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 考察の二

 次にリズム、文字面、意味の三者が異なる作品を例示すると、小林一茶の句、
「やせがえる まけるないっさ ここにあり」は文字面では五七五に成っているが、意味の上では、「やせがえる まけるな いっさここにあり」と成り、五四八と成る。

やせかえる○○○ まけるないっさ○ ここにあり○○○     文字面
痩せ蛙      負けるな一茶   此処にあり

痩青蛙      莫退一茶     在這裏

 考察の三

やせかえる○○○ まけるな○    いっさここにあり○○○  意味上
痩せ蛙      負けるな     一茶此処にあり

痩青蛙      莫退       一茶在這裏        内容上

註 此の詩歌には別に作者を主体とした解釈がある

 以上の如く、漢字三文字+四文字+三文字の合計十文字で一つの詩体を構成すれば、文字面と意味とが異なる場合でも適宜対応することが可能と確認された。
 この事は俳句、川柳、短歌、都々逸、今様、歌謡曲、民謡などの日本の音数律を基本とする詩歌には、仮名五文字は漢字三文字、仮名七文字は漢字四文字、日本語九文字は漢字五文字に置き換えれば、殆どの場合、原作のリズムを壊さずに対応することが出来る。

 ハ 韻律 

 中國の格律詩は、決められた句末に決められた母音を持つ文字を配置する事が必須条件となり、これを韻といい、古典の分類に於いては一〇六韻、現代の分類に於いては七二韻、何れの場合も日本の母音の数アaイiウuエeオoの五音に比べて比較にならぬ程多いことに氣付く。
 日本の詩歌でも母音を揃えることは出来るが、余りにも其の数が少ないため、多くの要望に応えることは出来ず、詩歌の条件の主流を為すには到らなかった。

さいた(SAITA) a さいた(SAITA) a さくらがさいた(SAKURAGASAITA) a    

ゆく水の(YUKUMIZUNO) o かえらぬ如く(KAERANUGOTOKU) u ふく風の(FUKUKAZENO) o めに見ぬ如く(MENIMINUGOTOKU) u

あを浪に(AONAMINI) i のぞみは絶ぬ(NOZOMIWATAENU) u しら雲に(SIRAKUMONI) i なみだは尽ぬ(NAMIDAWATUKINU) u

 この例をも見ても解るように、日本の詩の場合は母音を揃えると云うよりも、繰り返し言葉の結果として、偶々同じ母音に成ったと云う事で、韻律に対する意識は希薄で、たとえ日本人に押韻を求めても、大方の人は韻に対する基本的認識すらないので、結果として書物による字面だけの認識となる。
 ただ此処に創られる新たな詩形は、中國文語体にする事が決まった以上、日本詩歌に韻の認識が希薄であることは事実で有るが、中国詩歌では押韵が重要な要素の一つで、既存の詩形を考察すれば、概ね意味上の句末に押韻して居るので、新たに作られる詩も意味上の句末に押韻する。
 恐らく有識者からはお叱りを受ける事は必定であるが、前記の理由により、日本人に押韵を求めると、作れる人が大幅に減る事が予想され、作れる人が減っては元も子もないので、
韻の問題は中国人にのみ適用し、日本人には自由扱いとする。
 然も現在は中国でも、非押韻の散体詩が屡々見受けられるので、日本人の作品が非押韻形式でも宜しいと云うことは、あながち不合理とは云えない。

 ニ 詩歌名

 中國の詩歌もその述べる内容によって個別の格律名を持っている場合もあるが、日本の詩歌ほど鮮明ではなく、中國には夥しい数の定型詩歌が有るので、叙事内容に依って、詩形を選び作詩しているのが現状で、言い換えれば、叙事内容が主で詩形が従と云う関係である。
 本論は国際交流を前提としての考察であるから、日本側の事情を考慮して、叙事内容に依って個別の詩歌名を命名し、中國を対象とした中國語版には、日本の事情を勘案し、個別の名称を与えて有る。
 即ち叙事内容によって、俳句のような内容は「曄歌(ようか)」、川柳のような内容は「坤歌(こんか)」、短歌のような内容は「瀛歌(えいか)」、都々逸の様な内容は「偲歌(さいか)」と命名した。

 ホ 句法

 中國の定型詩歌の殆どは、一句四文字、五文字、六文字、或いは七文字で、主語+述語+目的語の全部の要件を備えるか、或いは主語+述語或いは述語+目的語の要件を備え、殆どの場合一句で完結した意思表示をして居る。
 然しながら、日本の詩歌は仮名五文字若しくは仮名七文字に於いて、主語+述語+目的語を備えていない場合が殆どである。

 ホの一 書き換えの類例

 曄歌

桐の葉の   鳴り出でにけり  冬構え        芝不器男
梧洞葉 瑟瑟翻飛 作冬衣(改寫)

朝顔に    釣瓶取られて   貰い水        加賀の千代女
喇叭花 藤纏井縄 担河水(改寫)

小春日や   石を噛みいる   赤蜻蛉        村上鬼城
初冬暖 歇息青石 紅蜻蜒(改寫)

 坤歌

屁を放って  可笑しくも無し  独り者        
放響屁 笑者尚無 単身漢(改寫)
                          
細君が    才女でお焦げ   喰わせられ      戸部好郎
才女妻 多有不能 吃焦飯(改寫)
                          
新婚は    炬燵の中も    足を触れ(炬は日本固有の施設)
新婚楽 飯卓台下 脚挽脚(改寫)

 瀛歌

天の原    ふりさけ見れば  春日なる   三笠の山に    出し月かも
天蒼芒 仰首遥望 奈良辺 三笠山頭 旧時明月

淡海の海   夕波千鳥     汝が鳴けば  心もしぬに    古思ほゆ
淡海兮 夕波千鳥 聞鳥啼 極目愁思 傷懐往者

死に近き   母に添い寝の   しんしんと  遠田の蛙     天に聞こえる
終期近 子伴母榻 夜沈沈 遠田蛙鳴 自天来兮 

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