有りて,堅く信じて疑はず。

優柔不断で,歳月は移る。

 

池頭細雨,花半開時。深窗二八、未知悲。

 

【日語】池頭の細雨,花半開く時。深窗の16歳、未だ悲を知らず。

 

輕羅妙舞,何数移居。酒楼角落,読家書。

 

【日語】輕羅妙舞,何んぞ数居を移す。酒楼の角落,読家書。

 

多年追憶,一隔香塵。恨別離詩,鏡裏春。

 

【日語】多年の追憶,一隔の香塵。別離の詩を恨む,鏡裏の春に。

 

一吟双涙,分袂成章。恋恋含羞,夜夜長。

 

【日語】一吟双涙,分袂して章を成す。

恋恋として羞を含み,夜夜は長し。

 

二八友朋,不知薄命。野花相争,四時鏡。

 

【日語】二八の友朋,薄命を知らず。野花は相い争い,四時を鏡。

 

恋々三年,花顔紅姿。今誰執主,月何窺?

 

【日語】恋々三年,花顔紅姿。今誰ぞ主執,月は何んぞ窺う?

 

閨裏燈火,解開耳環。盈盈未央,傷心酒。

 

【日語】閨裏の燈火,解開耳環。

盈盈として未だ央ならず,傷心の酒。

 

輕羅繊指,伏枕断腸。難忘句句,草木黄。

 

【日語】輕羅繊指,枕に伏し断腸。忘れ難し句句,草木は黄。

 

詩嚢放擲!香香粉姿。大衾長枕,色易移。

 

【意訳】詩を作るのは止めた!色気充満。

大きな布団に大きな枕,心はメロメロ。

 

 

  瀛歌二首

 

酪農村。竹馬幾年?到君門。

白髪皺顔,童心意暄。

 

【日語】酪農の村。竹馬幾年か?,君が門に到る。

白髪皺顔なるも,童心にして意は暄なり。

 

小窗春。一紙憐君,別離人。

照片惜別,枝鶯作賓。

 

【日語】小窗の春。一紙君を憐む,別離の人に。

惜別の照片,枝の鶯はお客さん。

 

 

  漢俳四首

 

竹馬萬里情。移簾矮屋消辱暑,開封憶舊盟。

 

【日語】竹馬萬里の情。

簾を矮屋に移し辱暑を消し,封を開き舊盟を憶う。

 

老躬一片愁。今年酷暑破軽衫,湘簾月如鉤。

 

【日語】老躬一片の愁。

今年の酷暑は軽衫を破り,湘簾の月は鉤の如し。

 

昨夜夢有情。牽牛花萎残暑退,凉動草蟲鳴。

 

【日語】昨夜の夢に情有り。

朝顔は萎み残暑は退き,凉は動き草蟲は鳴く。

 

君是任人評。我是恋恋不耐情,誰道心不争。

 

【日語】君は人の評するに任せ。

我は恋恋として情に耐ず,誰か道う、心争からずと。

 

 

  短歌 一次春

 

閑窗酔吟時,執筆任性恣恋情,剛柔寄獨思。

自迷道笑與君別,亦拭泪恨識君遅。

 

【日語】閑窗で酔吟する時,筆を執りて性に任せ恋情を恣にし,剛と柔とを、獨り思いに寄せる。

自から道に迷い、笑いて君と別る,亦た泪を拭いて君を識ることの遅きを恨む。

 

 

  楹聯 珈琲館

 

露芽香,情侶偸閑相擁坐;

雲樹念,恋心携手共飛翔。

 

 

  婚聯二副

  (横批)山盟海誓

 

并肩携手長相助;挙案深情永共歓

 

情深自到千年福;愛永終成百歳歓

 

 

  三歳拝廟

 

赤子千金笑,三年抹口紅。

不知二八后,香粉待鱗鴻。

 

【日語】赤子千金の笑,三年口紅を抹す。

知らず二八の后に,香粉して鱗鴻を待つを。

 

 

  傷春恋詩

 

蟋蟀青燈下,庭梧節序移。

思君何枕涙?一葉去何之?

 

【日語】蟋蟀は青燈の下に啼き,庭梧の節序は移る。

君を思いて何んぞ枕涙す?一葉去りて何にか之く?

 

【解説】合句の一葉は承句の庭梧の葉を謂う。梧葉は典故

 

 

  思君南窗下

 

牽牛花萎草虫鳴,竹影當窗燈火明。

分手三年音信断,寂寂詩箋憶君情。

 

【日語】牽牛花は萎み草虫は鳴き,竹影は窗に當って燈火は明か。

手を分ちて三年、音信は断え,寂寂たる詩箋は君を憶うの情。

 

 

  長相思・繊指懐君

 

  朝夕涼,籬菊荒,繊指求詩又断腸。含情字幾行?

