漢詩詞叙事句の構成法 中山逍雀漢詩詞填詞詩余楹聯創作講座 TopPageこちらからもお探し下さい

句の構成

 漢詩詞創作に携わって居る者には蛇足かも知れぬが、「読んでくれる者は素人である」と言う前提を疎かにしてはならない。多少の学習をした者には、たわいのないことでも、素人にはとても難しい!と言う現実を知らねばならない。
 日本人に謂えることだが、構文が複雑になればなるほど、間違いを犯しやすい!という現実がある。日本人の知らぬ語法が多々有るので、漢民族と雖も、語法に適って居さえすれば、如何に複雑な構文でも、綴った者の意図を正確に読み取って呉れるとは限らない。

 其れには、簡単な構文で!
      簡潔に述べること!
の二点を疎かにしてはならない。

 漢詩詞の綴りは二字・三字・四字・五字・六字・七字・八字・九字・・・と有るが、七字の句が綴れれば、殆どの句に対応できる。

 漢語の構成は、主語+述語+客語の三要件と、その並び順が決まっていて、文字数が少く単純な構成なので、この基本形を守れば、殆ど支障なく対応できる。

 主語も述語も客語も、それぞれが単独で用いられるとは限らず、適宜それらを修飾する言葉を付帯して用いる。

 漢語では、主語が予め解っている場合には、往々にして省略される場合がある。依って読者は前後の関連から導き出した仮設の主語に基づいて読む事となる。作る側はその逆で、○+述語+客語の構成となる。(○;省略された主語)

 勿論、述語を自動詞として用いる場合は、客語は無い。依って主語+述語の構成となる。

 内容の綴り方として、一句に幾つの事柄を書き込むかと言う問題がある。一句に一意・二意・三意・・・・と有るが、本稿では一句三意の作例までを示した。また、主語・述語。客語の組み合わせも、類例を参考にして、新たな組み合わせを研究することも可能である。

一句一意

主語+述語+客語
紅紅柿葉(主語) 落(述語) 門前(客語)
真っ赤な柿の葉は門前に落ちる

紅紅柿葉落門前

柿葉時時落杖前

蒼然半月照松枝

半月蕭蕭照柳枝

凡人只愛酒屋門

主語+述語
賢人郷里(主語) 只茫茫(述語)
賢人の郷里は只茫茫としている
(述語は自動詞として用いられている)

賢人郷里只茫茫

盈盈白菊十分誇

怡然騒客尚能狂

綿綿歳月亦何妨

依然病骨半凋傷

述語+客語
應知(述語) 懇切故人情(客語)
私は)應に懇切な故人の情を知る
(主語が省略されている)

應知懇切故人情

依然可愛故人情

年年羨看御苑花

模糊仰看碧梧花

頻頻恋慕緑窗紗

 

一句二意

主語+述語+客語;主語+述語+客語
清香(主語) 繞(述語) 舎(客語);月(主語) 侵(述語) 軒(客語)
清き香は舎を繞り、そして月は軒を侵す

清香繞舎;月侵軒

閑人有泪;酒消愁

同胞勧酒;酒題詩

凡夫養老;我憐吾

明眸似玉;泪思郎

主語+述語;主語+述語
平平路(主語) 繞(述語);客人(主語) 倦(述語)
平平とした路は繞り、そして客人は倦む

平平路繞;客人倦

紅紅柿落;白雲流

同窓友健;暮雲深

黄雲気爽;野花愁

佳人緩歩;月光寒

主語+述語+述語 共通の主語
佳人(主語) 獨坐(述語);亦(副詞) 深思(述語)(佳人獨坐;佳人深思)
佳人は獨りで坐し、そして(佳人は)深く思う
注意点;主語を共通にして綴らないと、意味不明の句になります。

佳人獨坐;亦深思(佳人獨坐;佳人深思)

朱唇一笑;亦追思

遊人一酔;亦相酌

渓流水冷;更奔流

花顔私泣;更消魂

述語+客語;述語+客語 共通の主語
躊躇(述語) 白髪(客語);話(述語) 平生(客語)(我躊躇白髪而且我話平生)
私は)白髪を躊躇し、そして(私は)平生を話します
注意点;主語を共通にして綴らないと、意味不明の句になります。

躊躇白髪;話平生(我躊躇白髪;我話平生)

可傷歳月;坐書楼

難抛陋巷;立街衢

無功事業;向東都

自誇白屋;守清貧

述語+客語+客語 共通の主語と述語
難忘(述語) 古刹(客語) 與(格助詞) 楓溪(客語)(我難忘古刹與楓溪)
私は)古刹と楓溪が忘れ難いです
注意点;主語と述語を共通にして綴らないと、意味不明の句になります。

難忘古刹與楓溪(我難忘古刹與楓溪)

最愛幽居和月明

久慕明眸和笑眉

一顧紅唇和妙詞

先知玉露與菊花

 

一句三意

主語+述語;主語+述語;主語+述語
(主語) 飛(述語);蛬(主語) 老(述語);白雲(主語) 流(述語)
楓は飛び、そして蛬は老い、そして白雲は流れる

(主語) 飛(述語) 蛬(主語) 老(述語) 白雲(主語) 流(述語)

(主語) 歸(述語) 霜(主語) 落(述語) 暮鐘(主語) 幽(述語)

 

述語+客語;述語+客語;述語+客語
(述語) 谿(客語) 思(述語) 詩(客語) 立(述語) 寺頭(客語)
私は)谿を繞り、そして私は)詩を思い、そして私は)寺頭に立つ

(述語) 谿(客語) 思(述語) 詩(客語) 立(述語) 寺頭(客語)

(述語) 昨(客語) 憑(述語) 欄(客語) 憐(述語) 兩鬢(客語)

 

主語+述語+客語;主語+述語+客語;主語+述語+客語

主語+述語+述語+述語

述語+客語+客語+客語

 茲に提示の構成を組み合わせれば、更に多くの構成を提示できるが、此処では敢えて提示していない。構成が複雑になれば成るほど、綴る方でも、読み取る方でも、間違いを犯しやすくなる。

 先ず、提示の構成13ヶを使って、絶律1000首を創ってみよう。最低レベル1000首を達成したら、句が綴れる!と言えるだろう。

 構成を探れば更に多くあるが、この余は作例と共に読者の研究に委ねる。また、作品を作るにあたっては、第一句は一句一意の句とした方が、無難である。

 構文が複雑になればなるほど、間違いを犯しやすく、また、日本語を漢字で綴って漢語に成ったと勘違いする笑えない現実もある。

参考;漢詩は二句一意一章である。首尾一貫は基本原則である。この原則を弁えて句を綴らないと、趣旨不明の作品となります。起承転合をバラバラに作っては、纏まりのない作品になります。

参考;例えば出句の構成を 主語+述語+客語 として落句で 述語+客語 にしますと、省略された落句の主語は、出句の趣旨と言うこととなります。この統一性を欠きますと、意味不明に陥ります。

お断り
  厳密な漢文法から看れば、曖昧な点は多々あるが、漢詩詞句を綴る便法として、ご容赦下さい。

 

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