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漢詩の平仄について

 

 漢詩の話題が出ると何時も「平聲と仄聲」が謂われます。この平仄について解りやすく説明致しましょう。

 中国語を学んだことのある人ならご存じと思いますが、中国でも日本でも文字の形状と意味は殆ど同じですが、中国で用いる漢字には、日本で用いる漢字と異なり、一つ一つの文字には予め固有の発音(アクセント)が決まっています。

 もしこのアクセントを無視して文字を綴りますと「東京特許許可局」の様な読みにくく、聞きにくい句を書いてしまうかも知れません。

 これでは到底「詩」には成りません。

 そこで「東京特許許可局」の様にならないように、予め読みやすく聞きやすいアクセントの組み合わせを作っておくのです。

 「第一聲調と第二聲調」を一つのグループとして「平聲」と名付け、同様に「第三聲調と第四聲調」を一つのグループとして「仄聲」と名付けました。

 読みやすく耳に心地よいアクセントとして、これが皆さんが言う「平仄の組み合わせ」、即ち「第一、第二聲調グループ(平聲)と第三、第四聲調グループ(仄聲)」の組み合わせです。

 予め文字を聲調別に分類集積した書物として、「平水韻」や「現代韵」や「中華新韵」などがあります。ただ文字の発音アクセントは歳月と共に変化するので、各々その書籍が編集された頃は、書籍の内容が現実と符合していましたが、歳月の経過によって、書籍の内容が現実社会に符合しなくなってしまいます。

 ですから、日本で謂われるところの「平水韻」は、現実の社会とは符合しない、過去の遺物となってしまいました。「現代韵」は、現政権(共産党政権)が制定した制定韻ですが、全ての民衆が妥当としている訳ではありません。ただ「現代韵」は、作品コンクールなど、公の場に用いるのには必然です。

 民衆が通俗的に用いる韻としては「中華新韵」が有ります。この韻には難しい決まりはありません。中国語を学ぶ日本人も持っている「中国語辞典」の発音を拠り所としています(中国では国語辞典と謂います)。ですから、「中国語辞典」の第一聲調と第二聲調を併せて平聲とし、第三聲調と第四聲調を仄聲として、文字の使用に注意を払えば、それ程の間違いを指摘されることはありませんが、中国は彊域が広大ですから、地域によっては多少の祖語は出てきます。

 ただ此処に、日本の漢和辞典に掲載されている平水韻は、古典作品を鑑賞するための資料としては、作品の創作時期と、平水韻が編集された時期とが、共に古い時代なので、双方にさほどの祖語は無いと謂われています。因って「平水韻」は、古典作品を研究するための資料で、現代通用の作品を作るための資料では無いとご理解下さ

 

 

雑話 中国語と漢詩

 

 現代の中国文化界では、「漢詩」と謂う詩歌は漢民族の詩歌と理解されています。又日本人は「中国語」と謂いますが、中国では元来「漢語」と謂います。小生が中国の方と接する20年前は皆さん「漢語」と謂っていました。其れが日本人との接触が多くなるにつれ、何時の間にか日本人に合わせ「中国語」と謂うようになりました。

 日本で謂うところの「漢詩」には2種類有るような気がします。

 その1 日本国内でしか通用しない「漢詩」

 その2 中國人民共和国と世界の華僑社会に通用する「漢詩」

 上記の2件は、一見似ているようだが、似ても似つかぬ本質があります。

 中国文会界で指摘する本質は、日本人詩人は自己のために愁う!

 中国の詩人は、社会と国家の為に憂う!

 この本質の違いは、日本人の作品は、作品によって不利益を被る事は無いが、中国人の作品は、作品によって不利益を被ることが屡々あります。因って日本人は「賦」に依って叙し、中国人は「興」に依って叙します。

 ですから、中国人の作品を読むときは、字面(賦)では無く、その内面を(興)に依って読み取る必要があります。

 もし、日本人でも、中国文化人と同じような作品を作ろうと懐なら、その意図を「社会国家を憂う」作品にしなければならないでしょう。

 もしそうで無いのなら、日本には日本古来の「和歌」が有るのですから、歴史に培われた日本の詩歌を作るべきかと思います。

 

 

 

詩歌の使い分け

 

 前回の投稿で

 中国文会界で指摘する本質は、日本人詩人は自己のために愁う!

 中国の詩人は、社会と国家の為に憂う!

と書きましたが、其れでは中国人は堅苦しい事ばかり書いているのか?と謂うことになりますが、そうではありません。

 日本人(大和民族)は詩歌の定型をほんの数個しか持ち合わせていませんが、それに引き替え中国人(漢民族)は、小生が目にする定型でも、数百定型はあります。

 ですから、どんな叙事にでも対応できる丈の定型があるのです。

 一番短い定型は10字から大きいのは240字まであります。

 皆さんも小難しい定型を相手にするより、もっと簡単で面白く興味のある定型も沢山ありますから、それらにも興味をお寄せ下さる事をお勧めします。