  夜殊長,恨殊長,尺翰開封天一方。懐君千里翔。

 

【日語】朝夕は涼しく,籬菊は荒れ,繊指は詩を求め又断腸す。字は情を含みて幾行か?。

 

  夜は殊に長く,恨は殊に長し,尺翰の封を開く天の一方で。君を懐いて千里に翔かん。

 

 

  彩雲歸・鴛鴦靠近芳園梅樹之圖

 

  一只黄鶯,春天過去,夏天到,秋天,冬天来臨也。不返回到森林,芳苑転移居住,飛来了一老梅樹。

  嫩葩任地送春時,泣詩人,楚雀休飛。應野花散草如香霞,梢寂寂,素魄冰肌。足下雨,遠山残雪,憶故郷緑渓。那渓邊聊違俗?婀娜玉枝。

  何走?伏憐仰憫,不厭千里更堪思。夢醒太息分袂,醒夢未識雄辭。有限光陰芳梅樹,巷議莫道毘尼。暑寒旋,君下留園互話襟期。

 

【日語】一只黄鶯,春は過ぎ去り,夏は到り,秋の天,冬天来臨也。不返回到森林,芳苑に転移して居住,一本の老梅の樹に飛んで来了。

 

  嫩葩は地に任せて春を送る時,詩人を泣し,楚雀は飛ぶを休める。應に野花は散り草は香霞の如く,梢は寂寂として,素魄冰肌たり。足下の雨,遠山の残雪,故郷の緑渓を憶う。那んぞ渓邊は聊か俗と違か?婀娜玉枝たり。

 

  何んぞ走らん?伏憐仰憫たり,千里を厭わず更に思に堪える。夢醒め太息して分袂す,醒し夢は未だ雄辭を識らず。有限の光陰と芳梅の樹,巷議に毘尼と道う莫れ。暑寒は旋り,君は園に留り互に襟期を話さん。

 

 

鶯啼序 許久回故郷

 

  初秋故郷古驛,狗眠村静静。新築屋、白髪嫂嫂,歳月長短如磬。江山麗、風廻葉落,時時鳥語依然盛。念故園,野叟素情,田地豊景。

  遽念青春,已忘其姓,繞梵宮石磴。遡幽冥、将見君名,香與花墓前浄。一縷烟、吾疑急逝,共弾唱、絃絶心疼。我與君,託情琴書,訴思花影。

  麗容繊指,屈強垢面,青春互憧憬。無告我、君去君逝,無奈傷心,只有傷心,惑蝴蝶夢。多年煩事,寒厨活計,怱忙幾歳安吾分,未成功、執筆秋風到。半宵燈火,聊違俗送流年,闕句倣雅興。

  麗容繊指,野叟繁霜,証歳移人更。在心里、何故居住,何故隠藏,私慕何由,私酌忽醒。我知君面,君不知我,繁霜枕涙還枕涙,恥吾迷、月照孤燈暝。勿嗤老叟郷愁,悶悶一吟,半觴酩酊。

 

【日語】初秋故郷の古き驛,狗は眠り村は静静なり。新築の屋、白髪の嫂嫂,歳月の長短は磬の如し。江山は麗かに、風は廻り葉は落ちる,時時の鳥の語は依然盛んなり。故き園の,野叟の素情,田地の豊景を念う。

 

  遽に青春を念い,已に其の姓を忘れ,梵宮の石磴を繞る。幽冥を遡り、将に君が名を見たり,香與花と墓前は浄し。一縷の烟に、吾は急逝を疑う,共に弾唱し、絃絶えて心は疼く。我與君と,情を琴書に託し,思を花影に訴う。

 

  麗容なる繊指,屈強なる垢面,青春は互に憧憬す。我に告げる無く、君は去り君は逝かん,傷心を奈ともする無く,只だ傷心有りて,蝴蝶の夢に惑う。多年の煩事,寒厨の活計,怱忙幾歳か吾が分に安んじ,未だ功を成さずも、筆を執れば秋風は到る。半宵の燈火,聊か俗に違うて流年を送り,閧ノ句を作りて雅興を倣う。

 

  麗容なる繊指,野叟の繁霜は,歳移り人更るの証なり。在心里に、何故に居住?何故に隠藏,私かに慕いて何に由らん,私かに酌めば忽ち醒める。我は君が面を知り,君は我を知ら不,繁霜枕涙還た枕涙,吾が迷を恥じ、月は孤燈の暝きを照す。嗤う勿れ老叟の郷愁を,悶悶一吟,半觴酩酊す。

