漢詩詞創作の定型 中山逍雀漢詩詞創作講座 Top
漢詩詞の定型
漢詩詞作品には定型と非定型と有る。非定型には口語詩・自由詩が有る。半定型には古詩が有る。定型には律絶と填詞がある。詩詞ではないが、曲がある。聯には定型と半定型がある。
作品は作者の詩想が主体である。詩想は千差万別有る。詩想を容れる既製品の器が定型である。既製で収まらない場合は自分で作ればよい。自作の詩型を用いたからと謂って、世間から非難されることはない。作品の評価はあくまで作品の巧拙である。
然し現実には、既製の器、即ち定型の数は、常用でも百余にも及ぶから、定型の選択に困ることは殆ど無い。
漢詩作品には見た目の大きさと、情報量の多少の、二つの要件がある。定型選択要件の殆どは、収容情報量の多少に依る。少しの情報量ならば、曄歌や漢俳や小令が選ばれ、情報量が多ければ、古詩や長調が選ばれ、中位ならば、短詩や中調が選ばれる。
心の襞のような小さな事を詠いたかったら曄歌や漢俳が良かろう。小さいことを観念的に詠いたかったら五言絶句や五言律詩が良かろう。堅い中にも情緒を容れたかったら七言絶句や七言律詩が良かろう。
人情味を詠いたかったら填詞が良かろう。気の利いた、すっきりとした事を述べたかったら、楹聯が良かろう。
ポンと机を叩くような面白いことを言いたかったら、羊角對も良かろう。律蒙對韵や笠翁對韵も良かろう。
以下は一般に謂われている詩詞定型の一部を提示したが、此が全部ではない。詞の定型は二千余有ると謂われているが、詩詞壇誌に屡々登場する詞は概ね100定型(押韵律體符号・俗称詞譜)ある。このほかに楽曲として戯曲や散曲がある。なお漢詩詞講座で解説されている定型は、このほかにも講を異にして沢山掲載されているので、定型の一部と理解されたい。
1-漢詩詞の韵と平仄 2-曄歌
3-坤歌 4-偲歌 5-瀛歌 6-漢俳 7-漢詩詞の承轉合 8-漢詩詞句の構成
9-漢詩五言絶句 10-漢歌 11-漢詩六言絶句 12-填詞慶宣和 13-楹聯
14-填詞章臺柳 15-填詞三臺令 16-填詞江南春 17-填詞南歌子
18-漢詩律詩 19-漢詩五言律詩 20-漢詩五言排律 21-漢詩五古一韵
22-漢詩五古換韵 23-漢詩七言絶句 24-填詞歸字謡 25-漢詩七言律詩
26-漢詩七古一韵 27-漢詩七古換韵 28-填詞望海潮 29-填詞沁園春
30-填詞八聲甘州 31-填詞桂枝香 32-填詞解連環 33-詩詞の句數字数
34-自由漢詩詞 35-賦 36-漢詩の律絶古絶 37-五七律 38-填詞竹枝
39-漢詩の奇句詩 40-笠翁對韵 41-羊角對 42-十六字令 43-元曲 44-元曲曲名
収容情報量によって詩の定型を分ければ、超短詩として曄歌から十九字までを謂い、五言絶句から五十六字の七言律詩までを短詩と謂う。五十七字以上を長詩と謂う。詩の最小は曄歌の十字、最大は楚辞に於ける「離騒」や「天問」などは三百七十五句がある。
同様に填詞は一闕五十八字以内を小令と謂い、九十字までを中調と謂い、九十一字以上を長調と謂う。填詞の最小は竹枝の十四字で最大は鶯啼序の二百四十字がある。
對聯の殆どは無定型であるが、定型として羊角對があり、清代李魚著に律蒙對韵と笠翁對韵の記載がある。
日本でも中国でも、律詩は平韵の定型だけである。ただ絶句の場合は、日本では平韵の定型だけだが、漢民族では五言も七言も、平韵の定型と仄韵の定型がある。
排律と謂う定型がある。律詩の八句より句数の多い定型である。五言排律は、日中共に定型として謂われ、作品もあるが、七言排律は、日本では、定型は無いと謂われ、作品は見かけない。然し中国の詩壇では、定型としても存在し作品もある。
超短詩は一寸した極めて小さい詩想には用足りるが、もう少し大きな、例えば友情とか兄弟愛とかでは、情報の収容能力が足りない。
絶句と律詩は短詩で、定型としては情報収容能力の少ない方だから、簡単な景物描写や、友情や兄弟愛の表面描写が限度である。
社会などを詠いたかったら、短詩ではとても用が足りない。絶句や律詩で社会を詠っている作品は見かけるが、表向き社会を詠っているが、中身の粗雑さが目立つ作品しか作れない。
友情や兄弟愛、夫婦や家族など、簡単に見える作品でも、中身の充実した作品を作るには、短詩では対応できない。
詞に比べて詩そのものが幾分硬派であるが、句の文字数にも硬軟の特徴がある。五言は硬調で七言軟調である。
六句構成の三韵詩が有る。一二五六句は散句で、三四句が對仗である。六句三意三章構成である。この三韵詩を、硬調五言句と軟調七言句の特徴を、巧く組み合わせた、三聯五七律と謂う定型がある。
三聯五七律は絶句と律詩の混合で、對仗を散句に夾み、而も五言句と七言句の組み合わせて、硬軟を巧く配合している。短詩を作る者にとっては利用価値の高い定型である。