 

 

  鶯啼序 許久回故郷之二彼岸某日

 

  初春草堂禿筆,欲説詩客意。人解否、年少心傷,垢面私泣投地。黄梁夢、紅飛紫散,薫風換景天将麗。憾鬼神、尺素追懐,弊衣逃避。

  半裂舊箋,一夜枕涙,恋野童鄙俚。遡年月、迷入平原,風爽相跨鐵騎。耀明珠、軽羅信歩,笑花貌、歓情安息。砕幻壺,漸次貌消,寂然星歴。

  故郷父母,陋巷家族,誰知我心秘。茶換酒、遺棄羞耻,不數年齢,欲寫吾思,寄書可否?青春意気,明眸麗質,江湖多歳相思語,趁幽期、閉眼寫佳麗。近旁古刹,僧若会去黄泉,吾心欲托双鯉。

  焚香始祖,更加一香,勿忘彼岸季。弄詞句、寫天地誼,識陰陽情,君成嫩葩,我爲堅蔕。香烟熄燼,星眸磨燼,窗前緑影如夢裏,怕吾心、座右存芳醴。勿嗤老叟郷愁,悶悶一吟,半觴沈溺。

 

【日語】初春草堂の禿筆,詩客の意を説かんと欲す。人解するや否や、年少の心傷,垢面私かに泣きて地に投ず。黄梁の夢、紅は飛び紫は散じ,薫風は景を換え天は将に麗なり。鬼神を憾れ、尺素追懐し,弊衣逃避す。

 

  半裂の舊箋,一夜の枕涙,野童は鄙俚に恋す。年月を遡り、迷いて平原に入る,風は爽かに相い鐵騎に跨る。明珠は耀き、軽羅は歩に信せ,花貌は笑い、歓情安息す。幻壺は砕け,漸次貌消し,星歴は寂然たり。

 

  故郷の父母,陋巷の家族,誰ぞ知らん我が心の秘を。茶を酒に換え、羞耻を遺棄す,年齢を數え不,吾が思を寫さんと欲す,書を寄せる可や否や?青春の意気,明眸の麗質,江湖多歳にして相い思うの語,幽期を趁い、眼を閉じ佳麗を寫さん。近旁の古刹,僧若し黄泉に会去なら,吾が心を双鯉に托さんと欲す。

 

  始祖に香を焚き,更に一香を加えん,忘れる勿れ彼岸の季を。詞句を弄し、天地の誼を寫さん,陰陽の情を識り,君が嫩葩と成れば,我は堅蔕と爲らん。香烟は熄え燼き,星眸は磨燼す,窗前の緑影は夢裏の如く,吾が心は怕れ、座右に芳醴存り。嗤う勿れ老叟の郷愁を,悶悶一吟,半觴沈溺す。

 

望郷

 

  曄歌2首

 

故郷川。霓虹窗邊,驟雨喧。

 

【日語】故郷の川。霓虹の窗邊,驟雨は喧し。

 

早梅香。白首阿蒙,老故郷。

 

【日語】早梅は香り。白首の阿蒙,故郷に老いる。

 

 

  漢俳

 

西郊瀟洒館。庭邊誰信芭蕉裂,園丁笑不看。

 

【日語】西郊瀟洒な館。

庭邊に誰が信か?芭蕉は裂ける,園丁は笑って看ず。

 

【注】誰信芭蕉裂;典故

 

 

  五絶二首

 

花落鶯聲老,誰憐消息稀。

春園人亦去,陰草雨餘肥。

 

【解説】人は活躍している人など、目に付く事柄が話題に上る。だが現実社会では、目立たないところでも、着実に生きている人が居るのである。意図は合句の陰草雨餘肥が糸口となる。

 

  其二

 

蛙鼓侵窗入,君情分袂奇。

紅残新翠滴,啜茶憶郷時。

 

【日語】蛙鼓は窗を侵して入り,君が情は袂を分ちて奇なり。

紅は残い新翠は滴る,茶を啜り郷を憶うの時。

 

 

  五言律詩 訪竹馬友

 

浅澗痩魚影,迎冬橋上霜。

雄姿如往事,熱血護故郷。

廣野牛羊背,短籬菊柿香。

爲君茶換酒,留客夜何長。

 

【日語】浅澗に痩魚の影,冬を迎へ橋上の霜。

雄姿は往事の如く,熱血は故郷を護る。

廣野に牛羊の背,短籬に菊柿の香り。

君が爲に茶を酒に換え,客を留めて夜の何と長きか。

 

 

  久濶会竹馬友

 

久濶会朋數畝園,故郷竹馬念同游。

把杯杯映桜花影,拈句句迷霜髪憂。

 

【解説】把杯杯映桜花影,拈句句迷霜髪憂。は連綿對であると同時に、互文でもある。杯を把ると、杯には桜花の影映り、句を拈れば、句は霜髪の憂に迷う・・・。この句法は、杯には桜花だけが映り、句には霜鬢の憂いだけしか叙さないのか?そうでは無いのである。杯に映るのは桜花と白髪頭で、句に綴るのも、桜花と白髪頭である。この句法を「互文」と謂う。

 

 

  応酬

 

初冬一路踏霜行,野叟思君不計程。

双鯉収胸再來訪,難忘籬落菊盈盈。

 

【日語】初冬の一路霜を踏み行き,野叟は君を思いて程を計らず。

双鯉を胸に収め再び來訪し,忘れ難し籬落の菊の盈盈たるを。

 

 

  別離

 

牽牛花發紫薇凋,冷気侵肌促織騒。

二八単身千里別,郷下父母寄温袍。

 

牽牛花は發き紫薇は凋い,冷気は肌を侵し促織は騒ぐ。

二八は単身で千里の別を,郷下の父母は温袍を寄せる。

 

【注】著者は16歳の頃に都会へ働きに出た。

 

 

  留別思家郷之君三首

 臨別還柳情若何?君説勿惑臙脂舌。

傳聞郷里斜斜雪,穏静青竹請不折。

 

【注】柳;普段から柔軟で折れにくい。時勢に順応し易い

   竹;剛直ではあるが折れやすい。時勢に順応しにくい

 

【解説】また柳を我に擬え、貴男はその性格が仇して、惑わない様に!と心配し、青竹に君を擬え、貴方はその性格が仇して、世間の重圧に押しつぶされやしないか!と心配する。

 

  其二

 

臨別還柳情若何?君説勿惑臙脂舌。

傳聞郷里斜斜雪,我愛青竹請勿折。

 

【日語】別に臨み還柳の情は若何?君は説う惑う勿れ臙脂の舌にと。

傳え聞く郷里は斜斜の雪,我は青竹を愛し折る勿れと請う。

 

  其三

 

残花任地雨凄凄,暁聞烏鴉何処啼?

六十餘年誰知我?仰天懐友白雲迷。

 

【日語】残花は地に任せ雨は凄凄と,暁に烏鴉を聞き何処で啼く?

六十餘年誰ぞ我を知らん?天を仰ぎ友を懐しめば白雲は迷う。

 

 

  梧桐樹下

 

梧桐樹下九秋初,隔地相思待雁書。

句句思君獨伏枕,一輪皓月照草廬。

 

【日語】梧桐の樹下、九秋の初め,地を隔て相い思いて雁書を待つ。

句句君を思いて獨り枕に伏せば,一輪の皓月は草廬を照らす。

 

 

  微雨芳塵

 

残紅幾片送春時,微雨芳塵共一枝。

燕語喃喃如有意,蛙聲咯咯不爲奇。

空思垢面青雲念,緬想家郷白雪姿。

檐馬丁東醒午夢,薫風漾緑入簾帷。

 

【日語】残紅幾片春を送るの時,微雨芳塵共に一枝たり。

燕語は喃喃と意有るが如く,蛙聲は咯咯と奇を爲さず。

空しく垢面を思う青雲の念,緬に家郷を想う白雪の姿。

檐馬は丁東と午夢を醒し,薫風は緑を漾わして簾帷に入る。

 

 

  窗前緑風

 

窗前緑緑映蒼穹,白白黄黄昨夜風。

坐想郷閭農事急,方知客裏此歓同。

鶯聲漫漫榴花下,蝶翅匆匆草露中。

卓子茶湯香満椀,茫然注視路邉桐。

 

【日語】窗前は緑緑として蒼穹に映る,白白黄黄たり昨夜の風に。

坐に郷閭を想えば農事は急に,方に客裏を知れば此の歓を同うす。

鶯聲は漫漫たり榴花の下,蝶翅は匆匆と草露の中に。

卓子の茶湯は椀に満ちて香り,茫然と注視す路邉の桐を。

 

【解説】白白黄黄とは、出句に窗前緑緑と季節の移ること述べているので、落句では花が散る事を述べている。是は合聯落句の路邉桐と対応させている。

 

 

  郷里訪青梅竹馬之友

 