而も、三四句だけは對仗を為す事の規定だけで、五言句と七言句の組み合わせは自由で、硬くも軟らかくも出来る使いやすい定型である。
多様な情報を収容する作品を作るには、句数の制限がない排律か古詩が適している。古詩は五言、七言、五七混用と様々の作品がある。
殆どの詩は出句と落句の二句一意一章構成であるが、一句一意一章、或いは三句一意一章の構成もある。而してこの様な句の構成では、全体として奇数句の作品となる。
唐詩選では杜甫の“落日洛城謁玄元皇帝廟”「豪韵」が五言排律で28句の作品がある。白居易作琵琶行七言八十八句がある。
七言古詩では白楽天が詠む“長恨歌”は120句で、楚辞離騒は375句がある。
また押韵の方法に、作品全部を一つの韵で統一する、一韵到底格と、内容毎に韵を平韵仄韵と交互に変更する、換韵格がある。
短詩の定型に絶句と律詩がある。五言句と七言句がある。律詩と絶句は押韵と平仄が厳しく言われている。
日本での説は、七言句の初句は、○○●●●○◎ と句末押韵と謂われ、五言句の初句は、●●○○● と句末無押韵と言われている。
中国での説は、七言句の初句は、○○●●●○◎ と句末押韵と謂われ、日本の説と同じだが、五言句の初句も、●●●○◎ と七言と同じく句末押韵と言われている。
中国での説は、新体古体に拘わらず五言でも七言でも、初句押韵は原則である。ただ五言初句に押韵が為されないのは、無押韵の作品が多いと言うだけで、定型として無押韵と言うわけではない。単なる作品の傾向と言うべきである。
○○●●●○◎,●●○○●●◎。
●●○○○●●,○○●●●○◎。
此は平起式七言絶句の平仄配置図で有る。
第一句が平から始まるので平起式という。
●●●○◎,○○●●◎。
○○○●●,●●●○◎。
此は平起式五言絶句の平仄配置図である。
第一句が仄から始まるのに平起式という。
漢詩は大から小、多から少へと派生推移してきた歴史があり、この事は、五言絶句が七言絶句から派生した定型であることを証拠付ける残渣である。
詞に十六字令が有る。この押韵律體符号は
◎韵 ▲●○○逗 ●●◎韵
○●●句 ▲●逗 ●○◎韵
で有る。此を七言絶句の平仄配置図と比べると殆ど同じである。この事は詩と詞が関連派生を証拠付けるものである。
○○●●●○◎,●●○○●●◎。●●○○○●●,○○●●●○◎。
詩には詩の得意とする詩想が有り、詞には詞の得意とする詞想がある。詩は如何に句数を多くしても、硬派で有ることには変わりがない。情緒的に作ろうとしても自ずから限度がある。
詞は填詞と言われるとおり、既に元歌が有って、元歌に擬えて文字を填めた作品であり、所謂填詞である。もともと歌唱から派生した文化であるから、情緒的な作品が多いのは当然である。
情緒的な思いがあったら、填詞を選ぶのが理に適っている。詞は詩とは比較にならぬほどのパターンが有って、全部合わせれば二千余有ると言われているが、詩詞壇誌に掲載される定型は概ね百定型である。
詞の定型名称を押韵律體符号と言い、俗称では詞譜と言われている。詞は詞想の受け入れ幅が広いので、対応できない詞想は殆ど無いと言っても過言ではない。
このほかに楽曲として元曲が謂われ、元曲には戯曲と散曲が有る。元曲とは蒙古族占領下の漢民族の曲で、口語を主体とする。元曲は楽曲のグループで詩詞とは趣を異にする。
詩には口語詩と古典詩がある。口語詩と古典詩とでは、活動する詩壇を異にしていて、両方を嗜む人は少ない。此処で言う無定型とは、古典詩の自由詩である。詩法や句法は古典詩とほぼ同じである。大きな違いは句の大きさと句の配置だけである。
詩詞の定型は、固定的な物事ではない。消滅する定型もあれば誕生する定型もある。変化する定型もある。定型が生き残れるか消滅するかは、民衆に受け入れられるか、受け入れられないかの何れかに由る。
填詞の定型が二千余体有ると言われていても、現在通用しているのは、百余りである。其の余は押韵律體符号だけが残るものから、名称だけが残るものまである。
詩の定格も同じ様な情況である。学習の途次、中国の国文学専門家から、幾つかの定型名称は聞いたが、既に其の残渣さえも無いものが多々あった。
定型の誕生も希なことではない。ただ誕生しても、民衆の期待に適って成長出来るものは少ない。
非定型の研究成果は、その個人に帰属し、後人に引き継がれることは少ない。それに引き替え定型は、その研究成果は個人に帰属せず、後人に引き継がれる。更に後人の研究成果は蓄積され、更にその後人に引き継がれる。依って後人は先人の研究成果を己の出発点とすることができる。
人は、自分の努力以上の成果を期待する。定型は先人の研究成果を出発点とするので、労少なくして功は大きくなる。因って人の欲望に合致する。