一封消息涙何妨,却恨浮沈幾十霜。

白首伴朋訪学校,紅花満院弄春香。

誰知潭瀬游投網,不識街衢即異郷。

莫道人生羞素志,政論雅談日方長。

 

【日語】一封の消息、涙を何ぞ妨げん,却って浮沈幾十霜を恨む。

白首朋を伴って学校を訪えば,紅花は院に満ちて春香を弄す。

誰ぞ知らん潭瀬に網を投げて游ぶを,識不街衢は即ち異郷なるを。

道う莫れ人生素志を羞ずと,政論や雅談をして日は方に長し。

 

 

  三臺令・他郷之夜

 

  星漢金風永夜,仰天酌酒家郷。

  窮巷多年宿志,只懐紅葉秋香。

 

【日語】星漢金風、夜は永く,天を仰ぎて、酒家の郷に酌む。

  窮巷多年、志を宿し,只だ紅葉の秋香を懐う。

 

 

  三臺令・夕陽愁殺

 

  ?説吾答愛暖,那天那夜杯傾。

  歳多別離轉瞬,客楼灯下浮生。

 

【日語】?は説う吾は答う暖を愛すと,那天那夜杯は傾く。

  歳多の別離は轉瞬にして,客楼の灯下の浮生たり。

 

 

  八聲甘州・茅屋閑居

 

  應車雷轆轆未閑居,閉扉模先賢。擬竹窗筆硯,高楼観月,古殿繁絃。恣筆頭千古意,弦月半秋天。惟有喧囂巷,琴響如蝉。

  緬想家郷田野,屈指年如水,應若駿奔。禍福人間事,多難向誰言?坐茅廬、澄神塞耳,閉眼聴,檐馬導桃源。闢V地,比隣爲聚,對酌芳樽。

 

【日語】應に車雷轆轆なるに、未だ閑居せずして,扉を閉じ先賢を模す。竹窗の筆硯,高楼の観月,古殿の繁絃を擬う。筆頭千古の意,弦月半秋の天を恣す。惟だ喧囂の巷有りて,琴は蝉の如くに響く。

 

  緬に家郷の田野を想い,指を屈れば年は水の如く,應に駿の奔るが若し。禍福は人間の事にて,多難を誰れに向いて言わん?茅廬に坐し、神を澄まして耳を塞ぎ,眼を閉じて聴けば,檐馬は桃源に導かん。閧ネる天地に,比隣を聚爲,芳樽を對酌せん。

 

 

  夜飛鵲慢 東日本大震災

 

  江山絵春影,都酔韶華。漁船農戸商家。青年古老互知己,愛郷土育心花。将無憂家國,浸身邊欲望,俗吏藏牙。湾腰小崗,只呆然、有怨妖霞。

  迢遞路回清埜,人語漸微聞,廣海青砂。侮自然奢技術,海邊崩堤,原子残渣。早晨飛鵲,暖東風、萬木嫩芽。只恐青年肥肉、粮倉黒鼠,井中青蛙。

 

【日語】夜飛鵲慢 東日本大震災

  江山は春影を絵き,都韶華に酔う。漁船と農戸と商家と。青年と古老と互に知己にして,郷土を愛し心の花を育す。将に家國を憂うる無く,身邊の欲望と,俗吏の藏された牙に浸る。小き崗に腰を湾り,只だ呆然、怨しき妖霞の有るを。

 

  迢に遞な路は清き埜を回り,人語は漸く微かに聞え,廣い海と青き砂。自然を侮り技術を奢り,海邊の堤は崩れ,原子の渣は残る。早き晨に鵲は飛び,暖き東風、萬木には嫩芽。只恐るは、青年の肥えた肉、粮倉の黒鼠,井中の青蛙を。

 

 

巻尾

 

附録

 漢民族の詩詞作品はその殆どに楽譜がある。詩も詞も曲もその発祥は歌唱からと謂われており、現代でも中國の人は詩詞作品を“くちずさむ”のである。

 酒席などでは、自作の詩詞を唱う事は良く行われる。日本の“詩吟”の悲憤慷慨調とは全く違う、実にゆったりとした、歌声である。

 茲にその参考として、前赤壁之賦の五線譜を載せたので、是非活用していただきたい。

 詩吟愛好者には絶句や律詩の五線譜も有るので、言葉は日本語読みで、曲調は中國の五線譜に載せれば、直ぐに理屈抜きで、同じ興趣が堪能できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 文言は不鮮明ですが、前赤壁之賦は皆さんご存じなので、五線譜が読み取れれば要件は足りる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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